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10通目裏2 反撃のR15

【注意】

途中(◆から◆間)残酷というか胸糞な内容を含みます。15歳以下は読まずに飛ばしてください。

指摘があれば削ります。

 暴風雪の呻きを物ともせず佇み眺めていれば、妹に付けた者から無事領を出たと報告が届いた。

 同時に、ここ数年ヴァルク達が相手をしてきた煩わしい鼠どもが、この騒ぎ(撒き餌)に誘い込まれ、集まっている。


「兄上、始めるか?」

「うん。丁重にもてなしてね。」

「ヴァルク兄さん、今回は新しい道具も実験したい。いいかな?」

「ん。りょーかい。よし、誰が特上をとってこれるかゲームだ。」

「はーい」


 方針が決まり、懐から出した拳大のブツに強化魔法をかけ、暴風雪の中心めがけて投げつける。パシィという音と共に徐々に風が止み、それを合図に他の者たちも動き出す。

 ランタンの灯を持つシエラが「オジョウサマ、シッカリー」とシャル人形救出劇(わかりやすい演出)を続行し、そこに襲撃をかけようと出てきた鼠たちを弟たちは狩りに行く。餌に喰いつこうとした獲物を仕留めるハンターの基本だ。


「さて、と」


 今回は統括だけで参加不可の立場は暫くヒマだ。同じく手を出しそうな方に事情を話しておこう。

 決して、我慢仲間に引き込みたいわけじゃないよ?



 ◆◆◆



 暴風雪から人族同士の狩場になり、騒々しい夜の雪原の中、投げつけためりーさんグッズを手にした友人が、興味深そうに調べている。気づいたかな?


「イリオス。このめりーさんは新作か?魔力のにおいがする。」

「シャルお手製『ぽかぽかめりーさん』だって。赤スライムが作った魔石カイロとハーブ入りで、魔力を通せば温かくなる。貰ってやって?」

「む。わかった。…ところでこの騒ぎはなんだ?」

「以前からあの子を欲しがる面倒くさい奴が来てね。」


 妹の体質を正しく理解している友は訝し気な顔をして、「???」と首を捻っている。

 そりゃ不思議に思うだろう。

 並みの人族が、全属性魔法保有という宝石の名に目を奪われて、実質的にはそれにはヒビ入りで使えるかどうかもわからないモノに、ずっと固執してるんだ。解除方法のわからない複合魔術式(ばくだん)に手を出すようなもの。どう考えても手に余るし、下手しなくともケガをする。


「あいつらの依頼主は、()に興味があるんだよ。」

「ハラ?」

「魔族とは習慣や価値観が違うだろうから、わかりにくいかも。人族の一部には…まぁ、わかりやすくハイブリッドな素養のある子を作りたがるんだよ。で、その道具らしい。」


 ズ…と周囲の空気が重くなり、眉間を除く表情筋が仕事放棄してる友が静かに目に力を宿している。自分の感情を殺す事に慣れてしまったが、ここのところ表に出すのが少しだけ上手になった。


「…腹は立たないのか?」

「立つよ。だから、簡単には許してあげない。」


 全属性魔法保有まではバレてなくても、複数属性に適合していると気づいた貴族や教会や魔法研究関係の特権階級から、表向きには縁組や魔法教育機関への保護を打診されることは少なくない。

 裏側を探れば、凡そ傀儡か実験目的という報告が上がってきた。その中でも生かさず殺さず正気を保たせ弄り返すという一部勢力に、ザワつくアシュリー家一同。

 そして父が微笑んだ。


「その都度根こそぎ処分してたんだ。まぁ、我が家としては、物理的にも社会的にも色んなタイプの制圧訓練できたし、タダでは起きないとも言うんだけど。」

「ヴァルが表面上は大人しいが、仕草の間に滾ってたのはそのせいか。」

「うーん、紙飛行機で朝帰り出張も多かったし、うっかり漏れてた?」

「魔族の鼻は利くのでな。 今日は…直接シャルを確保しに来たのか。」

「そ。全部まとめて最後のあがき。あの子が安心して出歩けるよう掃除しないと。

 幼いからいいように使えると思われてる。実際問題おまぬけさんだから、おにーちゃんは心配になっちゃうんだよ。」

「イリオス…」

「だーめ。今回は我が家に売られた喧嘩なんだ。手出し無用だよ。」


 魔族が大っぴらに介入するのもよろしくないが、「私も参加制限されて我慢中」と伝えれば、めりーさんを持ってない手を鋭利な形に変化させた友がむぅっと唸り「わかった。我慢する」と引いてくれた。思わずクスクス笑ってしまう。しかし、心は笑えない。



 ◆



 そうこう言ってる間に、あちこちで大捕り物が始まる。ヴァルクが特上を仕留め、シエラとエルンストが悔しがり、捕まえた中から「ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪」と何匹かを選んで、意識のない肢体を首根っこ捕まえてずるずると引きずり、一列にきちんと並べてる。

 拘束した気絶した身体へ刺激を入れ、起こした相手に「やぁ」と声をかける。


「王家縁戚のド変態貴族に、キチガイ魔法研究所副所長、おや、教会本部で狂信者と名高い幹部様も。これはこれは。そろいもそろって腐臭が酷い。」


「貴様、侯爵家の分際で盾突く気か!私が仲介してやる!あの娘を王家へ献上しろ!」

「で、献上前に地下オークションであの子の味見権を掛ける予定だって?そんなだからヴァルクに会場も館も各拠点も丸ごと潰され、取りっぱぐれた逆恨みの胡散臭い取引客から追い回されるんだよ。

 終わったかな?の頃合いで違法賭博から人身売買まで真っ黒な犯行歴を、大衆向けスキャンダル誌に人相描き付で大公開。顔を出して外を歩けないね。」


 ヴァルクは体力も魔力も威力も人脈もパワー系なので、あっさりとスパーンと折りに行く。強烈な快楽や激痛の一撃を与えてから、徐々に回復しかけた頃に『あの素晴らしい技をもう一度』と恥や罪を上にちょこんと乗せる。シャルの『二度揚げが美味しい』からこういうスタイルになったらしい。



「娘の価値をわかってるだろ?あの体はこんなところで隠さず、もっと有効に使うべきだ。私達はそれができる!」

「おたくはエルンストを怒らせるのが上手い。人体実験は禁止されてるって知らない?裏金に不正会計に横領、不良品も研究所名で売ってたみたいだね?

 これまでの違法実験の数々、被害者の躯の在りか他、隠してあった書類も含めきちんとレポートにして、順次、各摘発部署に送付したよ。情報提供及び捕縛依頼も来てたし、順番にじっくりシメられるといい。」


 きょうだいの中で一番根に持つタイプは三男だ。シャルの食べ物の恨みよりも長引く。罠張って嵌めてネチネチぐりぐりずぅっと抉る。ヴァルクが一網打尽系ならマチ針の束で突くような小技で、飽きないように角度や効果(味付け)を変えて提供する。シャルの『弱火でコトコト』からこういうスタイルになったらしい。



「我々は敬虔なる神の信者!あの子は神の遣いです!魔族を従えさせる力は、皆の幸せのために必要なモノですぞ!」

「勝手に神輿に乗せて担がないでくれるかなぁ?神の使徒も聖女もガラじゃないんだよ。魔族に遊ばれても、従えるなんてありえない。

 館の地下にあった邪神信仰のお道具一式は、教皇殿に『公開推奨』メモ付きで届けてあげたから。あの方は高潔な性格だからね、破門なんてヌルいことはさせないよ?異端審問から始めるらしいし、明日には送り届けてあげる。あぁ、お好みらしい『魔払いの儀式』も体験させてもらったら?」


 返礼の挨拶として、頭を掴み、リリィに習った跡の残らない程度の小さな雷魔法を指に乗せる。馴染みのない現象と衝撃に慄く鼠たちへ、順にしっかり目を合わせ、にっこりと笑って、教えてあげる。


「どいつもこいつも、勝手に価値を決めないでくれる?ウチの子はそんな安い女じゃないんだよ。」


 次にスカルに習った幻覚魔法の応用(ゾンビ映像)を展開すれば、各々は絶叫して痙攣したり失禁したり。しかし意識は簡単に手放させない。現実から逃がさない。


「ひとりの少女がいなきゃ訪れない幸せなんて、高が知れてる。」


 因果応報なんて言葉じゃない。おまけも付けるし、箱にも入れるし、ラッピングまでしてあげよう。



「我が家のことは知ってると思うけどさぁ」



「出るときは『棺』の中、だよ?」



 ◆



 使用人達が、鼠たちをどう調理するか各々レシピから『生ごみ』『不燃物』『リサイクル』に分け、エルンスト特製の箱に入れて担いでいくのを見送る。

 『ごめんなさいもう楽にさせてくださいごめんなさい』と言わせてからが本番で、痕を残さないのが美学だ。

 権利は義務を果たしてこそ振りかざせるもの。言動も行動も責任を伴う。勿論、自分も。


「相変わらずシャル(おこしゃま)には向いてない光景だな。」

「ヘタレで優しすぎるからねぇ。向いてないというより才能がない。せめて逃げ足だけでも、と思うよ。」

「何もないところでよく転んでるが?」

「ふふふ。『ぷにゃぁ』とか『ぴゃあ』とか”ぶちゃいく”な悲鳴で可愛いでしょ?」

「む。アレはクセになる。起き上がった時のへちゃりとした顔もいいぞ。」


 攻撃能力の低いシャルには防御面の他、徹底的に逃げの一手を教え込んである。どうにもこうにもならなければ、植物のあるところから大樹様の森へ道を開けと。ただ、大樹様の森は妖精族の領域。別の手段もいくつか用意しておきたいところだ。

 ちらっと隣の美丈夫を見上げる。


「ねぇ、アスト」

「なんだ?」

「魔族界でシャルが行けそうな環境ってある?」


 ふむ?と考えるアスト。視線を向ければ、いつの間にか()を何匹か小脇に抱えたセバスが佇んでいた。アストが「参加不可じゃないのか?!」と言えば、「来る途中でぶつかって来たんです。事故です」とどこ吹く風だ。


「近年、魔族界の何か国かで『勇者歓迎!』イベントがあるから、来ることはできると思うぞ?」

「魔王様、豪傑な勇者と貧弱なお嬢様を一緒にしてはいけませんよ。間違いなく魔素と瘴気で魔力不全症状になります。」


 どうやら最近発生したイベントで、『聖剣』という入場チケットを持つ他種族の猛者が、魔族界各国の四天王と魔王(本人らが多忙な場合は代役)に挑む腕試しアトラクション(遊具施設)らしい。

 もしかしてもしかしなくても、ウチの阿呆な子が「魔族で『くはは!奴は四天王の中でも最弱!』と『〇〇の面汚しよ…』ってあります?」と聞いたところから始まり、口コミで広がって新しい娯楽に発展したようだ。


「アストの国でもやってる?」

「まだ準備段階だな。様式美の検討が続いてる。」

「隣国の古城に来てたメンバーが主体で動いてます。他国が一本調子で招いてる事に比べ、捻りが欲しいとストーリーやハイライトをどう演出するか会議が踊ってるようですよ。」

「ブランドの確立、もしくは商品の差別化だな」


 どうやら、隣国古城で行われた肝試しやお月見泥棒効果で「他種族勇者を招くならその種族のオヤクソクも学ばねば」と、人族界はスカルやベスが逐次情報(シャルの創作物語含む)を送ってるらしい。必殺技やら第二形態やらそれに伴う場面の効果音響やスポットライトも必要やら。


「『他種族の巨大魔術式失敗が生み出した悲劇の魔獣』設定が泣けた。」

「私は『未知なる生命体に連れ攫われ改造された魔族』が良かったです。」


 結構細かい所まで踏み込んでるようだ。しかも入り組んで。



 ◆◆◆



 セバスがポツポツと緑の炎を出し、ふぃっと息を吹きかける。魔族界に何か伝達してるのだろう。

 次いで足元の雪原に光が走り、魔族文字が並ぶ。次第に早く殴り書きのような文字が浮き上がり、雪の下から出てきた土の塊がセバスの足を捕らえて固めた。どうやら相手は抗議してるようだ。

 しかし、固めた傍から砂へと変わる。セバスには効かないらしい。


「イベントは別として、すずらん畑のこともありますし、お嬢様がいらっしゃる前に調整区域を作るべきでしょう。」

「ふむ。我が家でいいか?」

「いえ、既にゴーレムが直轄地の改造へと動き出してますね。スライムが人族界に遊びに来てることがバレました。不貞腐れてます。」

「ぬぅ…瘴気と魔素安定装置を考えねば…あとは各地の連絡通路か。回路混線が起きぬようにな。」

「スライム達にやらせましょう。数がいますから。問題は…」

「テスターだな。人族に耐えられるか、我々が数値だけで判断するのは危うい。しかし…」

「アスト、セバス。私がやろうか?」


 ウキウキしながら答えれば、遠くで()()作業しながらも、「ハイ!私も!」「イリオス様、抜け駆けずるいです!」とすかさず立候補の挙手をするアシュリー家の面々。勿論弟たちも入ってるし、シエラも入ってる。

 携帯したシャル式メール便2号君にも即着信の合図が入り、「父が勇者歓迎イベントもチェックしよう」「お母様にナイショとは許しませんよ!ぷんぷん」「旦那様へ 新婚旅行は二回あってもいいよ? 妻より」と文が届いた。相変わらず反応が早い。


 かくして、人族(アシュリー家)では『誰が魔族界体験旅行(視察)に参加するか選手権』開催が決まり、魔族側も調整区域構想の他、溜まった仕事の催促(オックス)が来て、逃げるアストに技をかけてかけられて、使用人達が魅入って、一通り騒いだ後、アスト達も戻ることとなった。

 帰る間際も「まだチャーハンを食べてないぞ!」と駄々をこねる魔王様。

 そうだ。まだ一つ確認しておくことがあったな。


「チャーハンについては、米や材料とレシピとともに送るよ?」

「いやだ。シャルのおまじないが入ったやつがいい。」

「うん。だから、シャルごと。」

「む?」

「魔族界って人族を娶る風習ある?」


 にっこり笑えば、きょとんとした魔王様と側近が顔を見合わせた。

 夜の雪原は、まだまだ騒がしい。

アスト 「シャルはまだ子供だぞ?!」

イリオス「うん。だから手を出していいのは成人してからだよ?」

アスト 「しかし、下手をしたら人身御供と思われるぞ?!」

イリオス「うん。だからシャルから押し倒したら問題ないよね?」

アスト 「兄が推奨していいのか…?人族はわからぬ…」

イリオス「あはは、アストは真面目だなぁ~」


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― 新着の感想 ―
[一言] おおおお?! 相変わらず楽しく読んでいたら、嫁入りのは話が⁈!これは予想外! 魔王様の「いやだ」に萌えた〜
[一言] シャルが預かり知らぬところで、勝手に外堀どころじゃない場所まで埋め立てられていく・・・w 魔王と親戚になるメリットも考えつつ、シャルがまた涌くかもしれない阿呆共に狙われないようにってところで…
[一言] あの、素晴~らしい、技~をもう、一度~♪と心のなかで歌ったのは自分だけじゃないはずだ
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