表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/69

場外乱闘3 地の国にて 中

タグ注意(R15) 流血表現あります。

 愛する景色と民を蹂躙され、怒りと悲しみに闇へと堕ちた女神―――


 ゴーレムは無理やり動き、押さつけていたわたしの蔓を破り、今この瞬間、次の子供へ刃を振りかざす()に向かって杖を投げつけ串刺しにしました。

 そして敵の命を容赦なく切り裂きました。


 待って、待って!


 ヒビ割れ哀哭と憤怒をまき散らすゴーレムに、わたしの声はもう届きません。


『許さない許サない許さナイ!!』


『コの子がお前ニ何をシた!こノ村ノ者ガお前タチに何ヲシタ!直接ドンナ罪ヲ犯しタ?!』


『例え神ガ許ソウトモ、アタシのコドモタチを奪うオマエタチは許サナイ!!』


『アタシタチノ 愛シイ愛シイ世界ヲ 壊シタ奴ニ 鉄槌ヲ!』



 ……いくら腕力があって力任せに暴れようとも、ゴーレムは幼いコドモのままで『身体の使い方』を知らず、『戦い方』を知らず、『戦略』を知らず。

 長年動かないでいた体には、突然の動きにも攻撃にも耐えきれずギシギシミシミシ鳴り、亀裂が入ります。生身であれば、のたうち回る程の激痛であるはず。その痛みすら狂気と力に変える彼女。

 しかし、敵は『戦』を知っています。数で包囲し、遠距離から矢を放ち、槍で攻撃に出ます。


 もう、見てられない!!

 これ以上わたしの愛しい子たちを傷つけないで!!


 身を挺して村のこどもたちの壁になるゴーレム。彼女が防げない矢を槍を刃をわたしが蔓薔薇で弾く盾となり、その隙にこどもたちを逃がします。


 蔓薔薇サン。


 あの子たちを助けると約束したでしょう!


 蔓薔薇さん。


 ひとりでも多く逃がすわよ!はやく!はやく!



 わたしたちのこどもたちを守るのよ!!



 ◆



 敵に追われないように、敵に追わせないように、剣となり盾となり。村の外まで逃げられるように、遠く遠く逃げ切れるまで…


 それも長くは続かない。


 関節を封じられ、手首は切り落とされ、腕は捥げ、足を砕かれ、地に倒れ胴が半分にされそうな時、体中亀裂だらけでボロボロになり血を被った女神のゴーレムは、わたしに最初で最後のオネガイをしました。



 つるばらさん、つるばらさん


 アタシをたべて


 アタシの魔核をたべて あのこたちをたすけて


 おねがい


 おねがい



 …強化手段として、魔族の核を食べ、その力を得る方法はあります。

 しかし、呪いに近い状態を取り込むなど、妖精族でも上位種の闇属性か冥界関係でなければ、とても扱えません。無謀です。頭では十分理解してます。

 他種族の争いに介入した。それ以前にこの損傷では、ゴーレム(この子)ももう助からない。亜人に殺される。わたしも同じく…



 大丈夫、魂は冥界に流れ、やがて生まれ変わる。

 わたしもすぐにいくから、一人にしないから。

 だから、今生は哀しいけれど、次の生ではきっと―――



『おねがい』



 消えそうなゴーレムの魂、女神の眼から溢れる血の涙を見て、わたしは思わず彼女を取り込みました。

 蔓でぐるぐる巻きにし、亀裂という亀裂から石像内部奥深くに侵入し、隅々までくまなく探し、発見した小さくて幼くて優しい魔核を、そっと包んで―――



 ◆◆◆



 気が付いたときには周りは静寂に包まれてました。

 夜空を染めた炎の影は去り、深い闇が支配するけれども、幽かに山肌の向こう側に陽の気配が近づく。


 煤けたにおい。鉄のにおい。生臭いにおい。

 だれもいない。だれもいない。


 魔核を包み、無理矢理融合させ、切り落とされた手を、腕を、足を、胴を、蔦で縛りくっつけ、血管のように根を張り、身も心も魂も強制的に取り込み。

 理性を失い修羅となり、刹那的に感情だけが暴走した結果が、沈黙となり横たわる。


 わたしは、アタシは、何をしたのか、理解してます。

 わたしは、アタシは、何者になったのか、わかりません。

 けれど。しかし。 ()が行ったことは後悔してません。


 呆然と立ち尽くす私の前に、突然、凄まじく強くて恐ろしい気配がいくつも現れました。

 反射的に再び村を襲いにきた敵と判じた私は、蔦の鞭を飛ばしますが、相手が何もしないうちに蔦は枯れ、私は地面に伏しました。

 地面に落ちた瞬間、衝撃で眉間の破片が剥がれ、とっさにそれを掴もうと手を伸ばしますが、視界が途切れ見つからない。視神経が傷ついたのでしょうか。


「これはこれは、随分と派手にやってますねぇ…死霊族大量生産前に浄化しませんと!やぁ、骨が折れる折れる。もう骨ですけどー」

「スカル先輩。その定番ギャグ、いっそ挨拶の口上でどっすか?今回の亜人間戦争、ぐっちゃぐちゃで当分終わりそうもないし。」

「オルク、誰かがもう使ってるでしょうからやめときます。 魔王様、早速よろしいでしょうか?」

「む。まずは冥界の王から届いた予定者リストと実際の魂を照合だな。セバス、凡その数はどうだ?」

「十数件差がありますね、幼い者の数が合いません。原因はコレでしょうけど。」

「ふむ。…特別注文はこういったパターンもあるからな。」

「変容とは…まーぁ珍しい特注ですねぇ。 コラ、欠伸してないでシャキっとなさい!」

「ふぁい、先輩… くぁー、ねみー…」

「…余裕ですねぇ。このエリア、一人でやってもらいましょうかねぇ。朝日が昇る前に片付けなさいねぇ~?」

「えええ?!無理っす!起きます!先輩手伝ってくださいぃぃ!」

「…浄化できそうな者から葬送してやれ。アンデッド化しそうな者は住民台帳の登録と戸籍の確認を。指導が必要な者やゴネる奴はわからせろ。」

「最初が肝心ですからね。スカル、オルク、さぁ仕事です。」


 わぁわぁ騒いでいるのは、どうやら魔族のようです。朝日が昇るまで時間が無いのでしょう、段取りと指示が決まると、テキパキと動き出しました。

 強い魔力と威圧にあてられ、それ以前に無茶苦茶なことをした体はもうぴくりとも動かず、目も見えない。働かない頭には、私はここで粛正されるのかと、やけに冷静な声が宿りました。


 それでいい。それでもいい。

 この幼くて優しいゴーレムと共に眠れるのなら。村の子供を一人でも逃がしてあげられたから。

 わたしは、アタシは、したいことをした。できることをした。これが二人の正義(せんたく)だった。

 それが罪ならば、二人で、一人で、背負おう。


 あぁ、でも、この子の欠片は全部持っていきたかったな…



「セバスさぁん、こちらの方はどうなさいますかぁ?」

「外見は魔族(ゴーレム)で中身は妖精族(花の精)ですか。なんとめちゃくちゃな接ぎ方して…」

「え?マジ?これ妖精の仕業なの?魔族操ってやったの?すっげー。で、何で居たの?」

「何を間の抜けたことを…特注の資料にあったでしょう?ちゃんと読みましたかぁ?」

「あんな小難しい大量の文字なんか見たくないー」


 軽い声、叱る声、指導する声。

 何も言わぬ声が、強者の気配が、私の頭部近くに立ち魔力をあてて状態を調べ始めました。

 もう私は、魔族でも妖精族でもありません。異物と、排除すべきモノと、みなされるでしょう。


「異端ではあるが、これまで同じ症状の者がいなかったわけではない」

「…?」

「出自からすれば純血と扱えず、難しい立場になるだろうが卑下することはない。したことを悔いてないだろう?」

「…」

「核も体も損傷も激しいな…よく保ったものだ。貴様の処遇について、魔族だけで答えは出せぬ。冥界の王と妖精女王と相談の上で決める。」

「…あ、の…」


 無理やり出した声は擦れ、すぐに咳込んでしまう。けれど今言わなければ。口を開けようとする私に魔王様が待ったを掛けました。


「しゃべるな。既に魔力で記憶も読み取っている。考えてるだけでだいたい伝わる」

(……私は処分されるのでしょう?この子の体だけでも大地へ…)

「今日の仕事は鎮魂と葬送だ。要らん魂を狩る程酔狂ではない。冥界の王から獲ってきてとも言われてない。」

(しかし…亜人の戦いに…)

「そうか。」

(私は…彼らを許せない。)

「そうか。」

(…斃し行かせてください…想いを遂げさせてください…)

「だめだ。」

(なぜ?)

「亜人の戦いは亜人のためのものだ。他種族の、貴様の、自己満足でやらせられん。それにだ。」

(…っ)

「像の記憶では『助けて』と言ってる。『斃せ』ではない。履き違えるな。」

(…!)


 血の涙が止まらない。悔しく、哀しく。

 死んでいったあの子たちの仇を、大本となるモノを、抜き取りに行きたい。


 夜の王は穏やかで静かな声で諭します。


「今、全てを理解し納得しろとは言わぬ。」



「いつか、飲み込め。」



 ◆◆◆



 私の損壊度は魔力的にも酷く脆く、現段階ではとても他界へ移送させることができないと判明し、物理的にも動かせる程度治るまで、近隣の地に留まることになりました。

 体が崩れぬようスライムに包まれ村から離れ、魔素エネルギーが多い森の奥に移動し、側近の方が家…というより感じからして館?を出現させました。


「って、俺んちじゃん!!」

「…。」

「はい、魔王様。オルク、指名ですよ!ここ駐在で仕事してくださいねぇ」

「え!先輩、まじっすか?!」

「大丈夫ですよぉ。私もきちんと出来をチェックしに来ますからぁ~」

「げ!!先輩、まじっすかぁ…」


 ぎゃーと騒ぐ声にコッという音とドゴンッと地に沈める振動の後、魔王様は自然界にある魔素を集め始めました。そこから、細く長い一本の糸のように取り出し、先を私のカラダの中、蔦に覆われた魔核に刺しました。


「ぐっ…!あぁぁ!」


 激痛に呻く体を暴れて壊れぬようスライムが包み抑えます。魔王様は魔素の塊から少しづつ…ほんの微量ですが、エネルギーを魔核に流し込んでいきます。それだけでもとても痛く、辛く、叫ぶ。


「オルク、魔王様のお手本を見てましたね?これと同じことをやりなさい。」

「へ?でも、セバスさん、それなら俺の魔力入れた方が早くねーっすか?」

「核が半魔半妖で無理矢理くっついた合成体(キメラ)状態です。魔族のエネルギーを入れたらショック起こすに決まってるでしょう。ティターニア様に大蒜詰めされたいですか?」

「セバスさん、すみません… ハァ…まったく。」

「え?先輩? って、いだだだ!」

「オルク、状態確認の基本です。生身の本体でこれだけ大きな損傷です。既に激痛で満身創痍です。そこに強い魔力を与えたら毒です。ここまではわかりますかぁ?」

「へ?は、はぁ…」

「自然界の中和されてる柔らかい魔素を、様子を見ながら少しづつ、少しづつですよぉ?注入して核を慣らし馴染ませるんです。それから体の修復です。共通基礎科目・回復術の応用ですよ、習ったでしょう?」

「あーそっかー。 って、気が遠くなる系の面倒くさい作業じゃんかー!」

「飽きっぽいオルクにはちょうどいい訓練ですね。きっちり、丁寧に、やりなさい。」


 地に這っている?軽い声。それを指導している間延びした丁寧な口調の青年声。

 ギシギシミシミシと耐える中、魔王様の側近さんであろう渋い声が「私は悪魔族のセバス。あの煩いのが吸血鬼のオルクで、その指導係が骸骨騎士のスカルです。オルクが困らせたらいつでもチクりなさい」と教えてくれました。


 ◆


 仕事が片付き、魔族界へ戻る前、魔王様はいくつかのことを言い残していきました。


 ひとつ、亜人の国に立ち入るべからず

 ひとつ、預かりは魔族か妖精族になる

 ひとつ、最後の願いはかなえてもいい


 最後の願い…?


「貴様はあの亜人の地に二度と足を踏み入れない。これは絶対だ。」

(…はい…)

「半魔半妖はこれまでのカラダと勝手が違う。自然界の魔素が主たるエネルギーで、魔力枯渇症になりやすい。今後は管理される生活になるだろう。…オルク?がアレでコレだから、定期健診とカウンセリングも派遣する」

(…はい…)

「…オルク…が亜人のガキどもで遊んでも多少目を瞑ってやる。戦火中、生き延びられるかは本人ら次第だ。アレが目をつけたヤツなら才はあるだろう」

(…はい?)

「亜人の世界は亜人のものだ。親の仇討ちなんぞ、ケジメくらい本人らにつけさせてやれ。横取りは許さん。わかったな。」

(…っ! はい…!)


 ボロボロの私が暴走しないか、諭し理解したと判じた魔王様は、そういえばと続けて…


「貴様は名をなんとする?真名でなく俗称でよい。」

(え?)

「蔓薔薇妖精でも女神ゴーレムでもないからな。呼び名がないと困るだろう?」

(はぁ…)

「はいはーい!魔王様、俺良い名前思いついたー!あのなー」


 やたらと軽い声が響く館。窓から入る風は、遠く遠く煙と鉄と朝露のにおいを運びます。



 やがて近づく夜明けの一筋。

アスト「……。」ちら

セバス「吸血鬼のオルクですよ。まだ名前を覚えてなかったんですね」

アスト「ぬぅ……どこかで見たことがある気はするんだが…?」



地の国のくだりが終わったら、どこで見たかの駄話予定…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ