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9通目5 tamerじゃなくてtrainerでもなくてfriends

説明回なので、さらーっと読み流してください。

「アレックス!!」

「アレクシア嬢?!」


 アシュリー家の客間に運んだご令嬢は、案の定ニコラス様のご家族でした。

 ニコラス様がパニックモードでご令嬢に縋りついてて、容体を詳しく確認したくても離れてくれない。うーん。



 ◇◇◇



 スカルさんの話では、お月見泥棒イベントであった人族の服装風習クイズの件を実践してみようと、旅人風で装いぷらぷら観光しながら来たところ、山間部の廃墟にて、山賊と囲まれてる少年風の令嬢に遭遇したそうです。


「どこを巡られたんですか?」

「墓地にサスペンス名所に廃墟ですかねぇ~?崩れ落ちた教会跡や野趣溢れる古戦士の墓等、ここ数十年かそこらで新たに住み着いた新人を確認したり、縁あって成仏された同胞達の管理も大事ですから。」

「…観光というより仕事じゃないですか?」

「職員情報は更新をこまめにやっておくと、ぬきうち監査の時に楽なのですよ。それに現地の旧友たちと会うのも嬉しいものです。彼女にフラれたーとか子供が反抗期ーとか。」


 魔族にも監査ってあるのかぁ…

 死霊族以外にも新人悪魔族も見かけた場合は、セバスさんに一報入れるそうです。というのも、仮に縄張り争いになった時、スカルさんかセバスさんが仕切りますが、管轄外だと統括責任者であるアストさんの仕事になっちゃうみたいです。アストさんのストレスが心配。


「それにしてもよく令嬢だとわかりましたね。」

「え?だって魔力のニオイが全然違うじゃないですか。」

「…そうなの?」

「わん。」


 変なオッサンどもが「グヘヘヘヘ……ここで遭ったが運の尽き!」と言ってる声を聞いて、私が隣国に着くまで賊狩りをしていた話を思い出したスカルさんは、「シャルの話ですと挨拶をするんでしたね!こんにちは~!」とさわやかに声をかけ…気づいた山賊が襲いかかり…返り討ちにし…


「シャル。スカル殿達に常識の前に曲解したルールを教えるのはやめなさい。」

「すみませんすみませんすみません。」

「…ところであのボウヤ、うるさいですね。黙らせていいですか?」

「鳥の卵を摘まむくらいの力でお願いします。」

「ヴァル、卵にも色々ありますよぉ。ロック鳥くらい?」

「いやぁ、グリンカムビの卵くらいですかね。」


 ノア様の説得にも応じず、アレクシア様の傍でだんだん暴れ出したニコラス様は、静けさを好むスカルさんがするっと近づくと、口どころか顔面をガシっと掴まれました。


「ここは、遊ぶところでは、ありません。ね?」


 にこりと笑った瞬間、意識か生命力でも刈り取ったのか、ニコラス様は脱力して静かになり、そのままヴァルクお兄様とノア様の案内で、別室へ引きずられるように連行されていきました。おぅふ。

 退出するお兄様達と入れ違いで来たリリィさんとベスさんが、片手でドレス姿の少年を掴むスカルさんに呆れてます。


「スカル。脆弱な生き物なんだから、力加減を間違えたらダメだよ?」

「やぁ、リリィ、ベス。久しぶり。わかってますよぉ。」

「わかってても加減が難しいのよねぇ~」

「それは言えてる。気を付けるのを頑張って、かな?」

「そうですねぇ。あ、連れて来たから任せていい?その辺にいるから。」

「「了解」」


 ……生きてる…よね?


 ◇


 ノア様やニコラス様が出て行ったのを確認すると、部屋の天井からにょろろーんと降りてきたり、家具の隙間からぷるるんと出てきたスライム達。知らない人の前に出るのは恥ずかしかったのかも?

 アレクシア様の服が一部破けていたため、私とシエラで怪我の状態を確認しようとしたところ、お肌つるんつるん。え?


「白が咥えてたんだろう?たぶん、食べちゃったんじゃないかな?」

「舐めまわしとも言うわ。白で良かったわねぇ~赤は我慢したのねぇ~」


 白スライムが恥ずかしそうにぷるんと震えて隠れました。つまみ食いがバレちゃったみたいな。

 そして赤スライムがぽよんぽよんとぷんすか跳んでます。私も食べたかった!みたいな。

 リリィさん達によると、口に含んでいた白スライムが怪我を食べたのだろうとのこと。


「怪我を食べる?」

「基本は雑食なんだけど…うーん、この白は薬草を嗜好品として食べるんだ。で。回復魔法を使用するより体に取り込んだ方が早い。

 血や裂傷や体の不具合…例えるなら、吸血鬼が血を欲するのと同じように、怪我をしてるとおいしそうに見えるらしい。なんというか、味見?」

「へぇ~」

「スライムも魔族だから得意なジャンルはあるけど、保有属性は人族程限定されてないの。

 黒はアンデッド属性で死体や腐敗物を好みつつ、他にも毒草もイケるのよねぇ~。だから死にかけの賊?を口に含んだってこと。こっちもまぁ、味見?」

「へぇ~」


 どうやら個体ごと属性も異なれば、好みがあるようです。少しでも気になれば口に含むらしい。


「スライムは核と体液というシンプルな作りと素直な性格だから、初心者向け従魔代表格だね。」

「へぇ~」

「じゃぁ、シャル、早速従魔法も覚えよっか。」

「へぇ…えええ?!」


 突然ですが、従魔法の訓練が追加されました。



 ◇◇◇



 アレクシア様を使用人に任せて自室へ移動し、ベスさんとリリィさんの指導の元、スカルさんが連れてきたスライムと従魔法の契約を結びます。

 まずは一匹目に透明なスライムと顔?を向き合います。ぷるるんしてかわいい。


「シャル、基本の確認だよ。魔法とは?」

「自然界や生命体の中にある魔素をエネルギーにしたのが魔力、それを具現化したものが魔法。」

「そう。では、魔術とは?」

「えーと、魔法を理論や術式に納めたもの?」

「そうだね。省エネルギーで一定の魔法成果をもたらすように道筋をつけたものかな。」


 魔法で大事なのは『魔力(エネルギー)』と『表現力(イメージ)

 魔力の多い魔族や妖精族にとって、現象を望めば、魔法は瞬きや呼吸と同じように当たり前に使えます。もう反射神経みたいなもの。算数で言うなら九九みたいな。

 一方、殆どの人間は魔力が少なかったり無かったりで、一定の魔法効果を出すには、長い呪文や術式や文様等が必要になってきます。算数で言うなら大きい数字の乗算式みたいな。


 基本は同じ。目的地に対して、通り道が違うだけ。

 何度も通れば目的地までの道筋なんて暗記しちゃうし、近道も見つけちゃう。


 なので、リリィさんとベスさんの魔力制御訓練は、『必要な魔力量で、必要な魔法効果を、いかに具体的にイメージできるか』でした。バランスと反復練習で、威力よりも精度を上げることに特化してます。

 魔法の発現スイッチとなるモノは、短い呪文でも指の振りでも杖等の道具でも、自分に合ったモノなら割となんでもいいらしいです。


 己と向き合い、ベストなモノを探す。それはすぐに答えを出さなくていい。

 時間をかけて、色々試して、一番合うものと巡り合うための『旅』とも言えます。

 今回の従魔法も、その旅の一つの通り道というところでしょうか。



「従魔法の理想は相互に契約の意志があること。

 目安は対等か格下だけど、竜種みたいな圧倒的な上位の相手がこちらを気に入った時もある。手段は同じで、その場合は従属というより純粋な契約魔法になるね。」

「従属って言うから、力関係があるのかと思いました。」

「勿論、一方的に服従させることはできるわよ?でも、従魔法はパートナーシップが偏ると、魔力に対してパフォーマンスが格段に落ちるわ。非効率なのよ。」

「相手と仲良くなりたいかどうか考えればいいよ?常に魔力を必要とする分、相手も自分も生を縛ることになる。バランスが崩れたら、魔力どころか生命力も持ってかれる。

 シャルの性格からして、責任の重さを知ったうえで無理に契約するのは合わないだろう?」

「そうですねぇ…スライムさんは、私と契約してもいい?」


 なんというか「トモダチになってくれるかな?」「ぷるるん(いいともー)」なノリで私の差し出した手に、透明スライムの触覚?が伸びて繋がった瞬間、魔力がにゅにゅにゅーと減って、私とスライムの間に一本の細い糸が繋がった感覚がありました。


「シャルの魔力がリンクして相手の考えや感覚がなんとなく伝わってきたら成功よ。」

「そのうちはっきりわかるようになる。教え育てるのも従魔師の義務だしね。」

「さっきのパートナーシップを磨くってことですか?」

「そう。大事なのはコミュニケーションの密度。これを怠ると物凄い魔力を食われて燃費が悪い。」

「程度がわかるまではガンガン魔力を食われるわよ。ガンバレ!」

「ふぁーぃ」


 スライム全般に雑食だしおおらかだけど、個体によって嗜好品やクセが違う。液体に純粋な魔力を入れた状態の透明なスライムに至っては、これから育てていけばいいとのこと。

 さながらスライムの飼育日記。


 ◇


 従魔法のついでに契約魔法についても簡単に説明を受けました。


「今回は従魔法でスライムと契約したけど、シャルとケロちゃんみたいに契約なしでも共にいられるよ。」

「そうなんですか?ケロちゃんと契約しなくてもこれからも大丈夫?一緒にいられる?」

「契約以前にレベルも魔力も足りないわ。ケルベロスは並の人族では契約できない種族よ?」


 いつも隣で私を励ましてくれるケロちゃん。今もスライムと上手く契約できるか、じっと見守ってくれてます。

 今までの事を思い返してみても、契約魔法がなくても、ケロちゃんはずっと助けて励ましてくれました。

 その源は、人族の私に対する、魔族のケロちゃんからの優しさ。


「ケロちゃんが、シャルと居ても良いと思ってるから、一緒にいることを選んだの。」

「魔法は目的や想い願う事を魔力で形にする()()であって、必ずしも『こうでなければならない』という()()()ではないよ。」


 昔、人に会うとき、その相手は自分を写す鏡であると聞いたことがあります。

 自分が醜い心だと相手も醜い態度を、自分が美しい心には相手も美しい態度を返してくる。

 人族も魔族も妖精族も、きっと同じ。


 スライムとは確かに従魔法で繋がったけど、従属という括りじゃなくて想う心で返していきたい。

 ケロちゃんが私を守って育ててくれるように、一緒に、新しい仲間として歩んでいけたらいいな。


「ケロちゃん、これからもよろしくね?」

「わん!」


 今の私はまだまだ半人前で、魔族や妖精族も含め、たくさんの人達に支えてもらって、成長してる最中。

 傍にいる人もいれば、遠いところにいる人もいます。

 気にかけてもらってるから、私はこうして新しいことを得るチャンスをもらえるのです。


 それは、なんて贅沢なこと。


 チャンスをモノにできるか。目の前の壁を乗り越えられるか。本人の意志次第。

 与えられることに溺れてはいけない。

 自ら動き、挑むことが大事。


「頑張りなさい。評価がどうあれ、自ら努力した成果は、後から勝手についてくるわ。」

「周りはちゃんと見ている。過程で得たものは、必ずシャルの糧になるよ。」


 いつか私が一人前になって、立派になって、ベスさんやリリィさんやケロちゃんたちにもらったたくさんの愛情や恩に、めいっぱい御礼したいです。

 出来るのなら、恩を()()のではなく、次の人へ恩を()()()ようになりたいな。


 とか思ってたら。


「ふわわ…?!」


 ぐわんと視界が廻って、一匹目のスライムと契約してナンボも経たないうちにひっくり返りました。

 ぐるぐると渦巻きながら薄くなる意識の中、反射的に握った胸元の魔石は、ほんのりと温かい。


 私を包む魔力はとても優しい。



 →続く

シャルは従魔法を覚えた!

Q スライムを従えられますか?

A 逆に世話をされる未来しかない(一択)


ニュアンスとして、テイマーでもトレーナーでもないなら、フレンドシップだろうと。

アストさんとセバスさんはトップブリーダーで名コーチ。

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