9通目2 少年とへび 下
えぇと、一枚目から続きまして…どこまで書いたっけかなー…
そういえば、妖精界から戻ってきてから、悪い夢を見ることがあります。
オジサンズに囲まれた光景から、いつまでも抜け出せない夢。
必死にもがいていると、どこからか声が聞こえます。
「こいつ、食べていいですか?」
…私、美味しくないよぉ?
◇◆◇
「あの時のボンクラゴンベー」
「ボンクラ言うな。覚えてないのか…」
「だって名乗られてませんもの。興味もありませんし。」
「あ。…悪かった。」
威勢のいいツッコミをしたかと思えば、更にバツの悪そうな顔をして謝るブルーアッシュ髪の少年。どっかで似た顔を見たことがある気がする…
んんっと咳払いをすると、改めて話しかけてきました。
「ボークレイグ家嫡男、ノアだ。先日は不作法をしてしまい、申し訳なかった。」
「ボンクレ家じゃなかった。ボンカ〇ー家でもなかった。」
「違うし!というか後半の名前は何?!」
「いえ、スパイスが効いた美味しい家名ならいいなぁ…と。」
生前は数あるメーカーのルーもレトルトもお世話になりました。スタンダードなコクとまろやかさがとろけるカリーから、出汁の効いたスープ系に、チーズましましのドリアに、黒ごまさんタヒチさんタイの黄色と緑色達よ、家にいながら手軽に世界の一皿が味わえる幸せ…あぁ、豆カレーが食べたい。生姜と砂糖が入ったスリランカ紅茶もセットで飲みたい。
「ひよこまめのカリーさんが大好きだったんですよ。」
「ひよこを食すのか…いや、卵も親の鶏も豚も牛も食べるから、当然の欲求…か…?」
「豆ですぅ~!…まぁいいです。それで、公爵家の坊ちゃんが白へびさんに何用で?」
「いや、実は…」
ボークレイグ公爵家は先代王妹様が嫁いだ由緒ある家柄で、水魔法を得意としてます。そこの坊ちゃんことノア様はあの王子達のハトコ。
髪色が全然違うからわからなかったけど、顔のつくりは確かに似てる…気がする。美少年。以上。ここ数年、美貌基準がアストさんなので、その程度しか覚えられない。むり。
「我が家は水魔法とは別に、水神様の癒し術が使えるんだが…その…長らく母上の具合が良くなくてな。水神様の化身である白蛇様をお見せできれば、気持ちだけでも励みになると思ったのだ。
冬眠期だし、そもそもまずお目に掛かれない…広間から見えて、居ても立ってもいられなくて…焦って…乱暴な真似をした。」
真摯に頭を下げ続ける公爵子息の姿に、癒し術に長けた家でも回復しないとは、焦る気持ちも理解できます。
右手に消えた白へびさんの文様を思い出します。
祝福?を与えてくださったけど、シノブちゃん達は「そのうちわかる」と、その内容までは知りませんでした。どういった反応があるかわからないうちは、下手に祝福?を受けたことは言えません。
あとは…頂き物だけど、ご利益あるかな…?
「…白蛇様の姿を見たら元気になれるの?」
「治療を続けて10年以上…僕が生まれたからだ。もう、体力よりも気力が弱ってる。遠目でも、気配だけでも、何かに縋りたくなる。」
どうやら産後の肥立ちが悪かった様子?もしかしてうつも絡んでる?公爵夫人という地位と役割を考えると、精神的プレッシャーも多いし、環境によっては周囲に弱音も吐けない。
「…周りや親族から何か言われた?」
「……。」
歯を食いしばって耐えてる少年の姿に、大人が子供になんて顔させるんだと思います。
地位がある者も人生の先輩も、庇護者を後輩を、認め、守り、慈しみ、叱り、諭し、導くためにある存在。
デンジャラスな我がアシュリー家でも、お父様の課題の裏には必ず意味があり、間抜けで阿呆な私でも、決して見捨てません。
苦しいだろうな。辛いだろうな。
「…私は医者じゃないし治癒師でもないから、効果があるかわからない。その上で、コレなら持ってる。」
にゃんポケから取り出したのは、小さい額に納めた白へびさんの殻。ノーム達から頂いていいと聞いてるけど、勝手に貸与や譲渡していいのかまでは聞いてません。
んー、と考えてみて、やっぱり答えは一緒。きっと許してくれる。今、必要とする人が目の前にいるもの。ダメだったら、その時はごめんなさいって謝ろう。
「これは…脱皮した殻?白蛇様のか?」
「そう。白蛇様からの頂き物なの。だから返してもらわないと困る。約束できないなら貸せない。」
「…いつまで借りていい?」
「気持ちって、そんなにすぐには治らないでしょ?床上げして、美味しいものを食べて、美しい世界を歩いて、家族も夫人も皆の笑顔が戻ったらでいいよ?」
「すごく時間がかかるぞ?それこそ何年も。それでもいいのか?」
「侯爵家で無茶ぶりするくらい、支えるって決めてるんでしょ?目標持った方が気概が湧くよ。」
「…ありがとう。必ず返す。」
手に取った白へびさんの殻を大事に腕に抱えて、涙で潤む少年の目。白へびさんに感謝しないと。
公爵家子息が王都から離れ、街道から外れた町の小道にいるのなんて、普通では考えられない。この件でわざわざ追いかけてきたのかな?
「そういえば、体調は大丈夫か?相当苦しそうだったし…病み上がりだったんだろ?」
「え?えぇ、まぁ…しばらく伏せってたけど、今は体力も戻ってきたし。」
「…原因は少し聞いた。本当にすまなかった。」
「もういいよ~…って、ええぇ?!」
原因を聞いてる?!妖精界のこと知られちゃってるの?
ボークレイグ公爵家だし、諜報部がいてもおかしくない…どこまで?まさか、薄くて汚れて破れた寝間着一丁(ボサ髪・泣きっ面付)で美貌魔王様に抱きついたとこまで?!
悪役令嬢(予定)の沽券に関わる赤っ恥歴史!暗黒歴史!!ブラックホールに詰めて滅したい醜態!
頭を抱えて問い詰めたいところですが、ここは町中。人前。誰が見てるかわからないので、シレっと何でもない風を装います。たぶん、装えてます。
「多属性魔法を保有してるから、体に負荷がかかってるんだろ?」
「あ。…うん。」
「僕も水と風は使うから、複数の属性を操る大変さは知ってる。」
よ。
良かったぁー!寝間着一丁事件じゃなかったー!!
ついでに全属もバレてないらしい。多属性と全属性だと扱いが全然違うから、多属性と信じてるならその方が平和で穏やかな生活を送れます。多属性だけなら『珍しいね』で済む。全属性バレだと色々詰む。
面倒なのは王家だけで十分。むしろ王家との関わりなんてノーセンキュー。求めてない。
王家に所縁のある公爵家もできればご遠慮願いたい…けど…
どうかなぁ…白へびさんの殻貸したから無縁て訳にもいかないよなぁ…コントロールできる位置がいいなぁ…
「改めて。ノアだ。よろしくな。」
「こちらこそ。シャルロットです。お見知りおきを。」
ニカっと笑って手を差し出すノア様。笑い方がヴァルクお兄様と系統が似てます。
向こうから手を差し出された形は貴族の挨拶ではなく地位抜きの挨拶、つまり握手なので、こちらもそれに倣い手を差し出します。
「どうして公爵家子息がここにいらっしゃるんですか?」
「ノアでいい。先程みたいに敬語ナシでいいぞ? アシュリー侯爵に頼んで訓練に参加させてもらった。ということで、つーかまーえた!」
握手寸前に手を捻り返して外し、足に風魔法を纏わせて、全速力で逃げ出しました。
◇
「シエラー!ヴァルクお兄様の追手が!」
「おかえり。シャル。」
宿の部屋に戻ると、ソファで寛ぎながらお茶を飲むヴァルクお兄様と給仕をするシエラ。え?捕まっちゃったの?ジエンド?終了?補習開始?
「シエラ、合格だ。公爵家の護衛、全員怪我なく沈めた。近衛に匹敵する奴もいただろう?よく潰せたな。」
「正統派の騎士様だったので、裏道戦闘では私に分がありましたからぁ。ここで終わりにします?」
「いや? シャル。俺は用事があって数日後に出るから、まだ逃げてて大丈夫だぞ~?」
「わぁ、ウチの護衛達は再教育ですかぁ。胸をお借りします。ヴァルク先生。」
「先生はやめてくれ、ノア。」
扉を開けたまま硬直する私の腕の下を、ひょいっとくぐってヴァルクお兄様の元へ寄るノア様。
後ろから聞こえる「シャル~、隣町まで服飾雑貨めぐりしたいから、もうちょっと逃げてて~」とか、「近くの沢に親戚がいるからシノブと挨拶してくるね!」とか、「リリィ殿、明日の訓練には君も参加しないか?」「まぁ、いいですけど。人のいない広い場所でないと大変ですよ?」「森の向こうの丘に良さげなスペースを見つけた。」な馴染みの声。
って、リリィさんの紺の軍服ワンピも素敵!日常使いの帯剣姿で更に素敵!なによりカモシカ美脚が眩しい!萌え!
……あれ?変態エルフズは?と思ったら、警邏隊に不審人物として捕まってたので、罪状にピピー!と笛を鳴らし「退場!」と宣言。そして緊箍児発動。
詰所に響く悲鳴の五段活用に、眺めていた警邏隊の人達が「そろそろ許してあげてください」「きっと出来心だったんですよ」「私たちは無事だったので」と懇願してきました。
最近のブームが『軍服ドレス』から来た『制服』で、警邏隊の方々を追い剥ごうとしたのに、なんて優しい…
◇◇◇
侯爵領まで三度、同じことを繰り返しながら、最終的にゴールの屋敷の扉のノブに手をかけたところで、「つーかまーえた!」とヴァルクお兄様に一本釣りされる私(片足逆さ吊り状態)を見て、「リアル吊るされた男ポーズなお嬢様もかわいい!」と悶えてるシエラさんは、今日も平常運転です。
乱筆乱文にて、久々の楽しい国内旅行?の一幕が伝わったかと思います。
「ねぇ、シエラ。いつの間にボークレイグ家の人達も馴染んだの?」
「ボークレイグ公爵様直々に旦那様へ鍛練のお願いがあったんですよぉ~」
「リリィさんとベスさんに勝てる人いると思う?あの前・後衛組は入れ替わっても強いよ?」
「スカルさんがいない分、可愛いものですよぉ~?」
相変わらず我が家は戦闘民族で、「スライム軍団がいないだけまだいいよね」と呟いたのを耳にしたヴァルクお兄様が「是非、招待しよう。」と瞳を輝かせてますが、私は今日も元気です。
末筆ですが…って、あれ?まだ続きそうです。
休憩してから、もうちょっと書きますね。
→つづく
一旦、裏になります。
もうちょっと書くんだけどね。
気に入らなくて三話分潰しちゃって書き直すことにした。




