10通目6 めりーさんのラブコール♪
まだのほほん回。
「くあー!仕事上がりの『龍殺し』は美味也!」
『ぷるるる…』
「…くぅっ!流石、龍種の地酒は強い。温まりますね。」
「イリオス殿もなかなかイケるクチですな。スイコの梅酒もイイですぞ?」
「では、ありがたく一杯。…シャル、お子様たちはだめだよ。」
「…わかってるぅー」「がぅうー」
「はいはい。膨れないの。スープのおかわりどう?」
「くださぁい」「わうー」
おこたもどき(抽選制)で、獣人龍人スライムそして長兄(お酒OK組)と囲む私とケロちゃん(お酒NG組)。スイコさんが故郷のあったか料理ということで、水餃子?ペリメニ?ワンタン?みたいな具にピリっと辛味が美味しいスープをふるまってくれました。心も体もほっかほか。
入れなかった大人たちが要求のオーラ放ってますが気にしなーい。
「え?スイコさんの故郷では豆腐あるんですか?!」
「あるよー?ウチの顧客が草食獣系でね、自家製豆腐が絶品なの。」
「そそそれは手に入りますか?!」
「崩れやすく日持ちしないのでな。獣人族の一部の郷でしか食えぬよ。」
「うーん、時間と物流問題か…遠方となると鮮度や状態保存が難しいね。」
「うわああん!」
聞けば豆板醤も牡蠣油もあるらしく、嘆く私を「是非おいで。食べさせてあげるから。」と梅シロップで慰めてくれたサハリさんとスイコさん。各地を巡る冒険者である彼と彼女は一つの土地に留まりません。時が来れば次の地へと発ちます。
再び会うための約束をして。
「じゃぁね、シャルちゃん。また会いましょう?」
「スイコさぁん!ぜったい忘れないでくださいよ!」
「はいはい。用意しておくね。」
ぎゅむーと抱き着いて、別れを惜しむ。
待ってて!私の梅酒たち!
(注:未成年の飲酒は法律で禁止されてます。成人するまで寝かせましょう。)
◇◇◇
引き続き、ギルドで依頼書を貰って、地下迷宮で散歩して、課題と補習を繰り返し。課題には先達てエルンストお兄様に相談して作ったシャル式メールボックス(改良中)もあります。
「エルンスト。現状だと私とセバス間・王都邸と領地邸間しかない。あと何か所か届けたり、持ち運び、できれば荷物運搬込み、かつ収納という形はどうだろう?」
「魔石の消費量を考えると、節約モードにしても骨が折れますね。荷物運搬だけなら、良質魔石で定点から小サイズ限定で可能です。使用者が動くとなると…今の術式だと難しいです。」
「おや?それならこの方法ならどうですか?エネルギー源は魔石と自分の魔力の他にも、自然界に存在する魔素を取り込む手段があります。」
「なるほど、魔石に魔素を集める…場の力と使用者の技術も必要ですね。セバスさん、勉強になります。」
「そうすると回路は…制限は…使用者権限も…」
「本人確認認証はどうする?魔力無しもいるとなると血液か?」
失礼。お兄様たちとセバスさんが高度勉強会に入り、ちんぷんかんぷん。最早私の手を離れて遠くに…というわけで、その間に任務遂行に励みます。
ケロちゃんとスライムたちは固定で、他の保護者はその時々。結構な頻度でアストさんは見学について来てはギルド内をざわつかせます。…黒髪の君を見守る会とかないよね?
どうもアストさんは地下迷宮の戦闘を潜り抜けお宝アイテムゲットだぜ!な冒険系依頼よりも、牛や馬の放牧手伝いな長閑な依頼の方がお好みで、遠ーくに保護者席を設けます。セバスさん曰く「近づくと魔牛も魔熊も魔狼だって怯えるか気絶するか服従する」らしい。三択が一択にしか聞こえない。
「春になると牧場で羊の赤ちゃんが生まれるんですよー?」
「っ…それはどんな様子なのだ?」
「ちっちゃくって、よろよろって立って、メェって…どうしました?」
「ぬぅ…羨ましくなんてないぞ?」
何か葛藤と必死で戦うアストさんは、小さい動物やもふもふが好きなのかも。わかりますよ、もふもふの魅力…!春まで滞在されるようなら出産時に立ちあえ…だめだ、母羊が気絶する。
仕方ない、過去の記録と記憶から羊の赤ちゃん(仮名:めりーさん)の様子を絵で描いたら、お兄様たちから「魔羊か。よく描けてる(笑)」と大絶賛されました。
…ただの羊ですよぉー…
「シャル、どうして羊毛がピンクの花柄なんだい?」
「…かわいいかと思って…」
「うん。じゃぁ、どうして羊毛がピンクの花柄で、手紙持って二足歩行で「やっほー!」なんだい?」
「…かわいいかと思って!」
「「ぶっふー!!」」
…ただの…ひつじ…
リリィさんやスカルさんに「この手紙は羊の携帯食?」と聞かれ、ベスさんとシエラは「いかにシャル式魔羊を再現するか」と刺繍にぬいぐるみに小物グッズまで作ってます。
…服飾部の新作案に提出?ゆるキャラ?キモカワ?ダサカワ?まぬけかわいい?って、キャラの方向性が迷走!
ならば。
◆◆◆
……古い家から遠く遠く離れた新しい家へ引っ越した”私”は、ずっと遊んでいた羊のぬいぐるみのめりーさんを置いて来てしまった。気づいた時には既に戻れる距離でなく、古い家は取り壊され、めりーさんは瓦礫と共に処分場へ…
新しい家に引っ越し、馴染み始めたある豪雨の夜。
一人で留守番をするには心細く、広い部屋にプルルル…と電話が鳴った。
ガチャ。
『もしもし?わたしめりーさん。もうすぐあなたのところにいくね。』
ガチャ。ツーツーツー…
「シャル、『でんわ』とは何だい?あとこの音は?」
「イリオスお兄様、手紙が文字によるものに対し、電話は音声による遠隔地同士の伝達手段です。音は通信の呼び出し・終了を知らせてます。アストさんのすずらんとメッセカードが近いかなぁ?」
「音による状態伝達か…うん。カードの件についても、あとでじっくり聞かせてもらおうかな。」
「…。」
プルルル…
ガチャ
『もしもし?わたしめりーさん、いま、都の北門の前にいるの。』
プルルル…
ガチャ
『もしもし?わたしめりーさん、いま、北大通りにいるの。』
「雨天の夜とはいえ単独で北門突破が数分足らずか。騎士団管理の裏経路?いや、抜け穴か?このスピードとは…なかなかやるな。」
「ヴァルクお兄様、攻略方法の分析と実効性の検討しないでください。王都の警備がザルに聞こえます。」
「いやだって、欲しいだろ?この人…じゃなくて魔羊材。」
「…。」
プルルル…
ガチャ
『もしもし?わたしめりーさん、いま、花屋の前にいるの。』
プルルル…
ガチャ
『もしもし?わたしめりーさん、いま、馬車乗り場にいるの。』
「北大通りから花屋を通って馬車乗り場だと遠回りになる。魚屋から脇道に入って、壁を登り屋根を伝った方が早いよ?」
「エルンストお兄様、おのぼりさんはわかりやすい道や目印がないと迷子になってしまうのですよ。」
「それなら赤い看板が目印の肉屋に行くといい。あそこの店主は顔は怖いが根が優しい。きっと近道も案内してれるよ。」
「…。」
プルルル…
ガチャ
『もしもし?わたしめりーさん、いま、あなたの家の前にいるの。』
次第に近づいてくるめりーさん。
窓から雨が降りしきる玄関を覗けば、濡れたガラスの向こうにぼんやりとした影が。誰かがこちらを見上げた気がした、その時。
プルルル…
ガチャ
『もしもし?わたしめりーさん、いま、あなたの部屋の前にいるの。』
コンコン… 家族が出かけて無人のはずの家にノックの音が響いた。
コンコン、コンコンコン…ゴンゴン…
暫くすると、それも止み、そして…
プルルル…
ガチャ
『もしもし?わたしめりーさん、いま… あなたのうしろにいるのぉ!!』
「無事にたどり着けたか…夜の王都は酔った冒険者に絡まれる魔族も多いからな。一匹歩きは心配だ。」
「アストさん、あの、遠くにいるはずのぬいぐるみがしゃべって、徐々に近づいてくるところに恐怖を感じる話、なんですけど…?」
「でんわとかいう魔道具を操る魔羊なのだろう?知能の高い魔獣は普通に話すし人化もするし旅もするぞ?」
「わん。」
「…。」
羊のぬいぐるみが魔羊の不思議と混ざりあい、ホラー話のはずが飼い主を探して三千里みたいなクライマックスに感動する皆様。
ノーム二人は「再会できてよかったのですー!」「きっと途中で色んなドラマもあったんだろうねぇ」と話し、それをリリィさんが「うんうん。羊毛の花柄は、飼い主さんに花畑を見せたくて食べてしまったからに違いない。」と話を広げて、それをベスさんが「色変か形変の花柄…」とガツガツスケッチを描き、それをシエラが「企画会議に提出ですぅ~」とメモを回収して王都行きファイルに綴じてます。
とりあえず。
「……あれぇ?」
◆
『わたしめりーさん、いま お花畑にいるの。
赤 白 黄色 とってもきれい。
くんくん。あー いいにおい。ピンクのおはな。
ぱくぱく。とってもおいしい。ピンクのおはな。
あれれ?なんだか体がぽかぽかしてきたよ?
わぁ!わたしの毛がお花畑だぁ。
わたしめりーさん、もうすぐあなたのところへいくね。』
こうして、『遠く離れた飼い主さんへ。旅するめりーさんからの手紙』という絵本と服飾グッズが、アシュリー侯爵家商業ラインナップに追加されました。
服飾グッズ全般はベスさんですが絵本の脚本はリリィさんで、王都の各店舗が春物を並べる頃、アシュリー家服飾店の店頭飾り棚に、時間によってキラキラと花柄が変わる巨大めりーさんのぬいぐるみ(ベス&リリィ合作・非売品)がどどーんと置かれ、人々の視線と興味と話題を奪い、度肝を抜いたそうです。オーバースキルはんぱな!
また、めりーさん計画が始まってから、皆でわいわい談話室で集まることが増えました。
「花、ドット、ストライプ、チェック、タイダイ、迷彩、アラベスク…もう少し味付けが欲しいわねぇ。シャル、なんかない?」
「アニマルのアニマル柄…ってライオンの皮を被ったロバじゃ…あ、伝統柄と民話を参考にするのは?星座と伝説のような?」
「人族にはそんな話もあるのね~。 エルー!魔道具ミシンにパターン入れたいから改造するわよー!」
「リリィさん、魔族や妖精族にはないんですか?」
「星かぁ…昔、酔っ払い魔族と喧嘩した星の妖精族が、笑いながらメテオ落としたことがあったらしいよ。魔族界の地形が大きく変わってしまい、国土管理者もティターニア様もカンカンだったって。」
「リリィが魔族界に赴任する前の事件ね。セバスさんが凍える笑みで始末書回収に出たのを覚えてるわぁ~」
「…アストさんのおしごと量がしんぱい…」
ベスさんとリリィさんと案を練ったり、お兄様やアマナちゃん達も交じってディスカッションが始まったり、おこたでぎゅうぎゅうになって寝落ちしてセバスさんに叱られたり。私も含めてあまりに寝落ちが多いため、私が抱き枕の絵を描いて、お兄様たちの爆笑を通って、シエラが触り心地最高なめりーさん抱き枕を作ってくれたり。
「…シャル。この『おやすみめりーさん』とやらも表情が薄いぞ?病か?」
「ぬいぐるみは笑ってるようにも泣いてるようにも見える方が、読み手の気持ちを反映してくれるんです。素敵な絵本を読んでハッピー★なら、ハッピー★な顔に見えるんですよ。」
「むぅぅ…人族の思考や感情は複雑だな…難しい。」
「可愛いは正義!が伝わればいいんですよ~」
「はい」と渡せば、めりーさんの表情や体調を本気で心配する魔王様がいたり、眠らないけど枕の触り心地や顔をポフポフと楽しむ魔王様がいたり。枕の中身が出た日にはどうなるんだろう。急患騒ぎになるのかな。
「ふふふ。なんだかお泊り会っぽくて楽しいね。」
「わん!」
『ぷる!』
「シエラ。地域の伝統柄と民話をセットで集めてくれ。地図とリストも。」
「かしこまりました。イリオス様、アレですか?」
「うん。始めるよ。」
ちなみに、この『めりーさんの手紙』計画。いえ、めりーさん自体はただの羊なんですけどね?先に出ていた携帯型メール便と相まって、私の大きな宿題になりました。割とすぐに。
◇◆◇
「え?ベスさんたち王都に行くの?」
「うん。一週間後には出立するよ。だからシャルにも旅立ってもらおうか。」
「え?私も王都に行くの?」
イリオスお兄様に渡されたのは、お父様からの手紙と、イリオスお兄様の『課外活動用』と書かれた課題集と、エルンストお兄様が作ったシャル式メールボックス2号君(試作機)と説明書でした。
お父様の手紙は『隠れ鬼。めりーさん送付』で、ギルド活動しつつ、地図にチェックが入ってる所へ行ってこい…です。王都行きは王都行きだけど、あちこちチェックポイント廻りながら、ぐるぅ~~っと遠回りして王都行き。
一丁前どころか半人前どころか十分の一人前未満ですが、アシュリー家稼業の現地調査ってやつでしょうか?
それはいいのだけれど…
「…イリオスお兄様…質問というか確認ですが…」
「なんだい?」
「地図が国内地図だけでなく世界地図だけでもなく、異界地図まで入ってるのは気のせいですか?」
「うん。行けるとこまで行ってらっしゃい。ちなみにシエラはお留守番だよ?」
「え?」
F級冒険者シャルさんの夢の旅行が始まりそうです。
→つづく。
シャル 「アストさん。めりーさん、気に入りました?」
アスト 「む。シャルの描いた絵も味があっていい。持って帰っていいか?」
ヴァルク「あ、ごめん。ポスター使用するから原画は王都へ送っちまった。」
シャル 「公開処刑!!」
シャル 「身内可愛さで広告に採用するのはオーナー職権乱用だと思うのです
メインデザイナーたるベスさんに託すよう正すべきだと思うのです」
ベス 「大丈夫!飼い主が描いためりーさんで購入特典のポストカード化もするから!」
シャル 「追い打ち!」
アスト 「ぬぅ。ベス。それはシリーズ化するのか?一枚寄越せ。」
ベス 「魔王様、別途直筆で描いて貰うのもアリですよ?画伯(笑)サイン入りで。」
アスト 「む?それもそうだな。シャル…」
シャル 「後から黒歴史になるフラグ!」
アスト 「…だめなのか?」
シャル 「断りきれないフラグ!」
※追記 20201225 活動報告にメリクリ★と書きなぐりました。
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2709021/




