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7通目4 ある紳士と淑女の話(中編)

引き続き6000字クラス投下。ラブ大匙二杯目。

 さて、自分とレオーネがどうしたかというと。


「ありがとうございます。魔除けの鈴はお守りです。困った時に守ってくれますので、必ず着けてくださいね。」


 魔除けのお守りという鈴を猫しっぽ付オプションで購入し、ふと、泣き顔で化粧が乱れてると気づいたレオーネが、慌てて休憩室に飛び込んだ。


「休憩する。直前にベルを鳴らすと思うので、化粧道具を借りれないだろうか。」

「はい。どうぞ。ギリギリまで御声はかけませんので、()()()紅を引けば大丈夫ですよ。」


 「防音仕様です。」と聞いて、きっかり30分、清く正しくいちゃいちゃした。



 ◇◇◇



「ふぐ…リオン様てば…こんなとこなのに…もぅ!」

「まぁまぁ。体の強張りも取れただろう?さぁ、行こう。」


 可愛い婚約者は濃いめの接吻で腰砕けになったので、ギリギリまで愛でさせてもらった。勿論服は乱さず一線も越えない。紳士淑女の美しくイタズラ満載(はれんち)な交際だ。

 異論は認めぬ。諸君、妄想に囚われないように。


「次は…ここか。」


 青い炎のランタンがある扉の前に立ち、注意書きを見る。

『モノ言わヌコエ。 注:オンリョウがあります。』

 オンリョウ?音量?前半のポルターガイストと同じか?そう考えながら室内に入ると、中央のテーブルにあったのは、ライトスタンドと書きかけの広げたノート、数冊の本や日記帳。

 あと、あれは…再びオルゴール?だが、今度は先程あった天使の部分がない。台座と装飾は残っているから、壊れてしまってるのだろうか。これだけ騒がせているのだ、もしかしたら前の者が破損させてしまったのかもしれない。


「レオーネ、先程と同じようだ。あぁ、やっぱり。オルゴールに魔石があった。」


 先程の部屋と同じくオルゴールに触れると引出が開き、花びらの魔石が出てきたので取ってポケットに仕舞う。これで三枚目。


「ということは、そろそろ何か起きますわよね?」


 ……しーん…カタ、カタ…しーん……


「あらら??」

「…どうやら不発のようだな。」


 何が起こるかと構えていたものの、ほんの少々物音がするだけで特に何も起きない。問題ないと判断し周囲を見渡し『進行方向』となる扉へと足を向ける。すると。


 パラ…

 テーブルから音がしたので振り向くと、開いていたノートが一枚めくれた。

 パラ…

 もう一枚めくられ、白紙のページになる。覗き込むが、やはり特に何も起こらない。


「大丈夫そうですわね」

「大丈夫そうだな」


 ~~♪

 オルゴールが鳴った。ビクっと構えるが音は止まり、そのまま静寂に。


「大丈夫そうですわね?」

「大丈夫そうだよな?」


 ―――ゾク!

 急に悪寒がして振り向くと、ライトに当たってノートにできたオルゴールの影が、ザワザワと動き始め、白紙のノートに細い線となって広がっていく。あれは…『文字』か?

 白紙であったノートにはたくさんの蛇のように黒い影が動き廻り、暴れ、一定の単語になっていく。

 即ち。


『タスケテ』『クルシイ』『イタイ』『コロサナイデ』『タスケテ』


「きゃぁぁぁ!!!」

「大丈夫だ!紙から出てきてない!」


 不気味に苦しむようにのたうち廻る『文字』に、怯えるレオーネを抱き寄せ、テーブルから離れる。

 すると、ノートに書き切れず膨れた『文字』の影が爆ぜ、細い鎖のように飛び放たれ、縦横無尽に部屋中の天井や壁や床に広がった。

 その後、静寂。


 一呼吸止まったかと思うと、放たれた『文字』が歪に変化する。


『ノロッテヤル』『ノロッテヤル』『カエサナイ』『カエサナイゾ!!』


「いやあぁぁぁぁ!!!」

「レオーネ!来い!!俺に捕まってろ!」


 『文字』らが一斉にこちらへ迫って来たため、反射的にレオーネを抱きかかえ、一目散に『進路方向』の扉から出る。『文字』が廊下まで追ってこようとしたので、バン!と扉を閉めると、扉に挟まれて途切れた『文字』はバタバタと落ち、やがてしゅわっと消えた。


「あぁぁ…こ、こわかっ……」

「ッ、今日ほど、騎士団の 訓練を 真面目に やってて 良かったと 思う日は ない、な…ふぅ…」

「ふふ、ありがとうございます。リオン様。かっこよかったですわ。」

「レオーネは軽いからな。それにどこも柔らかい。」

「もぅ!リオン様ったら!」


 コツ…


 …そうだった。まだ終わってなかった。


 音のした方を見ると、先程のオルゴールについてたであろう黒い羽の天使の部分が転がっている。

 しかし他は変わらず、天井から水音もしなければ、血の跡もない。

 モゾ…

 む?また音がした。いや、黒天使の奥からか?眼を凝らしてみると……… 手首があった。


「「―――ッ!!」」


 モゾ…

 ゆっくりと手首が動く。あぁ、なんだ、それだけか。びっくりした。

 進行方向の『矢印』を見つけ、そのまま歩みを進める。すると、なぜか『矢印』は次第に増えて書かれている。

 ひとつ、ふたつ、みっつ… 壁に、床に、天井に……


 モゾ…モゾ…モゾモゾ…


「リオンさま…」

「どうした?」


 向い合せで抱き上げたままのレオーネが自分の背後を見ながら呟く。


「ついてきます。いっぱい。」


 ゾゾゾゾゾゾゾゾ……!!

 いきなりダッシュで付いてくる手首と追いかけっこがはじまった。


 チリンチリンチリン。

 走る自分の振動に合わせて、レオーネの猫しっぽの鈴がよく鳴った。


 ◇


「はぁはぁはぁ……!」

「リオン様、だ、大丈夫です?」

「あぁ、大丈夫だ。これで3枚だ。」


 とにかく走って、曲がって、更に走ってようやく手首どもを撒いた。200Mかそこらだろうか。今日ほど騎士団の(以下略)

 青い炎のランタンがある扉の前に立ち、注意書きを見る。


 『嘆きの塔。 注:降りる際には慌てず、足元にご注意ください。』


「塔ですか?外にある?」

「だいぶ離れているな。ここから塔までの道が続いてるのか?レオーネ、歩けるか?」

「リオン様が頑張って守ってくださいましたもの、大丈夫ですわ。」


 レオーネを地に降ろし、扉を開くと小さな部屋だった。


「???」

「出口は…ないのか?」


 扉を閉めて回りを見渡すが、今入ってきた扉以外に出入り口となりそうなのは、少し高いところに設けられた、細長い窓だけだった。あれでは人はとても通れない。


「おかしいな。」

「リオン様、今入ってきた扉に『進行方向』のプレートがありますわ。」


 なんだと?もしやと慌てて小さい窓から見ると、深く暗い夜の森と、先程までいたはずの城塞が見える。つまり、ここは塔の上?


「…そろそろ、なにがどうでも驚かない気がする。」

「奇遇ですわ。私もです。」


 休憩室で取れた強張りは、レオーネの胆力を成長させたらしい。


 部屋には粗末なベッドが一つ。隣に傷だらけの古い書き物用デスクと壊れた椅子が一つ。デスクには欠けのあるランプが灯され、ハンカチの上に置かれた花びらの魔石のみ。あと、あれは…鎖の端?

 簡素でボロボロでまるで……


「監禁部屋……?」


 花びらの魔石をポケットにしまうと、ふつりと思いだした。あぁ、赤い髪の令嬢が人質で囚われたという部屋か。


「ここで尋問が行われたの?かわいそうに…心細かったでしょう」

「そうだな。うら若き令嬢には過酷であっただろう…」


 シクシク…


「はじまりましたの…?」

「はじまったな。」


 シクシク……

 ガシャン!!バシ! ビリィッ!!ダン! キャーーー!!

 ビシッ!ビシィッッ パシィン!! イヤァーーー!!

 ガゥ!ガゥ!!グルルルル…!! ヤメッ! アーーーー!!


「これは…」


 シクシクシクシク……


「……天井から聞こえる…?」


 暗い暗い天井を見上げると、脆くも崩れ堕ちゴツゴツとむき出しになった太い梁と石材の間から、大きな大きな目が光り、こちらを覗いている。


 キョロ、キョロ、キョロ

 …何かを探しているのか?

 キョロ…キョロ…


 ギョロ。

 レオーネと視線が合った。


 ” …ミィツケタァァ… ”


 ニタリと目が笑ったので、急いでレオーネの腕を取り他に目もくれず扉の外へ出た。扉の向こうでガシャンという鎧の音が聞こえ、ガンガンと扉を叩いてくる。

 扉の外は螺旋階段になっていて、所々崩れているところもあり、湿り気のある塔内のジメっとした空気が体を包む。剣戟音が鳴り響く扉からは離れるべく、足元に気を付けながら、かつ急いで階段を下る。


「きゃぁ!」

「レオーネ!」


 チリンチリンチリン…レオーネが途中で足を滑らし落ちかけ、反動でしっぽの鈴が鳴る。慌てて手を掴み、持ち上げ、無事を確認する。


「はぁはぁ…すみま、せん……」

「いや、問題ない。謝らないでくれ。」

「え?」

「ありがとうと。笑ってくれ。」


 薄暗い塔の中、いるのは自分たちだけ。だいぶ恥ずかしいが今の顔ははっきり見えない。だから言える。


「ふふふ。ありがとうございます。リオン様。」

「あぁ。…よし、さぁ行こう。これで4枚。あと1枚だ。」

「えぇ。」


 踏み出した瞬間、自分ともどもまるごと足を滑らせ、二人仲良く落っこちた。




 ぽよんと柔らかいものに包まれたと思ったら、ぺよんと出て、ぽよぽよのクッションの上に落ちた。


「これは…液体? 水魔法のクッションか?」


 侯爵家の水魔術は凄いなどと、明後日なことを考えたが、どうやら二人とも無事らしい。ふよふよとした巨大な水の入ったクッションから下りると、一枚の扉が目に入った。『矢印』が書いてあるので、螺旋階段の地上階の扉のようだ。


「レオーネ、すまない。ケガはないか?」

「さっきの言葉そのままお返ししますわ。大丈夫です。」

「そうだな。ありがとう。」


 今度こそ二人手を取って、扉を開けた。


 ◇


 塔から出て順路に沿って歩いていくと、再び、青い炎のランタンがある扉に着いた。


『闇の間と未来の扉 注:赤い綱は重要です』

 赤い綱?何か関係があるのか?

 疑問に思いながらも、扉を開けると、ポツ、ポツとろうそくがあるだけの一層薄暗い廊下になった。ろうそくの近くに『矢印』が書いてあるので見誤ることはないが、何度か曲がったり、階段を下りたりしているので、おそらくここが物語でいう『地下の闇牢』であろう。

 風も光も音も、限界まで研ぎ澄まされた静寂に支配されている。

 他の参加者はどうした?もうクリアしたのか?自分たちだけ取り残されているのでは?そんな惑いに囚われそうになる。


「ずいぶん暗いですわね…あら、あそこ…」


 レオーネの声に目を凝らすと、青い炎のランタンが見える。

 扉には『赤い綱をお持ちください。 注・赤い綱から手を放してはいけません』と書かれたプレートがあり、扉の隙間から赤い綱の端と思われる束が出ている。

 扉を開けると、霧のようなもわっとした空気と、最早『完全なる闇』が広がっていた。仕組みはどうかわからないが、霧と闇しかなく光は通さないようだ。

 赤い綱の先は、目と鼻の先で見えなくなっていて、この闇は経験を積んだ騎士でも怯む。

 ぞくりと寒気が背中を走った。レオーネもごくっと息を飲んでいる。


「レオーネ、俺が前を行く。綱を右手と左手で交互に掴むようにして進むんだ。絶対に離れないように。もし何かあったら呼べ。必ず行く。」

「わ、わかりました…リオン様。信じます。」


 ゴクリと喉をならして、俺が前者、レオーネが後者で縦に並び、赤い綱を持ってゆっくりと歩みを進めた。



 完全な闇の中では、視覚以外の感覚に頼らざるを得ない。騎士団でそういった訓練はあるものの、つい非日常で縁の遠いものと思っていた。視界のない者は騎士の仕事を全うするのは難しい、そういった先入観があったからだ。だから殴られて片目の視界が見えにくい等、『多少悪い』程度のことしか考えていなかった。

 ゆらゆら揺れ、あちこち蛇のように曲がりくねる赤い綱を握り、一歩、一歩、足を進める。途中で地面をシュッと通る生き物の感覚や、ふにゃっと何かを踏んだ感覚がある。


「レオーネ。ねずみか何か生き物がいるのかもしれない。足元を何かが通った。慌てるな。」

「レオーネ気をつけろ、足場がぬかるんでいる。緩くても怯えるな。大丈夫だ。」


 霧で籠る暗闇は音をおかしく屈折させている。これでは少しでも離れたら居場所がわからない。後ろから細い声だが、その都度「は、はぃ!リオンさま」「が、がんばります。えい!」と声が返ってくる。

 このまま行けば大丈夫だ。

 そう思っていた。



「きゃぁぁ!!」


 背後からレオーネの悲鳴が聞こえ、何かベチャっという音とドサっと転がる音がした。


「レオーネ、無事か?!」

「リ、リオ、さま、首、なにか、柔らか・ぃもの、あたって、どうしましょう! つ、綱を、離し・て、しまったの!!」


 なんだと?!


「り、りお、りお、さまぁ、どこ? やだ、くらい、こわい、やぁ、りお、たすけて、たすけて、こわぃぃ…!」


 声の方向がわからず、パニックを起こして泣きじゃくるレオーネの声が闇の中に響く。

 この霧と闇ではろうそくやランタン等、生半可な光では照らせない。光魔法の者でも連れてこなければ払うことは無理だ。このまま自分だけが進み、外に出て主宰を呼んで来れば、この闇からレオーネを出せるだろう。レオーネには戻るまでの間、ひとりで待ってもらうことになる。それが最短で最善な方法だ。その、はずだ。

 でも思う。


 その間にレオーネが消えてしまったら?

 闇牢から消えてしまった、物語の『赤い髪の令嬢』のように?



 しかしこのままでは二人とも行き倒れだ。

 パニックになって身動きのとれない彼女を救うには、自分が助けに動くしかない。


 考えろ。考えろ。


 『カチューシャはお守りです。』

 『”ちょっと不思議ななにか”に囚われないよう…』




 ――――― 覚悟ができた。



 そして、自ら、その手を離した。



▼コマンド▼

→ 手を離す

リオンさまのラブ糖度

大匙二杯で満腹な方 →残り1話とばしてください。

まだ足りないよ!な方 →デザートいります?


熱中症きみ。つらた。

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