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9通目裏7 毒茸ノームは欲を抱く

アマナちゃん視点。

どうでもよくて、どうでもよくない、やってることはしょーもない話。

 妖精女王(ティターニア)様から命を受けて、人族界に遊びに来て数か月。

 友達??らしき人族少年の領地に米があると知った人族少女は、歓喜に震えていた。


「これで!(my)ドリームが…!」


 早々に彼女の兄が作った紙飛行機という魔道具で喜び勇んで行き、お土産に貰ったという米袋をうきうきわくわくと見せてくれたところ。

 米袋に入っていたのは()()()米粒。


「…炒飯に最適!!」


 部屋の真ん中でorzなポーズをとってる人族少女に「目算が甘いお嬢様もかわいい!」と喜び悶える侍女。

 今日も人族界は平和みたい。



 ◆◇◇



「異世界転生や転移物語って皆チートホイホイしてるけど、考えてみたら、見つけた草が米の原種でも、求めてる種類とは限らないよねぇ…」

「シャルはお米が欲しかったんじゃないの?」

「アマナちゃん。これはこれでいいんだよぉ~ ただ、私が想定してたのは横幅があるお米だったの。」


 どうやらシャルが調べたお米と今回手に入れられたお米の品種が違ってたらしい。元々味噌づくりの麹菌を作る目的だったけど、それとは別にお米の料理も食べたかった様子。

 いくつか料理名を知ってるようで、どれだけ美味しいかを執着心の塊のように「品種改良なんて素人にはハードルが天空にある…」と喘いでいる。聞いてるだけでおなかがすくなぁ。


「炊きあがりは白くつやつや。ふっくらほこほこ。食べた時にもちっとした歯ごたえ。噛んでると次第に出てくる甘さ。」

「ふんふん。炊きあがりでもちっと感ね。そのお米があれば、『やきおにぎり』というのは食べられる?」

「味噌と醤油があればできるよー?作り方は難しくないから、私でも握れるよ。」


 えっへんと胸を逸らせたシャルのおなかがきゅるると鳴る。私のおなかもちょっと切ない。

 むぅ。仕方ない。


 シャルからお米を数粒ずつ貰い封筒に入れ、メモを書いてふっと息をかければ、エルフをはじめ妖精界のいくつかの宛先へ送る。半刻も経たずに、「親戚に知り合い有」から「麹菌培養中」で「大豆スタンバイ」と返事がきた。仕込みはこれで大丈夫。

 人族界と妖精界では時間の流れが全く異なるから、こちらの一日があちらの一時間だったり、あちらの一年がこちらの一分だったりする。あべこべで面白い。


「醤油や味噌のあまじょっぱさと、焼いたときの香ばしさ…あああ…!」

「うんうん。シャルー、そろそろ熟成のお祈りにいくよー」

「…はぁーい」


 私より体の大きい人族なのにしょんぼりしてる姿が、小っちゃくて幼くてかわいい。

 べそべそするシャルに「泣かない泣かない。」「泣いてないもん。汗だもん。」と阿呆なやりとりをしながら、私はその手を引いて、大樹様の森へ向かった。



 ◆



「シノブ~、準備できたー?」

「おっけーです!アマナちゃん、音楽お願いしまーす!」


 大樹様の森では、シノブをはじめとするノーム協力隊が集合していた。

 今回は培養や熟成という植物等を育成する土属性で、妖精魔法の手段のひとつが、音楽と踊り…自然界のエネルギーである魔素に働きかける『祈り』なのだ。


 単純にどうせやるなら楽しい方がいいから歌って踊ってるだけなのに、初めて見たシャルは「音痴でも妖精魔法できるんかな…」と絶望的な顔をしていた。

 私としては、シャルの最後の音は必ず迷う調子っぱずれの音程や時々謎の拍を取る歌い方は、味があって嫌いじゃないよ。聴いてられないけど。


 今日も味噌樽醤油樽、エルフが持ってきた酒樽の周りにノーム達が輪になって並んで、「ふえろーふえろー」と祈りながらくるくる回る。

 音楽を奏で、歌って、踊って、キラキラと舞う妖精魔法の欠片が樽の中に入り込み、祈りの効果で熟成が進む。匙加減はエルフが色々試してデータを取ってるので、それに合わせる。


 シャルも妖精魔法(土魔法)を体で覚えさせるために一緒になって踊らせたところ、初回で魔力切れで倒れ、回復魔法かけて大樹様の洞に放り込んだ。(大樹様の実を食べてるから、人族界よりも早く治る)

 そんなへばりまくりのシャルから、聞きなれない単語が出てきた。


「輪になって踊る… ねぇねぇ、アマナちゃん、妖精族ではフォークダンスってあるの?」

「ふぉーくだんす?」


 人族の食器を担ぐ舞踊はない。

 どんな踊りかと聞けば、「ぱっぱっぱらら~ぱっぱっぱらら~♪ぱっぱっぱらら~ぱっぱっぱ~♪」と相変わらず調子っぱずれな音程を口ずさみながら、簡単なステップを教えてくれた。

 なんでも多くの人が輪になって踊るらしく、ペアになったり、交代したりするものもあるらしい。


 でも流石に音痴を他のノーム達に披露しまくるのはノイローゼになりそうだったので(妖精族は音楽と舞踏のクオリティにめちゃくちゃ煩いのだ!)、元の音程から修正したメロディを書きつける。

 封筒に入れて、ふっと音楽友達の元へ送れば、間もなくあちこちから妖精の扉が現れて、楽器を抱えた仲間の妖精族が「ヤッホー!遊びにきたよー!」と集まってきた。


 わらわらと増えたノームを中心とした妖精族に囲まれて、「あなたが人族の子なの?」「ティターニア様の印もらってるのね。」「白蛇様の印もあるのね。」「遊んであげるわ。」「だから歌わせなさい。」「躍らせなさい。」とわぁわぁ盛り上がられて、輪の中心にいるシャルはくるくる翻弄されている。


「はい。今からシャルから『ふぉーくだんす』なるものを教わります。

 私の所に音楽部隊、シノブの所に舞踊部隊で、分かれて集まってくださーい。」


 ティターニア様からの祝福を受けてるから害意がある者は近づけないけど、音楽と舞踊の集団熱視線にたじろいでるので、パンパンと手を叩き、音楽部隊と舞踊部隊で私とシノブで仕切ることにした。


「そうそう、シャル。言い忘れてたけど、踊りが絡んだシノブは性格が豹変…」


行商人(某ブロック落ゲー音楽)は、えーと、たんたかたんたか たんたかたんたか…♪」

「ポジションが甘いんじゃー!!恥ずかしがってんじゃねー!!」

「ひぃぃぃ!!」


「うぅ…ケーキこねこね(パティケークポルカ)はスザ〇ナさんの曲?だった?…えーと、たららったったーら らったったーら たったらーたた~♪?」

「右踵右踵、右ステップステップステップ、左踵左踵、左ステップステップステップ…クラップ(手を叩く)は右手からなの?左手からなの?どっちなの?!」

「向かい合わせだったからえぇーっと…ひぃぃぃぃ!!」


「…遅かった…」


 切り株の上に立ったシノブが般若のような顔で檄を飛ばす姿に、「シノブちゃんが鬼軍曹でご乱心…!」と怯えるシャルがいた。

 妖精魔法の直接攻撃でない限り大丈夫…


「うわあああん!!」

「あははは!愚かな少女よ!叫べ叫べぇ~~!!」


 …かな?



 ◆◆



 味噌等の熟成するために、次第に増える妖精族が各種お祈りという歌と踊りをしていたところ、案の定「音楽の方向性が合わない」や「プレイスタイルの相違」があって、いくつかの妖精族でチームごと分かれて施すこととなった。

 シャルが「どこのバンドマン…?!」「マーチングもありえる…?」と呟き、聞きつけた妖精族から「それなぁに?」「教えて教えて~」「歌わせなさい!」「躍らせなさい!」と包囲再び。


 そんな風にたくさんの妖精族と一緒になって歌って踊って、3回に1回くらいヘバって大樹様の洞に放り込まれて、繰り返すうちにシャルも妖精魔法が上達し、妖精魔法の魔力片が捉えられるようになって。

 季節がいくつか変わる頃、ようやく、エルフたちの研究結果の配合レシピが出来上がった。


「ふおお!流石ファンタジー!味噌だぁ醤油だぁー!!」

「シャル、落ち着いて。色んなチームでやったから、味噌も醤油も種類が多いよ?米も麦も合わせも熟成期間も多岐に渡るよ?」

「おおお!もろみに金山寺にたまり醤油…!お米が欲しい!!短粒種!ジャポニカ米!」

「あるよ?」

「へ?」


 音楽テイストでライバル関係なタケノコ妖精族に話が行き、そこから楽器仲間のカカオに行き、ジャズコーラスメンバーのマカドミアとアーモンドに行き、ミキサー担当なミルクを経由して、ギターのオカズが得意ないちごと仲良しで…と、専門家でもある米の妖精族まで話が通って、比較的早い段階で実った米粒と苗を持ってきてくれていた。

 ついでで参加していた妖精族からも、人族が好みそうな農作物の種や苗探しゲームをしたら、思いのほか集まったり。それに「ふおおお!!」と感動しているシャル。


 イタズラ心が芽生えた。


『ねぇ…シャル。大豆も稲も作付けしてみる?ノーム達いっぱいいるし、他の植物もできるよ?

 そしたら、アシュリー領はあっという間に豊作になるよ?贅沢いっぱいできるよ?』


 リフレクションが発動しない程度の妖精魔法(誘惑)を纏った声で、人族にとってとても魅力的な提案をする。普通の人族なら確実に誘惑されるレベルで、隙の多いシャルは余計にかかりやすいだろう。

 だから、即食いついてくると思ったら、「うーん、やめとく」と断ってきたことに、正直驚いた。


「アマナちゃん達が手伝ってくれるのは、凄くすごーく助かるの。本当は喉から手が出るほど欲しい。」

『…だったら「やれ」って言えばいいじゃない?ねぇ、簡単だよ?』

「そうなんだけどねぇ…妖精魔法で育てた苗も植物も、質が良すぎて、人族界だと目立つと思うの。

 人間って一度味わった美味しいモノや便利なモノへの欲に弱いから、自力で再現できない限り、要因となる妖精族のことはどこかできっと突き止められる。そこから妖精探しなんて起きたらシャレにならないもの。」


 照れながら「偉そうに言ってるけど、私だってかなりよくばりだしね!」とへにゃりと笑う。



 いつもぽややんとしてるくせに、勝手な妖精族に攫われたことがあるくせに、魔王に抱き着いて泣きまくる程の怯えたくせに、人族にも魔族にも妖精族にも他の種族にも一生監視されるって知ってるくせに。


「私はアマナちゃんたち(ともだち)を危険に晒せないよ。」


 お間抜けなシャルのくせに。



 ◆◆◆



 ティターニア様の言葉が思い出された。


 人族界へ派遣開始直後から、定期的に人族界の様子やシャルのことを報告している。

 シャルの魔法が暴発した等危険がある場合、ティターニア様の祝福が牢になるということも、味噌作りも協力体制を適当にやってさっさと撤収しても構わないとも言われていた。


「毒で排除してもいいのですか?」

「妖精魔法ではリフレクションが発動するからな。お主のキノコ毒性で自然摂理に則ったやり方なら構わぬ。 まぁ、そうなることはあるまいよ。念のための話じゃ。気を楽にして遊んでこい。」

「…そこまで人族を信じていいのでしょうか…?」


 妖精族が人族に姿を現さないのはいくつか理由がある。その一つが妖精魔法を狙った『妖精狩』であり、長い歴史の中、場面は異なれど、どこかでそういった事件は起きていた。

 勿論、妖精族の『取り換え子』『連れ去り』『イタズラ』もあるため、一概に人族が悪いとは言い切れない。だからこそ適切な距離を取ること、無暗に相手を刺激しないことが大事で、妖精族は『姿を見せない』という手段を選択した。


「アマナ。アレはお主に命令してきたか?理不尽な要求や暴力に走ったか?」

「いえ…」

「欲は深いが許容範囲の線引きはしている。甘えはしても搾取はしない。その基準はお主たちとのコミュニケーションで立ち位置を確認している。」


 そういえば、妖精の布も染料も縫製も、兄夫婦の挙式時一度限りでそれ以上は欲してこない。その布も、私たち妖精族の同胞のために使われた。

 高位貴族なら、欲深き人族なら、きっと弱い妖精族でも捕まえ質にして、多くの要求をしてくるだろう。


 高位魔族にも、魔力制御は習えど、彼女らの力を己のもののように扱うことはない。

 例外とするなら、護衛犬で子守犬のケルベロスくらいだが、いつも補助に留まり、基本は自力で向き合っている。

 周りの人族を巻き込んでも、自分が与えられる範囲を見極め、礼を返せるモノまで。


 あぁ。そっか。


「アマナ。己の眼でよく見て判断せよ。妾はお主の意思を尊重するぞ。」


 目元を緩ませたティターニア様は、「申請と報告だけは忘れるでないぞー」と言うと、後は好きにしていいと再び人族界へ私を置いた。



 ◇◆◇



 シャルは基本的にできることが少ない。

 全属性魔法保有も、魔力量は少ないし、成長核は破損してるし、制御力だって高位魔族と妖精族が教えて一年がかりでようやく形になってきたくらい。体力はないし、すぐバテるし、初めて妖精魔法使っただけでも熱を出す。毒キノコの毒がなくても、季節の変わり目だけでも体調を崩す。

 なんて脆弱な。


「はい。抜き打ちテスト。さっき私が妖精魔法を施したのはどこでしょーか?」

「えーっとうーんと……目に魔力が入ってた?」

「ぶっぶー。ざんねーん。 ヴァルから『テスト失敗。補習内容は土魔法』だそうでーす。」

「ぴやぁぁぁ」


 予め彼女の兄から預かった補習通知書を渡せば、嘆きながら土魔法の練習を始める。彼女の母親が持つ薬草園で、新しい区画を条件に沿って自力で整えるまでが課題らしい。



 時に泣いて凹んで、時にへにゃりと笑って。キラキラ輝く世界に喜んで。

 欲は深く、野望は浅く、求める範囲は自分の手で掴めそうなところまで。

 危なっかしいところはあるけど、自力で立とうとする。


「ふふふ。好きにしていいって言ったし。」


 ティターニア様に事前申請して、シャルの家族にきちんと相談と報告すれば、私たちがちょっぴり勝手なことをしても、まぁ許してくれる。


「ちょっとだけイジってもいいよね?」


 だから味噌作りが終わっても、しばらく人族界で遊ぶことに決めた。




 ◇◇◆




「アマナちゃん…」

「なぁにー?」

「お母様の温室…というかあちこちの薬草園に妖精の扉ができてるのは気のせい?」

シャルママ(侯爵夫人)に遊んでいいよって許可もらったからねー」

「アマナちゃん!ずるいです!私もあそびたいー!」


 あちらこちらに、許される範囲でこっそり『妖精界の畑と繋がってる扉』を付けて、許される範囲でこっそり『妖精族としては問題外だけど、人族としてはまあ良質な農産物の種』を、うっかり『シャルの畑に種を落とす』アクシデントがおきちゃってもいいよね?

 妖精族が手を出さない状態で、実際に人族界に根付くか、育つかもわからないし。


 後日。


「おぉう…」


 開墾した薬草園の端っこでシャルが土魔法を練習したところ、土に混ざっていたのであろう妖精族のカブが反応して巨大化し、「うんとこ…は版権に引っ掛かりそうな呪文だから、よっこいしょー!」と自力で引き抜こうと引き抜けないで、すっころぶ姿を愛でた。(最終的には緑スライムのアシストを得て土魔法で掘り起こした)


「次は巨大大豆の木?…ん?大豆って木? あぁでも、熟す前に枝豆がほしい!」

「じゃ、成長コントロールの特訓ね。シノブ軍曹、よろしく。」

「ひひひ!踊れ踊れぇ~~!!」

「あぁぁぁ!!」

「ノームに扱かれてるお嬢様もかわいい!」



 ティターニア様から「肉じゃがコロッケといももちうまし。次はぱりぱり枝豆チーズ焼きも楽しみにしてる」と連絡が来た。


テンプレなら妖精族は主人公に味方の100%ピュアっ子なんでしょうが、どうもテンプレから外れてるので、仲間かもしれないけど罠にハメるしピュアでもありません。


アップテンポのパティケークポルカはめっちゃ楽しそうで、ノーム(ちびっこ)に躍らせたくて書い…げふんげふん。

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