夢に出てきた屋敷が克明だった、の段
未明に見た夢があまりにも克明でした。
東西にやや長い、古びた農機具小屋に入り、南側の少し高い位置に長く延びた戸棚を、なぜか壁のとっかかりを伝い、よじ登るようにして漁っておりました。
ものがごたごたと置き去りにされていたので、戸棚に辿りつくのにもかなり苦労しました。
戸棚じたいは、中にすっぽりと身を入れられるくらい余裕がありましたが、やはり中には何かと詰まっていました。うす暗がりの中で、積み重なった古い書類やなぜかまだ未開封な文具やおもちゃの数々をかき分け、奥の壁を確かめています。
未開封のおもちゃは後から子どもにあげよう、なんて思いながらも、今は自分の前のめりな欲求だけで、動いています。
奥の壁には何かあるのです。それを見つけなければ。
棚に入っているガラクタは後から処理しよう、とにかくこの奥を先に。そんな思いしかありません。
一番右側の端に小さな扉があって、そこは開けるとなぜか観音像、しかも絵画作品のものが奉られていました。
何か意味はあるのでしょうが、今はパス。
戸棚のまん中あたり、未開封の花火をかきわけた奥に小さめの両開きの扉がひとつ発見。なんとか自分がくぐれそうなので開けてみました。
四畳半ほどの部屋に通じていました。ずっと入っていなかった部屋のようです。
薄暗がりの中の部屋は小物が雑多に積まれていました。
あまり観察せず、また戸棚の暗がりに戻ります。
次に、先ほど開けた扉の左にもうひとつ扉をみつけ、妙に期待感高まる中で開けてみました。
そこにあったのは、見覚えのある部屋。ここもずっと入っていなかった部屋のようでした。
いつからなのか、記憶もあいまいです。
机とか、棚とか、片隅に寄せられ、向かって右側にはカーテンの無い窓。正面には掃き出しの窓。まず右の窓を覗くと、先ほどちらりとみた四畳半の部屋の外側なのか、テラスに小さな庭がしつらえてあるのが覗けました。部屋から出ているらしい、外付けの螺旋階段も。テラスには枯れた薔薇のアーチと、これまた枯れた噴水が垣間見えました。
正面の窓からは、南側に面している他所の土地が見えます。すぐ隣接している、古びた二階建ての建物は今ではレトロな喫茶店として、そこそこ繁盛しているようです。
こんな隠し部屋があったのだ、という感慨とともに、どうして今までこの部屋に気づかなかったのだろう、とうっすらと疑念もありながら、自らの欲求に打ち勝てず部屋の内部をさらに貪欲に観察します。
ずっと以前に我が家で見た気がする壺、茶碗など……今は亡き父が道楽で集めたものが、こんな所にしまわれていたようです。
そしてこれもかなり昔に買い求めた本、雑誌、CDやテープ……こんなものを、確かに熱狂して買いあさったなあ、てな品物もいくつかありました。
まるで覚えのないものもありましたが。
以前旅行先で手に入れた珈琲カップ、こんな所にあったんだ、と手にとります。
他にも数点、すぐ読んでみたい本や持ち帰りたい品々、持てるだけ手に持って……
そこで目が覚めました。
人生とは整理できていない隠し部屋をあまた持った、見取り図すら描けない複雑な屋敷のようです。
それをかき分け、探しだしてほじくり返し、使えるものがまだ無いのか探しまくり、何とか人様にお見せできるよう整えてみる……
夢が自らにしか判らない地図に描かれた壮大なる物語であって、それをすべてどこかに書き写すまではおいそれとはクタバレない、という自覚は、あんがいどんな書き手さんにもあるのでは?
と、目覚めてしばらくしてから、しみじみ思ったのでした。