3通目 こんにゃくはいきは突然に。
ひらがなカタカナ語が多くて読みづらいと思われます。
あなたの忍耐力が試されています。
暗号解読の仲間だと思えば、さほど困難ではないはずです。たぶん。
Q 俺様系地雷属性の婚約者候補者が現れた!どうする?
「シャルロット。こちらが第二王子殿下だよ。ご挨拶なさい。」
A ボコス。
◇◇◇
拝啓 親愛なるお姉様。
花の盛りが過ぎて、新緑の若葉が目に美しい季節となりました。
お姉様におかれては、肉と酒とアイスのBBQ祭を楽しまれてることと思います。
不肖の妹は3歳で異世界転生し、金髪縦ロールにオリーブグリーンなつり目の悪役令嬢風な美幼女様、こと、シャルロット・アシュリー侯爵令嬢に転職しました。ぱちぱち☆
アシュリー家の両親と年の離れた兄3人に、時に『地味にネチっとした過激でスパルタな幼児教育』を施され、時に『元気よく思う存分な遊び』をしてもらい、すくすく育って5歳。
大きいふかふかのソッファ~でうたた寝しちゃうことはありますが、大きいふかふかのベ~ッドでぴょんぴょんトランポリンごっこは卒業しましたよ。家族と使用人にも見られたから!恥。
そんな私を、家族を含めた屋敷の者一同は、全力で愛でてくれます。愛玩ポジ。
でも飴と鞭じゃなくて、雨と鞭というか、嵐と鞭というか。ぶるぶる。
余談ですが、この世界のとある国では「アシュリー」は女性名で使われることもあり、「シャルロット・アシュリー」は、『名前・名前』みたいな面白い語呂だそうです。
生前のお笑い芸人コンビとかでいそうですね。タナカスズキとかカトウサトウとか。
一人前の悪役令嬢風魔女っ娘を目指し、今日も今日とて頑張ります。
◇◆◇
「おはつにお目にかかります。アシュリー家長女のシャルロットでございます。」
スカートを両手でちょんとつまみ、腰を落として頭を下げる。戻して、にっこり笑顔。
いつもと変わらぬ日がそうでもない日になったのは、父たる侯爵様が「ちょっとお出かけしようね」と話してきた朝食時。
フリルのかわいいお澄まし仕様の服装にされ、侍女と護衛とともに連れ出されたのが朝。
大きくて立派な馬車に乗り、大きくて整った道を通り、大きくて堅牢な跳ね橋を渡って、大きくて豪華な城に入り、大きくて豪華でお子様は入ってはいけませんよ感満載の部屋に連れてこられたのが今。
途中で侍女のシエラがいつの間にかいなくなりました。どこいった?
目の前にムスっとした同い年くらいのボウヤと、威厳のあるおじさま(王様?)と、にこにこしたおば…ぐっ、視線が怖い…お、おねえさま(王妃様?)と、爽やかそうなおにいさま(第一王子様?)が座って、その後ろに眼鏡をかけた少し顔色悪い細面のおじさま(宰相様?)が立ってらっしゃいます。
侯爵であるお父様は大臣等、わかりやすく偉い位は任されてませんが、外交をはじめ、文官と武官に顔が広いお仕事をされているようです。
「お父さまは、がいむだいじんさまのおしごとをされてるのですか?」
「あんなつまらない仕事はやりたくないね」
にっこり笑って仰った声が未だに残ります。声こっわー
曰く、大臣位の打診が幾度かあるらしいですが、「いつでも下から突き上げて追い落とせる実力をチラ見せして、背後からニヤニヤと圧迫して、上司が青い顔になってるのを見るのが好き」というどうしようもない理由で辞退してるそうです。
私としては、そんな責任感より遊び心を優先するサドがトップになったら、部下の心と胆力を弄ぶ阿鼻叫喚図になると思うので、そっと「そうですか」と呑みこみました。
世の中、知らないことがあるのもしあわせなのです。清濁あわせ呑むのも大事なことと学びました。
そして眼鏡の細面のおじさまが顔色が悪い理由もなんとなく察しました。
◇
「おまえみたいなブサイクとこんやくなどするもんか!!」
カッツィーーン
口を開いたものの全く挨拶もせずに、初対面にいきなりの暴言を吐いてる第二王子。金髪碧眼のキラキラしい俺様王子様ですが、私からすれば小さいボウヤが偉ぶってるようにしか見えません。えぇ…もちろん。
しかし、お父様や威厳のあるおじさま(王様と仮定)の手前、言われっぱなし貶されっぱなしなんて、そんな失態を見逃す訳にもいきませんよね?特にお父様の笑顔。ぶるぶる。
王妃様?は扇を広げてにこやかにはしてますが、目が笑ってません。お母様と同じタイプかも。
ここまでくれば、阿呆な私でもわかりますよ。
大広間でお偉い人達がいる。動向を見守りつつ、ジャッジしている。
つまり、ここは『面接試験』の場!
「へいか。はつ言のきょかをいただいてもよろしいでしょうか?」
ちょんと頭を下げて、最高権力者っぽい威厳のあるおじさまに伺います。
おじさまが「かまわぬ」と鷹揚に肯いたので、どこまで言っていいかなー?と思案しつつ、隣に座るお父様をチラ見して、にっこり人も食わぬ笑みを浮かべていることを確認します。多少の不敬でも大丈夫な顔ですね。
宰相様の顔色が一段と悪くなりましたが、ごめんなさい。知りません。
シャル、いっきまーす★
「おそれながらもうしあげます。わたくしも げんじてんでこんやくは、ごえんりょねがいます。」
虚勢を張ったせいで、フンス!と若干鼻息が出てしまいました。再びチラ見したお父様もまだ大丈夫そうな笑顔だから、まだイけるヤれる。
「それはいかに?」と、私の言葉を聞いた王様(確定)から、発言の意図を聞かれました。
ちなみに王妃様は扇を広げてにこにこしてます。笑う目は、面白いおもちゃを見つけた!って感じがします。お母様ぁ~お仲間さんですよぉ~
「まず、せいじてきな理由から、こんやくを結ぼうとされたと かんがえられます。
しかし、せいじん前後の社会じょうせいや、本人らのししつをみきわめず、この年れいで けっていするには、じきしょうそうです。
それは、たんに家どうしの結びつきを強めるためだけでは、こんやくがもたらすメリットが 小さすぎるとかんじたからです。
いく人かのこんやくしゃこうほをあつめ、きょう育をほどこし、そのきかん中に 王子でんかとのあいしょうをたしかめ、その上で、こんやくを結ぶべきです。
そのとき、いっしょに そっきんこうほもふくめておけば、共に育つ中で えるモノがあるはずです。
たとえ、せんこうからもれたとしても、王家が目をかけてくれたとなれば、それらはしょうらい、国の力となるでしょう。
たくさんのかのうせいを用いし、チャンスをあたえ、ぎん味した上で、さいぜんをおえらびください。それからでもおそくはないとおもいます。」
こんな長文しゃべったので息切れしそうです。カタカナひらがな語から、漢字も混ざるようになりました。
生意気にも一丁前に意見を述べると、王様は「ふむ」と笑い飛ばすこともなく考えてる様子。
せっかく英才教育するんだったら、側近候補もまとめてすれば、婚約者候補の令嬢と仲間意識ができるし、国の発展のための「なにか」を生み出すエネルギーの源になるはず。
決して暴言王子の子守りが嫌だったからではありませんよ。メンドクサ、いえ、ホホホ~
次は、私が『なんだか難しそうな言葉』を言ってるのを、ぽかんとした顔で見ている暴言王子に向きます。
カモンベイベー!
今日のシャルのお口は、メガファイアー★
「そもそも、王家、こうしゃく家にかぎらず、貴ぞくの家に生まれただけでは、人としてみじゅく!
目ひょうを持ち、努力し、せいかを出してこそ一人まえ。
それがたみのため、国のしあわせとなるものをやりとげてこそ、とうとばれるのです。
上に立つもののぎむであり、できなければただの『おかざり』か『おにもつ』か『ごくつぶし』。
えらいのは父であり、母であり、みゃくみゃくと続いたそせんのなした結果。
少なくとも、私のような小むすめを、今ひょうかするには、はんだんざいりょうが足りませんわ!」
「だい二王子さまは、きっとなにか すんっっごいことを すでにやってのけてるのでしょうね? でなければ、しょたいめんにそのたいどはいただけませんわ~オホホー」
とついでに付け加えてしまったのは、畏れ多くも独断場のスポットライトを浴びて、調子に乗ってしまったためです。悪役令嬢っぽくない?ねぇねぇ。
こんな小娘の演説なんぞ聞き流すかと思いましたが、「なるほどわかった」と一考の価値があると判じた様子。今代の王はなかなかよろしい。
王妃様は私の発言には、『何この子、おもしろ~い』な目線をくださいましたが、その後癇癪を起した第二王子様に対しては、『めっちゃガッカリィー』な目をしてました。
同じように(?)『なんだか面白い子がいるなぁ』な雰囲気の第一王子様。宰相様は、私を見てほっとしたような顔でしたが、お父様を見て一層顔色が悪くなってました。御愁傷様です。
◇◆◇
そんな訳で、ありそうな『第二王子様婚約者の悪役令嬢』役は辞退しちゃいました★
婚約破棄ではありませんよ。未然だし。婚約廃棄とでも言いましょうか。私は『選ばれるべくして選ばれたかっこいい悪役令嬢』を目指してるので、別にいいのですよ。
でもチキンでもあります。
「やばいやばい!えらそうに言っちゃったけど、王家だよね?!ふけいよね?!首とんじゃうよね?!」
帰宅してから、ようやく脳が理解してガクブル怯えたり。まだふわふわな夢を見てる気でいたのか私…
更にお父様から「シャルロットは大きくなったら何になるのかな?一人前のレディはこれくらいできて当然だよね?」と、にやにやしながらスパルタ教育二年生verがはじまったり。
これまでは「これどうするもの?」や「なんでだと思う?」から、「これはA国とB国では、それぞれ何て表す?」や「この問題を解決するには何が必要で、どう使うべきだと思う?」といった、難易度を上げた課題を出されるように……四苦八苦しながらなんとかこなしております。
…すみません。盛りました。補習という課題と闘っております…
頭を抱えて「あああああ~~!」と悶える私を見て、「おまぬけさんなお嬢様もかわいい!」と悶えてるシエラさんは、今日も平常運転です。
乱筆乱文にて、悪役令嬢になりたくてかましてみたけれど、幕が上がったまま素に戻り恥辱に悶えてぐるぐるする姿が伝わったかと思います。
「うぅ、まにあわないぃ…ところでシエラ、王宮であなたはどこにいってたの?」
「それはヒミツでーす★」
「…お父さまにほうこくしてたわね。なにかあったの?おもしろいもの?」
「それもヒミツでーす★」
優秀な侍女のヒミツも気になる年頃ですが、それよりもにこにこ笑顔のお父様に慄きつつ、グレードアップした課題を這いつくばって返す私は今日も元気です。
末筆ですが、私に期待できない分まで、お姉様の益々のご活躍をご祈念申し上げます。
かしこ。
書いて一言。
イタイタしい…!(羞恥)