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9通目7 少年恋心×距離≒少女親愛×距離

陳謝。前話との落差が激しすぎてどうしようもない、さらっと流し読み回です。

 従魔法訓練開始後、体がびっくりして数日間ベッドの住人化し、ソファに座れるまでに更に時間がかかり、自力で外に出られるまでにまた時間を要しました。


「ヴァルはいいって言ったー」

「私たちもやりたいのです~」

「アマナちゃん、ソノブちゃん…その手にあるのは?」

「「蔓植物(触手)」」


 日光浴にケロちゃんたちと庭先へ出れば、フリスビー投げ(投擲)たりイタズラ(罠設置)したり(誰が一番捕れるか競争)、ぶり返してベッド戻りになれば、課題やったり報告書を読んだり(驚いたことにゴドウィル家のお二人は、妖精族と魔族の存在に気づいてなかった)


 寒気がすれば赤スライムが布団にもぐりこみ、熱が出れば青スライムがおでこに乗り、咳が出れば黄スライムが換気し、魘されれば緑スライムが枕になり、気力が弱れば白スライムに口に含まれ、お風呂入りたいと思う間もなく黒スライムに舐められ、透明スライムを持ちあげてベッドの上で筋力トレーニング。


 外部向けの情報通り、領地で療養生活。

 鈴蘭も微笑んでるのか、可憐に揺れてます。癒し。



 ◇◇◇



 騒動になってたニコラス様とアレクシア様は、アシュリー家とゴドウィル家で連絡が取れてヴァルクお兄様預かりとなり、ご滞在となりました。

 アレクシア様は賊との遭遇でショックを受けた後だし、ゆっくりされてもいいかと。

 では、突撃訪問しちゃった家出少年ニコラス様はというと、曰く『盗んだ馬で走りだしたい年頃だから、家に閉じ込めるのはかえってよくない』とのこと。あ、馬は盗んでません。モノの例えですよ。


 報告書をまとめますと。


主な材料

・ゴドウィル伯爵家は、前伯爵夫妻(アレクシア様の御両親)が早逝されたため、弟の現伯爵夫妻(ニコラス様の御両親)が後見に立ち、引き継ぐ。ただし、後継者一位にアレクシア様を指定。

・伯爵領は各種馬が名産で他にも魔獣も多く生息し、豊かな自然や鉱山を所有する土地柄。お二人は揉まれながら仲良く育つ。

・現伯爵夫妻の『アレックスもニッキーも大好き』症状が進行中(治らない)


変化要因

・今年、ニコラス様はノア様と同じ11歳。アレクシア様は12歳で、来年には学院に入る、そろそろ社交界の気配がする年齢に突入。

・成長期に入ったアレクシア様の容姿が評判となり、魅力的な領地と爵位もあって縁談が続出。


結果

・最近強引な縁談話(行動含む)が来て、現伯爵夫妻ブチギレ。アレクシア様ノイローゼ気味。アレクシア様大好きなニコラス様が衝動的に家出。


考察

・ニコラス様は『弟』から『男子』になりたいらしい。



「ケロちゃんケロちゃん」

「わぅ?」

「ちょっと甘酸っぱいかんじがするのは私だけ?」

「わふぅ~ん」


 初恋なニオイもぷんぷんします。ニシシ。


 ◇


 アレクシア様は私がソファに座れるようになった頃、挨拶に来て下さいました。


「この度は、ニコラスともどもご迷惑をおかけして申し訳ございません。」

「いえ。アレクシア様がご無事で何よりです。御身体の方は大丈夫ですか?」

「はい。実の所、記憶が曖昧でして…アシュリー家所縁の方に助けていただいたと。ありがとうございます。」

「色々ショックだったのでしょう。無理に思い出す必要もありませんよ。」


 実際問題、スカルさんの返り討ち光景(スプラッタ劇場)を見たら、私でもショックで倒れて魘されます。賊の襲撃事実さえ確認できれば、貴族家ということも考慮し、オブラートに包んで折りたたんでデコって、上手くコトを運びます。


 座っているアレクシア様の姿を改めて見ると、きゃぴっとしたニコラス様と顔立ちは似てますが、雰囲気は違います。

 優しい二重の眼に、ぷくりとした唇は小さく、鼻は高め。全体的にバランスが整った小顔。清楚かつ凛とした雰囲気で、馬術を嗜まれてるから体はぐっと引き締まり、一方で同世代に比べてお胸様も育ってます。うらやまぁ…


 経緯を聞けば、家出したニコラス様を追い掛けるため、急ぎ単騎で出られたそう。すぐ捕まえるつもりだったので身軽な男装で出たら、予想以上のぶっちぎり。


「まさか逃げ切られるとは思いませんでした…でもでも!私達の年頃で、ドレス姿で王都から駆けられるのはあの子位だと思いますの。」

「大人でもなかなか難しいですよ…凄い乗馬技術ですね。魔獣も乗りこなすとお聞きしました。」

「えぇ!ニッキーはすごいんです!」


 にこにこと嬉しそうに愛称で呼ぶ姿は、ニコラス様の想いが届いているかどうかは別として、本当に仲良しな家族の証。そして乗馬技術だけでなく、乗獣?技術も目を輝かせて話すアレクシア様。


「アレクシア様も乗られるんでしょう?」

「一通りは。中型以上の竜種や希少種魔獣は試したことがありませんが、憧れますわぁ~」

「希少種…スレイプニルとユニコーンならここの厩舎にいますよ?乗ってみます?」

「まぁ!是非!」


 ふーむと考え、家具の隙間に隠れてるスライム達や隣にいるケロちゃんをチラっと。ケロちゃんはずっと私に付いてて、外出も館周辺までだったし、そろそろ広い場所で遊ばせたい。

 小声で「サンドイッチ」と呟けば喜ぶ気配に、思わず笑みが浮かびます。


「今度ピクニックに行きましょう。」


 ヴァルクお兄様に相談し、()()()()()()()()、ピクニックに行くことにしました。



 ◇◇◇



「ぴーくにっくぴーくにっく♪ヤッフー?」

「ヤッフー?」


 暑さが和らぐ午前中。青空に流れる雲がさしかかり、茂る緑の影は薄い。

 草原を走り回る皆様は『子供の夏休み』ってかんじです。私だけバテて動けないけど。


 目的地に選んだのはアシュリー侯爵家所有の森と隣接した丘で、引率としてシエラ、ボークレイグ家の護衛さん、あとスライム達も一緒です。ヴァルクお兄様達はカントリーハウスで御用中。

 広々とした丘にある大きな木の下で、隠れていた透明スライムを抱えて休憩。夏場のひんやりスライムが気持ちい。他のスライム達はあちこちかくれんぼしてます。隠れ方が上手すぎて全然見つかる気がしない。

 ケロちゃんは駆け回りつつ、スレイプニルやユニコーンや放牧のため連れて来た軍馬たちとその他諸々を見張ってくれてます。守備範囲が広い。


 ユニコーンの隣で目をキラキラさせて喜んでるのは乗馬服のアレクシア様。その姿を愛おし気に見つつ、ユニコーンに近づけず離れた所で嫉妬する乗馬ドレスのニコラス様。


「ニッキー!見て見て!本物のユニコーン!!」

「アレックス…私とユニコーンとどっちが大事なの?!」

「えー?それは勿論ユニコー…」

「ひどい!スレイプニルと浮気してやるぅー!」

「待って!その抜け駆けは認められない!断固抗議する!」


 二人とも魔馬愛がブレない。


「……あれは痴話喧嘩なの?バカップルのフリなの?」

「至って真面目なきょうだい喧嘩だよ。」

「ノア様。」


 風魔法で届く声とともにサクサクと草を踏む音がして、隣に座ったのはノア様。水筒を渡せば冷たい水で喉を潤します。

 木に凭れて目を閉じ息を吐く姿は、ぐったりしてるというか、草臥れてるというか、幼馴染(特にニコラス様)が来てから振り回されてるというか。

 これが大人の男性なら、物憂げでアンニュイな雰囲気が堪らないとか、隙があるところがかわいいとか、年上お姉さんたちにキャーキャー言われるのでしょうが、ノア様には十年早い。


 子供だからかしら?同じ息を吐く仕草も、全然違うなぁ…

 先日のアストさんの姿が脳裏に甦り、一連の出来事で思わずほっぺを触ってました。安定のもちもちです。


 気を取り直して。


「…えぇと、ニコラス様が片思い中であってます?」

「たぶんね。幼馴染の僕にさえ『アレックスは渡さない!』と言ってくるし。」

「アレクシア様は?」

「『うちのニッキー最高にかわいい♪』、以上。」

「…わぁ。」


 ◇


 一緒に暮らすことで従姉弟は家族になり、仲の良いきょうだいになりました。小さい頃ならそれでもよかった。

 でも子供は大人へと成長していきます。体も心も、変化していきます。


「最近、アレクシア嬢への強引な縁談申込みがあって。」

「貴族中年Aですね。ネタがおもんなーでしたわ。」

「同感だね。」


 端的に言えば、貴族主義の中でよくある「婿に据えて伯爵家を乗っ取りたい」というインスタント三文劇内容。当然、社交界でも有名な後見者ばかの現伯爵夫妻は、野心塗れの縁談話に怒髪天。即却下。

 お題はいいとして、あらすじにも脚色にも捻りが無く、報告書を読んだ私は「演出が雑!」と叫びました。

 ここまでは()()()()


「ニコラスが『弟』のままではいけないと気づいた…はず…なんだけど…」

「『大好きなアレックスが結婚しちゃう?!』ですね。でも、なんというか…?」


 どうしてドレス姿のまま口説こう?としてるの(ヘアメイクもばっちり)

 異性として意識されたいのではないの??(アレクシア様も男装のまま)

 いや、女装と男装だから帳尻はあってる…かなぁ?(数字の上では)

 あと、恋敵(ライバル)役が魔馬でいいの?(当て馬(ダシ)野次馬(ガヤ)も馬だけど)


 ……こっちは迷演出になってるし!!散々説明文ぽい設定並べて、この貧弱さ!立てたフラグが全萎え!!

 常套手段なら、ここでノア様みたいな同世代イケメンライバルキャラが現れ…現れてるわ。暴漢に襲われピーンチ…襲われたわ。そこへサッと救い出すヒーローが…スカルさんに持ってかれたわ。ハラハラドキドキの三角関け…魔馬(ライバル)二頭で四角だわ。

 ええええ~…どう回収しろと?


「…せめて行動でアプローチできません?ハグするとかキスするとか。」

「長年のキスハグは家族愛の範疇だが、同年代の恋愛としてならマセてると思えなくもない。」


 二人そろって黄昏たくなる心のあり様を何と表現しましょう。

 ありゃりゃ?です。


 少女漫画っぽい展開を期待してたのにぃ…!!



 ◇◇◇



 恋とはどんなカタチですか? どんな色をしてますか?

 答えはあるのですか? 正解はあるのですか?


 決まった道なんて、ない。

 真っ直ぐかもしれないし、曲がってるかもしれないし、同じ所をぐるぐるするかもしれない。

 ひとりひとりが、迷い、躓き、嘆き、苦しみ、泣き、その先に笑顔があればそれが一番。


 少年少女のハツコイです。向き合う時間も必要でしょう。

 勝手な感想を言いましたが、そもそも、()()()()()()がゴチャゴチャ口出す方が野暮です。


 話は聞いても、価値感の押し付けは違います。

 私たちがすべきことは、結果を『求める』ではなく、『見守る』こと。



「がぷ」

『ぱく』


 ケロちゃんとスライムが何か捕食した音が風魔法に乗って耳に届き、視界の端には木の蔓に結われたリボン(合図)。シエラを伺えばにっこり笑顔。


「…恋の応援なら、ロマンチックなシチュエーション演出を求められるのでしょうが、アシュリー家はそういうのは得意じゃないんです。」

「どちらかというとスリルとアクション専門だね。ヴァルク殿が引き受けたけどどうだい?」

「本日いらっしゃった『お客様』も丁重にもてなしました。アレクシア様が道中で遭われた方々含めて、アシュリー家の素晴らしさに号泣です。」

「敷地内への不法侵入で立件。正当防衛の上、病院経由の留置所送りってとこ?」

「ご期待にお応えして、王都で話題になること間違いなし!にデコります。」


 お二人ともノア様と同じ『正賓』になり、ヴァルクお兄様が一任されたのです。

 当然、アレクシア様に強引な縁談を申し込むも伯爵に断られ、誘拐未遂もスカルさんに邪魔され、しつこくもアシュリー侯爵領まで来た『お客様』は、我が家流に煮たり焼いたり揉んだり摩り下ろします。結わえたリボンも絶好調に揺れてます。


 王都より涼しいアシュリー侯爵領は避暑にぴったりな療養地。時々遠くで悲鳴が聞こえても概ね平和です。


「日差しが厳しくなる前に、ごはんにしましょう。」

「解放感で余計美味しく感じるだろうね。」


 楽しい夏休みの思い出。

 大きな木の下で、皆で輪になってわいわい頂くお昼ごはんは、大変美味しゅうございました。




 余談ですが、後日王都にて、某貴族家の方々が『ストーカーロリコン野郎』で、『賊と共謀した誘拐犯』な証拠諸々をぶら下げて、貴族を取り締まる騎士団宛てに『植物を使った芸術的な捕縄術(大事なトコは葉っぱデコ★)』で送り付けられた、という話が駆け巡りました。


 →あとちょっと続く。

問 ニッキー(力点)とユニコーン(支点)とアレックス(作用点)の関係式を求めよ。

答 ニッキーの嫉妬×距離(だいぶ離れてる)=アレックスの馬愛×距離(めっちゃ近い)


ノア  「ユニコーンに近づけないもんね」

ニッキー「私だってユニコーンに乗りたいのにぃ!」

シャル 「…そっち?あと私も嫌がられますよ?」

二人  「「…(かわいそうな目)」」

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