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3通目裏 答えあわせの家族会議

『裏』や『別紙』は幕間や番外編ポジションで、基本的にシャル以外の視点で進みます。

今回は三兄エルンスト。

 コンコン


「夜分失礼します。」


 我が家のノックは地獄の扉かもしれない。

 退出時には『何か』が起きる。



 ◇



 入室許可が下りてガチャリとドアを開くと、侯爵である父が、ゆっくりと振り向いてこちらを見た。室内には、諸国遊学中の長兄イリオスを除いた面々が座っている。


「お待たせして申し訳ございません。」

「いや、構わぬ。ヴァルクなんぞ、小腹がすいたと摘まんでいるからな。」


 折り目正しく礼をしたあと、視線を向けたテーブルとソファには、小腹にしては少々量の多いサンドイッチ類を右片手で摘まみ、ポイポイムシャムシャ食べながらも、視線は左手で持ってる書類を捕えている次兄ヴァルクが座っている。

 一人掛けソファには、母上が「あらあらまぁまぁ」と笑いながら、瞬間、ヴァルク兄さんに出された紅茶に何か仕込んだ。新種の何かの実験台にするつもりなんだろう。


「エルンスト、席に着きなさい。」


 促されてヴァルク兄さんの隣に座る。紅茶を飲んだ兄の顔が少し汗ばんでいる。


「ヴァルクで10mgで43秒。通常だと接種後15分以内で発現てとこかしらねぇ~まだ座ってられるから、もう少し少量で効果は得られそう。どう??」

「口に含んだ時は無味無臭で変化もありません。ただ飲み込んだ時の喉越しに微かにざらつきがありました。場合によっては戻される可能性があるので、溶解度を上げる必要があるかと。」

「母上、カップをご覧ください。液との接触面、ふちの部分にわずかに色が違います。温度によるものかもしれません。」

「なるほどね~~また試してみますわぁ~~」


 呑気な母上の声とは裏腹に、涼しい顔をしていても、汗が納まらないヴァルク兄さん。自分も度々仕掛けられるので、我が家ではよく見る日常光景だ。


 ◇


「そういえば、父上。先の王宮はいかがでしたか?」

「それはシャルについてかい?」


 館の主である父上が席につき、ようやく今日集められた本題に入る。その目は鋭く、『試験』の場だ。

 自分が既に入手した情報を元に『答えあわせ』だ。


 まずはヴァルク兄さんから。


「最近『少しばかりつけあがったおばかさん』がシャルに目を付けて、我が侯爵家テリトリーから初めて出るから、これ幸いとやってきた、と。総勢11名。1ダースも用意しないとは、ナメられたものですね。

 守備の結果に問題はありませんでしたが、内容は再考が必要です。

 護衛のジャスパーは足腰の鍛錬をもう少しつけるべきかと。特に太ももですね。踏込が甘い。伸びしろはあるので、庭師のギル爺さんに鍛えて(あそんで)もらいましょう。

 ガレンは武器のグリップの緩みに気づくのが遅い。俺が仕込んだとはいえ、自分の巻き方とのわずかな差も気づけないと付け込まれる。確認を怠ったと判断します。

 しかしカバー力は十分でした。無手でも素早く立ち回りできており『フルコース補習』が妥当でしょう。

 総じて『可』とし、追加の『補習』を受けさせます。」


 次いで僕。


「新たな侍女のシエラは及第点です。王宮内の庭と裏に隠れてた者を、綺麗に楽しそうに掃除してました。音も立てずに全て一撃で沈めていて、なかなか早い仕事だと思います。

 ただ、成長期にありがちな身長の変化を十分把握できてないのが難点です。

 自分で武具に加工し、使い勝手と仕事スタイルの工夫をしてます。魔道具との相性も良いし、魔法量と道具の使いこなし方を含めた複合訓練(とっくみあい)させれば、外に出しても問題ないと判断します。

 ですから『良』で『補習』は無しです。」


 僕たちの判断に、にこにこ笑顔で頷く父。今回の『課題』と『問題点』は合格らしい。

 あとは補習と訓練の内容を練らないとなぁ…


 そして。


「シャルは…」

「……。」

「……。」

「あんぽんたんですわねぇ……」


 そうなんだよなぁ…



 ◇



 年の離れた末の妹は、基本スペックが良くて悪い。


 良い点は、年の割には理論系が得意。

 課題で出された内容に対して、物事の視点、分析、判断基準と理由、考察、対応策等、順序良く羅列していく。解決策が一つではないと考えると、いくつかの候補を出す。

 内容の精査は別として、ベストではないがベターを打ってくる時が特に面白い。

 これは現段階ではないけど、こういったものがあれば実現可能ではないか等、幼いからこそ妄想を膨らませて新しい世界を見せてくる。

 魔法全属性というのも我が家では初めてだ。ただし方向性が謎だけど。魔法のステッキ…


 悪い点は、阿呆である。間抜けである。気が付かない。危機感がない。とっさの判断が遅い。顔に全部出る。不安だと父上の顔を見て判断する。ツメが甘い。運動神経も弱い。挙げるときりがない。


 全属性魔法持ちとあって秘匿すべきなのに、魔法講義で興奮した結果。


「ぜんぞくせーとかハイスペック。まさにラスボスにふさわしい。」


 休憩中に呟いたせいで漏れてしまった。そして、庭に潜んでたスパイに聞かれた。すぐ処分した。

 ただそいつが王宮の手の者だったようで、目を付けられ、結果、侯爵家の首にヒモを繋げようと、過日の第二王子と接見(おみあい)が設けられてしまった。


 全属くらいはバレるとは思っていたが、まさかの()()に、阿呆を通り越して「おばかさんめ。」とデコピンをしてしまった。

 おでこを抱えて「ふおぉ…」と痛み悶えるシャルもかわいかった。


……でも()()()()だとマズイんだよなぁ……



 ◇



「しばらくシャルには国を出てもらおうかな。」


 父上の声に思考の海から現実に戻る。


「イリオスが隣国を巡ってるだろう。適当なところを選んで放り込んでみよう。」


 イリオス兄さんは学院卒業後、隣国を中心に『遊学』しつつ、我が家の『仕事』もしてる。

 学院在学中から頻繁に諸国を巡っており、今はこれまでの再確認と新しい情報の入手と、独自ルート(おおっぴらには言えない系)の開拓もやってるようだ。

 北の隣国を出発点に隣接国をぐるっと時計回りに動いており、数年でそのまた向こうまで足を伸ばすだろう。


「先日、某国の古文書でおもしろい逸話があったと言ってましたね。初回の『お散歩』にどうですか?」

「ふむ。B国の国境あたりの古城の話だね。味のある雰囲気でシャルの泣き面が似合う。」

「あとH国の異界との境界研究の件も、非常に興味深い内容でした。」

「その国は魔力が豊富だからな。対魔戦の訓練には向いてるか。」

「うふふ~ついでに魔素材も取ってきてくれないかしらぁ~」


 父上に任せるとダーツで決められそうなので、シャルが『死なない程度に行けそう』な所へと話を誘導する。バレバレだろうけど。

 いつどこで『侯爵家と違う環境で叩き上げるか』を話し合っていると、ノックの音が響いた。続いて、速達の手紙が届いたと連絡が入る。

 執事から父上へと渡されたその手紙の差出主は、話題に上がっていたイリオス兄さんからだった。なにか起きたのだろう。

 一通り読んで笑った父上から母上に手紙が渡され、すぐに母上はメイドに指示を出した。今のシャルに関することと予想をつける。


「内容は? いつ出立します?」

「『親しい友が来たので、シャルを貸してほしい。おもてなし要員で。』ですって。」

「『ホストの実地訓練、すぐに寄越せ。』か。兄上の客人だ、只者ではないだろう。」

「まぁ、タダでは帰ってこれませんね…どのくらいかかるかなぁ…」


 今ここの場にいない長兄のタイムリーさに、考えることは一緒だということだ。


「一時帰国なし、単独で3年に一票。」

「ヴァルク兄さん、今のシャルは鴨がネギ背負って鍋も抱えてる状態です。一時帰国を含めて、シエラ付5年でどうですか?」

「あらぁ、それなら6年かけてもいいですよ? 学院入学前までならいくらでも構いませんわ。」

「ふむ。シエラ付、初回は1年で帰国、その後は『鬼ごっこ』にしようか。追って課題を出す。」

「「はい」」

「あらあら。うふふふ。」


 屋敷内が一斉に動き出す。

 明朝の出発まであと10時間。



「くぴぃ…ふにゃぁ…もうたべられないよぉ……」


 間抜けな顔で涎を垂らして眠る小さな末の妹の口元をぬぐってやる。むにゃむにゃ言ってる可愛い子には旅をさせろ、だ。


 初めての鍛錬留学が、本人知らぬ間に決定した。

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