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8通目裏3 夢魔と首無しの騎士

8通目裏ラスト。ベスさん視点。

リリィさんのカッコカワイイを目指す回。

「いきなりフラワーガールとか聞いてないよぉー」

「シャル、大した仕事じゃないからいいじゃないの。」

「ベスさん!でも!200人以上招待客いるじゃーん!」


 久しぶりに目を覚ました人族の少女は、最後に会った時から少し背が伸びたものの、中身は相変わらずだった。



 ◆◆◆



 シャルが不在の間にアシュリー家で服飾部門に顔を出した結果、夫人から「やってみます?」と一任され、初めての妖精ドレスをリリィとともに調整する。

 同時にシャルの魅了魔法の自動発動や魔力の漏れがないかチェックする。

 魔力の器は穴が開くとなかなか直らない。魔力漏れが死に直結する魔族にとって、重要な問題である。

 幸い人族は魔族に比べて魔力量も少ないので、即死するようなことは滅多にないが、この子は特異すぎる性質なのできちんと管理が必要だ。

 万が一、全属性で垂れ流しになったら、やっぱり魔力枯渇で死ぬ。


 魔王様の魔石が発動しているおかけで、安定的な魔力の流れを感じる。

 妖精界から戻って変質してたらどうしようかと思ってたけど、妖精魔法側をチェックしているリリィの様子からも問題なさそうだ。


「リリィ、花冠に合わせてシンプルなエンパイアがいいわ。ドレスのフォームを変えてくれる?」

「わかった。ベス、装飾はどうする?見本のレースや刺繍があれば、妖精の布は取り込んで再現できるよ?」

「え?このワンピースってそんなことできるの?!」

「フィーリアのドレスとヴェールなんて、丸飲みされたわよ?」

「うーん。布のおばけか…カメレオンみたいな擬態のイメージ…かな?パーツ毎でも一度飲み込めば、形を思い浮かべ妖精魔法を発動させればできあがり。」


 苦笑いの多いデュラハンのリリィは、妖精族だが不吉の象徴とされるため、どちらかというと魔族寄りの存在だ。

 初めて会った時は、骸骨騎士のスカルと武具談義してて、話に入れなかった私はちょっと嫉妬した。そんな私に気づいて、今度は武装における装飾美の話題を入れてきて、「こいつやっさしーい」と思った。

 そのため、無骨な鎧の精が女性とわかったときは、「私は全ての女の子を可愛い服で包みたいのに!」と地団駄を踏んでたら、「ありがとう」って苦笑してた。


 きっと今まで心無い言葉を受けてきたのだろう。

 こんなに魅力的なのに!と悔しくて、スカルに愚痴ったところ、あいつは「そうですか?」と。乙女心がわかってない!と喧嘩になり、慌ててリリィが仲裁に入った。やっぱり優しい。


「ベスさんは人化して披露宴に参加されるんですよね?リリィさんは?」

「首無し鎧が披露宴会場に現れたら、祝いの席で悪趣味って言われちゃうよ?遠くから眺めるさ。」

「きぃ!悔しいわ!リリィはこんなに素敵なのに見た目で判断して!シャル、なんかいいネタない?」

「上から布を…だめだ、シーツおばけになっちゃう。うーん、鎧の形が変えられれば…」

「変えられるよ?」

「「え?」」

「…え?」


 鎧に宿った精霊は思念体の塊であり、鎧の部分は外せないけど形を変えられるそう。ただ、今まで『デュラハン=鎧姿』という固定観念が強すぎて、変えようと思いつくことがなかったようだ。


「黒の鎖帷子は?レース編み模様も作れます?」

「細い金属状…糸みたいな感じかな?チェーンメイルならできそうだ。レース編みは自信ないなぁ…彫ならなんとか。」

「えっと、体に沿った形で細かい網目もできます?ボディスーツみたいに…おぉぅ、カモシカの美脚!!萌え!」

「シャル、これはセクシーすぎるわ。鍛えられた美しいスレンダーライン。」

「この上にドレスを着せます?家にあるドレスでサイズ直し間に合うかな…でもこの美脚は隠したくない…!」

「普段鎧だからね。令嬢のドレスは裾捌きが難しそうだよ。気持ちだけいただいておくよ?」

「じゃぁ、軍服ドレス。」


 聞きなれないドレスの名前が出てきて、『生地はオックスさんのスーツみたいので、ボタンはダブル』から始まり、『リボンタイだと可愛くて、クロスやアスコットタイだとカッコイイ』に続き、『スカートはフィッシュテールにすると、前が開いてるから歩きやすく、後ろは長くて揺れが良い』と、ぼんやりしたシャルの言葉からスケッチブックにデザイン画を起こす。


「騎士風でカチッとしたメンズライクですが、インのスカートをレースやオーガンジーにすると女性っぽくて可愛いのです!」

「藍と白も良いけど…ワインレッドか臙脂で、薄いベージュの返しを手首や高めの襟に入れれば上品で全体の色味も軽くなるわ。」

「脚も黒金の細いチェーンメイルとブーツで…あぁ、時間が足りない…どうして寝てた私…」

「披露宴は午後よね?オックスからスーツ剥いで型を起こしても…ん~!妖精の布がほしい!」

「ベスさま、綿や麻なの?」「ベスさま、藍か臙脂なの?」


 リリィの後ろからひょっこり顔を覗かせたのは、リリィとともにやってきたノームの二人。シャルが寝ている間に、魔族に怯えていた二人もリリィを通して話をするようになった。


「綿や麻の妖精の布なら貰ってこれるの。」「藍や臙脂なら染められる子知ってるの。」

「妖精界なら時間の流れが違うから実現可能な件…ベス姐さん、やっちまいますか?」

「やっておしまい!アマナとシノブは妖精界に行って取ってこれる?サイズと色見本を渡すわ。」


 御菓子を渡し、「はーい!」と元気な返事をして、二人は妖精の扉へ入って行った。妖精の布が入手できるなら、パターン起しも裁断も縫製も手間がぐっと減る。

 今のうちに、飲み込ませる用のオックスのスーツを追い剥ぎして、ボタンやスカート材料を取ってきて…うん。行けそうな気がする。


「騎士服の上着見本なら、ヴァルクお兄様のお下がりないかしら?シエラ知ってる?」

「サイズダウンの式典用ならここに。あとスカート、帽子、手袋、リボンとタイもいくつか。」


 シエラのおかげで、オックス(スーツ)の平穏が約束された。


 ◆


 細いチェーンメイルをビスチェやコルセットのように覆ったリリィに妖精のドレスを着せる。祝いの席なので明るめの臙脂になった。さぁ、装飾とサイズ調整だ。

 ここで、ふふっと笑うリリィに気づく。


「リリィ、どうしたの?どこか動きにくい?」

「ううん?…ドレスを着られる日が来るなんて、思ってもみなかったからさ。」


 リリィは鎧だ。ずーっと鎧で、心は乙女だ。

 遠目で見るだけだったドレスを、テイストは異なれど、自身が着るなんて今朝まで考えたこともないだろう。でも憧れてた。よく、知ってる。


「なーに言ってんのよ?貴女の親友は魔族界の服飾士よ?これからも試着に付き合ってもらうんだから。」

「ベス…ありがとう。楽しみにしてる。」

「まっかせーなさーい。ガーターベルト試したいしランジェリーも着せるからね~」

「…お手柔らかに…」


 アマナとシノブが上着の裾を持つと、妖精魔法を発動させて私の描いたデザイン画のように広げていく。

 通常なら何度もパターンを書いて、試作して、やり直して、没になって実現できなかった山のような服たちを思い出す。技術力が足りなくて、布切れと化したものを握り、悔しいと思うことは何度もあった。

 人族が発案して、魔族がデザイン画を描いて、妖精族が材料を提供して、みんなで一緒に作っていく。

 この一着に夢が詰まってる。


「微調整はよさそうね。このまま仕上げまでやるわよ。リリィ、頭出して。」

「え。」

「生首だと怖がるから隠してるんでしょ。ネタは挙がってるのよ!出すもの出せや~」

「で、でも…首がズレたら…」

「そのための高めの襟でしょ。デザイナーなめんな。シエラ、髪結いは頼んでもいい?私はメイクをやるから。」


 デュラハンは首がないわけじゃない。持っているのだ。そして人族が生首を怖がると知っているので、リリィは最初から隠していた。

 ついでにそれが弄り甲斐のある造形というのも、ノーム二人のタレコミで把握済み。

 そろそろと首を出したリリィが、スポっとドレスの首元へ繋げる。

 鏡台の前に座らせ、メイクを…と道具を出そうとしたところ、ここで待ったをかけた人族がいた。


「ベス様、申し訳ございません。それは致しかねます。ベス様自身の支度時間が足りません。」

「えー?私はいいのよ、適当でも。今日はリリィ優先。」

「ベスさん、それはアシュリー家お抱え服飾士として紹介するのに困るのですよ。」


 シャルが仁王立ちで「出合えぃ!皆の衆!」と高々と宣言すると、部屋の扉からメイド達が一斉に入ってきて、あれよあれよという間に私は浴室へ押し込まれた。


「第一部隊、ベス様のマッサージを。首と肩を念入りに。第二部隊は預かっているドレスと装飾品の準備を。」

「第三・四部隊、リリィ様のマッサージ開始しました。騎士らしく非常に鍛え甲斐のある肌です!」


 私だけかと思ったら、ドレスの調整が済んだリリィも浴室に放り込まれたらしい。近くの部屋から「ひぇぇ!」と普段無双な武闘派妖精らしからぬ弱った声が聞こえ、ぶふっと吹いた。

 リリィは無害?な人族に無体なマネはできない性格だから、戸惑いながら初めてのマッサージを受けるだろう。親友の生まれ変わった姿を見るのが楽しみだ。


「ほんじゃ、メイドさん達。お言葉に甘えますわ。よろしくー」


 人族のマッサージは気持ちいい。美容オタクのエキドナが喜びそう。今度自慢しちゃお。



 ◆◆◆



「教会のバージンロードでシャルがフラワーガールを務めたら、教会の出口でアマナとシノブがフラワーシャワーをかましたようだよ?」

「それで招待客も花まみれなのね。魔族にとっては痒いエリアでよかったかも。花が似合っちゃうから余計モテちゃうでしょ~?」

「今日は初めてなことがいっぱいだからね。別の機会に取っておこう。」


 クスクス笑いながら、隣に立つ親友を見る。

 憂いのある顔とキリっとした軍服ドレスの組み合わせは、披露宴会場のお嬢様方を賑やかし、新婦とのツーショットを強請られまくっていた。

 フィーリアも男装の麗人として有名だったらしく、イリオスと三人で並ぶと黄色い悲鳴が更に盛り上がった。

 初のモテ期にたじたじなリリィは、早々に私のところへ戻ってきた。人族の欲は悪魔族にも匹敵するよね。


 妖精女王の標を持つシャルはというと、ご機嫌伺いの波に押し流され、ずっと寝てたためか体力が保たず限界が近い。

 息抜きに出たバルコニーで、今もブルーアッシュ髪の少年に絡まれて珍しくイラついてる。

 鼠捕り機のイリオスが主役で不在のため、美貌ホイホイで面倒気味の魔王様が、丁度良いとばかりにシャルを回収しに行くだろう。

 私達も楽しんだし、そろそろ休憩室へ戻ろうか。


「ベス殿、失礼する。隣のご令嬢を紹介いただいても?」


 声をかけてきたのはイリオスの弟でシャルの兄のヴァルク殿だ。

 式に合わせて数日前に帰宅して、私も数える位しか交流がない。でも、今朝も昨日も一昨日もリリィには会ってるのにな…

 私の隣には別人と思われても不思議ではない程、魅力大放出な親友がいる。

 うん。美しかろう。素敵だろう。存分に褒め讃えよ。


「リリィですよ?」


 びっくりした顔も、リリィの美脚に惚れるところも、確かにシャルの兄だなと感じさせ、慣れない賛美に照れるリリィの笑顔は、大変私を満足させた。


 苦笑でない彼女の笑顔は、とても素敵だから。

次回予告 場外乱闘

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