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7通目別紙3 花送り

番外編小話。フィーリア様視点の隣国その後な一幕。

 魔族方が帰還されて数カ月。隣国王宮の新しい年を祝う夜会にて、薔薇の乙女達と再会した。


「ごきげんよう。レオーネ様。先の夜会以来ですね。」

「ごきげんよう。フィーリア様。『花送り』楽しかったですわ。」


 『花送り』とは未来の妹がリベンジマッチで企画したプチイベントで、夜のお舟遊びであった。

 元はイリオス主催の夜会で、このイベントのために光る薔薇を纏った令嬢が一同に会すると噂になり、希望者が続出した件でもある。

 当日の令嬢たちはというと、


「フィーリア様、今回は、その、おばけですの?」


 先のトラウマに怯える令嬢と一部紳士もいたが。



 ◆◇◇



 婚約者イリオスの元に到着して、にぎやかな魔族方と一緒に『特別な夜の語り部会』を支援してから二カ月程。

 普段なら警戒するべき魔族達の不在を、古城が静かすぎて逆にさびしがるシャルを慰めること一カ月。

 開催した夜会には、先達て薔薇を得た12の招待客は『光る薔薇』を身に纏い、他の客の羨望の視線を集めていた。


「フィーリア様、その、今宵の『花送り』とはどんな内容ですの?」

「シャルの話では、夜の湖に舟を浮かべて、光る薔薇を流して禊払いのようです。ほら、彷徨う騎士と嘆きの令嬢は悲恋でしょう?」


 別に『花送り』には逸話があるわけではない。元々は彷徨う騎士と嘆き令嬢も、古城が砦だったという史実から妄想を膨らませたシャルの創作である。『花送り』は、今日の満月で光る薔薇の灯が消えるということで、それに合わせてストーリーとイベントを練ったようだ。


「まぁ、鎮魂の儀ですね?よかった。あの話がハッピーエンドでないのが淋しく思ってましたの。」

「フフフ。でも今日の夜会は『薔薇の乙女と騎士』が主役ですよ?先の戦利品を皆さまに見せつけてください。」

「あらあら。わかりましたわ。任せてくださいまし。」


 鈴のような笑い声を浮かべながら薔薇の乙女達は、騎士の元へと戻って行った。二人揃った姿を見ると、やはりそこにある笑みが一番美しいと思う。


 ◇


 夜会中盤になり、シャルのプチイベントの挨拶となった。


「皆様、今宵集まってくださいました、選ばれし薔薇の乙女と騎士に盛大な拍手を。」


 『花送り』の会場はシャルが森で見つけた小さな湖で、薔薇の乙女は騎士にエスコートされながら、舳に光る薔薇の付いた特装仕様の小舟に乗りこむ。


「後程、灯篭とともに舳の薔薇も水に浮かべます。こちらは騎士様役の特典ですよ?」

「灯篭を流す時は、健やかさや安らぎ等、お祈りしてもいいかもしれませんね。」


 シャルと共に一般招待客にも灯篭を配る。赤、白、黄色、緑、青…様々な彩の灯篭を持って、招待客らは湖へと漕ぎ出した。予め湖面にも灯篭を流しており、舟も灯篭も水魔法で制御すれば、暗闇でぶつかることはない。


 静かな湖にゆったりとした音楽が流れる。静かに揺れる水面には、大きな満月と彩豊かな灯。

 しばらくは各舟ごと歓談の時間だが、冬の気配を微かに覗かせる風に、はたまたお化け屋敷のことを思い出してか、静かにお互いの温もりを分かち合ってるようだ。


 ゆらゆら。


 穏やかな時が流れる。


 ◇


 シャルの小舟が中央へと踊り出た。そろそろメインディッシュらしい。


「選ばれし薔薇の方々、御手持ちと舟の光る薔薇をお持ちください。」


 光る薔薇のブーケを頭上に掲げ、シャルが薔薇取得者に合図を送る。騎士と令嬢が光る薔薇を持つと、シャルが水の上にブーケを解き、薔薇を浮かべるのに倣い、各々湖面へと流しだす。光る薔薇が湖に広がった。

 他の参加者も与えられた灯篭を水面へ流し、安寧の祈りを捧げる。

 さて、ここからはシャルの頑張りだ。


「イリオス、シャルの水魔法は大丈夫そう?」

「30足らずの薔薇を制御できなかったら爆笑だよ。練習の結果が楽しみだ。」

「他の灯篭も舟も問題なさそうだな。使用人達の魔法操作もなかなかだ。自然に見える。」

「カモフラージュができなければ、アシュリー家の使用人は務まらないからね。」

「灯篭の火魔法はもう少し抑えめの方が薔薇の光が引き立つか?」

「そうだな、調整しよう。担当に合図を。…フィーリア、こんなものか?」

「あぁ、いい感じだ。」

「さぁ… シャルの本番だ。」


 シャルが湖に手をつけ、魔力を注ぐ。

 水面に揺蕩う光る薔薇は、ゆらゆらと静かに動き、やがて湖の淵から二列に並び、光の道を作った。

 そうして、ポゥ…とやや明るめに輝きだす。


「あ、あれは…?!」


 小さな悲鳴が上がった先には、湖に浮かぶ赤い髪の令嬢の乗る小舟。顔を伏せ、泣いているように見える。

 招待客の舟の間をゆっくりと通り抜けたその小舟は、光の道の先まで流れていき、そこで漂いはじめた。

 シクシク シクシク…

 ガサ…ガサ…

 一方、光の道の反対側、城に近い湖畔の陸地。葉がすれとサクっサクっと草を踏む音がし、森の中から骸骨騎士が現れる。


「きゃぁ!」

「ひぃぃ!」


 追い掛けられたトラウマ客や初見の客が慌てふためいたり悲鳴を上げるので、騒いで転覆しないように舟を制御する。

 皆が息を飲む中、骸骨騎士は一点を見つめて湖の上に立ち、光の道をゆっくりと歩く。水面の光る薔薇は、騎士の影を追うかのようにゆらゆらとついて行った。

 やがて、騎士は赤髪の令嬢が乗る小舟に近づき、傍らで膝を折る。


『 ――― 』


 騎士の存在に気付いた令嬢が顔をあげると、騎士は令嬢の手を取って、舟の上に立ちあがり、向かい合うと、一本の光る薔薇を差し出した。

 令嬢が光る薔薇を手に取り、見つめあう。

 そして、二人が抱き合うと淡い光が包み、骸骨から生身の姿となった。


 物語のエピローグ到来である。


「わぁぁ…!」


 ぽわわ…

 招待客の感嘆に応えるかのように、二人の舟の周りを揺蕩う光る薔薇が、一斉に輝いたかと思った瞬間。

 パリンという小さな音とともに、光る薔薇は粉々になり、水に、空に、溶けて消えた。


 月明かりの元、光の溶けた後の湖には、誰も乗っていない小舟が一艘、漂っていた。


 ◇


「『花送り』楽しかったですわ~!」

「本当に。骸骨騎士が出てきたときは、また追い掛けられるのかと思いましたけど…」

「ドキドキしましたね!それにしてもドラマチックでしたわ~~」

「やはり恋物語はハッピーエンドが一番ですわね!」


 きゃぁきゃぁと興奮冷めない令嬢方と、今度は己の悲鳴が出なくてよかった感もある紳士方。それでもお互い寄り添っている姿に、シャルのリベンジマッチは成功と言えよう。

 イリオスは紳士方に何やら新作らしき手土産を贈ったようで、シャルとお見送りをしていると「今回も期待してます」「がんばります」と紳士の熱い礼も貰った。


「イリオス、今回は何を贈ったんだ?」

「薔薇レースのベビードール、らしい。」


 …シャルセレクトについて、淑女教育の話し合いが必要なようだ。



 そんなシャルだが、微妙に青い顔をしている。体調が悪いのかこっそり聞いてみると、赤髪の令嬢役と彷徨う騎士役を、使用人が化けて出てくる演出についてだった。


「使用人が化けてますから、骸骨騎士は生身の騎士姿で登場して、舟で移動するはずだったんですよ。でもって、赤髪の令嬢と舟で退場して城方面の森へ消える予定で…あと、最後らへん、光る薔薇を制御できませんでした…」


 ……あの骸骨は?



 その夜、「ぴゃぁぁ…おばけでたぁ…」とベッドで丸くなってぶるぶるするシャルを見ながら、シエラが「あれ、スカルさんとベスさんの特別出演です。」とこっそり裏を教えてくれた。

 セクシーランジェリーの件で二人が来てたらしく、イリオスと使用人たちと一緒に「おばけに怯えるお嬢様もかわいい!」と喜び悶えてる。

 魔族方と仲良しこよしをしまくった小さな少女は、いないおばけに怯え、その夜はケルベロスを放さなかった。



 ◇◆◇



 新しい年を祝う夜会で会った薔薇の乙女達は、どうも同じことが起きたらしい。それを知ったのは思い出話の後だった。


「『花送り』は単発企画にも関わらず、参加された皆様から好評いただきまして。シャルも喜んでおりました。」


 若干青ざめてぷるぷるしていた未来の妹は、翌日、イリオスにネタ晴らしをされるまで城内で愛でられていた。

 すれ違うメイド姿のベスや従僕姿のスカルに気づかないのもどうかと思うが…二人とも幻覚魔法を使ってなかったぞ?


「フィーリア様、きっと今年の秋も噂になりますわよ?」

「あら?ではレオーネ様も?」

「ふふふ。そうですわ。そちらも?」

「えぇ。」


 何が起きたのだろうか?疑問を浮かべる私に、令嬢方は同じような顔つきで、いたずらっぽい笑顔を見せた。

 代表してレオーネ様が耳元でこっそり教えてくれた。


「授かりましたの。薔薇の子(ローズベイビー)の誕生ですわ。」



 この年の初春は前倒しの結婚式が続出し、初秋からベビーラッシュが続いた。

 生まれ日から数えれば、未婚時代に…と眉を顰められそうなことだが、その中に薔薇の乙女たちが多いことから、「不思議な薔薇が授けた魂」「薔薇の加護の子」「勇猛と慈愛の証」と話題になり、親となった騎士と令嬢たち一族には「お世継ぎ万歳!」と盛大に感謝された。

 でも、それはベビードールの仕業だと思うけどね。


 シャルの計画にそこまで含まれていたか?というと、本人は「たなぼた」と考え及んでなかった様子。


「ロマンチックなシチュエーションに、悩殺ベビードール装備で行けば、まぁ、成るとは思ってました…」



 正座させた少女と淑女教育について、膝を詰めて話し合った。

セクシーランジェリー・シャルはコウノトリ業も応援します。

そしてエコ怪談話も無事成仏(吉報)

私のパソ子さんも成仏しそう(悲報)

次から本編8通目に入り隊(希望)

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