4通目2 そして火蓋は切って落とされた。
えぇと、一枚目から続きまして…どこまで書いたっけかなー…
旅といえば有名なのは保養地。
さわさわ… 川のせせらぎ
キィキィ… 鳥のさえずりかしら?
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで
目を開くと、そこには雄大な―――
霧と蝙蝠と夜の城。(そっと赤い月を添えて)
◇◇◇
城は城でも、周囲に民家はなく鬱蒼とした木々に囲まれ、もやっとした薄い霧と、崩れかけの塔と古城っぽい建物。
良く言うと、静けさを満喫する自然豊かな別荘地。
まんまで言うと、どう見てもホラー系の絶叫の館。
「シ、シエラさんシエラさん、地図の場所を読み間違えたのかしら?それとも馬車の御者さんに言った言葉を間違えたのかしら?ここで合ってる??ねぇねぇ」
「お嬢様。大丈夫ですよ~。合ってますよ~~?」
「シ、シエラさんシエラさん、さっきまで昼だったはずなんだけど、いつの間に夜になったのかしら?全然わかんなかったって、ふつうなの?魔法?ねぇねぇ」
「お嬢様。大丈夫ですよ~。アリアリですよ~~?」
のほほんとした侍女の声に励まされ?勇気を出して、城の大きくて古めかしい扉の前に立ち、コンコンとノッカーを叩く。
誰かいるかしら?と思ってたら、ギィィィと開く玄関。そこへさっと現れた細身の初老の紳士。
「ようこそおこしくださいました。シャルロットお嬢様、シエラ様。執事のセバスでございます。」
この世界でも執事っていうとセバスなんだね!とか阿呆なことを思ってましたが、執事は執事でも頭に山羊のような角を生やした執事さんでした。
ひつじさんではないようです。
◇
点々と薄明りが灯る暗い城内へと案内され、明るい照明のついた応接室と思われる部屋に通されると、そこには白と黒の対比みたいな2人の男性がいらっしゃいました。
ひとりは私と同じ、金髪とオリーブグリーン目の美男子。
私と違ってサラサラヘアのタレ目だから、少女マンガなら爽やかヒーローポジションぽい華やかでビジュアルの優しい印象。性格は別。本質も別。相変わらず足なっがー(嫉妬)なアシュリー侯爵家の次期当主にして、年の離れた三人の兄の一人。
15歳年上の麗しき長男イリオスお兄様。
もう一人は、背中までかかる長めの黒髪に赤目で、イリオスお兄様より年上27.8歳位?の男性。
彫刻も絵画も裸足どころか着の身着のまま逃げ出しそうな凄みのある、長身かつ筋肉質のビジュアルテロリストな美人系。
烏の濡れ羽のごとくつややかな長い黒髪。シャープできりっとした眉、筋の通った鼻、薄く形の良い唇、そしてなめらかな肌と顔の輪郭、全体的に彫が深く、黄金比かと思われるような絶妙なバランス。
でもって一番目立つのが、くっきりと二重の切れ長で、時折金色が差し込む赤い眼。そのまま石になっちゃうそういう系の魔力ありそう。目力すっご!!
見たことはないけど、耳がちょっととがってるからエルフとか魔族とかそっちの方かしら?
190cm越えてそうな9頭身?腰高い。股下いくつよ?ヴァルクお兄様よりでかい?身長ちっちゃいとみんな大きいしわからんちくしょう。
…ここまでの表現力のなさに、我が語彙力の限界を感じます。ぐぬ。
あと大事。ここ大事。隠し切れないしなやかな筋肉質。
白シャツに黒タイ、黒ベストを纏ったシンプルながら、シャツの隙間から見える筋肉に色気があります。…なんて魔性な魅惑の権化。
けしからん!けしからーん!はぁはぁ…!(おかわり)です。
◇
「シャルロット、久しぶりだね。」
「はい。ごぶさたしております。イリオスお兄様も元気そうでなによりです。」
とことこと近づき、ちょんとスカートを摘まみ、屈んで挨拶をする。
イリオスお兄様は普段外交?(このへんよくわかんない)の関係であちこちの国を渡ってるようで、侯爵邸にいるのは年に数回の数日のみ。それでも帰省の際にはいっぱい遊んでもらってます。
森に連れて行ってもらっては、魔獣に会って、「ほら、スライムだよ。倒しておいで」とか。
海に連れて行ってもらっては、海獣に会って、「ほら、クラーケンだよ。倒しておいで」とか。
ぴぃぴぃ泣きながら木の棒や短刀を振り回す私を、にこにこと笑いながら愛でられてた記憶ばかり…ちょっとしょっぱい。
「お兄様、そちらのお方は?お友だちですか?」
「あぁ、シャルは初めてだね。こちらは友人の魔王さんだ。
しばらくこの国に滞在するということで、この城に招待したんだ。」
…?
…??
????
マオウ? マオさん?
もしかして、ゲームとか小説とかで最後に登場する魔王さん?
え? 私の悪役令嬢の位を巡るライバルポジ??
…なんということでしょう!世界に期待されし悪役令嬢風魔女っ娘を目指す私にとって、強敵が現れたのです!
しかもこの美貌。散々自分のことをかわいいかわいい言ってて恥ずかしい!かわいいけど!
今、私は新たな戦いのステージに立たされたのです。この強敵に対抗できる私の美貌と美貌とびぼ…勝てる気がしな…
いやいや、ここで負けるな。シャルロット・アシュリー!君にはこれまで研鑽を積んできた、誇り高き悪役令嬢スタイルがあるだろう?!
高笑い一つにしても血の滲む練習を重ねてきたではないか。声の高さ、手の角度、足の位置、そして視線。何度も繰り返し、清く正しく美しい悪役の形を追い求めてきただろう!諦めるな!
まずは挨拶だ。気高き悪役とは、礼儀正しく卒もなく、優雅にして隙がない。敵に「あっぱれ!」とリスペクトされてこそ、物語の最後を飾るに相応しい悪役になれるのだ。
さぁ行こう。初戦だ。一目置かれる悪役はここで負けるわけにはいかないのだ!
ぐっと腹に力を入れて、ライバル(仮)の前に進みます。
「初めまして、シャルロット嬢。人族の生活を視察するためこちらに滞在させてもらう。
私の名前を人語で話すのは難しいため、俗称の魔王でもかまわない。
あぁ、私も人族の礼儀には疎いもので、失礼があったら申し訳ない。」
魔王さんは私の前で視線を合わせるようにしゃがむと、すっと徐に私の右手をとって、指先に軽くキスをおとす。
美貌がまぶしいいい!!ぺかーって光が見えた気がするーーー!!
本国も隣国もこういった指先に軽くするのが形式的挨拶で、社交界デビューされた貴婦人は手袋の上にされます。はい。今の私みたいに素手でいるのは、幼少期や私生活等非公式でしょうか。親しい間的な。気の抜けた的な。まんま私な。
その素手に、こんな美貌が、壊れ物を扱うように、そっと手を取って、ききき…きすぅ……?!
ひぃ!近い!!吐息がかかる!!恥ずか死ぬ!!!
衛生兵!衛生兵ーーーー!!!
と思ってたら、そのまま指先をちろっと舐め、金色の差した赤眼がこちらを見た。
ボフン。
「-------―!!!???」
「おや?イリオスにシャルロット嬢には、こう挨拶するのが良いと聞いたが、違ってたのか?」
衝撃のあまり金魚のようにはくはくと動く口からは言葉にならず、今世は元より生前アラサー処女喪女でもそんな挨拶はフィクションでしか見たこともなければされたこともなく、衝撃と急激に上がる顔中の温度にしばらく脳内の思考という細胞たちは仕事を放棄しました。
~~ 只今大変混乱しております。しばらくおまちください。 ~~
「この反応では、我が妹が一人前のレディになるのは、まだまだだなぁ~」
「顔が真っ赤で涙目なお嬢様もかわいい!」
「ふむ??」
「そうだ。アスト、ちょっと頬を撫でてごらん?桃のようだろ?」
「む?果物のか? 小さい淑女だろう?触れても平気なのか?潰れないか?」
「いいよいいよ。桃に触る練習だよ。シャルも桃は好きだし大丈夫。兄権限で許す。」
「ふむ?」
さわり。
ビックゥーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
「あふ…はふぅ……シャ・シャシャ、シャルですぅ……! 桃もレモンも好きですぅ!!」
シャルロット・アシュリー。中身アラサー。
異世界挨拶に魂とばして、初対面にマトモな挨拶できませんでした。残念!
◇◇◇
その後も半分呆けたまま、戻ってきたりこれなかったりで、いつの間にか着替えて、いつの間にか寝て、いつの間にか翌朝を迎えたのですが、私の寝室らしい部屋のテーブルには、お兄様から「挨拶は大事」という苦言と滞在についての書置きがありました。
内容としては下記の三点。
①この城を拠点に、ひとつプランニングと成果を出してね。期限は夏のおわりまで。という現地開催の事業課題と
②同時に魔王様とその配下の何名かが滞在するから、仲良く協力してね。というホストとしての宿題と
③『がんばる』じゃないよ?『やる』んだよ。という逃げを許さない脅迫…
あの父にして、この息子あり。アシュリー家のサドプレイは隣国でも続行中。
部屋を出て、屋敷を出て、国も出て。
ホラーハウス系の城の窓から見える空は、靄の合間に夏の気配。
この空はお姉さまの頭上までつながっているのでしょうか?
「シャルロット嬢?」
「はいぃ!おはよーござるましゅる!」
「おはよう。今朝は大丈夫か?」
「あさごはんたべましゅる!」
「そうか。よかった。レモンも好きなのか?」
「レモンケーキは神です!」
朝イチの美人エスコート威力も心臓へ凄い負荷かかりますが、三日見れば飽きる…はず……?え。むりぽくない?
ちなみに、食後に桃ジュース出ました。実を潰しちゃったんだって。ぐしゃっとな。しょんぼりした魔王様の憂い顔も美の兵器!!
ライバル(仮)のレベルの高さに、床ダンダンしながらorzポーズから起き上がれない私を見て、「凹んでるお嬢様もかわいい!」と悶えてるシエラさんは、今日も平常運転です。
乱筆乱文にて、ライバル(仮)に初戦敗退をしてしまった悔しさと、種族を越えたナチュラルタラ紳士への気恥ずかしさと、いきなり実地!中級モードでコンテニュー?!ビギナーズじゃないの?!とで荒れ狂う心模様が伝わったかと思います。
遠い世界の遠い異国の地にて、「やらないと死ぬ!存在意義を消される!ビジュアルテロに負けるな!これは戦だ!クリークだー!」と叫んだりしてますが、私は今日も元気です。
末筆ですが、私に期待できない分まで、お姉様の益々のご活躍をご祈念申し上げます。
かしこ。
ようやく出せた…
更新頻度変わります。ぺこり。