8通目別紙片 某国の使者・下
※引き続きEco(連載)とのクロスオーバー回。
ただやりたかった。人間とは愚かなり。ぎゃふん。
「なぁ。結構難しいか?」
冒険者ギルドのS級ランク昇格した彼の傭兵は、炎種のドラゴンの鱗を片手に、ただ「解呪してくれ」とは言わず、「スキル制御も覚えさせたいんだけど対応できるか?」という追加注文を付けてきた。
いくつか破壊する手段はある中で、本人の能力で壊すことにしたらしい。
◇◇◇
件のアミュレットに対抗できる魔道具なら、自分のテクを加えても、同じ竜種の中型ワイバーンの鱗で事足りた。
そこへ上位素材のドラゴン種の鱗を持ってきて、さらにリミッターを外した特別仕様のため、下手すれば相手がオーバースキルで暴走して、返り討ちに遭う。
しかも王族で少女だから、失敗したり、力加減を間違えたら、社会的にもクビが飛ぶ。
そんな劇物を頼んできたときは本当にいいのか?と思ったが、彼なら補助具なしに、相手のカウンターや先制攻撃をやり込める技量がある。絶対的な自信があるから、こんな提案ができるのだ。
早馬役といい、使者といい、一度ガチンコの交流をやってみたい見てみたい。
「素材と呪文の親和性はまぁまぁだね。ちょっと改良しとく。腕が鳴る。
どちらかというと扱いの方が難しいかな?頑張って~」
今回の顛末は某王女様のスキル依存が招いた落とし穴だ。
そのことを頭で理解していても、今まであって当たり前の力に頼らずに生きるのは難しい。
しかし、レベルごと細やかな制御をきちんと身に付けることは、今後のスキルの展開に新しい道が生まれる可能性がある。
要は失敗をどう成功に結びつけ、ついでに、得られる経験値をどれだけ大きくするか。
「やっさし~ぃ どうしたよ?普段は冷静なのに、珍しく血の気が余ってるな。」
「この魔道具の使い方が気に入らない。ウチの妹に同じ事されたら、嬲りに行く気しかしない。」
シャルは全属性保有者である。ただし、魔力量は多くはないし成長も遅い。能力はあっても出力がない。周囲の者や魔道具頼りになっていて、今回はその穴を突かれて妖精界に連れてかれた。
シャルと王女様では、立場も能力も環境も違うけれど、似たような穴に落ちて、現状がある。
つまり、自分達も改善すべきところがあるのだ。
大事な者なら、安全に囲うのではなく、育てなければ。
「ん。そっか。そうだよなァ…」
「そうだよ。」
敢えてリミッターを外した『スキル活性(激)』のアミュレット。
スキル全開の人間がいつも通りに扱えば、間違いなく一発で暴走する。魔法でいうなら、魔力枯渇になるまで魔力を持ってかれる。
凡人が扱うくらいなら倒れる程度、非凡が扱うとなると大騒動。
そうならないように彼はきっちり指導するのだろう。何度でも。何度でも。
…僕が妹にできることは何だろうか…?
◇
「ホラ、完成。こっちは予備。ついでに君へのプレゼント。」
「おー。ありがと。急で悪いな?助かったよ。」
依頼されたアミュレットと予備のついでに、先日入手したブツも渡す。アシュリー家ネットワークで撮って来てもらった現場の証拠は、帰ってからきっと役立つだろう。
「おい、これは…記録媒体?」
「結果を楽しみにしてるよ?」
にっこり笑えば、苦笑いしつつ大体の見当がついたのだろう。懐にしまいつつ、「いつ出そうかなー」とぼやいてる。
大丈夫。わかりやすいタイミングを用意するから。
「んー、ありがと。礼がこえーな。返せるかなぁ…」
「じゃぁ、また竜種の素材取ってくることがあったら一部ほしいな。」
「流石、耳がはえー。まだ確定じゃねぇぞ?そっちでなんか聞いたのか?例えば、あの人から。」
彼が目を向けた先には、ドアの入口から覗いてるシャルの姿をしたベスさんとシエラが。
「相変わらず勘が鋭いなぁ…」
「敵意はないけど、隙がなさすぎるからな。お前んとこの妹さんはもう少しぽやぽやしてたろ。」
「そっかぁ~」
とててーと入室してきたベスさんも、姿はシャルのままで会話に加わってきた。ポスンと部屋の椅子に座ると、彼に向かって軽く挨拶をする。
「名前は聞かないよ?使者くん。」
「それはありがたい。で、俺に何か用があってきたんだろう?」
「んー。エルが欲しがるかなーと思うモノなのよ。君んトコの国にできた巣なんだけどね。私は龍人じゃないからはっきり言えないけど、たぶんエネルギーのニオイからすると変異種。」
「はぁ?!!」
「まだ卵だよ。一年くらいかかるんじゃない?がぁんばってねぇ~」
「え!じゃぁ、割れた卵の欠片取ってきて!欲しい!」
「はぁ…まじかぁ…」
どの竜種か不明だが『変異種の卵の欠片を取ってくる』というSランカーに相応しいおねだりをして、ベスさんと一緒ににこやかに彼を送り帰した。
◇◇◇
某国で王妃派が一掃される大事件が起きたのは、彼が帰国して少し経ってからだった。
すぐに掃除すると思っていたが、次期女王様は妹姫にコントロール力が身に付くまで待った。
臨月の姉姫からすれば、妹の安全を早く確保したいだろう。そこをぐっと我慢して成長を見守る。その心意気は流石というべきか。
あとは…本人がブチのめしたくて「御礼役」をちょうだいしたのもあるかもしれない。御礼参りには、傭兵も保護者で付いて行ったようだ。
ここまでは牽制の範囲だろう。
さて、魔道具の悪用にイラついて用意してたリーク情報を、事前に彼の国の王宛てに送ってある。裁定の場で決定的な証拠 ――複製不可・加工不可の記録媒体魔道具をS級ランカーが持っている―― と小話も入れて。
隠密頭は表には出られない。表で活躍するなら、冒険者ギルドS級ランカーは最良の通行手形だ。
貴族からも民からも信のある者が持っていれば、それだけで証拠に重さが加わる。奪いたくても、握りつぶすこともできない。
今まで身分を盾に逃げ延びれていた者達に言い訳にさせない強い風。
その風は、自他国ともに認められた実力者からの方が通りやすい。
「御膳立てはしたんだ。後はうまくやってくれよ。」
奇しくも年末の『大掃除』。結果は上々で彼の実績に『正道へただす者』の付加価値がついた。
◇
そして、新年を迎えた頃、我が家も一つの区切りがつく。
「この度は末娘の奪還に尽力いただき、アシュリー家家長として感謝を述べたい。ありがとう。」
父が頭を下げるのに倣い、家族と使用人達が一斉に感謝の礼をする。魔王殿の膝でまぬけ面で寝る妹は、変わらぬ姿で、心で、帰ってきた。
「ベスさん、シャルの指導役を受けてくださり、ありがとうございます。」
「あら。魔族への依頼は対価が大事よ?エルの新型ミシン魔道具に期待してるからね~」
自分には属性魔法を教えるにも限界しかない。
逆に自分が得意でできることを考えた結果、魔力操作が達者なベスさんにシャルの指導をお願いする代わりに、父は彼女が我が家の服飾部門に名を連ねること、自分は裁縫の魔道具作成を条件に成立した。
「シャルのお兄さんかい?私はリリィだ。よろしく。ベスの服飾に対する欲は深いからね。リクエストも多いから頑張って。」
「はじめまして。僕は三男のエル…」
そっと唇に人差し指を当て、言葉を封じられた。
「魔族・妖精族に真名を自ら言ってはだめだよ?縛っちゃうから。」
ベスさんが親友と紹介してくれた妖精族のリリィさんは、ベスさんの言う通り、礼儀正しく几帳面で、責任感もあるし教えるのも上手な方だった。
リリィさんもベスさんと同様に、妖精魔法の面でシャルの指導役を買ってくれた。妖精女王の命もあるが、それ以前に懐いた子供の面倒を見るのは当たり前という態だ。
「友達だからね。」
「いいわね。友達って。」
魔族と妖精族と人族が友達…不思議な感覚がするが、無暗やたらに喧嘩するよりはいいだろう。
我が家も彼女らも戦闘狂だけど。
涎面で眠る妹は、起きてから領地で魔力制御の訓練が待っている。
某王女様とは違ってポンコツな妹が、にゃーにゃー半べそかきながら、それでもめげずに努力する姿は容易に想像できる。
今度は自分がじっくり構えて、妹の成長を見守らねば。
安全を与えるだけの道具ではなく、妹がはばたくための補助をしよう。
さて、次はどんな魔道具を作ろうかな。
次から9通目に入ります。
ようやく本編に戻ります。




