2通目1 楽しいアシュリー家。
前後編です。2通目は設定回なので、さらーっと流し読みで大丈夫です。
白い羊雲が流れる青空の下。館の庭に幼女様の声が響きます。
「そのすがたを…えーと、なんだったかなぁ…?」
木の棒を振り回しながら。
◇◇◇
拝啓 親愛なるお姉様。
国民的の花が咲きそろう春爛漫な日々がやってきました。
お姉様におかれては、花見で一杯、月見でもう一杯と楽しまれてることと思います。
不肖の妹は3歳にして異世界転生を体験し、金髪縦ロールにオリーブグリーンなつり目の美幼女様★に転職しました。この容姿だと高飛車系悪役令嬢っぽいですよね?
やはり、世間に求められているのでしょう。今日も練習練習!
「オーホッホッホッホ!ひざまづけ ぐみんども!あれ?ちがう? オーーッホッホ?ホッホー??」
部屋で姿見に向かい、左手は腰、右手甲を左頬にあて、仁王立ち高笑いポーズを決める、レーシィでリボンなふわふわワンピ姿の私、シャルロット・アシュリー。4歳。
今日もメイドさんが「高笑いがへたくそなお嬢様もかわいい!」と悶えてます。謎。
転生認識の際は五日程、夢を見てるとほわほわしてましたが、十日過ぎて「あれ?バーチャルじゃなくてリアル?」と再認識しました。そして、生前を含めた記憶がストンと脳に落ち、ぐわっと鷲掴みにされ圧し掛かった衝撃。
「ぐああー!めがぁ!めがぁー!!」
かぶりを振って倒れました。やってみたかっただけです。
「オカシイのは頭です。脳みそです。思考回路です。そこは目ではありません。」
駆け付けてくれたにこにこ笑顔のお母様がナイスツッコミ。モノの名前を覚える幼児教育ですね。
辿りつくまでの時間が膨大というのが、残念な妹と評される所以でしょうが、その後更に一週間程、受け入れたショックと記憶の混濁とで寝込むはめになりました。
いつも「あなたはぼんやりさんねぇ」と仰ってたお姉様の言葉が身に沁みます。がくり。
◇
そういえば、今世の家のことは前回書いてませんでしたね。今回は、環境も含めてお伝えできればと思います。
まずは、この世界について。
魔法も魔族も魔獣も妖精も人魚もエルフもドワーフもおばけだってアリアリアリのようです。
まとめるとSF(少しじゃなくてすごく不思議)。以上です。雑。
次。家族について。アシュリー家といって、侯爵家らしいです。
生前は身近に爵位への馴染みがないため、「へー、なんかえらい家なんだ」が感想でした。
今も「えらい家」しかわかりません。以上です。雑。
◇
うそうそ。家族は、父と母と年の離れた兄が3人います。遠い所に祖父母もいらっしゃるようです。
今世のお父様は、アシュリー侯爵家現当主様です。
アッシュグレーな髪をオールバックにして、スクエア型の眼鏡をかけたスタイリッシュインテリ系。私のオリーブグリーンはお父様からの遺伝でしょうか?少しタレ目です。
いつもにこにこ笑顔で「シャル、これはできるかな?」「これは何だろうね?」「どう使うと思う?」と聞いてきます。
先日も、体力作りのため庭に行ったら、見晴らしが良いと大木の上まで連れて行ってくれました。
「じゃ。自分で降りてこようね? そうだな。おやつの時間までに屋敷の部屋へ戻っておいで。」
颯爽と去って行きました。置いてかれました。
近くにカラスの巣群があったので、攻撃されたらたまらないと、すぐに急いで、しかし慎重に半べそになりながら降りました。カラスの巣って直径2M越える?複数の魔獣の巣?
庭に大木どころか森があって、魔獣が住んでて、そこに幼女様をポツンて…
「遅れたらおしおきだよー」
遠くからにこにこ笑顔で見てたから、『幼い子供から目を離さない』は正しいけど…?
お仕事は、外交っぽいことをやってるようです?よくわかりません。笑顔の奥がこわいので、普通に正面から質問したら、嫌な予感しかしません。ぶるぶる。
どこで何を仕掛けるかランダムですが、毎回色んな小道具を用意して、しかもさっと広げて、「この中から必要だと思うものを選んで使いなさい。」と準備が良すぎるとか、それどこにしまってあったんだとか、あぁ大風呂敷を広げるってこういうことねとか…色々こわくて聞けません。ぶるぶる。
◇
お母様は、私と同じ金髪を複雑に編み込んだアップスタイルで、青みのあるグリーンの目が魅力的な、ザ・貴婦人様です。いつもにこにこしてて、とても若々しく綺麗な方で『社交界の華』と呼ばれてるようです。
ただ、お兄様たちいわく。
『冷徹淑女』
『終の歌劇』
『鉄扇花』
何か拗らせた感漂う単語とルビ…!(痛)
………あ!思春期男子の母に対する恥ずかしくてツンなソレですね!
お兄様たちの背後に扇を開いたにこにこ笑顔のお母様が現れ、部屋から連れて出られた後、館中に不思議な物音と振動がありました。
そして、その日はお兄様たちを見かけませんでした。
お母様は優しくて、庭や温室や森で野花や植物の話をしてくれます。
「これは生のまま食べると神経がビリビリ痺れます。つまみ食いしてはダメですよ?」
「粉にすると苦味があるけれど、こちらと混ぜると無味になります。つまみ食いはダメですよ?」
「皮膚に触れることで体内に摂取されます。効果が表れるのは遅いですが確実です。つまみ食いはダメですよ?」
「あれは植物の魔物で…シャル?ゼリーっぽいと思ってもつまみ食いはダメですからね?」
……あれ?食欲魔人と思われてる?
それもこれも、時折私が腹痛や発熱で寝込むことがあるからです。
たぶん、おやつの食べ過ぎではないのでしょうか?生前同様、美味しいものへの欲は抑えきれません。
その時は変な痣や斑点がないか、お母様が体をチェックしてくれます。今世の医療は、回復魔法もありますが、治せないものもあるようです。
お母様の年齢?…淑女に聞くのは失礼でしてよ。ぶるぶる。
でもおっぱいは大きいです。四人の子持ちでアレは凄いのハリのあるおわん型Fカップ。将来の私の胸は大豊作に違いありません!希望。
◇
年の離れた3人のお兄様は、普段は家にいません。
普段は学院という所に入っており?、休息日も用事が多いようで、全員集まるのは年に数回だけ。さびしい。でも各々帰省時はいっぱい構ってくれます。
15歳年上の長兄は、私と同じ金髪にオリーブグリーン目です。
配色は同じなのに、長兄の方がサラサラ髪だし、時々影と光彩の入るタレ目だから、全体的に甘い顔立ちの魅了しちゃうよタイプ。しなやかな筋肉質でスラっとしてて、足なっがーと嫉妬してしまいます。
女子が列作る姿が容易に想像できる…
私のほっぺが好きで、にこにこ笑いながら頬をふにふに触って、ぶにっと挟んでタコ口にされます。わかるゥ~
あと、私の調度品やアクセサリー類に色んな仕掛けを施してくれます。解けないと開かないのが困り所で、使い所を間違えると悲惨に変わります。
「シャル、宝物箱にサプライズをしたよ。頑張って解いてね。今日中に。」
「シャル、これは仕込み道具といって、悪い奴が来た時に使うんだ。触ってごらん?ここに薬が…」
「シャル、このブローチは蓋が開くよ。暗号文を入れられるから、ちゃんと敵にわからないように使うんだよ?」
どんなトラップ趣味。ミミックボックスクリエイターか。
◇
13歳年上の次兄は『どちらかというとおじい様似』らしいです。
おじい様には会ったことがないのでわかりませんが、お父様よりだいぶ濃いグレーの髪なので、そこが似てるのかもしれません。私とお揃いのオリーブグリーンで切れ長のつり目。
黙って睨むとチビられる系の顔ですが、ニっと笑うことが多く、だいぶ愛嬌があります。ガッチリした戦士や格闘家みたいな体格で、見た目の通り力強く、家族の誰よりも大きいです。
よく抱っこしてくれて、そのまま高い高いやメリーゴーランド(抱えてぐるぐるまわすヤツ)をやってくれます。
「シャルは軽いな。ワイルドボアよりも高く飛ばせるぞ。ほら。たかいたかーい。」
庭で勢いよく上空へ飛ばされました。十代体育会系以上の溢れ出た力で。
「いつもよりも速く飛んでおります~」 ぴやあああーー
「これだけ飛ばしてギャラ同じ~」 ふおおおおーーーー
どこかで聞いたことある台詞を聞きつつ、ちゃんとキャッチしてくれますよ。地面スレスレでも。
でも、年頃のレディ(希望)を猪モンスターと比べるのはマナー違反でしてよ!
しかし、どう見ても『体力おばけ』か『脳筋おばか』なのに、娯楽用戦略ゲームは滅法強いです。当初力押しで来たと思ってたら、いつの間にか罠張って、絡められて、ジ・エンド。
「兄上はもっと強いぞ? 対親父戦に至っては、勝率3割。ボコボコにされる。」
勝率0.5割に届かない私はどうしたらいいですか。
◇
10歳年上の三兄は、『どちらかというとおばあ様似』らしいです。
おじい様同様お会いしてませんが、青みがかったグレー髪なので、やっぱそれ?
青みのあるグリーンの目と、そろそろ少年の域を出るかどうかの華奢な肢体に、影の気配をしたアヤシイ雰囲気があります。でも脱ぐと凄いんだって~
年頃なのかちょっと独特?ですが、面倒見のいいお兄ちゃんです。
「細身でもシャルにこの剣はまだ早いよ?氷が出るし。はい。ダガーから始めようね。」
「雷神のハンマーならシャルに似合いそう。でも振り回せないか。いつか不敗の剣も持てるといいね。」
「聖 槍もいいけど、オーディンの槍も憧れるなぁ。シャルもそう思わない?」
……厨二病?
この前会った時、片目に包帯を巻いてたので心配です…
◇
なかなかデンジャー要素がチラホラ含まれてる気がしますが、異世界の普通はこんなものでしょう。
流石ファンタジー、SF(少しじゃなくてすごく不思議)。
あ、長くなってしまったので続きますね。
→ つづく。