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7通目1 開幕のベルが鳴る。

 食堂の大きなテーブルに『夏休みの宿題』を広げ、その中から二枚の紙を持ち、見比べる。

 魔王やらコック長やら諸々が、心配そうに入口から覗いているが、当の本人はまるで介しない。

 相当難しい問題のようだ。

 冷えたレモネードを出しながら、侍女が問いかける。


「お嬢様、御悩みですか?」

「猫耳にすべきか、うさ耳にすべきか、それが問題だ。」


 しっぽもつけるべきか、それも問題でした。



 ◇◇◇



拝啓 親愛なるお姉様。


 じめじめが終わり、本格的な夏の暑さと蝉の大合唱で夜も眠れない季節になりました。

 お姉様におかれては、「蚊取り線香とかけて、ぐるぐるソーセージと説く。その心は?(ポーク)もお好き?むむ?」と楽しまれてることと思います。


 不肖の妹は、隣国にて『夏休みの宿題』を実行すべく、毎日魔族さんたちと練習に励んでます。

 熱が入りすぎて、時々「貴様は悪魔か。仲間か。いや、こんな悪魔いねぇ!」と失礼なこと言われてますが、パラソルと女優帽で日差しを避け(シミになっちゃう)、右手にハリセンを持ち、左手の中指でサングラスのブリッジを上げ指導指導。


「いいですか。恐怖というのは下からやってくるんですよ。ゾゾゾと。」


 魔族さんたちを仕込む鬼監督こと私、シャルロット・アシュリー。6歳になりました。

 一人前の悪役令嬢風魔女っ娘を目指し、今日も今日とて頑張ります。



 ◇◆◇



 あっと言う間にやってきました、第一回肝試し大会。貴族風に題して『特別な夜の語り部会』というローマンティ~ックでキラリとした名前です。

 第一案で『一物語会』や『田舎都市伝説の会』と提案したら、イリオスお兄様に残念な目で見られました。にこりもしない…


「シャル、『イチモノガタリ』が『イチモツガタリ』に読めるが、本当にいいのかい?」


 …よくありませんでした!ごめんなさい!どんな痴女!

 後半の肝試しも、まんま『絶叫ルーム』や『恐怖の館』と銘打ったら、ロマンがないということで『ローズクエスト』になりました。

 流石イリオスお兄様、タラシセンスが光る。



「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。」


 お兄様セレクトの人族のお客様が、招待状を片手に次々とやってきます。

 セバスさん仕込みの受付対応で、人化した魔族さんたち(一部ケモ耳ケモ尾が解け中。メイド服着用者有)が、一斉に声をかけてます。よしよし。出だしは上等。


 今宵は二つルールを事前に招待状へ添えました。

①ドレスコード『仮装』 動きやすい恰好。

 後半の催しごとで歩くため、淑女の皆様にはヒールの低い靴と足首までのスカート丈で。また、こちらで仮装用ヘッドドレスを用意するので、崩れても構わないヘアアレンジ指定。


②城内(特にローズクエスト中)の帯剣はお断り。

 紳士の皆様には、後半の催しが肝試しであると告知。薄暗い中を移動するので、鞘が家具にぶつかって壊されると困るというのが建前。パニックで暴れ回られて、万が一他のお客様や魔族さんたちが怪我したらヤダが本音。城までの道中帯剣は構わない。入り口の受付時に預かり、帰りに返却。


③恋人・婚約者・夫婦の二人一組で参加。

 一人参加不可。少女が主宰のため愛人同伴はご遠慮くださいまし。

 なかには、ギクシャクしてるような、ツンツンしてる仲の組もいらっしゃいますね。ふんふん。うふふ~

 あとチキンルート候補者は、イリオスお兄様から予めチェックされてます。まにーのにおいがするぞ!ぷんぷん。うひひ


 ◇


 まずは受付にて、紳士と淑女で別れます。

 紳士は剣等を預けてもらい、後半の催しが肝試しであること、おばけ役に驚かされるので淑女の皆様をエスコートするよう、再確認します。

 その間に、淑女の皆様には、例のヘッドドレス。そうリボン付猫耳カチューシャを装着してもらい、全員が集まる広間へ案内します。うさぎか猫かで迷って、どの髪型でもだいたい合わせられそうな猫が勝ちました。

 双方準備が整い次第、前半の怪談話スペースもとい、社交するための大広間へ案内します。


 再会した際、猫耳つけて恥ずかしそうにモジモジしてる淑女と、驚いた後に頬染めて視線逸らしてる紳士の多いこと多いこと。むふふ。


 さて、大広間ですが、3か所で入口があり、皆様後ろの正面扉から入室されます。正面には登壇ステージがあり、その左横の扉は控室へ、右横の扉は廊下へ繋がってます。ステージ後方の壁上部には大きめの肖像画『薔薇をつけた赤い髪の令嬢』が掲げられてます。

 部屋の壁側にはコック長が腕を振るったアシュリー侯爵家のおもてなし料理(軽食スペシャル)が並び、中央には社交スペースとなる何もない場所と、怪談話を座って聞けるよう、低めの衝立や観葉植物をコの字に並べた丸テーブルと椅子があります。映画館のカップルシートみたいな。


 案内係、給仕係等、セバスさんとシエラ指導の特訓をしたとはいえ、初めての体験。舞台袖でソワソワしながら見てましたが、全体にフォローが入ってるので、こちらも問題なさそうです。

 招待客と交流希望の魔族さん達は、イリオスお兄様とアストさんがフォローに回ります。…アストさんが餌で、イリオスお兄様がねずみ捕り機みたいな。

 アストさんの美貌に見惚れた紳士淑女が、すすすーと寄ってくるので、隣にいるお兄様が切って捌いて調理してる。魔族さんたちはその近くで話を聞いて、適当に相槌を打ってます。問題なさそう。


 時計を確認し、だいぶ場の雰囲気も馴染んできたし、そろそろ始めても大丈夫かしら?


 ◇


「ベスさん、準備はいかがでしょうか? 今宵の語り手役は『艶めかしくも怪しい美女』です。

 語り部の時は、ヴェールをつけたままになりますが、後半になったらとって大丈夫ですよ?」

「ワタシハジョユウ ワタシハジョユウ ワタシハジョユウ。

 おーけーおーけー。シャルちゃんイケるわ。悩殺したるわ。」


 夜の華・サキュッパスのベス様は、全体が黒と差し色の赤の悩殺スタイリッシュドレス。

 背中は透け感の総レースでスカートの後ろも大胆なスリット入り。全体を黒いレース生地なので、紫を帯びた赤い髪と、チラチラと内側から見える赤い生地が艶めかしく、魅惑のバディを見せつけてくれます。うらやましい!

 妖しさを演出するため、語り部役時にはこれまた黒の総レースなヴェールで顔を隠し、口元だけが見えるようにします。口紅の紅がまた魅力的。うらやましい!

 ちなみにチャームポイントは泣きぼくろですって。人工の。


 第一部の語り部役は、当初人族そっくりな大人の男代表として、ヴァンパイアさんにお願いしようとしました。

 が。これが本読み?が苦手でして…棒読みというか…独特の言い回しというか…方言を更にややこしくしたような…せめて人族との交流で少しでも話すならしゃべれるようにならないと!と、滑舌や強弱アクセントやイントネーションをちろっと指導しましたが、なかなか伝わりません。

 異文化とは難しいものです。伝え方が悪いのかな?と他の人化マスター組に聞いてみたら、こっちはできる。そうなると本人の素質か努力の問題かしら?と、特訓してたところ「貴様が地獄の使者だということは理解した」と仰ったので、ハリセンチョップをかますべく追い掛けました。捕まらない。ちぇ。

 それを見ていたダイナマイツバディ★こと、ベスさんが選手交代と立候補。


「じゃぁ、私がやる~!人族の演劇や舞台なら何度かこっそり観たことあるし。ナレーションやそういうかんじ?」


 で、台本読ませたら、これが上手いこと上手いこと。隣でヴァンパイアさんが両手で白いハンカチ持って、端を噛んで、「キィ!くやしいわッ!!」とギリギリしてました。芸が細かい。



「では、私は先に会場に入って、お兄様に紹介してもらいます。

 入るタイミングは教えますので、そしたら中央に用意される椅子のところまで来てください。

 あとは打ち合わせどおり、私がベスさん紹介して、スタートです。」

「わかったわ。お姐さんにまっかせなさーい! シャルもデビュー戦でしょ?頑張ってね!」

「はぁい。お兄様に叱られないように頑張ります…

 ヴァンパイアさん、幻覚魔法とライト調整よろしくお願いしますね。出番となる頃には、バックヤードフォローにセバスさんが駆けつけてくれるようなので、多少トチっても大丈夫ですって。」

「悪魔!いや小さいから小悪魔か?幻覚魔法が下手なヴァンパイアがいたら、血なんぞもらえんわ!」


 ヴァンパイアさんもサキュッパスさんも、人を惑わす系の魔法が得意のようでして、怪談話をする時に照明の火が揺れたり暗くなったり変化して見えるよう調整と、肖像画の演出に幻覚魔法をかけてもらいました。大広間程度なららくしょーらしいです。私には夢のまた夢。

 今も肖像画に描かれた薔薇は、シャンデリアの光で、キラキラと色を変えたり開花具合が変化してるように見えます。


 ホンモノの光る小さい薔薇は、今夜の主宰、そう私シャルの胸元に飾ってあります。

 まだ未成人のため華々しい恰好はできませんが、少し落ち着きのある薄ローズピンクの踝丈サマードレスを着て、黒リボンで結んだ光る薔薇を胸元に飾り、白猫な耳付フード付ケープと猫しっぽ(リボンと鈴付)を着用の私は今日もかわいい!

 …シエラもベスさんもかわいいって言ってくれたもん。スケルトンさんもデュラハンさんも、イイネって言ってくれたし、ゴーレムさんもサムズアップしてくれたもん。

 ヴァンパイアさんは真顔で「仕込みロリ。乙ゥー」と言ってきて、なんかイラついたので、ハリセン持ってで追い掛けました。やっぱり捕まえられませんでしたが。コック長が首根っこ捕まえて厨房に連れて行ってたので、何かお手伝い(ちょうり)されたのでしょう。

 これで挨拶しに行けば、皆様私に一目置く。はず。



「では、いってきまーす」


 チリンチリン。広間へと向かう猫しっぽの鈴が鳴る。

 いよいよ『特別な夜の語り部会』が幕を開けました。


 → つづく

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