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9通目4 友有、遠方より来たる

また楽しからずや

 ノア様のビジュアルとスペックとネームバリューを並べれば、だいたいのご令嬢は列を成すでしょう。

 だから、こんな光景もあるだろうとは思ってました。


「酷いです!私を王都に置いてくなんて!」

「酷いと言われても、今回の件は当主間契約だって言ったよね?他家の君は関係ないよね?」

「貴方の運命の相手はどこまでも一緒ですよ!」

「そんな安売りの運命とかいうヤツは、我が家を取り扱ってないから、王都に戻って探しなさい。」


 長い茶髪をキレイに編み込み、ふわふわなモスグリーンドレスを纏った、ぱっちり二重のお目めに桃色のほっぺなお顔立ちがすごく可愛らしいご令嬢を、バッサリ切り刻んでた。


「相変わらずイケズ!そんなところもステキ~!」

「クネクネされても嬉しくないよ、ニコラス。」


 そしてめげない訪問者。


 …………あれぇ?



 ◇◇◇



「ちょっとー!その名前で呼ばないでよ~!ニッキーって呼んでよ~!」


 そうプリプリ怒ってらっしゃるのは、ノア様と同じ年の頃のお嬢…いえ、おぼっちゃま…?

 アシュリー領の邸宅まで来るなら、きっとアクティブなお嬢様が勢い余って押しかけてきたと思ってましたが、どうやら女装趣味?いえ、もしかしたら見た目は男、中身は乙女かもしれません。


「シャルロット嬢。突然の訪問者ですまない。ただの知り合いで、ゴドウィル伯爵家子息のニコラスだ。」

「初めまして、シャルロット嬢。ノアの幼馴染で親友デス★ ニッキーって呼んでくださいな!」


 ほっぺに両手をあてて、きゃぴーっとかわいい笑顔なニコラス様(注:少年)。

 服装とか髪型とか仕草とか、どこからどう見てもお嬢様なニコラス様(注:少年)。


「ただの見かけたことがある人だ。」

「ひどい!ノア!私を捨てるの?!」

「もともと拾ってない。うちの領地にも落ちてない。」

「そんなツレないとこもステキ~!」


 なんか、キャーキャー言いながらノア様にベッタリくっつこうとして、手をはたかれ、体ごと避けられ、足で払われ…それでもめげないニコラス様の一方通行な友情の気がしないでもないけど、無碍にしてないから…無碍にしてないよね?


「まぁ、なんやかんやで仲良しさんということですね?」


 そんな私の言葉に、ニコラス様は「やだぁ~わかるぅ~?」と言い、ノア様が物凄い苦い苦い苦い薬を飲んだような顔をした。

 とりあえず、『王都からやってきたノア様の追っかけ』というポジションは間違えてなさそう。


 しかしながら、先触れはなかったので確認したところ、実は先触れを追い越してやって来てしまったとのこと。

 玄関でノア様とわぁわぁ騒いでたら、ようやく着いた使者に「ニコラス様、追い抜くのやめてください!マナー違反するのもやめてください!私達をクビにしたいのですか!」と本気で泣かれて怒られてました。

 なんでも、ドレス姿で王都から馬で駆けてきたというのだから、先触れ無視のマナー違反を怒る前に、乗馬技術がすごいなぁと感心してしまいました。

 マナー違反は先触れを追い抜くことに加えて、初対面の家にドレスで乗り込むことも含まれてたようで、「初対面の家には正式な服装で行ってください!」と一時間程叱られてました。

 我が家の玄関ホールで。


「ニコラス。だいたいお前、何しに来たんだ?」

「家出してきちゃった★」

「帰れ。」

「いやぁ~ん。冷たいとこもステキ~!」


 エンドレス。



 ◇◇◇



 わぁわぁキャーキャーと喧嘩?してるのをぼんやり眺めてたら、玄関の扉を開けたケロちゃんから「わんわんわん!」と呼ばれました。

 玄関からひょこりと顔を覗かせて、アシュリー邸の門のあたりを見れば、帽子を軽く持ち上げた久しぶりの紳士姿が。しかも今日はスライム肉付け仕様!


「スカルさん!ご無沙汰してます!」

「シャル、久しぶり。にぎやかな声ですねぇ。ヴァルもいるかい?」

「いますよ?ようこそいらっしゃいました。案内しますね。」

「いやぁ、まずは外でお願いしたいんだ。いいかなぁ?」

「へ?」


 訓練場にいるヴァルクお兄様へ言伝を使用人に頼み、喧嘩中のぼっちゃま二人を無視して、スカルさんを迎え入れようとしたところ、玄関前でスカルさんから待ったをかけられました。

 スカルさんがポケットから小さな木箱を取り出し、蓋を開けると、にょろろーんと出てきたのは大きなスライム。一見黒っぽく見えますが…なんだか混ざった印象を受けます。


「黒い…?ううん、色んなのが合体してる?」

「アタリ。やっぱりシャルならわかると思いましたよ。合体というより、人族で言う所の肩車や組体操ですかね。」

「多種属性が手を繋いでるってこと?」

「そう。一種属で納まらなかったんです。」


 ぷるるんとひと揺れするとぷくーと大きくなり、ポンポンポンと分裂して現れたのは、7匹の色とりどりのスライム達。赤、青、黄、緑、白、黒、透明。

 四大属性+αで特性のあるスライム達を一匹づつ選んできたそうで、ケロちゃんがフンフンと嗅ぎ、「わん」と鳴けば、スライムはぷるんぷるんでぽよんぽよんと跳ねてます。

 全員に挨拶でぺろりと舐めてました。かわいい。

 その様子を見ていたところへヴァルクお兄様がやってきて、困り顔になったスカルさんが黒いスライムを呼びました。


「スカル殿、ようこそいらっしゃいました。」

「ヴァルも久しぶり。お邪魔するよ~。早速なんだけど、シャルへ従魔法に対応できるスライム達を連れてきたんです。」

「ふおお~ありがとうございます!」


 ぽよよんぽよよんとジャンプする色とりどりのスライム達。やっぱりかわいい。

 どうやら人族界の習慣等を躾けたり、貧弱な私の魔力でも適応できる性格の子を選んできてくれたようです。


「アスト様がスライムの核と液体に直接魔力を込めて作ってました。調整はセバスさんです。」

「なにその自家製スライム…」

「凄い密度の魔力を纏った拳でボコスカ注入でしたよ~」


 漬物ストックが切れ、魔王職のストレスが溜まったアストさんが、魔力過多で垂れ流しになり、それを見ていたセバスさんが「もったいないですね。スライムにしちゃいましょうか。」「どうせなら色んな種類にしましょう。」とスライム作りを始めたそうです。余ったタルト生地でクッキー焼こう的なノリで。

 垂れ流し魔力を集約して魔核を作り、それを入れたスライム液体にゴスゥ!とまだ垂れ流れてる魔力を埋め込むアストさん。一緒になって能力を埋め込むセバスさん。


 …ああー、なるほど!わかる気がします!

 イライラするとパン生地やタルト生地をコネコネぺったんぺったんしたくなるのに似てる気がします。


 だんだんストレス発散から「どうしたら面白いスライムができるか」に推移し、「そういえばシャルの誕生日がもうすぐだ」「あぁ、従魔用のスライムもつくりましょうか」「どんな性能にしようか」「魔王様、面白そう、混ぜて」「私も私も…」と試行錯誤を繰り返す二人に便乗した幾人か。


 その様子だと、たぶん、このスライムは普通じゃない。

 その様子だと、たぶん、オックスさんは無事じゃない。


 魔族がわいわいしてる部屋の片隅で、撃沈してるミノタウロス姿が見えた気がします。



 ◇



 出来上がったスライムを届けに脱走しようとしたアストさんは、残念ながら復活したオックスさんに掴まってしまい、魔王様の執務室に軟禁され、まだまだ溜まったお仕事を処理してるようです。

 ちょっとお疲れみたいだし、おやつ用にシロップ漬け送った方がいいかなぁ?

 逃げられなかったアストさんの代わりに、スカルさんが連れて来たとのこと。


「それで、王都アシュリー邸から観光しつつ歩いて来たら、途中で困った拾い物をしてしまいまして…」

「おぉ。大量ですね。」

「へ? ぴゃぁぁぁ?!!」


 スカルさんが指を振れば、黒スライムが膨らんで、むああーんと口??を大きく開けたと思ったら、強い血のにおいが漂い…

 そして出てきたのは……ボロボロだけど一応?一応?一応!息のある、ヒィヒィ嗚咽と悲鳴をこぼす、賊のような風貌十数名…

 あばばばば!ダメなものが色々見えちゃったり出ちゃったりしてるー!!!


「ゴロツキ?トウゾク?オイハギ?どれかわかりませんが、ちょっかいを出してきまして。

 いやー、頑張って手加減したんですがねぇ~どうしてもねぇ~。 ……エヘ。」

「わかりました、こちらで預かりましょう。心当たりがあるので、そいつらだと思います。」


 テヘペロみたいなノリで誤魔化すスカルさん。「アハハ~…で、コレどうしよう…?」と笑いながら困り顔しても、加減具合間違えたのはバレバレですよ…

 山賊や獣害対応、アシュリー家へ招かれてないお客様へのボコし方は主に張り倒す系で、それに比べてグロ度が高く、私には刺激が強すぎて青い顔で動けなくなってました。ケロちゃん、いつも支えてくれてありがとう。


「うーん…俺の聴取に耐えられるかなぁ…?」

「いっそのこと、瀕死にしていいなら手伝いますよ?」


 どうしよっかなーと考えるヴァルクお兄様の呟きに、スカルさんが爽やかな笑顔で更なる追い討ち予告。死霊のテリトリーに片足入れてしまえば、アンデッドマスターな骸骨騎士からすれば、簡単に操れます。

 息絶え絶えな賊の一部様が「ヒィィィ!!!」「あくまぁ!!!」悲鳴倍増でブルブル命乞いされたのは言わずもがな。


「失礼な。悪魔族じゃないですよ。セバスさん程、器用じゃありません。」

「スカル殿…他にもいらっしゃるんでしょう?」

「流石、ヴァル。わかりますぅ?この子も頼んでいい?

 その賊?とやらに先にちょっかい出されてて、身形の良い子だったから連れてきちゃいました。」


 スカルさんが次に手招きしたのは白スライムで、同じように膨らんでむああーんと口???を開いて出てきたのは、茶色の髪を一つで結び、見るからに上質な若草色の旅装をした12.3歳程のぐったりしている少年…?

 そのあどけない寝顔を見て、似た人を私は知ってます。



 というか、つい、さっき、玄関で、知り合った。



「可愛いお嬢さんを道端に置いて行ったら、ベスに怒られちゃうからねぇ~」

「ノア様ーー!もう一人、お客様ですよー!!」



 女装の令息の次は、男装の令嬢みたいです。



 →続く。

シャル訳 :新しいスライムもやってきた!(歓喜)

ノア訳  :拗らせた幼馴染がやってきた…(脱力)

ヴァルク訳:久々の手合いが来て下さった!(歓喜)

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