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10通目2 逆襲のシャル

当小説ではほのぼの恋愛??風景をお送りしてるつもりです。希望。←

 大樹様の森で一触即発から解放されたと思っていたら、帰宅後に惨劇の嵐。


 スイコさんの話から、アシュリー侯爵領邸にオックスさん来るかもーと思ってたら、現れたのはかつてない程荒れた様子の魔王様(ラスボス!!)

 邸内はアストさんの垂れ流し魔力や圧力が、ぶおー!よりグオオオ…ッッ!!と家具諸々薙ぎ倒すトルネード。シェフ達は総倒れ、使用人も総倒れ。唯一見える範囲で立っていられた人間は、顔色が真っ青で白くなりはじめたシエラだけ。耳をすませば、届くは細い呻き声とどこかで慌てるスライムの音。


 まとめると、アシュリー領邸が機能停止、同時に外部からも不干渉状態。

 もしかしたら範囲はもっと広いかもしれない。

 つまり、異常事態。


 お兄様たち、はやく帰ってきて。

 これ、私ひとりじゃリカバリーしきれない。



 ◇◆◇



「アストさん、ごきげんよ…いえ、斜めですね…ストレス限界ですか?」

『らっきょう漬けでも食べなければやってられん!!』


 言葉に魔力が宿り、グワッと衝撃波が頬を叩く。

 眉間に峡谷を刻み、眼光鋭く、口を引き結んで、たまに犬歯がギリギリと唸り、普段動かない表情筋がフル活動で凶悪に歪み、闇オーラバーゲンセールの魔王様。

 強まる圧力に倒れた使用人たちは痙攣してるし、シエラも崩れてセバスさんに支えられてるし、スイコさんとサハリさんは距離を取り臨戦態勢になってるし、ケロちゃんが風魔法を展開してガードしてくれてる中、私も大樹様のプロテクト魔法とお守りペンダントまでも反応してます。

 待って。我が家が異種族大戦の会場になっちゃうってば。


 臭いの強いモノに当たらねばならぬほどストレス塗れらしく、セバスさんが諦め気味に首を振ってます。…これは渡したらやけ食いする前兆ですね。はい。わかりました。

 魔王様モード全開なアストさんの視線をジャックしてる漬物類は仕込んだばかり。食べ頃まで待てません。別の物で段階的に削っていった方がベター。

 必要な情報を読み取り、分析し、脳内でぽちぽちとアプローチ方法(ボス戦攻略)を弾き出します。

 凶器化した魔王様の不機嫌がハリケーンの如く唸り、ケロちゃんがガードを強めてもペンダントの魔石からバチィッと囲うように火花が出ました。

 ほんと待って。現実のバトルシステムはターン制じゃないってば。


 これはもう奇襲しかない。にゃんポケから取り出すは、私の武器!

 そう、伝説の…! 


「てってれー♪ヴァルクお兄様命名『夜の御供は(ミッドナイト)凄腕の右手(スナイパー)』いちごピクルス!」

『ぬぅ?!』

「続いて、『どう見てもアレ(〇〇〇(自主規制))』極太長芋のぬるぬるわさび醤油漬け!」

『…シャル、なんてモノを持ってやがる…!』

「究極合…「「「お嬢様、ヤメテーーー!!」」」…ふぇぇ?」


 何故か男性使用人達が悲鳴を上げました。…あ。ベースの味付けが別系統で混ぜたら微妙か。


「ならば、無限地獄★ニンニクとキャベツのラー油漬!らっきょうとは違うピリ辛パンチ!」

『クッ…!!』

「オーッホッホッホッ!アストさん、威圧ひっこめないと全部食べちゃいますよ!どうします?!」

『ぐぬぅぅ…! …ならば、今漬けてるモノは後でもらおう。すぐ食べられる物はあるか?」

「私一人では準備が間に合いません。シェフ達を起こしたいです。アストさん、食べたいなら空気を和らげて~」

「む?そうか。」

「もっともっと~」

「ぬぅ…手加減が難しい…シャル、このくらいではダメか?」

「だめでーす。はい、がんばってー」


 アストさんの凄みが緩和され、使用人達を起こしてると、屋敷の異変にヴァルクお兄様が駆け込んで来て、「遅かった…!」と嘆き……お兄様、惨状に嘆いてるんですよね?アストさんの暴風圧体験できなかったことじゃないですよね?ちょっとぉ、目を逸らさないでくださいよぉ。

 震源地となるアストさんから一番近く、あたる時間も長かったシエラは、容体がなかなか治らず落ち着きません。スライムを探しに行こうとしたらセバスさんに留められました。


「お嬢様、スライムは私が呼んでおきましょう。」

「セバスさん。いいんですか?」

「先に原因(魔王の垂れ流し)を納めてください。元の木阿弥になるので。」


 呆れ顔なセバスさんの指摘で周囲を伺えば、再び漏れた圧を慌てて引っ込めようと悪戦苦闘するアストさんと、喜んでるお兄様に、「なんという試練…!」と痙攣しながら感動してる使用人たち…

 そんな人族たちの、所謂『一般的』や『普通』とはかけ離れた不思議な行動を、戸惑いと笑みで眺めてるのはスイコさんとサハリさん。

 我が家の性癖を正しく理解いただけた様子。


 良い面も、そうでもない面も。


 ◇


 漬物の他に野菜スティックにもろみ味噌や味噌マヨを皿に盛り、てこてこと食堂室へ移動すれば、そこには、投げ縄化した黒スライムにローピングされ、重石化した緑スライムに乗られて捕獲された、ばったんばったんもがく梅干し強盗(未遂?)のオックスさんが。無事だったのでしょうギル爺様と顔色の悪いメイド達が、遠巻きに観察してます。

 スライムが頑張って止めてくれてたのね。お礼ににゃんポケから、おやつ用に作った…


「あった。てってれー♪ドライバ…」

「!」

「なぁあ?!」


 『ド』の字でオックスさんの頭が起き上がり、『ラ』でスライムを振り払って起き上がり、『イ』で闘牛の如く突っ込んできました。『バナナ』の文字に至る頃、つまり気づいたら私はアストさんに抱きあげられ、突っ込んできたオックスさんの顔面に長い右足が減り込みます。見事に、正面から、めきょっと。


「オックス。行儀悪いぞ。食堂室は遊戯室ではない。」

「……ぅん、あそぶとこちがぅ…」


 ゆっくりと足から離れ、静かに傾ぎ、ズドンと倒れてくオックスさんの足型顔面惨状に、どれほどスピードがあったかと血の気が引きます。でもその勢いで来られると無事じゃないから同情もできない。

 まったく。先ほど厨房付近で別の意味で荒らしたアストさんだって、一体どの面下げて…

 …険と憂いを帯びた壮絶な美貌(顔面兵器)でした!久々の近距離無差別攻撃。陰りがあっても本日も大変麗しゅう。畜生。ふにゅぅ…


 そんなこととは露知らず、アストさんはぷるぷる完敗してる私を抱えたまま、いつも通り涼し気スタスタとテーブルに向かい、さっさと席に就き、テーブルに用意した漬物たちにもう夢中。

 肩越しにオックスさんの様子をちらっと覗けば、緑と黒の抑え込みに反発中。黄と青も援軍に駆け付けたけど、スライム達が劣勢。むぅ。

 白と赤がいないってことは、シエラ治療中かな?キョロキョロと目的の人物を探すけど見当たらない。


「あの…セバスさん?います?」

「はい。なんでしょう?お嬢様。」


 試しに小声で呼んでみれば、隣にすっと現れましたは、オックスさんの様子に顔を顰めたハイスペック執事。うん。食堂室が少々賑やかですよねぇ~


「おやつ用だから量はないですが…どうです?」

「受け取りましょう。」


 ドライバナナにロックオンしてる涎が出そうなオックスさん躾係が、オックスさんにロックオンしている悪い笑みのセバスさんへ交代。スライム達に干し芋の瓶をあげれば、ぴょんぴょんはしゃぎながら誰かさんの前で見せつけてました。



 ◇



 躾と言えば。


「味噌の付け過ぎは禁止ですぅ~!」

「ぐぬぅぅ!シャルがいじわるだ!」


 私の反撃です★

 持ってきたカットきゅうりを手にしたアストさんは、勢いでもろみ味噌を山盛にしようとしたので、膝の上で陣取って皿ごと没収!何と言おうと返してやんない。


「凄んでもだめですぅ~!勝手に取ったら全没収しますからね!」

「もろきゅーもか?!」

「もろきゅーもです。ちゃんと味わって、美味しく食べましょう。はい。」


 没収した皿からきゅうりを摘み、必要分もろみ味噌を掬います。私の前でやけ食いはさせません。

 口元に持っていけばポリポリ咥えるので、適量掬っては運び掬っては運び。咀嚼する顔を伺えば、眉間に入った皺が取れ、満足していただけた様子。よかった。世界の平和は保たれた。

 私ももろきゅー実食。ぱくり。ぽりぽり。セロリに味噌マヨつけてアストさんへ。ぱくり。ぽりぽり。


「…ねぇねぇ、あそこでシャルちゃんと話してるのって魔王様じゃない?」

「うむ…人族の少女が魔王の凄みを無視して普通に説教してたな。」

「膝の上で。」

「膝の上で。」


 味噌マヨも終わって不貞腐れてるアストさんが、抱っこした私の頭頂部に顎でグリグリと抗議してきます。私のかわいいツインテが乱れるではないか。シエラがお休み中だから直すにもドリルが言うこと聞かないんですよ?!


「シャル。もっと食べたい。もっと寄越せ。」

「でも、夕飯入らなくなっちゃいますよ?」

「全然足りない。ちゃんと食後に運動もするぞ?」


 魔王様の運動ってどんなん…?と思いつつ、いい加減、後頭部で「おかわり」とグリグリ催促が面倒になり、にゃんポケから妖精のお米で作っためんつゆ味付特別版冷おにぎり(小)を出します。あ。そわそわしだした。


「シャル、何だそれは?」

「残り少ない妖精種米の『焼きおにぎり』です。醤油や味噌ダレで焼くと、鼻がひくひく~ってなる香ばしくてたまらない逸品。

 …自分で焼こうとしても無駄ですよ?魔族の火魔法では強すぎて炭化しますからね!」

「ぐぬぅ!シャルがいじわるだ!」

「オーッホッホッホッ!凄んでもだめですぅ~!」


 私は、魔族には筋力も魔力も当然及ばず、火魔法の使える人族でも激弱なヒヨッコですが、ヒヨッコにはヒヨッコならではのやり方があります。

 そう。魔族は焦がしすぎない焼きおにぎり作りは大の苦手。成功したのはケロちゃんと赤スライムだけ。しかもお手本を横に、我慢して我慢して我慢してじわじわ火魔法を絞った数回のみ。普段の火魔法よりよっぽど疲労困憊で、味噌ダレ版は残念ながら燃えました。辛抱と集中力の練習になったね。

 ふわっと浮かせてぽっぽっぽっと火魔法(弱)で、おにぎりに焼き目を入れます。全方向包囲!


「風と火魔法の同時使用か。確かにあの出力は魔族には難しいな。羨んでおる。」

「人族の多属性魔法ってもっと貴重なイメージだったけど、手料理に使うのね…」

「…本当に魔王様か?」

「…本当に人族なの?」


 じゅぅぅと醤油の香りと音が世界を魅了すれば、アストさんが好奇心に駆られてうずうずします。フフフ。チーズ入り白米おにぎりとごま入り甘味噌ダレも用意しておくか。


「中はもちもち外カリッ♪ 応用して豆腐田楽も食べたいけど、豆腐が入手できないんですよ。生麩なら作れるかなぁ…」

「シャル、何だそれは! …おまじないも忘れずにな。」

「はぁい。こげこげじゅっじゅっこげじゅっじゅー♪おいしくなぁれ~♪」

「うまい。おかわり。」

「ちゃんと噛むのー!味わってー!」


「…すごい微妙な音程… あ。シャルちゃんの指ごと舐めた。」

「米粒一つたりとも無駄にはしない。ふむ。妖精魔法の類か?」

「それにしても、手づから食べるなんて…」

「我が種族なら求愛行動だぞ…」



 ◇



 カチコチと時計の針が廻る。

 アストさんの小腹を満たし、ガス抜きさせ、落ち着いたでしょうか。スイコさんとサハリさんも一服されて、空気が和んだ落ち着いた午後の部屋。まどろみにあくびが出そう。ふわわぁ

 …でも先程から揃いも揃って皆が不思議そうな顔をしてるのは気のせい?


 サハリさんもアストさんも、身体が大きい分、夕飯足りるかな?お酒やおつまみの用意もいるかな?帰宅後のイリオスお兄様たち分も含めて、準備しておいた方がいいかな?

 でもなー、お米はもう少ないしなー。夜食というと魔の暴食・ラーメン…チャルメラ特訓時点で実現できそうな未来が遠いなぁー…


 そんなことをつらつら考えつつ、控えていたシエラが淹れてくれたお茶をこくりと飲みます。うん。美味しいハーブティー。ほっこりとお母様の味…ん?


 顔を上げて給仕する姿を見ます。

 茶髪に茶目でおちゃめなにっこり笑顔のシエラさん。

 魔王様の暴風圧から無事復活し…ん?光が屈折してる?

 こしこし目を擦って、じぃっと精察する。



 みみのかたち ちがう。



「………エルンストおにーさま?」

「あたり。47分23秒。意外とバレないものだね。」

「あー!俺の負けか!」

「ふぉっふぉっふぉっ…ヴァルク。残念だったね。」


 悔しがるヴァルクお兄様にクスクスと笑いだしたのは、部屋に控えていたギル爺様。…ん?部屋に控えていた?庭じゃなくて?あれ?声が?


「…イリオス…にぃ…しゃま…?」

「シャル。久しぶり。家の中だからって気を抜きすぎだよ?」


 べりっと特殊メイクかな?ギル爺様のマスクを外したり、シエラ姿の魔道具を解除した、久しい兄たちの顔が見えます。

 むぅー?と、ごしごしと目を擦るも、しょぼしょぼする?ぼんやり?眠い?さっき何飲んだ…?


 お母様(薬マニア)のハーブティー…


 あ。(察し)


「口に含んでようやくか… うわー…なんて報告しよう…」

「まぁ、今日は頑張ってたからね。休んでいいよ。」

「イリオス兄さんが優しい…良かったね、シャル。遊ぶのはまた明日。」

「むにゅぅ…」


 兄たちの掌が順番に頭を撫でて、くわぁとあくびが出て、あっけなく眠りに落ちました。

 おやすみぃ。




 →つづく

シャルさんの焼きおにぎりチャレンジ。


→おにぎりを持った!

→米粒が指に付いた!

→米粒ぺろり。

→米粒が指に付いた!

→米粒ぺろり。


→Bad End?(ゆでだこ悪役令嬢)

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