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4通目1 まなびとじっせん。

前後編です。4通目はさらーっと読んで大丈夫です。いちおう。

 人生は山あり谷あり。

 決してドラマや物語のような甘くて優しい世界ではないようです。


「おにーーー!!!あくまーーーー!!!」



 ……これサバイバル系なの?



 ◇◇◇



 拝啓 親愛なるお姉様。


 次第に暑さの増しつつ、じめじめと雨が続く季節になりました。

お姉様におかれては、「水無月もよいが葛饅頭もオツである」と楽しまれてることと思います。


 不肖の妹は、3歳で異世界転生なる(中略)、4歳で夢見る魔女っ(更に略)、5歳で第二王子をコキおろ(もっと略)、そんな私は、今世の家族からにこにこ笑顔で「どうしたの?まさかできないの?」と各分野の『地味にネチっとした過激でスパルタな幼児教育』に、日々苦い汁を飲まされてます。


 思い返せば幼き日。

 届きそうで届かない本棚にお気に入りの本を置いて、「どうやったらとれるかなー?」とぴょんぴょんバタっとこける私を笑顔で見守ったり。足場となる椅子を持っていこうとして、鋼鉄製で重く、運べないでいる私をにこにこと愛でられたり…

 おいしいとご褒美プリンを食べる私に、「材料はなにかな?探してみよう」と、鶏小屋へつれていき、たまごをとってくるよう言ってきたり。鶏は鶏でも、魔獣系巨大鶏(コカトリス)に威嚇され、追いかけられ、泣きまわる私をにこにこと愛でられたり…

 ドレスに見惚れてたら、「まずは反物になるところまで」と、染料となる植物と育成について学び、大きな石がゴロゴロした土を耕し、ちまちまと種を植えたり。発芽した植物系モンスターに逆さ吊りにされ、涙目になってる私をにこにこと愛でられたり…

 更に更に……

 そんな私を、侍女のシエラさんが「泣き顔のお嬢様もかわいい!」と喜ぶまでがワンセットです。あれ、目から汗が…?


 だいぶ話がそれましたね。うっかり。

 さて、そんな課題を打って返し打って返し、たまに返せなくていじられる私、シャルロット・アシュリーは5歳の後半戦。美幼女様から美少女様に成長中です。つり目縦ロールはかわんないけど。


 でもって、何故か隣国の街にシエラとともに、旅行かばん一つ持って、置き去りにされてました★

 一人前の悪役令嬢風魔女っ娘を目指し、今日も今日とて頑張ります。



 ◆◇◇



 朝起きたらお父様からおよびがかかりまして、執務室にむかいました。


「シャルロット、ちょっとおでかけしてこようか。」


 ということで、いつの間にか旅装にされ、荷物がまとめられ、馬車に乗せられ、街道を進み、王都城壁を越え、道を進んで宿で一泊し、川を越え、山を越え、道を進んでまた一泊し、また山を越え、国境も越え、街道を進み、少し大きめの街につきました。かなり速い速度で。

 小旅行かしら?とか思ってたら、御者さんから「はい、お嬢様。旦那様からお手紙ですよ。」と手紙を渡されたのです。

 封筒を見て呆けてる間に帰る御者さん。嫌な予感しかしない。


 ギリギリと歯を食いしばりながら開いた手紙にはお父様の字。

『ただで帰ってきたら、おしおきだよ』

 恐怖宣告とともに、『おこづかい明細』と『ここまで行っておいで』とメモの書かれた地図が同封されてました。ハジメテのおつかい的な!

 はい。なんか隣国での実地教育がはじまったようです?



 ◇◆◇



 地図で書かれた場所は、馬車で降りた街から、別の街道馬車に乗って三日半のところです。王都にあるアシュリー侯爵邸からすると普通の馬車で9日いかないくらい。国境まで侯爵家の速達便馬車だったので、7日といったところでしょうか。

ちなみにシエラはお父様から「相談とアドバイスは構わないが、安易に助けたら君も『失格』」と言い含められているようで、基本私の応援のみ。


「お嬢様頑張って!」

「勇気出して声をかけてるのに、相手にしてもらえないお嬢様もかわいい!」

「一生懸命話しているけど、初めての隣国語が下手なお嬢様もかわいい!」

「馬車の御者に鼻で笑われて、思わず『あふ?』なお嬢様もかわいい!」

「警邏の強面のオジサマを誑し込むお願いモードのお嬢様もかわいい!」


 私がアブないことをしてる悪女のようじゃないの!誇り高き悪役令嬢は悪女じゃないよ!

 馬車の問い合わせ、交渉、食事処や宿探し等々、慣れない言語とボディランゲージで頑張りました。地続きの隣国でほんとよかった。座学で学んでるし、言語や習慣の共通点も多いから、いきなりカルチャーショック死しなくてすんだ。



 あ、途中誘拐未遂犯もいましたよ。

 いきなり抱き上げられて、連れ攫われそうになりまして。やっぱぁ~?私かわいいからぁ~?と思ってたら、誘拐犯が細い路地裏を走りながら、脇に抱えていた私の顔を見て「ゲッ」とか言いやがりました。はい。ダメー!

 ポケットから三兄・エルンストお兄様から頂いた『呪いのおふだ』なるものいそいそと出す。


「えい。」


 ペタと抱えている誘拐犯に貼ると、瞬間、犯人の体がビリリっと痺れ


「ヒーッヒッヒッヒ!! まぁだまぁだァ。 ヒーッヒッヒッヒ!!!」


 鼓膜びっくり爆音量の奇声が発生しました。山姥から逃げるアレですか。

 気絶したのを確認して、そっとおふだを剥がし、爆音を聴きつけてやってくる警邏隊へ引き渡す準備…、そう、しゃがみ込んで泣きべそポーズ。お。きたきた。


「何の声だ?! お嬢ちゃん?!!」

「ひっく、ひっく、このおじさんがぁ、おいでって…こわくてぇ、目ぇつぶってたら…わぁぁん!」


 堂に入った泣きマネでイチコロですよ。お父様の笑顔を思い出せば、震えも涙もすぐ出ます。

 ついでに、取り調べを行うための詰所でも。


「お兄さまに会いに行くの。ここまで…とうぞくいるの?こわいなぁ…」

「とちゅうの宿とかよくわかんない。けいらのオジサマは知ってる?」


 うる目で顔コテンで決まり。泣きまねでチラっと見せた侯爵家の家紋入りハンカチでダメ押し。

 警邏の強面オジサマに「おねがーい★」して、鼻で笑いやがった馬車の御者の威嚇と、安心して乗れそうな馬車の手配と、道中のおすすめ宿(警邏隊責任者オジサマの紹介状付)を手伝ってもらいました。

 適当に馬車乗って奴隷ルートにドナドナされちゃうと困るしね!私かわいいから!(つり目でも)


 ◇


 渡された『おこづかい明細』によると、かばんに入ってるお金はこの国のものらしく、すぐの両替は必要なさそうです。え、やさしい!

 でも金額が限られてて、『滞在費他、必要なら自力で稼ぐように』と綴られてました。やっぱやさしくない!

 ご利用は計画的に。むしろ稼がないと生きていけない疑惑。


 でも美味しいものは別腹でついつい買っちゃうんですよね。御菓子とかチーズとか。

 今も通りがかりの商店でこの地の特産物なるものをひとつ。ふんふん。侯爵家領にあるのと風味が違うわね。これもアリか。こっちはナシ。燻製もいいな。旅のお供に日持ちするし。まとめて買うからこれでどう?おねがーい。

 ほぼ初めてのお金の使用に、まずは金種と使い方をシエラに相談し、最初の街で市場を廻ってだいたいの標準価値の見当をつけて、諸々の対応をしました。やればできる子なのです。

 このあたりは、侯爵領を視察や座学の勉強で学んだことが活かされました。地域性や特産物にもよりますが、目安を塩の価格で判断するのは同じのようです。塩で道ができるらしいからね。重要。



 そんなこんなで準備を終え、警邏のオジサマに手配してもらった安全な馬車で、地図に書かれている場所へ向かいます。

 街道を越えて、ごはんを食べて、橋を渡って、盗賊に遭って。


「グヘヘヘヘ……ここで遭ったが運の尽き!有り金出しな!」


 わかりやすく盗賊らしい名乗りを聞いた以上、こちらも悪役令嬢として『悪役』の格の違いを見せつけねばなりません。いまこそ、鍛練の成果を見せる時!!馬車のドアをバっと開き、シュタッと着地。


「オーッホッホッホ!! 命知らずさんめ。このシャルロット様がちょうりしてやるわ!」


 決まった!悩殺・悪役令嬢ポーズ★

 ……盗賊さん、あほな子を見たみたいな顔しないでくださいよ。キィ!


「失礼しますわ! 必殺・呪いのおふだ!」


 掲げた札からザババーと濁流の水魔法が展開され、盗賊を襲いました。やっぱり三枚のおふだだ。エルンストお兄様、昔話してたのを覚えてたのね。

 私のちろちろな水魔法では、水鉄砲程度にしかなりません。大きな水魔法は出せないので、これぞお兄様の魔道具技術の粋。黒魔術?な厨二病風の絵柄になってるけど。


 あと大事なことですが、悪役令嬢といえど礼儀は必要。(ここ重要。テストに出るよー)

 どんな悪党でも面と向かって名乗りの挨拶をされたら、こちらも言葉を返してから仕掛けるべき。武道の試合でも挨拶してから始めるでしょう?奇襲ではありません。ちゃんと「失礼します」って言ってから失礼かましたもん。


「オーッホッホッホ!! 私は世界に求められし、みわくの悪役令嬢!!ごめんあそばせ!」


 次にやってきた盗賊さんも阿呆な子を見る顔になられたので、おふだをお見舞いします。

 今度は爆炎でした。やっぱりね。


 ◇


 盗賊さんたちの手首を縄で縛ってさてどうしよっかな。


「お嬢様、残念ながら私の収納魔法は、命があるものは入りません。一部分くらいしか容量が…」

「んー、じゃ走ってもらう?それかせつだ… あ。スレイプニルだ。」

「では、ちょっと捕ってきますねぇ~ 挽くには丁度よさそうです!」

「よろしこー。牽くにする?スレイプニルに繋いでお散歩するの。」

「そうしましょう!」


 馬車の御者さんが「盗賊がこわいか、乗客がこわいか」と怯え気味だったのは気のせいです。

 荒馬のスレイプニルと対峙して、「ハイッ!!」と牛追い鞭(ブルウィップ)を鋭く地に一発。牽制だけで御したシエラも、いつも通りハイスペックです。盗賊さんたちは大人しく走ってくれました。


 盗賊を退治して、街道を越えて、関所で盗賊を引き渡して、報奨金もらって、宿に泊まって、買い物して、街道を越えて、ごはんを食べて。細く長くクネっとした上り坂。薄暗くなる森の中の道を進みます。だんだん霧も出て、ようやく到着したのは堅牢な塔と重厚な砦のような館。



 …………城?



長くなりましたので続きますね。


→ つづく。

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