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空白の2日間  作者: みすみいく
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ハプニング

 計画を覆すハプニングに見舞われて、崩れかける決意を、改めて知るアレンの思いに、立て直して、意志を貫徹するために、方策を模索する。

 運命の前に真実の愛は敗れ去るのか?!

 午前中の審議会で、告発者から一転被疑者になったシュバルトが、俺と違って窓の無い資料室に拘束されている。


 俺とアウルは、警察権が起訴手続きを取る前に、シュバルトから引き出せるだけの情報を引き出して終わなくてはならなかった。

 警察と内務省の係官が警備についている部屋へ赴く。俺がドアに近づくと、警備員が一礼の後錠を外した。


 1人は俺と共に部屋へ入り、1人は外にいて錠を下ろす。

 ドアより他に開口部の無い、未整理の資料が堆く積み上げられた部屋の一角に、寝台が置いてあり、そこに奴が居た。


 中には寝台に机、椅子が2脚、資料を護るための空調が備えて有るので、殺風景と言う事を除けば、不快という程でも無い。


 「食事を摂らないそうだな?!」

 俺の方をちら、と、見たきり再び俯いて何も言わない。


 「警戒しているなら無用だ。君の食事は私の秘書のエドナが…彼女のチョイスで内務省内の職員用の食堂から、ランダムに取り出して、直接運んでいる」

 「余人が触れるチャンスは無い」


 言うと、シュバルトは目を見張り俺を見た。


 「騙された」

 「とは?!」

 「青臭い若造共が国を玩具にしている…と、俺を拾ってくれた人が言い。俺も納得した。あんた達の見てくれに…な。参ったよ」

 「騙されて犯罪を犯した訳だ。では。我々の知りたいことを話して貰おう」

 「如何かな…俺は、審議会の終了と共に、ここへ拘束されて、外からの情報を得られずに居るからな。絶望的なのか、希望が有るのかまだ、判らないと思っている」


 奴の言い様は、例え自白を得られても、信憑性を欠く可能性を示唆した。


 「それこそ、尻尾として切られた可能性の方が高いと思わないのか?!めでたいな」

 「保身を謀る方が得策だと思ったんだが…君にはするべき仕事が有るはずだ。鋭気を養いたまえ」


 現状を堅持することを命じて、資料室の警備を強化させ、アウルと話し合うために執務室を訪れた。


 ルィザに取り次がれて、部屋に入る。

 壁一面を覆う巨大な書架の前に、天板の薄い樫のデスクを置いて、アウルはその向こうで、俺が入ってきたのを知っているのに、書類から目を上げずに口を開いた。


 「シュバルトは如何だった?!墜ちそうか?!」


 俺とアウルが話し始めたのを見て、ルィザが秘書室へのドアを閉じて、二人きりになる。


 返事をしない俺に、ふと、顔を上げてこちらを見た。

 少し意地が悪い。不謹慎だとは思いながら見詰めた。俺の意図に気付いて、少し眉を潜めながらも、目元が染まる。


 「…ほっとしました。」

 「ほっとした?!何が?!」

 「夕べの事が夢では無かったらしいと…判ったからです」


 今度は見る間に耳まで紅くなって視線が彷徨う。この執務室でこんな彼を目にする事になるなんて…


 俺の前から逃げ出したいのだろうが、隣の秘書室にはルィザが居る。


 デスクの上のインターホンでルィザを呼び出して、頼んだ。


 「ルィザ。すみません。お茶をお願い出来ますか?!」

 「畏まりました」


 デスクに浅く腰を掛け、俯いたアウルの唇を掬い上げた。肘掛け椅子に逃れるのをデスクに右手をついて踏み込んだ。


 触れた唇が途端に綻びて、柔らかく絡み付く。触れて確かめたかった。

 彼が今も俺のものだと。


 唇に触れて、それまで如何に馬鹿な危惧を抱いていたのかを知った。さながら蜜を湛えた花が開くように甘い薫りを放って零れる様は、夢に溺れる様に俺を引き込んだ。余韻に捕らわれて、溜め息が漏れる。


 「…後悔…しませんか?!」

 「後悔するくらいなら初めから苦労など無い」

 「後悔というなら、お前の方だろう」

 「アウル?!」


 言いかけたところへ、ノックがしてルィザがお茶の支度を終えて戻って来た。うっかりのめり込みすぎて、アウルを変化させすぎて終ったことに狼狽えた。


 「どうぞ」

 「アウル、サニタリーに…」


 慌てたところで既にルィザは、部屋の中に入ってきてしまっている。しかも、彼女の視線はアウルを正面に捕らえる方向に有る。

 

 アウルは意外に冷静で、足元が覚束無いのが分かっているのに、デスクに手を助けられて、応接に移った。

 どうぞと、ティーテーブルに紅茶のカップを置きながら、ルィザの目がアウルに向けられて止まった。


 「まぁ、昨日の今日で、もう、犬も喰わないですの?!それとも浮気がばれまして?!」


 口に運んでいたお茶をもう少しで、吹いて終うところだった。


 「ルィザ?!」

 「…犬も…」


 一瞬の内に頭が真っ白になって、暫く凍り付いたままだった。目の前で、真っ赤に成って抗議しているアウルの反応も、何処か可笑しかったと言うのに、その時はそれにも気づかずに居た。


 「…浮気?!」


 彼女がアウルにそんなもの言いをするのを見るのも初めてなら、動揺を隠すこと無く、むしろ、感情を共有している親密な相手のように、警戒心のまるで無い、彼の対応も初めて目にするものだった。


 大凡、俺の前以外では初めてだったろう、屈託の無い、可愛らしいと言う表現が1番しっくり嵌まるその様子に、自分がルィザに嫉妬しているなどと気付かぬままに、しっかり落ち込んでしまっていた。


 「浮気ってのは私じゃ無い、お前のことだ」

 「浮気なんて…ええ?!。やっぱり看破されていたんですか?!何時?!。今朝ですか?!」

 「当たり。危ないって思っていたのか?!」


 溜め息を付きつつ、俺を見詰めてアウルが言う。


 「ええ。1人でルィザに対応するのは剣呑だと思っていました。でも、如何することも出来なかったし、俺がああ言う事をしてしまう事も、予測しては居ませんでしたから…。どの時点で?!」

 「お前がソルボンヌで彼女に見抜かれて居たんだ」

 「そんな…あの時点で俺は未だ…」


 言いかけて独りでに頬が熱くなってくるのが分かるようだった。自分の感情の変遷を暴露しているからだったが…。

 

 「馬鹿。1人で赤くなるな」


 そう言うアウルも、頬が上気していてとても可愛い。自分の顔が緩んで居るのが判っていながら止められない。


 「後は、公にお聞きになって下さいまし。少しの間ですが、お時間を差し上げます。午後の会議まではわたくしがお引き受け致します」

 「ルィザ」


 言うと、そそくさと部屋を出て行きかけるルィザを呼び留めた。

 

 「あの…さっきから貴女を不躾な目で見ていました。申し訳ない」


 俺の謝罪にルィザは答えず、アウルの方をちら、と見たかと思った、次の瞬間、唇が俺の唇に重ねられた。呆然としている俺を艶然と微笑む瞳で捕らえ、そのまま言う。


 「許して差し上げます」


 不敵な微笑を浮かべて静かに扉を閉じるとルィザは出ていった。

 何が何だか判らなくて、記憶を辿って見ても混乱するばかりだった。


 どうして彼女が俺にキスするんだ?!

 ツ、と。アウルの手が俺の頬を引き寄せて唇が重ねられた。


 「どうしてルィザが俺に…ん…」


 言いかけた俺の唇を唇を塞いで、ふ…と笑う。


 「後は、貴方に聞けって…」


 言いかけるとまた、唇が閉じに来る。


 「ソルボンヌでお前を見初めて、ここへ来て私に恋して、戻って来たお前に阻まれて、蛇の生殺しに成っていたと叱られた」


 「私がお前を誤魔化して、自分にも嘘をついていたと…欲しければこうして取りにゆけと」


 改めて何も言いはしないが、俺が些細なことで嫉妬に囚われたのと同じように、アウルでさえも、ルィザの挑発に無意識のままに嫉妬していた。


 俺の心が、アウルに嫉妬されているということ自体に囚われていた。嬉しさに胸が時めく。


 その上…アウルの唇が重ねられて、胸に置いた諸手を滑らせ、首を取り巻いて、より深くまで踏み込む為に俺を引き寄せた。


 接吻がこれ程に俺の体を押し上げるとは、今まで思いもしなかった。これ以上触れていたら止まらなくなる…

 思った途端に、アウルの躰が力を失って膝が折れる。崩れ落ちる躰を受け止めて抱き上げ、ソファへ運んだ。


 「帰っておやすみなさい。車両部から車を回させます。良いですね?!」


 ルィザが用意したお茶を飲ませると少し落ち着いて、何とか車寄せまで歩けそうになった。

 見ていられないが仕方が無い。会議室への途中まで一緒に歩き、見送った。

 お読み頂き有難う御座いました。

 小説の形態がなっていない気がしてならないのですが、最初の投稿から一貫して、総てが1つのお話になっています。

 これからまた、暫く続きます、お付き合い下さると嬉しいです!

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