7通目7 またねぇ?
長かったお化け屋敷編7通目ラスト。
期間限定メニュー『ちびっこの桃ほっぺ』はそろそろ旬の名残。
どこまで書いたっけかなー
◇◇◇
光る薔薇獲得者から噂が広まり、『シャルロット・アシュリー』の名は社交界の話題株となりました。
獲得率は全体で4割程度。お守り鈴購入でクリアが殆どで、闇牢脱落者が続き、休憩室で盛り上がっちゃった隊と、パニック者とチキン様でした。
闇牢脱落者と休憩室盛り上がり隊の中でリベンジ希望者は、イリオスお兄様と相談して、後日『特別ルート』で再チャレンジしてもらいました。勿論、『特別料金』が発生します。
そのため、『お守り鈴』も『休憩室料』も『チキンルート通行料』も『特別チャレンジ権』も『ランジェリー顧問料』もがっぽがっぽです。まにー★うひひ。
「フィーリア様、イベントの収支出ました。真っ黒にできたので、魔族の皆様に感謝の印を提供したいです。」
「シャル、問題修正してからは『夏休みの宿題』は突破できそうだね?」
「むぅ。『光る薔薇を寄越せ』の羽虫が煩いです。城へ来る分は丁重にお帰り頂きますが。魔族さんたちと街の視察中に来る分がめんどくさいです。水を差されて楽しめない。」
話題株から注目株になるよう、お化け屋敷をブラッシュアップさせたり、合流したフィーリア様(男装の麗人)とお勉強したり、猫耳カチューシャから派生した小さな猫グッズ事業(ランジェリー含む)を立ち上げようとしたり、魔族さんと仲良く人族の勉強や実際に街へお忍びしたり、補習と追加課題が入ったり…いろいろやってます。
再会時、フィーリア様から流れるようなアイアンクローをかまされた私。それをにこにこ眺めるお兄様が「せっかく薔薇の作り方を見せてもらったんだ。自分なりに調べてみなさい。」とさらりと追加課題。
夏休みの観察日記か。いや自由研究か。こども電話相談室はどこだ。ところでフィーリア様、こめかみが痛いです。
魔族さんたちは念願の人族の街視察が叶って、キャッキャしてました。人族スタッフがフォローについたもののハメを外す魔族さんもいて、流れるようなフィーリア様の各種スープレックス。
その綺麗なアーチを眺めていると、かまされた子をセバスさんがぽいっと亜空間に入れる。古城の厨房にてコック長が可愛がってあげるらしい。
コック長も本国・隣国のアシュリー家両シェフに、実技を直接指導してもらえると大変喜んでごはんを作ってました。それを食べる魔族さんたちも喜んで…幸せの連鎖ですね。
でも、時々視察中に隣国貴族のおばかさんが来て、とりわけお酒物色中(シャルはこどもだから飲めないよ!)の襲撃は、地酒希望の魔族さんたちの怒りを…ケロちゃんと一緒に追っ払います。むん。
◇
そんな日々も秋の始まりには一つの区切りが来ました。
ある夜、「応接室に来客です」と困り顔のセバスさんに、アストさんとともに呼ばれて入ったところ。
「はじめまして、シャルロット様。私、魔王直属の配下を務めさせていただいております。ミノタウロスのオックスと申します。」
折り目正しい挨拶とともに名刺を渡してきたのは、立派な牛の角を持つ青年ミノタウロスさん。顔は人面で角だけ生やす部分人化中らしく、何故かスーツにネクタイをピシっと決めてます。
手元の名刺には「黒家・ゴズ・オックス」と書いてありました。漢字?
「くろいえじゃなくてクロゲ…黒毛?ごず…どっかで聞いたことある…?牛?あれ?」
「おや、お嬢様は漢字をご存知ですか?異界の文字を理解できるとは優秀ですね。」
「へ?」
…そういえば、どうして魔族さんたちの文字が読めるんだろ?転生サービス?悪役令嬢特典?あ、翻訳魔道具のおかげ?
考え事をしてたら、応接室から逃亡を図ろうとしたアストさんを、ミノタウロスさんことオックスさんが力技で封じ込めてます。凄い。あの長身をやりこめるとは。
「魔王様!逃げないでください!今日という今日はお戻りください!」
「いやだ。まだニシンの酢漬けが待っている。」
「持ち帰っていいですから!決済待ちの書類の山も待ってますから!」
駄々をこねるアストさんを説得する姿は、正に骨を折る作業のようでした。ボキっと音が聞こえそうです。セバスさんが私の両耳を抑えて防音魔法かけてるから聞こえないけど。比喩じゃないのかぁ…
お。アストさんがいなして…持ち上げパワーボ…あぁぁ!それは痛いー!
思わず目を手で覆いますが、気になって指の間から見て…絞めてる絞めてる!活きの良いさそりー!
絶対マネしないでください。大事なことなので二度言います。絶対マネしてはいけません。
◇◇◇
「アストさん、セバスさん、魔族の皆様、今回の滞在はいかがでしたか?」
「楽しかった。ザワークラウトもセロリの甘酢漬けも美味しかった。」
アストさんのお仕事はある程度任されてきたようですが、いつまでも空けておくわけにはいきません。一度滞在を伸ばし、更にもっと伸ばそうとしたアストさんへ催促の連絡が届き(無視してたらしい)、オックスさんが直接回収に来て、魔族の暮らしへ戻ることとなりました。
「アストさん、セバスさんの空間収納に漬物いっぱい入れさせてもらいましたから、向こうでも食べられますよ?」
「シャル、何故私に渡さない?好物だと知ってるだろう?」
「だって、すぐ全部食べちゃうじゃないですか。仕事の合間に摘まむくらいにしないと塩分過多になります。」
「むぅ。シャルはいじわるだ。」
「そんなことないですぅ~。またお仕事頑張ってから来ればいいんですよ。本国シェフが研究してるから、そのうち新しい漬物も食べられそうですよ?」
「…わかった。また来る。」
相変わらず美丈夫のアストさんは、三日どころか何日見ても飽きない美を振りまき、「ド迫力 美人の顔面 はんぱない」と私が呟くのが日常でした。
一応美貌慣れはしましたよ?最初のうちは同じ部屋にいるだけでもドギマギしてましたが、今では抱っこされなければ平気です。間近で金の差す赤眼にじーっと見つめられると、機関銃で撃ち続けられる気分を味わいながら、心臓バクバクでうーうー言ってしまいます。正に美の兵器。
だめだよ。私の分の漬物はあげな…うっ…一個だけだよ?
そんな様子をセバスさんや魔族さんや人族スタッフたちも、にこにこニヤニヤ眺めるという謎風景。
「ケロちゃんもありがとうね。楽しかったよ。」
「くぅーん…」
ケロちゃんの三つの頭を順番に撫でます。お忍びするときは一つの頭になるよう訓練したので、街に行った時は、まんまミニチュアダックスフンドでした。レストランの『ペット入店お断り』の看板を見るまでは。
怒って解けそうだったので、屋台で串焼きを買って一緒に食べました。いい思い出。
あと薔薇狙いの虫退治も一緒にやってくれました。いい思い出?
◇
「シャル、これを。魔族一同から礼だ。」
「何ですか?…ねこ?のぬいぐるみ?ポシェット?あ、リュックにもなる。」
「ニャンコロボッの〇ジゲンポケーなるものを再現してみたらこうなった。色々詰めてある。」
「…確かに猫の形の魔道具に異次元空間のポケット…すごい収納魔法…」
白猫ぬいぐるみで大きめのポシェット?は、ショルダーが取り外しできてリュックにもなるよう作られてます。首にはお化け屋敷で使ったリボンと鈴。
「ありがとうございます。大切にします。」
「あぁ。そうだ、最初に渡した魔石のペンダントは出せるか?」
あ。魔族語翻訳用に貰ったペンダントを着けっぱなしでした。赤い色艶も良く純度も高いし、アストさんの魔石だから貴重品でしょう。返却や管理義務があるのかもしれない。
そう思い、いそいそと取り外そうとしたけれど、髪の毛がひっかかった?チェーンが外れない。髪切ったろか。「はさみー」と言ったらみんなに拒否されました。なんでだ。
「アストさん、チェーンが外れないんです。魔石だけ外しますか?」
「む? あぁ、そのままでいい。トップ部分だけ表に出してくれ。流石に令嬢の服に手を突っ込んだら、イリオスに殺されるからな。」
イリオスお兄様でアストさんが斃せるかと言われて、流石にそれは無理…よね?と迷うけど、一撃必殺は入れられそう。お兄様、エグいやつも得意だから。
首元からチェーンを引いて、服の中から赤い魔石のペンダントトップを表に出し、私の温もりが移った魔石を撫でる。いつも肌身離さず持ってたから、この二カ月間のお守りだった気がします。
背の高すぎるアストさんはチェーンが短いと思ったのか、左腕一本でいきなり私を抱き上げると、右手でペンダントトップを持ち、ぐっと顔を近づけました。
チュッというリップ音がして、徐に魔石に唇を落としてます。ポゥっと淡く光る空気。
……ご想像ください。
面前15cmで行われた美人の犯行を…!
現場が近い!近すぎるぅ!
「魔力の補充をした。これで10年くらいは保つ。いくつか魔法も付けた。役に立つだろう。」
目の前の出来事にあぐあぐと声にならずにいたら、アストさんが私の顔をじーっと見てる。
ちょっとまって。
似たのこの前あった。あったよ!
あっ…
ぺろ。
「…むぅ。似てるが甘くはないか。でも甘い香りがするな。」
旬の最後のほっぺたをペロリと舐め、くすりと笑うと、ストンと私を地面に降ろしてくれました。
……桃かな? 桃と間違えたのかな?
「ペンダントを着けてろ。命の盾になる。」
そう言い残して、颯爽と去って行く姿も様になる。
なんて野郎だ。なんて破壊力だ。
自分の顔がどういう出来かわかってるのか?顔面が美貌の兵器なんだといつも言ってるじゃん。
それが、こんなとこで。みんないて。あんな。そんな。うわあああああ
◇◇◇
出会った時と同じく真っ赤な茹でダコになって、ふわふわと「またねぇ?」と呆けながら見送る私を見て、「進歩のないお嬢様もかわいい!」と悶えてるシエラさんは、今日も平常運転です。
乱筆乱文にて、妖しい夏のデイ&ナイト(健全)が伝わったかと思います。
大人の恋は知らないけどドキドキが凄いとのたうちまわって転がってる横で、「わん」と鳴いて何故か残ってるケロちゃんがいますが、私は今日も元気です。
末筆ですが、私に期待できない分まで、お姉様の益々のご活躍をご祈念申し上げます。
かしこ。
果たしてこれはほっぺにちゅに入るか。
R15指定の健全な6歳児なので、ね。まだ、ね。
この後番外編。




