表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/69

7通目2 幽霊話はお寒いのがお好き?

弱冷房。エコです。←タイトル詐欺

チリンチリン。


 本日はお越しくださいまして、誠にありがとうございます。

 今宵は『特別な夜の語り部会』。光る薔薇が咲く夜。

 ご案内役は恥ずかしながら、私、シャルロット・アシュリーが務めさせていただきます。至らぬこともあるかと思いますが、ご来場の皆様には、是非、特別な時を楽しんでいただければと存じます。

 さて、今宵の皆様へ実りあるひとときを飾るために、そうですね、ある話をしましょうか。長くなるので、是非椅子へおかけください。


 この話は先にこちらで見つかったという古文書と一枚の肖像画に所以する話です。

 私の後ろの壁にかかる肖像画をご覧ください。―――『薔薇をつけた赤い髪の令嬢』です。

 彼女はこの古城の最後の主。そこには美しくも悲しきロマンスがあり、私はその話を今宵の語り部である彼女から聞きました。光る薔薇にまつわる不思議な話です。

 古文書に記されたのは一部だけで、隠された部分やわからない部分もあるでしょう。人の口に戸は立てられません。いつしか聞こえてきた城に伝わる逸話、伝説、物語…そうご理解いただければと思います。

 準備はよろしいですか?


 それでは特別な夜の物語をお願いしましょうか。今宵の語り部の登場です。 どうぞ。



 ◆◆◆



 さて、先の城主に赤き髪の乙女がいました。

 年老いた城主と亡き妃の一粒種。城の唯一の跡取りであり、ピアノが得意な歌の名手、美しき令嬢。多くの男性が彼女を求め、列を作り、想い叶わず、時には彼女を傷つける者もおりました。

 老いた城主が彼女を守るべく婚約者として選んだは、下級騎士。

 年は若く、身分もさして高いわけでもありませんが、勇猛果敢にして智者、そして人徳者として、騎士団の未来を嘱望された者でした。

 当初、距離のあった二人ですが、騎士の渡す小さき薔薇を介して、次第に想いが近づきます。いつしか寄り添い、重なり、互いに心を預けるようになったのは、光る薔薇に誓ったからだと聞きます。

 古城が守りし、特別な夜に咲く、光る薔薇。

 ここまでは皆様、御耳に入っているのではないかしら?


 ――では、続きをお話しましょうか。


 ◆


 仲睦まじい二人は、後は婚礼を待ちわびるだけ…そんなある日、騎士の実家である貴族家が没落してしまいます。

 それまで騎士の信頼と実力に手を拱いていた令嬢を狙う男たちは、これはチャンスだと令嬢へ詰め寄ります。しかし、まわりがどんなに甘い言葉で唆しても、令嬢はそれを拒みます。


「私は既に彼の方へ心を預けました。たとえ神であろうとも、それは変えられない。」


 令嬢の心を預かった騎士は、自らの力で名を上げるべく、戦場へ立つことを決めます。


「必ず貴女の元へ戻る。今しばらく、待たせることを許してほしい。 これは約束の証。」


 心配のあまり泣く令嬢に一輪の小さな小さな薔薇を差し出し、「あなたに笑顔を。」と言い残して、単騎戦場へと向かいました。



 彼の騎士はその言葉通り、勇猛なる剣技を以って兵を倒し、深遠の智を以って陣を崩す。彗星のごとく戦場を廻る姿は、味方を大いに奮い立たせ勝利へと導きます。やがて戦は終わり、多くの武勲を立てた者として名を上げた騎士は、「約束を守ることができる」と胸を張って帰路に就きます。

 ところが、次々と武功を上げていく騎士に嫉妬する者もおり、帰りの道中、仲間の不意打ちにより傷を負わされてしまいます。彼の騎士は令嬢の待つ城へ、点々と血を流しながらも馬を走らせました。


 けれど、そこにあったのは、麗しき城ではなく、何者かに落とされた古城でした。


 ◆


 彼の騎士が武功を立て始めた頃、弱点となる令嬢を狙って敵の刺客が放たれたのです。

 城内の者は部屋で廊下で血を流し、年老いた城主は斃れ、生き残った令嬢は人質として塔に幽閉されました。たった一人残された令嬢は塔の上で己の無力さを嘆くものの、騎士の帰還を固く信じ、繰り返す敵の尋問に耐えます。

 敵の主は令嬢に言いました。


「貴女は美しい。その身を傷つけるのは惜しい。我がモノとなれ。さすれば命は助けてやろう。」


 しかし令嬢はそれを拒みます。


「私の心は彼の元にあります。どんな力であろうとも、たとえ死しても、貴方のものにならない。」


 敵の主は激怒し、令嬢を暗い暗い地下の灯り一つない闇の牢へ押し込み、鎖で繋ぎました。

 嘆く令嬢は、密かに隠し持っていたお守り…萎れかけても、ほのかに淡く光を宿した小さな小さな薔薇だけを支えに、闇の中で何日も何日も過ごしたのです。

 令嬢が地下に囚われて何日も経た頃、傷を負った騎士が帰還する少し前、この城に異変が起きました。


 …皆様、ここまでよろしいですか?


 ◆


 では、続きを話しましょうか。

 嘆きの令嬢が囚われ、傷の騎士が帰還する少し前、城に濃い霧が立ち込めました。だんだんと広がりやがては城を取り囲む大きな靄となったのです。

 最初はすぐに晴れるだろうと高をくくってた敵兵ですが、いつまで経っても晴れる気配がなく、更に夜の城内で次第に不気味な現象が現れました。


 ある兵士が、夜の見回りで城内を歩いていたところ、女性のすすり泣きが聞こえました。声のする部屋の扉を開けて入ったけれど、そこには誰の姿もない。


 シクシクシク シクシクシク…

 ピチャンピチャン…


 「あぁ、なんだ水音か」と、廊下に出ると、水音が近づいてきます。


 シクシクシク シクシクシク…

 ピチャン、ピチャン、ピチャン……ペチャ


 彼の頭部にも水滴がついたので拭ってみると、赤い赤い血がベッタリ……


 ボタ。ボタタ…ボタタタタタ……!


 悲鳴を上げ慌てた兵士は待機部屋に戻り、仲間の兵を連れ出して、元の現場へ戻ります。しかし、そこに水音も血の跡もありません。


「おまえは寝ぼけていたんだ」


 そう笑う兵士の後ろの壁を見ると、今度はどんどん人の形をした血痕が浮かび上がってくるではありませんか。驚いて周囲を見ると、あちこちに同じような血痕が。床にも壁にも天井にも。そしてどうしてか、そのどれも両手首の分がない。

 慌てている間に廊下の奥から………


 カタ… ガタガタ……


 何かの音がします。


 カタカタカタ……


 廊下の奥の奥の暗闇をよく見ると、あれは……… 手??


 その瞬間、――――――!!!!!


 ………あぁ、怖がらせてしまいましたね。ごめんなさいねぇ。


 ◆


 そんな気味の悪いことが続いたものだから、敵の主は城を出ようとしますが、馬を進めても進めても城に戻るばかり。


「出られない出られない出られない!! なんてことだ!ここは呪われた城か!!」


 部下もなんとか外に出ようとしますが、一向に城から出られません。

 いつまでも出られないことに剛を煮やし暴れる敵の主に、ある兵士が、地下室に捕えた令嬢が不思議な薔薇を持っていたことを思い出し報告します。


「あの女ならここの跡継ぎ娘だ。城に隠された抜け道知っているかもしれない。その不思議な薔薇とやらが何か力を持っているに違いない!」


 地下牢に囚われた令嬢を連れ出しに行きます。重い扉の鍵を開け、階段を下り、また鍵を開け…何度か繰り返して、地下牢に着きますが、どういうわけかそこに令嬢の姿がありません。


「あいつめ、逃げやがったのか!」


 憤る敵の主が見つけたのは、赤くて美しい髪が一房だけでした。



 一方、名を上げたものの味方によって傷を負わされた騎士は、城の陥落を知り、令嬢を救うべく夜霧に紛れて侵入します。静かな城内、廊下にはたくさんの血痕、物がぶつかる音、振動、誰かの泣き声、動く気配、されど形は見えず。

 ただ事ではないと察し、令嬢の場所を把握すべく城内を探しますが、やはり見つからない。

 見回りの兵がいないことをいぶかしみつつ歩みを進めると、敵兵の部屋を見つけます。手負いとはいえ武神のごとき騎士にとって、呪いに怯えた敵の兵士たちは赤子を捻るようなもの。瞬く間に制圧します。

 最後に残された部屋、敵の主が占拠したであろう城主の部屋へと進み、丸くなって怯える敵の主に剣を突きつけ令嬢の行方を問います。


「知らぬ知らぬ知らぬ!!地下の闇牢から逃げ出したのだ!鍵をいくつもかけてあったのに!いなくなったのだ!」


 抜け道から逃げたに違いないと喚く敵の主に、「地下牢に抜け道は無い。自分は婚約者だから城内のことは知っている」と答える騎士。喚き散らし暴れる者に、これ以上は聞き出せないと判断した騎士は、その命の終焉を与えました。

 そして、最後に令嬢がいたという地下牢に向かいます。


 静かで風の音も聞こえない長い長い廊下を通り、暗闇のそのまた闇の間となる牢へ足を踏み入れた騎士は、誰もいない部屋を探ります。そして、一房の赤い艶やかな髪に気が付きます。


「彼女はきっと城内にいる。薔薇に隠され守られている。

 自分は光る薔薇に誓った。その約束を果たすまでだ。」


 そうつぶやくと、令嬢を探すべく、再び城内へと歩みを進めるのでした。

 以来、この城には時折、嘆きの令嬢を探し続ける彷徨う騎士が現れると…

 ほら、そこに ―――


 ◇◇◇


 突然部屋が暗くなって申し訳ございません。すぐ明りを…あぁ、大丈夫ですね。失礼しました。皆様、御怪我はありませんか?


 はい。今宵の語りをありがとうございました。いかがでしたか?


 …え? 肖像画の女性がいない?? あぁ、ほんとうだぁ…

 この古城には「嘆きの塔」「手首のない血痕」「彷徨う騎士」等、様々な怪奇現象が起きてるようです。

 ね?語り部さん、


 ……あれ?語り部さん?いない??


 …もしかして私たち、城の呪いにかかっちゃったのかなぁ…?


 でも、安心してください!私の手元にはその証、『光る薔薇』があります。

 光る薔薇には不思議な力があるのでしょうか。特別な夜でも、頂いた私は普通に城から出ることができます。だから大丈夫です。


 それでは、この『特別な夜』に城に招かれし『選ばれた』皆様。

 城は『勇気ある者』と『優しき心』の絆によって、花園へと導き、その証として光る薔薇を与えてくれるでしょう。

 パートナーと協力して、後半の催し『ローズクエスト』にもご参加いただければと思います。


 けれどお気を付け下さい。城内にはたくさんの『何か』がいます。

 囚われてしまったら大変!この世の者とバレぬよう、二人手に手を取って、気を付けてお過ごしください。御武運を祈ります。


 それでは。御静聴ありがとうございました。


 → つづく

荒筋 シャル(荒唐無稽)

演出 イリオスお兄様(ロマンスぶち込み)

監修 不在。(一番だめな怪談話の例)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ