表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/69

7通目5 ある紳士と淑女の話(後編)

引き続き5000字クラス投下。ラブおまけの大匙一杯。

 あの少女の言葉が思い出された。


『魔除けの鈴は、お守りです。』


 あの言葉が真ならば。


 

 手を離した。



 ◇◇◇



「レオーネ、泣くな。俺も綱を離した。」

「り、りお・さま?!ど、どうして!」

「鈴だ。しっぽの鈴を鳴らしてみろ。」


 チリン、チリン、チリン。

 レオーネが鳴らす鈴の透き通った音が、闇霧が籠るの中、一定の方向から聞こえる。


「やはり。大丈夫だ、そのまま鳴らしてくれ。場所がわかる。すぐ行くから、待ってろ。」


 導となる清らかな音のする方へゆっくりと慎重に歩みを進める。


 チリンチリン


 チリンチリン


 チリン。


「ほら、ちゃんと来ただろう?」


 暗闇で見えなくともわかる。座り込んで、えぐえぐと泣いて、消えてしまいそうになっていた大事な温もりを、自分の両の腕で包んだ。


 ◇


 恐怖と責任感がぐちゃぐちゃになって泣きじゃくるレオーネに「大丈夫。俺はここにいる。ずっと傍にいる。」と撫でてなだめて抱きしめて、少し経った頃。

 さて、ここからどうやって出ようかというと、ヒントとなる魔除けの鈴を再び鳴らしていたところ、薄くぼんやりと赤く光る細いリボンが手元にあった。


「なんだ?」

「ね、猫しっぽに、ついてる、リボンです。鈴の。鳴らして、たら、ぼんやり、光って…触ったら、ほどけて…リボンと、鈴と、一緒に、ここに。」

「ふむ。これはリボンの端か。では、もう片方のリボンの先は、どこかに繋がってるようだな。魔除けと言っていたから、出口か避難口かもしれない。行ってみよう。」


 つっかえつっかえに答えるレオーネを軽くポンポンと叩いて「行けるか?」と問う。小さな返事とともに、リボンごとレオーネの手を取り立ちあがらせる。レオーネは、闇の中で平衡感覚が乱れていたらしく、立ちあがった勢いで自分の胸元にポスンと入った。


「り、りお、さま!」

「いい。このまま二人で進もう。一緒にリボンを持って。ほら。大丈夫。出られる。」


 そうして、リボンを持って再び一歩踏み出すと、僅かな力がリボンを引いている。そちらへと引かれるがまま進むと小さな光が見え、それが青い炎のランタンと『出口』と書かれた扉だと認識できた瞬間、赤いリボンを引く力はなくなり、ダラリと垂れ、鈴とともに消えた。


「『出口』だ。」

「『出口』です。」

「よかったな。」

「よかったです。」


 ランタンの僅かな灯りの下、えぐーっと泣くレオーネの涙をぬぐってやり、二人で扉を開けた。


 ◇


 扉の先は廊下のようで、備え付けの小さな物置台に、見慣れた青い炎のランタンと白い器があった。器の中には、花びらの魔石が置いてある。


「最後の一枚だ。」

「最後の一枚です。」

「きっと、なにか起きるだろう。」

「きっと、おきますね。とんでもないのが。」


 お互い顔を見合って、ぶふっと笑う。わかってる。素のまんまで、そのまんまで、それで歩ける。


「では、行くとするか。」

「はい。参りましょう。」


 魔石を手にとりポケットに入れた。


 しーん……


 このパターンはもうあったぞ。

 きっと音がしたり、振動がしたり、何かが出てきたり、追いかけてくるんだろう?


 ガタガタ…

 ガチャガチャ……

 ほぉら、おでましなすった。

 音の先を見ると、遠く離れた廊下の角から、古戦場の鎧を着た骸骨騎士が現れ、こちらに向かってきた。彷徨う騎士の登場だ。


「行くぞ、レオーネ!」

「はい。リオン様!」


 ……かっこよく二人で走り抜けたまでは良かったのだが、問題は最後の扉が開かないことだった。

 ガチャガチャと後ろから聞こえる音に焦りつつも、両手開きの扉を力の限り開けようと、推したり引いたりと試すが、ビクともしない。


「な?!開かない?!」

「り、りおんさま、なんか書いてあります。」


『 ← 二人で開けなさい → 』


 二人で片方づつ扉を横へスライドさせたら、あっさり開いた。

 鍵のない、引き戸だった。


 ◇


 扉から出た先は、花の香りに包まれていた。花園の上空だけが靄が晴れ、サラサラと月光を浴びている。


「薔薇園ですわ…」


 いよいよゴールが近づいてきた。

 薔薇園は刈込まれていて、小さな迷路のようだった。高さは1M程なので見渡すことはでき、クラウン型のガゼポに繋がるよう道ができている。道の所々に青い炎のランタンが置かれ、行き先を標している。

 あたりを見ても、薔薇の花は咲いてはいるものの、光っているものはない。


「光ってないな…」

「残念ですわ…でも、素敵な月の薔薇園です。あそこのガゼポに参りましょう。ぐるりと見回してみたいですわ。」


 レオーネは俺の腕を取って、道の先にあるガゼポへと歩みを進めた。



 ガゼポは薔薇の蔦で覆われ、まるで植物の家のような雰囲気だった。上部の真ん中が空洞になっているため、そこから月光が下のテーブルへと注がれている。テーブルの上には、ガラスか水晶でできたような五角形のドームがあり、中に薔薇が入っているように見える。そして、青い炎のランタンとプレートが。


『花びらの魔石で花を咲かせて。互いに名を呼びあい、リボンに誓い、薔薇を授けよ。』


 ドームの上部を見ると、花の形に窪んだ造りになっている。ポケットから、各部屋から取ってきた花びらの魔石を取り出す。


「レオーネ、魔石を嵌めこむようだ。一緒にやろう。」

「えぇ、順番はいいのかしら?特に書いてありませんものね。あら?合わない…」


 パズルのようだと嵌めたり外したりし、ようやく全てをパチンと嵌めこむ。


「できたぁ…」


 すると、魔石がぐるりと輝き、パキンと音を立ててドームが消える。魔石はそのまま薔薇に当たって溶けた。


「これで、ゴールか…?」

「あ、いえ、リボンですわ!えぇと…取って、騎士が結ぶんでしたっけ?」


 わぁわぁと、レオーネが猫耳カチューシャにつけていたリボンを外す。物語では、令嬢が騎士へリボンを託すシーンがあった。それで騎士が薔薇に結んで渡す。そういうことだろう。


「ふふふ。リオン様、今日はとても…ううん、今日までもずっとずっとありがとうございます。一緒に私の気持ちも受け取ってください。」


 普段なら泣き顔で乱れててみっともないと隠すだろうが、月光に映されたレオーネの顔は、今まで見た誰よりも何よりも美しかった。

 リボンを手に取り、薔薇に結び付ける。


「レオーネ。こちらこそ、今までずっとありがとう。…あぁ、だめだな。陳腐な言葉しか出てこない。

 いつまでも共にありたい。これからも隣にいてほしい。愛してる。」


 真っ赤なレオーネが薔薇を受け取った瞬間。薔薇がキラリと輝き、ポゥっと光を灯した。


 溢れんばかりの笑顔とともに、二人の影が重なった。



 ◇◇◇



 光る薔薇を手に入れた後、青い炎のランタンに沿って庭をぐるりと巡り、出口と思われる所にいた係の案内で城内へと戻る。シャンデリアが輝く部屋の明るさで、再び泣き顔を思い出したレオーネは、またもや慌てて控室に向かう。直してもらうのだろう。

 明るい光に、あぁ、終わったんだなと、人心地ついたところで、隣からグラスを差し出された。


「クエスト達成、おめでとうございます。今宵の催しはいかがでしたか?」

「あ、あぁ、アシュリー殿。ありがとう。今宵は…なんというか、とても不思議な夜だったな…」


 グラスを手に取り、差し出してきた主、にこにこと笑顔のアシュリー侯爵子息のイリオスを眺める。


「我が妹は、城内のあちこちに呼ばれているようで…主宰として送りの礼を尽くせず申し訳ない。」

「いや、存分に楽しませてもらった。この催しは『成功』と言って良いだろう。慣れない地で、小さいながらもよくやったと思う。今後も楽しみだ。」


 ぐいっとグラスを傾けると、部屋の入口にレオーネが見えたので手を軽く上げて合図する。


「レオーネ、もう大丈夫か?」

「リオン様ったら!もぅ! 大丈夫ですわ。薔薇もほら、ケースに入れてもらいましたの。」


 自分の左腕の中で、「綺麗ですわね~」と薔薇を眺めているレオーネを見て、自分がちょっと残念に思ってるとは言えない。


 ………猫耳が…ない……


 視線に気が付いたのだろう。ごまかしながら彼の方に声をかける。


「アシュリー殿」

「あぁ、私のことはイリオスで結構ですよ。弟も妹もいますし。」

「それなら私のことはリオンと。レオーネも構わないか?」

「えぇ、もちろんですわ。あら?シャルロット嬢は?是非、お会いして御礼を伝えたいですわ。ほんとに、ほんとに素敵な夜をありがとうございます!」


 感動で上気しながら興奮気味話すレオーネに、アシュリー侯爵子息改め、イリオス殿は先程と同じように、困った笑顔でシャルロット嬢不在の旨を返す。


「こちらこそ、楽しんでいただけて何よりです。シャルも喜ぶと思いますので、是非。

 あの子は社交界には出られませんが、この国にはしばらくいると思います。ただ、実家の父の判断によっては、戻されるかもしれませんが。」

「では、近いうちに、我が家のお茶会に招待いたします。その時はよろしくお願いしますわ。」

「ええ。喜んで。あとシャルからですが、光る薔薇はシーズンオフの満月に空に溶けるそうです。それまで挿花にして楽しんでいただければと。リボンにはお二人の名が刻まれてますので、そちらは記念に。」

 


 喜ぶレオーネを連れ、『これからも良い仲を。』と送り出される。

 帰りの馬車の中で、安心して疲れがでてきたのか己の肩に凭れかり、少しまどろむレオーネを見る。いつもキリっとしてる彼女とは思えない無防備な姿だ。


「レオーネ」

「…! はぃ。リオンさま。お、おきてますわ。」

「いや、楽にしていい。…来春の結婚式に光る薔薇が手に入らないか、掛け合ってみようか?」


 すると、キョトンとした顔をした。なんでだ。


「不要ですわ。だって貴方が下さる薔薇は、いつも私を笑顔にしてくださるんでしょう?」


 微笑む彼女に、思う存分キスをした。



 ◇◇◇



 例の催しの帰り際に返却された剣には、お土産なのか袋がついており、中を覗くと猫耳が見えた。


 『レオーネ様用。しっぽ付。オススメはコチラ。 シャルロット・アシュリー』


 メッセージカードには特定のショップカードが書かれていた。これは…?

 不思議に思い、後日、書かれていたショップに向かうとそこは高級服飾店で、VIP用の特別室へ案内された。そこには。

 シャルロット嬢からの依頼品という『シャルロット・セレクト』と銘打ったレオーネ用の下着やネグリジュがいくつも用意され、店主自らシャルロット嬢の代役として説明してくれた。しかもサイズぴったりだった。

 イチオシだとメモの添えられたそれは、「カチューシャとしっぽ」に合わせて選んだらしい。地下牢で消えた魔除けの鈴とリボンで、チョーカーに作り替えたものも付いていた。


 『レオーネ様が一番キレイでかわいいと思うものを選びました。仲良くお過ごしください。シャル』


 当然、全部購入した。



 店の扉を出て、急いで実家へと使いを出し、辺境伯である父へと面会の渡りをつける。


 アシュリー侯爵家と懇意にすべきだと説得するまで、あとわずか。

 辺境伯家他、いくつかの有力貴族や豪商が、シャルロット嬢の後ろ盾になるまで、もう少し。



 ◇◇◇



 この夏のオンシーズンにて。隣国アシュリー侯爵家の小さな令嬢の名は、光る薔薇とともに社交界の話題を掻っ攫い、あっという間にひとり勝ちした。

 表に出てこない小さな令嬢が語る謎めいた薔薇のロマンス話に、妙齢の乙女たちはたちまち虜になり、無関係と思われた無骨な紳士からも、何故か熱い支持があった。



▼ コマンド ▼

→ END

リオンさまとレオーネさまのラブ糖度

大匙三杯で満腹な方 →引き続き本編をお楽しみください。

まだ足りないよ!な方 →お土産(番外編・まだ書いてない)いります?


はよ涼しくなって…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ