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6通目1 プレゼン会議は踊る。

6通目は会議や練習回なので、読んでて眠くなったら勝ちです。

ささやかな安眠をお届けします。

 圧倒的な力も魔力も併せ持つ誇り高き魔族は、たった一人の少女の前に膝をついた。


「その程度で我を脅かそうなど、笑止!百年早いわ!!」

「お前ほんとは鬼族だろ!!」


 総合ぷろでゅーさーはこだわり派なの★



 ◇◇◇



拝啓 親愛なるお姉様。


 ジメジメと更に蒸し暑い日交互にやってくる季節になりました。

お姉様におかれては、「そろそろ氷の旗が惑わす頃か」と楽しまれてることと思います。


 不肖の妹は、霧なのか靄なのか別のものなのか、少し寒い古城で過ごしております。

 夜によくギィギィとかピチャンピチャンな音が近づいたり遠ざかったり、ガタガタという振動があったりします。

 今は隣国にて、お父様とお兄様からの『夏休みの宿題』のお化け屋敷に取り組んでます。詳しくは以前の報告書(お手紙)にしたためましたので、そちらを確認していただければと存じます。

 なんだか文化祭や夏祭りの気分です。でも近所の神社は春祭だけでしたね。


 そんな私、シャルロット・アシュリー。もうすぐ6歳。

 悪役令嬢風魔女っ娘を目指し、今日も今日とて頑張ります。


 ◇◆◇


 さて、先日『夏休みの宿題』について、出した本人のイリオスお兄様と、ゲストであり人族との交流をしたい魔王のアストさんにプレゼン会議をしました。

 セバスさんが給仕をしている間に、応接室に集まったお兄様とアストさんに概要資料を渡します。後程見せる参考資料の箱をシエラに託して、いざ参る!


「えと、本日は、お忙しいなか、お集まりいただきましゅて…」

「シャル、進めていいよ」

「…はぁい。」


 スタートダッシュで躓きました。


 ◇


「それでは、お手元の資料をごらんください。」


①やること お化け屋敷(前後編成)

 前半は怪談話を含めた交流会。

 魔族さん達が「魔族」だとわかると騒ぎになるので、事前に「仮装」を周知。

 アストさんは、身分を隠してお忍びでやってきたヨな態で、侯爵家友人として参加。絶世の美人さんなので、群がる虫が煩わしいなら仮面等で変装可。

 人化ができる魔族さんは参加可。(仮装指定イベントなので、耳や尻尾など出ていても問題なし)

 人化に自信がない方は残念だけど、こっそり見学。


 後半は、メインの肝試し。おまけつき。

 来客した人族は二人一組で、オリエンテーリング式にクエストをこなしゴールを目指す。無事ゴールした組には『参加賞』のおまけを差し上げる。

 人族が肝試し中、特に見学組の魔族の皆様は、なりきりおばけ役で盛大に泣き叫ばせてもらう。凝った仕掛けは大変だと思うので、アイデアと組み合わせ戦法。

 待機者がいるので、前半交流会参加組で希望があれば、引き続き交流してて構わない。


②集客対象

 ターゲット層は、若手で婚約者・恋人同士、もしくは新婚数年な夫婦。(ワケアリも可)

 アシュリー侯爵家、または魔族側に利益となる方を優先。

 あくまで娯楽イベントであり、どんな方を集めたらいいかお兄様の『おすすめ』を仰ぐ。

 セオリーとして泣き叫ばせるので、紳士側が淑女側にカッコイイと思わせられたら効果抜群。

 反対にチキン体質の方を入れたい場合、『計画的撤退権』の逃げ道を用意するので、そちらをご購入いただく。


③効果

 娯楽と言えば音楽や演劇が多く、子供や騎士の度胸試しはあっても紳士淑女カップルではない様子。甘い見通しかもしれないけれど、目新しさで話題は狙えると思う。

 距離を縮めたい婚約者や夫婦関係を修復したい方なら、つり橋効果や結束力の強化が狙えて恩が売れる。

 あらあらまぁまぁな態度を曝された方には、今後楽しく調理できる情報を握れる。

 チキンルートなら、ちょっとしたお小遣いになる。


 ◇


「おおまかにはこんな内容です」

「シャル、これだとアスト側にはどんなメリットがある?」


 お化け屋敷計画の主だった内容を説明したところ、イリオスお兄様から早速質問が飛んでくる。


「はい。街へ出るリスクを冒さなくても、城内で安心して人族と交流ができます。」


 完全な人化、ましてや口調や身振りをマスターすることは一朝一夕ではできません。アストさんやセバスさんはできるようですが、全員が全員できるわけではなく、また長時間の人化に自信がない方もちらほら。魔族姿で街に出たらパニックか争いを起こしてしまいます。

 そうすると、滞在中の魔族の皆様は、城から出歩けず、活躍の場もなく、当然交流も中途半端。


「そこで、まずはイベント全体を通して『人族とはどういうものか?』を身近で観察し、かつ、実際に参加することで、人族を理解する糸口になればと思います。

 お化け屋敷ですから、多少おっかなびっくりな恰好の方と出くわしても、人族側は演出だと思うでしょう。」


 ファントムやミイラ男程度なら人族側も予想しますので、魔族さん側は部分的に人化が解けてしまうことを気にする必要がありません。気にしなければ、積極的に近づけると考えました。

 人族も『仮装』や『お化け屋敷』というフィルターで見れば、魔族を『魔族』と認識しないから、思い込みで警戒されずに交流ができると判断しました。


「なるほどね。ファーストコンタクトを仮想現実でやるということかい。

 資本金や『おまけ』はどうするんだい?いくつか案は浮かぶけど、皆が来たい手に入れたいと思わせなければだめだよ?」


 チラリとアストさんを伺うと、少し口角が上がって頷いてくれました。『アレ』の提案許可が下りましたので、シエラから参考資料の箱を受け取り、中から『魔石』を取り出してお兄様の前へ置きます。


「資本は、魔石をいくつか販売して、その売上金を充てたいと思います。

 実は古城内でひきこも…いえ、待機されてる魔族の方々が溢れた魔力を持て余してて…

 それならその魔力を魔石化し、それを売って、今回の開催経費やご協力いただいた魔族さんたちの褒賞(ごはん)のモトにした方が良いかと。ごはん大好きなんですよ、皆様。食費が…えふんえふん。」


お兄様は「触っても?」とアストさんに確認をとり、魔石を鑑定します。少し眉が動いたから何かあったのかな?でも悪い感じではなさそう。


「続けまして、『おまけ』について。アストさんの魔法?でちょっとしたものが作れるそうでして…こちらをご覧ください。」


 今度は、お兄様の前にそっと小さな箱を置き、蓋を開けます。

 中には、水晶のような透明でいて、それでいて色がぼんやりと移り変わり、甘い香りのする不思議な小さな薔薇の花が、一輪入っています。


「アストさん作『光を封じた薔薇の結晶』です。

 そのままでも綺麗ですが、夜になるとぼんやりと光り、花が咲きます。もちろん香りも。」


 ◇


 これを初めて見せてもらったときは、ものすぅぅっっごくテンションあがりました。

 光る薔薇です!しかも、花びらが宵の口から深夜にかけて開花し、明け前にはまた蕾に戻ります。開花具合と月明かりで色が変わっていき、同じ色の花と被ることはまずありえません。

 見た目は結晶みたいに硬質なのに、触れるとベルベッドの柔らかい手触り。生花本来の薔薇の香りが漂い、蕾に戻るとふわっと消えます。

 最早ファンタジー。やはりファンタジー。

 当初、良質な魔石にしようかと思ってましたが、断然こっちの方がときめきます。話題攫えます。乙女の心を鷲掴みにできます。


「結晶も含めた持続時間はこの国の社交シーズンオフ頃まで。薔薇に込める魔力量で調整できるそうです。

 こちらを『勇者の印』や『愛の証明』として、渡そうと考えてます。

 作れるのはアストさんだけですし、開花の時間制限があるので複製や転売は難しいです。

 他の人が持ってないモノでしたら、欲しいと思う方もいるのではないのでしょうか?」


 でも、何本も作るとなると、アストさんの力は余ってても、繊細な作業の手間が多いので(実際はルーチンワークで飽きてしまうらしい)、参加人数を限定し、男性が女性へプレゼントするまでの演出を以ってワンセットにします。


「お兄様には、『古城の奥に不思議な光る薔薇がある』『アシュリー家のイベントに参加すれば手に入る』『選ばれし勇気ある者にしか招待状は届かない』の噂を流していただきたいです。

 薔薇について聞かれたら、不思議な力あるらしいとか、願いがかなうらしいとか、そういったものを匂わせる程度で構いません。勝手に想像してくださると思います。」

「開催頻度は?」

「初夏に一回、盛夏に一回。場合によっては晩夏にもう一回でしょうか。

 一回目の後、光る薔薇を纏った令嬢が夜会に出れば、うんと広がると思います。夜会の照明で光り方が弱くても、色や開花の変化、香りでわかりますから。

 興味を示された中で、お兄様の選んだ方へ招待状を送ります。」


 勇気ある者に限定するのは、淑女の前で腰抜け紳士を防ぐためです。

 最初から胆力が必要と周知しておけば、騎士様とか元冒険者とか、自称勇者な男性は面白がって参加意欲が沸くはず。特に好きな女性の前では、ええかっこ見せたいですよね。

 そうでもない方は、チキンルート料をいただくまでです。


 ◇


「なかなか面白い企画を考えたね。詰めるとこがいくつかあるが、それは後でまとめて話をしよう。実際の演出についてはどうするんだい?」

「至ってシンプルに怪談話で温めて。あとは入り口から入って、出口から出る。それだけです。」


 ただし、道中いろいろありますと含ませて、いくつか例えを口にします。

 尚、演出については、後でごはんに釣られて参加してた魔族さんたちが、だんだん面白がって予想以上のドッキリをかましてました。そちらはまた。


「アスト、君からは何か要望はあるかい?」

「おばけ役に私も参加したい。」

「「……。」」


「…紳士と淑女の愛が試されるね…」

「乙女たちのハートが囚われる…いえ、紳士も行くかもしれません!」

「まさか3…?!」

「お兄様!レディの前でしてよ!」

 バチーンと炸裂するシャルビンタ★


「おばけはできないのか…?」


 しょんぼりする魔王様は、働き者で、好奇心旺盛です。

 でも、その美貌を隠すには、シーツおばけしかない気がする…


 長くなりましたので続きますね。


→ つづく。

毎週〇曜日13時から定例会議ってすんごく眠くなるよね。

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