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8通目別紙片 某国の使者・上

※Eco(連載)とのクロスオーバー回のため、番外編扱いで、読まなくても進めます。

Eco読んでないと、「???」ですが、場外乱闘をやりたくてやった。自己満足。

三兄エルンスト視点。シャルさん不在。

 いつも通りの日々がいつも通りでなくなった秋の日。


「…は?いなくなった?」


 まず最初に届いたのは、妹が妖精界に連れてかれたという一報。


「…は?なにこの魔道具?」


 続いて馴染みのSランカー傭兵から魔道具依頼だった。



 ◇◇◇



 貴族に属する以上、13歳から入る学院には例え暇で退屈でも在籍しなければならない。勉学とともに社交(中略)や、優秀な平民にも特待制度(中略)という概要は省かせてもらう。

 所定の条件をクリアしていれば、籍だけ置いて出席は自由なので、自分は早々に単位を納めると、王立図書館で魔道具研究の書物を読みふけることが多い。

 下手にサロン等に出歩けば、暇と退屈と貴族のウフフオホホな声にうんざりするからだ。


 将来婿入り?婚姻でしか駒にならないような種なら、我が家では不用品(ごみ)箱に入れられる。

 自立できない役立たずは要らないので、貴族の社交は最低限に、冒険者ギルドや魔道具ギルドで経験を積み、己の力で社会的地位を持った方が有意義だ。

 王立図書館のあらゆる魔道具情報をインプットし、ギルドの依頼で技術に換えてアウトプットし、ギルドの交流から新しい魔道具へのアプローチを考案していく。


 そんな魔道具オタク生活を送っていたら、実家から緊急便が届いた。


『シャルロットが妖精界に連れて行かれた。』


 昨年はシャルから手紙で『魔族のみんなと楽しい異文化交流』というハートフルな内容だったのに、今度は妖精族が絡んでトラブル一直線な内容。

 普通に考えて妖精族との接触は人族ではほぼない。あるとしても王族の一部くらいが、季節の折、豊穣の祈祷等、儀式でコンタクトをとるくらい。

 ありえない事態を確認をするため、学院側へ帰宅届を提出し実家へと急いだ。


「エルお兄様~おかえりなさ~い」

「え?シャル?」


 慌てて帰宅したものの、王都侯爵邸の玄関で迎えてくれたのは、昨年会った時よりは少し成長した妹。

 てこてこーと相変わらず阿呆な笑顔に淑女の礼で…


 違和感。


「おまえ、誰だ?」

「あら?」


 距離を取り、隠し持ってる暗器に手を掛け、見た目も声も妹そっくりな()()()に警戒する。

 そんな偽物の妹は、控えていた侍女のシエラに顔を向けると、ペロっと舌を出した。


「シエラ~バレちゃった。私の負けね。」

「ベス様、残念でした。私の勝ちですので、大人しくクリーム色のワンピースを着てください。」

「ちぇ~。ラベンダーもいいと思ったんだけどなぁ~」

「シエラ、どういうことだ?こちらは?」


 鋭く声を掛ければ、先程までシャルだった人物は、一瞬にして赤い髪の蠱惑的な美女になっていた。不思議な光彩を放つその瞳は、捕えた者を逃がさない。にんまりと赤い唇が妖しく哂う。


「初めまして。エルくん。シャルの友達のベスよ?」


 圧倒的な魔力を纏わせた魔族は隙がなく、戦闘慣れした自分との距離を瞬く間に詰めた。

 どうでもいいけど、魅惑のダイナマイトバディの夢と希望とロマンの詰まったお胸様を、年頃の少年におしつけるようにハグするのはやめてほしい。

 避けられなかったのは、決して油断してたからではない…と思いたい。ふにふに…


 ◇


 帰宅の挨拶後、父と長兄から聞かされた内容は、自分たちにできることは何もないという事実だけだった。

 アシュリー家の人間でできないことは少ないと思っていたが、とんだ思い上がりだ。実際、兄の友である魔族達の助力がなければ、コンタクトを取ることすら膨大な時間を要しただろう。


 握った拳に力が入ったのは、無力さだけではない。

 妹が勝手にどこかに攫われて呑気でいられるか?

 阿呆でおまぬけで、家のレベルからすれば足手まといだが、自分たち家族にとっては可愛い妹だ。

 突飛な考えで新しい魔道具のアイデアを出してくれて、いつも「詳細はわかんない。作り方もわかんない。」で、絵に描いて表現しようとすれば迷画ができ、「画伯!」と爆笑を攫され、ふくれっ面が可愛い妹だ。

 再会すれば、正面から走って転んで頭から突っ込んでくるいつもの妹がいない。


 自分にイライラする。


「落ち着きなさい、って言っても無駄でしょうね。」

「ベスさん…」

「イリオスはできる限りの準備をしたし、シエラもフィーリアもシャル不在中の穴埋めをやってるの。心配したって変わんないのよ。」


 いつの間にいたのだろう。廊下の壁に凭れてヒラヒラと手を振る魔族。

 その軽さに、種族が異なればはかる尺度も違うのは当たり前ということを、まだ気づいていない自分は、心の荒波をこぼしてしまった。


「…なんでそんなに余裕なんですか?魔族だからですか?」

「はぁ?」

「貴女にとってはただの人族かもしれないですけど、僕にとっては家族なんですよ。心配するのはおかしいですか?」

「ばか言わないでちょうだい。」


 赤毛の美女は心っっ底不思議そうな顔をしている。馬鹿にしているのではなく、本当にわからない、という顔。

 急に、なんだかイラついて当てこすりしてた自分が阿呆みたいな気分になる。いや阿呆だ。


 フっと消えたと思ったら目の前に現れて、中指がオデコをはねた。

 手加減されてるのだろうけど、物凄く痛いデコピンに尻もちをつく。

 ヒリヒリ痛い額を擦りながら、再び目の前に現れた美女を見上げる。彼女は仁王立ちで腕を組み、誇った笑みで自分を見下した。


「余裕に決まってるでしょ。迎えの案内役は私の親友よ?並の妖精族どころか魔族でさえ、弱すぎて相手にならないわ。」

「魔族で相手にならない…」

「しかも礼儀正しくて几帳面なの。力の強すぎる魔族が苦手な細かい魔法の微調整も、きっちり収めてくれるの。私はあの子を信頼してる。だから人族界で気楽に遊んでられるのよ。」


 面識のない妖精族や魔族の王を信じろと言われても、判断基準が自分の経験にないから、わからないのが正直なところだ。

 何が起こるか行ったこともない異種族界に一抹の不安もないとは言えないけれど、そもそも魔族が人族をフォローしてる事がまず普通ではないと、デコピンの一撃でようやく気が付く。


 自信に溢れた美女は「シャルはちゃんと戻ってくる」と言い切る。

 この関係は、妹が自分で築いてきたもの。妹のおもてなしをお気に召したからこそ、彼女が初対面の自分を励ましてくれる。


 カラカラと笑うベスさんは、「仕方ないわねぇ~」と徐に胸元の峡谷から、一枚の赤色の紙(至急伝達)を取り出した。

 だから何でそのふにふにの…!


「何かに打ち込んでた方が落ち着くなら、これがいいわ。はい。国境からよ。」


 ヒラヒラと掌に載せられた紙には『深海魚、直参。黒い腕輪』というアシュリー家間諜からのメッセージ。

 それから一時間後、某国に属するトッププレイヤーの隠密頭が現れた。



 ◇◇◇



「アシュリー侯爵殿。突然の訪問で申し訳ない。御子息宛てに母国より手紙を預かった。近日中に使いの者が来るので、対応を願いたい。」

「貴方が表に出るなんて、珍しいことがあったのですね。道中の見事な掃除報告は来てますよ。」

「貴殿の縁者達が片付けをかってくれたので、非常に速やかに来れた。」

「ふふふ。皆もお会いできて喜んでました。

 …成程。エルンストはしばらく家に滞在させるから、先に準備をさせましょう。殿下には『きっちり仕上げる』と伝えてください。」

「承知した。ついては、先に整った情報だけ持ってきた。細かい仕様書や素材は使者が持参する。礼については後日改めて…」

「いえ。第五王女殿下には貴国にいるウチの者が勉強させてもらってるからね。元気でいてくれないと面白くない。

 それに使者役はエルンストのギルド仲間だろう?ヴァルクも会ってみたいと言ってたし、落ち着いたら構ってあげてほしい。貴方も含めてね。」

「左様か。お言葉感謝する。」


 深海魚の渾名を持つ彼は、裏の世界では名を馳せ、普段表に出てこない。某国の王族に仕えては、片手間で後進の教育にも力を入れていると聞いた。

 預かった資料をめくり概要を読めば、成程、彼が出てきた理由に思い当たる。


 古代文化の魔道具、黒色の装飾美の腕輪…敗戦国王家の姫君が、ある種の奴隷にされたという忌まわしき逸話があるアミュレット。


 かの第五王女(少女)は、重度なシスコンで姉至上主義だし、やることはぶっ飛んでるし抉るし掘るし魔改造もするけど、人物としては一本筋を通す性格だ。

 その王女が嵌められたとなれば、慕う部下からすれば面白くないことであろう。


 ふと、妖精界に連れてかれたシャルと重なった。


 あの阿呆でおまぬけな妹がこのアミュレットを嵌められてたら…



 腸が煮えくり返る気分になった。



 折しも使者で向かってくるのは、自分の知り合い…ギルドで何度もやりとりのあった馴染みのある冒険者。

 高位ランカーにも関わらず、使い捨てにされるような小さい魔道具でも丁寧に扱ってくれる。大小様々な武器を使いこなす器用な傭兵で、比例して魔道具の使用幅も広く知識も深い。

 一度、何故そんな風に扱うのか聞いたら「ただの貧乏性だ」と笑っていた。

 面倒見がよくて、気風のいい人物。


 この早馬で、あの使者が動いているなら、リクエストされた自分も期待に応えなければ。

 あの国では汚い魔道具の使い方をするヤツらがいたな。今回の腕輪はそこからの流れだろう。ならば、いっそ根こそぎ掘って一網打尽にしてもらおう。

 他国のこととはいえ、ちょっと手伝いくらいは父上も目を瞑ってくれる。


「まずは資料を集めないとね。」


 王立図書館でインプットされた膨大な魔道具資料は頭の中にある。必要な時代、国、文化、文様の特徴、術式、脆弱性と補強…情報の抽斗から取り出す。

 彼が来たらすぐに取り掛かれるように、どんな方法を注文されても対応できるように、あらゆるパターンの術式を組み立てる。



 あぁ。土産も忘れずに用意しておこう。

イリ「エル、血が出てるよ?」

エル「え?!」

イリ「鼻血じゃなくて額だよ?」


ニヨニヨするアシュリー一家。

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