1通目 文明開化の音がしない。
テレビの前のみんなー?おっはよー!
さ~ぁ、今日も一日がんばろー!
そんな声が似合う感じで読んでいただけると助かります。
皆もすなる異世界転生というものを、私もしてみんとてしたら、本気で転生されました。
「そ、そ、そんなバナナ!」
ギャグセンスが『ぶっちぎり化石疑惑』搭載のまま。
◇◇◇
拝啓 親愛なるお姉様。
初春の候、寒い日の中に緩やかな温かさを感じる、新しい季節になりました。
お姉様におかれては、「苺大福も桜餅もどちらも選べない!」と楽しまれてることと思います。
「ばななだけにバナナケーキとは、しかも、さっそうととうじょう。これニクい。」
遠く離れた地方都市の片隅に暮らしてた妹は、何がどうしてこうなった?と、豪華な部屋で幼女様になってます。なるほどわからん。
ふわふわ~とした後、誰かの声が聞こえて、はっと気が付いたら、イマココ。
部屋の真ん中にある、大きなソファ~でうたた寝をしてたようで、口元に垂れたヨダレ跡をくっつけた、ものの見事な阿呆面をかまし、ひとしきり混乱した後、一周廻って「あ、夢か」と思い至り、配膳中のおやつを待機中。はよこいはよこい。
ヨダレ跡はメイドさんが拭ってくれました。ありがとう。
メイドさんが差し出した鏡でヨダレ跡がないか確認しようとしたのに、鏡面に映るは幼な顔。つい「ふぉぉ…」と気の抜けた感動をしましたのは、所謂『ご愛嬌』というやつです。
普通は「なんじゃこりゃー?!」と叫ぶ所ですが、先の感動の後、そこまで考えが至るまでに時間がかかり、完全に叫ぶタイミングを外しました。がくり。
年もだいぶ若く、姿形は美しくなれど、生前と変わりない阿呆は健在ですので、中身の残念さは続行中のようです。
生前、お姉さまの「あなたの素朴な顔芸も大好きよ?」と笑う声が聞こえた気がします。
あ、おやつきた。 まぐまぐ。
「ううむ、ナッツがきいていて、じつにこうばしい。」
子供一人に対して大きすぎるテーブルに、おやつのバナナケーキ(幼児用サイズ。おかわり)と、いくつかのフルーツが並び、三人掛けのソッファ~に座った私は、ミルクティーで至福のひとときを味わっております。控えていたメイドさんたちが、大人ぶった私を微笑ましく眺めております。
大人ぶってますが、残念ながら滑舌は幼女仕様のようです。ひらがな語。
◇
さて、簡単に現状をお伝えするのならば、おそらく『たぶん異世界』に『転生』なるものをしたようです。
生前の好きな所に手が届く古い六畳一間押入れ付のマイルームは消え去り、天蓋付のベッドや精緻な彫刻が施された家具や割ったら賠償金が心配な花瓶が並んで、どこのヨーロピアン?なゴージャスな部屋におります。語彙力足りなくてすみません。これがせいいっぱい。
光の玉がふわふわ浮いてるので、あれは魔法か何かでは?と推測します。なので『たぶん異世界』です。もし中東風だったら、『スーパーアラビアン!』と叫んでたに違いありません。
今も窓に映る私の姿をチラ見するとそこに現れたのは!
パツキンの縦ロールの長い髪をツインテにしてリボンで結び、
ちょっとつり目なオリーブグリーンの瞳、
桃肌なほっぺと、それをペタペタと触るもちっとした小さな手、
細かいレースを施した引掛けたり破ったら怖いドレス?ワンピ?を着た幼女様。(推定3歳)
幼女で縦ロールってどうなの?と思いますが、たぶん天パーですのでご容赦ください。そして前髪の一部があほ毛みたいにぴよんと立ったまま直りません。アンテナか。
中身アラサーとはいえ幼女様ですので、髪や服に施されたピンクや白の大きめのレィスィーでフリィル付リボンは、似合ってるから許してください。イタイってわかってる!ごめんなさい!
「きせつのフルーツね。しんせんなしゅんのものをあじわえるとは、これまたぜいたく…」
とりあえず、キラキラ幼女様に転職?しましたが、ビジュアル的には……はっ!!
貴族か豪商の娘さんに転生とは、これはまさしく『悪役令嬢(希望)』に『転職』で、華々しい『栄転』ではないのでしょうか?!そうと決まれば、まずは情報収集。
「ねぇねぇ、メイドさん(A)」
「はい、シャルロットお嬢様」
「このおうちのせいしきめいしょうって、なんだっけ?」
「アシュリー侯爵家でございますよ?」
はい。『マイネームイズ シャルロット・アシュリー』だそうです。
……質問文言に無理があるって!イタイって(以下略)
爵位云々はわかりませんが、周囲を見る限り裕福な家庭かと思います。広い部屋、豪華な家具、窓から見る景色は美しい庭と森、側に控えた3人のメイドさん。調度品のセンスも良いし、教養の行き届いた家柄かと。
成金もいいと思います!お金大事!成金と言われる程、稼げる才は天からのギフト。生前も通帳の増える数字を見てグフグフしてた姿を覚えてます。ぐひひ。
「ねぇねぇ、メイドさん(B) シャルはいまいくつだっけ?」
「御年3歳になられました。次の誕生日プレゼントはまだ先ですよ。」
ビンゴ!3歳確定。
質問文言に無理が(再び略)イタイって(やっぱり略!)
生前『幼女先輩は尊い!』とちびっこスキーの目に狂いはなかったようです。これでもちもちほっぺも、かわいいぽんぽこりんおなかも、セルフで愛でられます。正義!思わずガッツポーズ。
「シャルロットお嬢様? 本日のおやつはいかがでしたか?」
傍に控えていたメイドさん(C)がニコニコと声をかけてくるので、思わずほっぺに手を当てて全力で美味しいのポーズをしてしまった私は、それまで体が覚えていただろう子供の条件反射に、つい引っ張られてしまったのだと言い訳させてください。
美味しい事は事実であり、これは正しい表現であり、あのポーズがかわいい。イタイって(更に略!)
ちなみにメイドさん(C)は、「お嬢様、かわいい!」と悶え喜んでおりましたので、サービス精神満載だと褒めてくれてもよろしいのですよ。げふんげふん。
「とってもおいしかったわ! わがやのりょうりにんはうでがいいにょね!」
ちょっと噛みました。イタイって(もう許して略…!)
でもやっぱり「お嬢様、尊い!」と悶え喜んでくれてるので、結果オーライ?3歳児はこんな感じだったはず。イヤイヤ期なんでなんで期の年頃ですから、そこまでおかしくない、はず?
甘めのミルクティーを飲んでふぅっと息を吐きます。幼女様ですから、無糖な大人の味より、果物ジュースなど甘味のあるものを美味しく感じる舌のようです。
オレンジジュース飲みたいなー クリームソーダも飲みたいなー お酒が飲めないのは残念だなー。下戸だったけど。
◇
それは、ふと、突然に思い立ちました。
せっかく転生なるものをしたのです。生前の記憶や知識を活かすべきです。
どうして『異世界チート』なるものをせずにいられるでしょうか?いや、すべきでしょう!
「むー、そうしたら、なにからやろうかしら…?」
目の前のバナナケーキを見て、生前の記憶を考慮して…
王道グルメチート、いいな…
いやいや、せっかくの美幼女様だ、美容チートとか…
『ブラッ●ジ●ック』で医療を発展させ、『白い巨●』の総回診シーンを再現…
もしや魔法も使える?そしたら生前の文明の武器たちを世に広めた美人実業家として…
遭遇するは残酷な現実。
①グルメ
生前は適当料理しかできない残念仕様。コン●メ、和風だしの素、中華味の素、常習者。ジャンクフードも大好き。ペ●ングもカップ●ードルも愛してるゥ!
魚を三枚に…卸せません。やったことなかったですね!ええと、出汁!かつお節!…削り器でカコンカコンやってるのを見たことあるだけー。味噌?醤油?みりん?どうやって作るの?
もっと初心者的にクッキー?ホットケーキミックスは…?BPの膨らましってどういう仕組み?
→ 当然きちんとしたレシピなど覚えているはずもない。
②美容
ドラッグストアで適当に買ったプチプラコスメ愛用者だった気がする。日常メイクぐらいは多少やってたけど、ゆーちゅーばー並の詐欺メイク技術皆無。
リップに蜂蜜がいいのは聞いた気がする?あとオリーブオイルがメイク落としで使えた…?基礎化粧品?化粧水の作り方?ヘチマがどうたら言ってた?気がする??キュウリだかレモンをほっぺに貼るといい…いやシミになるだかなんだか???
BBクリーム? 素人が作れるかぁーーー!!
→ 当然コスメの作り方など知るはずもない。
③医療分野
漫画やドラマで見た…気が?一部分だけ。絵柄や器具の名前だけ覚えて…る?…オペ室で医師が両手を掲げて「メス」って言ってる姿しか思い出せない…
も、もっと基本!包帯や傷薬なら、もうこの世界にあるだろうなぁ。絆創膏もどきなら作れるかな?でも、あの皮膚を傷めないような貼って剥がせる接着量とか、皮膚を呼吸を止めないようにする仕組みとか…?
→ 当然高度な薬の成分や調合等、わかるわけがない。
つまりです。
「ぐーぐるせんせいがいないとなにもできないーーーーーーーー!!!」
いえ、ヤッフー先生でもいいのだけど?
結局文明の武器が無い私は、詳細を知ってるわけもなく、「そんなものもあるよね~」程度の表面的な情報だけでは、無力!
一部の情報があっても、それを再現する技術は?器具や仕組みを説明する能力は?
高度成長を果たした文明からの贈り物に慣れて、甘えて、依存してきた者は、そこに至るまでの経緯や根本的な原理を空で説明できる程、豊富な知識を持ち合わせていません。
結論。
転生スゴロク。
『技術無し、知識無し、チートも無いし、華々しい人生も無い。
振り出しで3回休み』
「やっぱりポンコツなんじゃんかーーー!!」
豪奢なおうちの広いお部屋の真ん中で悲哀を叫びました。
イタイってわかってるってばぁ…!ごめんなさいぃ!!
頭を抱えてみゃーみゃー言ってる私を見てたメイドさん(C)は、「ご乱心のお嬢様もかわいい!」と悶え喜んでおりました。通常運転ですか。
乱筆乱文にて、私の『異世界チート、むり!』な嘆きが、いくばくか伝わったかと思います。
部屋の真ん中でorzポーズをかまし、床ダンダンで嘆く私。
「せめてコウリャクボンとか、セッテイシリョウシュウとかないの?!このせかいの!」
「はい!お嬢様!」
喜々としたメイドさん(C)が、子供用の図鑑と世界地図をくれました。ありがとう。…でも文字が読めるけど、微妙にわからない単語ばっかりよ?(読めないとも言う)
阿呆面でもかわいいと喜んでもらえて、精神年齢的には落ち込んだりしてますが、私は今日も元気です。
末筆ですが、私に期待できない分まで、お姉様の益々のご活躍をご祈念申し上げます。
かしこ。