10通目5 魔力∞無限大
予約投稿忘れましたごめんなさい。
…え?誰も待ってない?
ですよね~!
勘違いされている方もそうでもない方もおられるので、改めて言っておきます。
異世界転生?なるものをしたもの、私は無双じゃないです。全自動もなければ、基本的に他者の助力なしに生き残れないくせに、あれが食べたいこれが欲しいと、駄々をこねて無茶ぶりする我儘三昧な悪役令嬢(予定)です。
そんな私に、我が家はとても優しくて厳しい。
優しいところ。
「シャル。近所に散歩にぴったりの場所があるんだ。今回はおにーちゃんたちも行くよ。」
「…エルンストお兄様、そこは?」
「貴重なアイテムの宝庫で、獣とハンターと追いかけっこする憩いの場。通称『地下迷宮』」
「何その血生臭いふれあい広場!!」
と最新お手製魔道具試作品を渡し、爽やかに実用試験をやらせるお兄様とか。
厳しいところ。
「うん。相変わらずダガーの使い方が下手だねぇ。へっぽこ踊りは上手だよ。」
「イリオス!おにい!さま!見てる!だけ!ですかぁ?!」
「そうだよ?当たり前じゃないか。スライム達はまだ『待機』だよ。」
「ふにょおお?!」
とハンターに追われてる獣に追われてる私をにこやかに観察するお兄様とか。
「む。シャル。そこ罠があるぞ。」
「ぷにゃー!」
『ぷよよん』
「ナイスキャッチ。でも、アスト。シャルを甘やかしてはいけないよ?」
「む?そうか?」
厳しくて、やっぱり優しい。はず。
◇◆◇
ギルド登録をして数週間。毎日、地下迷宮で採取ノルマ・課題・補習のエンドレスコースに挑む私に、律儀に本当についてくるだけで、優雅に呑気に徹底的に観客やってる魔王様を含む保護者達。
ケロちゃんも透明を除くスライムたちも、『どうしても』の状況でない限り出てこないよう、保護者席で『待機』と言い含められてました。
「ほらほら、シャル。あそこに珍しい鉱石があるよ。」
「ロッククライミングぅーー!!」
「ほらほら、シャル。あれはここでしか採れない植物だ。」
「バぁーーンジぃぃぃーー!!!」
ガキン!と崖の肌に硬化したボディで楔を打ち、反対の触手を伸ばして私の片足を掴み、ゴムのようにぶよーんぶよーんと逆さ吊りを支えてくれるのは、唯一参戦が許された透明スライム。パンツスタイルにしてよかった…!応援席から緑の抗議が聞こえる。土属性的に出たかっ…いや、指導したい?優雅さが足りない?
「下げて下げて~」
『ぷるるる』
「はいはいはーい、ストーップ。うん。ありがとね」
スライムがしゅるしゅると触手の長さを調節し、ぶらんと逆さに吊るされた崖の中間にて、悟りと諦めと涙目で、側面に生えた植物を採取します。まぁ、素敵。
頭上…もとい足元の先にある天を仰げば、何故か迷宮という洞窟の地下数階のはずなのに、どこまでも透き通った青空が広がってました。わぁ、綺麗。
尚、採取手段がざっくりしすぎて「品質的に△。もう一回やってこよー」とリテイク入るまでがお約束です。
◇
迷宮に潜るなんて、いかにもゲームや小説っぽいわくわく大冒険展開かと思われますが、攻撃力へっぽこーな私は逃げの一手。平和?に生きてきた人間には、多量の血が流れたり肉が切られたり骨が砕ける音はムリです。本能的恐怖です。
それでも、魔獣を含む獣なり冒険者崩れの追剥なり逃げれないときは、魔法なり武器なり反撃します。そんな私用にエルンストお兄様が準備した新しいお道具は…
「ごきげんよう!ねこぱーんち!」
ぺにょー♪
集団で穴から出てきた攻撃モードの巨大ミミズ…とそれを追いかけてた火蜥蜴を、柄の長い槌?で叩いて意識を刈り取ります。某ワニやもぐらのゲームみたいな気分。そして叩く度に鳴る気の抜ける音。
ロッドでもメイスでもハンマーでもなく、それらにもなるしそれ以外にもなるらしいよくわからない伸び縮みする謎の棒。先っぽには白猫の手(爪付き)…肩叩きか孫の手かチョコバーにこんなんありましたね。
気絶した火蜥蜴は、ヒョウモントカゲモドキやニシアフリカトカゲモドキに似て、ずんぐりむっくりなボディがかわいい。火蜥蜴じゃなくて火家守?と持ってたら赤に捕られました。
「うん。魔力抜きの軽量化と威力増減幅はよさそうだね。次に、魔力伝導率はどう?」
「シャル、グリップを握ったら火魔法からイメージしてみて。苦手なら呟いてもいいよ?」
「はぁい。ぽっぽっめらめら~」
白猫ハンド(仮名)を両手で持って強めの火魔法をイメージすれば、ピンク色から赤へ変化したにくきゅうからボフッと火球が出てきました。そのままラケットを振るように「てい!」と球を投げつければ、「ヒッヒッヒッあり金出しな!」といらっしゃった冒険者崩れさんに当たり、髪がパーマ化。
テニスのスマッシュというより、ラクロスのシュートに似た動きでしょうか?未経験故知らんけど。
「あとは、防御も必要だな。ほーら、玉が飛んできたぞー?」
「ほーむ・らん!」
…動きがバドミントンのドライブレシーブ?リターン?みたいだったのは御愛嬌です。こちらも観戦レベルでわからんけど。
そしてベンチからヴァルクお兄様から「打ち返し後が空いてるぞー」やイリオスお兄様から「次は叩き落してごらん」とコーチと監督のアドバイスが入ります。
「二球目おねがいしまーす!」
「くっそ!舐めやがってー!!」
「せーふてぃーばんと!」
…やっぱり動きが違うけど、飛んでくる矢もナイフも叩き落し、剣や槍を避け、魔法は打ち返します。
「シャル!兄上たちにアレを見せてやれ!」
「はーい。カチンコチンーのっ氷結!」
「…もしかして、あれが氷菓作りの要になる魔法?」
「そう。水魔法の応用。 シャル、おかわりだぞー」
「水魔法に不純物を少々、からの~パチパチっと電撃!」
「ヴァルク兄さんが痺れるゥって報告は比喩じゃなくて実体験なんだ。」
「アレの加減がまだ下手でなぁ。エルンスト、カスタマイズしてやってくれ。」
「導体と絶縁体かぁ…スライムがそわそわしてるけどなんで?」
「あの魔法を喰うんだよ。白は光って喜ぶから一種の遊びだな。」
「へー」
リリィさん達と特訓の成果である静電気(塊)を投げつけ、ねこぱんち(物理)で気絶させ、もそもそと身包み諸々お宝頂戴します。やだなぁ。正義の味方じゃないから、貰えるものは貰いますよぉ?まにー★
◇
もちろん、スライムとも連携技の練習をします。
「スライムショット!」
『ぷるるん!』
スライムをにくきゅうの上に乗せて、崖や木の高い所等、目標物近くまで投げ飛ばし、後は鉱物を掘り起こしてもらったり、枝を揺らして実を落としてもらったり、つまみ食いしてたり。網状、板状、鋭利化、硬質化などなど形状変化したり擬態したり。
「エルンストお兄様、手と足が滑ります。握力ないのは今更だけど…」
「ベスさんにグローブとブーツのデザイン相談してみよっか。 おや?魔猪だ。」
『ぷる!』
「ひょえ?ぇああああ?!」
トランポリン、またはバレーのトス、もしくは跳び箱の踏切板の如く、スライムに元気よくぽよよーんと空高く飛ばされたり。あぁ、ヴァルクお兄様がやっていた「たかいたかーい」の真似なのね。反射的に避けてしまったエルンストお兄様は「ちぇ。そのまま残れば飛ばしてもらえたかなぁ」とぼやいてる。
突っ込んできた魔猪さんは、袋状に変化したスライムに迎え撃たれ、包まれ、丸飲みでモグモグタイム。けぽっと食後の一息入ればウリ坊姿に。ダウンロード完了らしいです。
目の前には、地下迷宮なのに青々とした森や山や岸壁地帯(注・地上は雪景色の冬)風を切って届くは何かの鳴き声。いい景色。流石ファンタジー。光源どうなってるんだろう?そして落下。
「ふぉおおお!」
『ぷるん』
「飛球でアウト。試合終了ー」
ぽひゅんとスライムにダイブ。ヘルプが規定回数になったので、今日の迷宮訓練はここまで。もう少し練習したいとこでも、やりすぎれば魔力体力不足になり自力帰宅が困難になり、楽しい楽しい補習が追加されるから、ぐっと我慢です。
「シャル。今日はもうおしまいか?火蜥蜴や魔猪の次はないのか?」
「そうですね。家に帰るまでがお散歩ですから。」
…微妙に萎れたアストさんは、捕食したスライムが擬態する姿を愛でたいようですが…絆されませんよ!
何事も己の力を過信してはいけません。「自分だけは大丈夫」「このくらいなら平気」は大抵根拠がありません。
コンディションもとりまく環境も、きちんと把握して分析して理解して、正しく疑って、余裕を持たせるくらいでないと、周囲に迷惑をかけることが殆どです。
今はお兄様たちが付き添いしてくれてるし、ケロちゃんも傍にいてくれますが、それが当たり前である保証なんてどこにもありません。『誰かがなんとかしてくれる』は落とし穴です。
現実はそんなに甘くなく、自ら考えて判断して動かないと。たとえ他力本願令嬢でも。
「アストさん。引き際の見極めも訓練ですよ~」
「そうか?…魔豚は…」
「そうですぅー。まだ会えるチャンスはありますよ。」
抱っこされてない状態では長身のアストさんには届かないので、両腕を伸ばし背伸びしながら白猫の手でほっぺをうりうり押せば、最初は怪訝そうにして、次第に無表情のまま心なしか眉尻が下がりました。おや?
「このにくきゅうとやらは気持ちがいい。」
「フフフ…ぷにぷにの魔力にやられてしまいましたか…」
「魔力だと?魔素が働いた様子はないが…」
「何者も抗え切れない、言葉では説明できない魅力も、人族にとっては魔力のひとつです。おこたの魔力に至っては、人をダメにする最強モンスターです。」
「むぅ…?オコタという魔獣は聞いたことがないぞ? シャル、まだぷにぷにしろ。」
「うーん、魔獣ではなく魔家具? はい、ぷにぷに~」
「もっとだ。」
「足の裏と腕が攣るぅ…!」
後日、ベスさんにもこもこ猫の手袋(にくきゅう付き)を作ってもらい、アストさんの両ほっぺを挟んでみたところ、大変ご満足いただけました。…最近、魅惑の顔面攻撃の後ろにキラキラ御花オーラが見えるのは私だけ?
◇◆◇
「シャル。オコタモンスターはどこだ?生体を調べたい。」
「…周辺国でも無いモノでして…似たモノなら作れます。」
「なんだと?人族がモンスターを生み出すのか?…新種ならば知らぬでは済まされん。作ってくれ。」
真面目におこたという強大なモンスターを調査すべく、意欲旺盛な人族界で休暇中?のアストさん…仕事中毒化に片足入ってますね…いえ、ここは逆転の発想『おこたの餌食で休ませてやる!』と、リクエストにお応えして『おこたもどき』を作ります。
と言っても、ふかふかラグの上に、大きめのローテーブル、大きいブランケット数枚と天板とクッションを用意しただけ。突貫で簡易版だから動力源は火魔石。ただし、火魔法(弱)ができる私でしか適温調整できません。他の人だと間違いなく燃やす事案。
「おこたもどきはどうです?ぬくぬくしてきました?」
「ぐぬぬぬぬ…」
「わふぅ~~ん」
『るるるる…』
「…だめだ、これは出られない…」
「ヴァルクお兄様、まだまだですよー?綿入り掛布団にローソファ付けたら、本気で喰われますもん。アイスクリームがあった日には完敗です。」
「…シャル…アイスはないのか?」
物欲しそうに恨めしそうな眼。今世には氷室はあっても冷凍庫はないから作れ…るわぁ…冬だし。氷魔法(弱)使える私だし。
試しににゃんポケから材料用意し作ろうとしたところ、残念ながら火魔石(操作中)と氷魔法の反発衝撃で脱落。代わりに氷魔法を展開したアストさんは威力が強すぎて材料丸ごと凍結。次回持ち越し。
「エルンスト、おこたの完全版を作れるかい?試したいことがある。」
「実験台を作るつもりで綿を集めてる最中です。シャル、これは商品化を狙わないの?」
「うーん…現状で扱いが難しいかと。風習違いで人前で靴を脱ぐ・床に座ることが珍妙に映るでしょう?火魔石による火事や火傷、あと利用時の寝落ちによる風邪が心配されます。カイロもなぁ…湯たんぽ…」
「それなら『特別な体験』を銘打った限られたケースなら使えるね。カイロって温石のこと?」
「イリオスお兄様、御存知ですか?私は対応できる石がわからなくて。なので赤を抱えてます。冬はお布団ぬくぬくですよ~」
『ぷるる…』
「発熱時に青スライムが氷枕化の逆版か…お前はどこで知識を仕入れてきたんだか…」
「ケロちゃんの風のゆりかごも気持ちいいです~」
「わん」
迷宮訓練後、体力魔力の限界を迎えた怠い体に対し、ぽかぽかおこたは容赦がない獰猛な攻撃を仕掛けてきて、もう動けません。ねむい。
この後、魔王様他人族を含むメンバーが『コタツムリ』化し、セバスさんが引きはがすという一悶着と、サハリさんとスイコさんが呆れる場面がありました。
もちろん私は風邪をひいたり。へっぷち。
→つづく
シャルとベスがあらわれた。
シャル「服飾部にパンツスタイル拡充を希望します!」
ベス 「スキニー、サブリナ、ガウチョ、ワイド…パンツ付スカート…」
シャル「貴族的にはNGだけど、冒険者的にはショートパンツも拝みたい!」
ベス 「カモシカ脚のモデルがいるものね!」 ガシィ!
リリィ「…え?」
→リリィは逃げられない!
オコタモンスターがあらわれた。
オコタはぬくぬくを唱えた!
アストは動けない!(守備力ダウン)
シャルはみかんとあっつい緑茶を取り出した!
アストは動けない!(攻撃力アップ)
アスト「ぐぬぅ…これがオコタの力…!」
シャル「ひゃぅぅ…」
アスト「む?シャル熱が出てるぞ?」
シャルは『魔王様の快楽に抵抗(色気)』にやられた!




