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髪をかき混ぜる、の段 其の2

前段より続く

 前半では、主にオンライン上で無料にて発表されている小説を主に、『髪をかき混ぜる』語句について述べてきました。


 実は、前半で調べたオンライン上の創作物を調べていた時、偶然、『紙媒体で書籍化された』作品について『髪をかき混ぜ』る事案がいくつか検索に引っかかってきたのでした。

 驚くべきことに、記録として拾えた一番古いものは……(ここから作者名すべて敬称略)


 1986年 吉村達也『南太平洋殺人事件』


 ジャンルはミステリー、または探偵もののようです。残念ながら未読。

 少女がポニーテールを解いて首を振り、自らの髪の中に手を突っこみ、『くしゃくしゃっとかきまぜた』という表現が、調べた中では最初に確信犯的に行われた『髪かき混ぜ』でした。


 その次にあったのが、

 1991年 小野不由美『悪霊シリーズ』


 何度か、男性が主人公らしき「あたし」の髪をかき混ぜたようです。

 ジャンルとしてはホラー&恋愛のティーンズ小説でしょうか。

 他人の髪をかき混ぜた記録で、公けに刊行された紙媒体の書籍としてみつかったのは、こちらが初でした。


 そこから後は、以下の作品内に例が見つかりました。

 私が見つけられただけですが、どうぞご勘弁下さい。


 ★は、『自分の』、☆は『相手の』髪をかき混ぜたという文章です。

(SAOにはどちらもありました)。


 1996年 坂東眞砂子『死国』

(これだけ、風が『彼女の髪をかきまぜ』たようです)

 1998年 三浦真奈美『風のケアル』★

 2000年 秋田禎信『エンジェル・ハウリング』★

 2002年 高橋弥七郎『灼眼のシャナ』★

 2002年 乃南アサ『からだ』☆

 2003年 雪乃紗衣『彩雲国物語 』☆

       虚淵玄『沙耶の唄』☆

 2004年 高殿円『銃姫』★

 2006年 吉野匠『レイン』☆

 2006~ 雨木シュウスケ『鋼殻のレギオス』★

 2007年 竹宮ゆゆこ『とらドラ!』☆

       枯野瑛『銀月のソルトレージュ』★

 2008年 今野緒雪『お釈迦様もみてる』☆

       志瑞祐『やってきたよ、ドルイドさん!』★

 2009年 桜坂洋『よくわかる現代魔法』☆

       九里史生『ソードアート・オンライン』★☆     

 

 書籍化されているものの特長としては、

・『自分の髪をかき混ぜた』例がかなり多い点

・『他人の髪をかき混ぜた』例では、異性の髪に対したものがほとんどという点でした。


 ここからごく大雑把な推察をするに……


 まず、髪をかき混ぜるという文章は、『自分の』髪を『手でかき乱すように動かす』という所から始まり、だんだんと『親愛の情を持つ相手の』髪を『撫でるより強めに、乱すよりは優しく』程度に手で動かす動作を表すようになってきたようです。

 髪を『かき混ぜる』という同程度の表現が、日本語では他に見当たらないというところで、おや? でも何か感覚的に分かる、という読者が多数出てきたのかと。


 時間も短く『くしゃくしゃっと』(小さい『つ』が入るとやや短時間?)『くしゃっと』『くしゃりと』かき混ぜるだけだったり、

 やや長く『くしゃくしゃと』『ぐしゃぐしゃと』『グジャグジャと』『ごしゃごしゃと』『わしわし』やったり。

 たいがい、相手の髪をかき混ぜるのは、愛情や労わりの気持ちがにじみ出たシーンが多いようです。


 そしてだんだんと時は移り、それらの語句が目にも耳にもなじんでくるに従い、『愛の形』は異性だけではなく、同性どうしの睦みあいにも使われるようになってきたのでしょうか。


 髪を触れられる相手というのは、限られてくるでしょう。その中でも『手を置いたり』『撫でたり』というのは案外ハードルが高くない。


 『櫛梳る』というのは親愛の情がやや深そうですが、『整える』ための動作です。


 ここで『かき乱す』という行為は更に相手に深く入り込む動作でしょうが、そこを『かき混ぜる』という絶妙の手法を導入して、親密感を深めると共に、ふたりの時間、空間、個々の存在を『混合させ』、新しいひとつの世界をつくり上げるのに役立てているのではないだろうか?


 とまあ、そんなことをひとり考えて、にやついておりました。


 余談ですが、前段の辞書で調べた中に、『かきまぜ』の用例が載っておりましたが、それが

『源氏物語 総角あげまき』の一文でした。

 残念ながら、髪はかき混ぜてはおりませんでした。


『網代の氷魚も心寄せたてまつりて、いろいろの木の葉にかきまぜもてあそぶを……』


 現代文に訳したものを色々と見たのですが、肝心の『かきまぜ』については特に直接訳しているものが見当たらなかったので、あまり映像としてはイメージできませんでした。残念。

 前後の感じからは、紅葉シーズンの頃、やんごとなき人びとが鮎の稚魚をとっ捕まえて色とりどりの紅葉とともに籠にしつらえて眺めて楽しんでいるような。間違っていたらすみません。


 古代から、意味はあまり変わっていないようです。

 日本人はかきまぜ上手だったのであろうか? また、

「話をかきまぜる」

 という表現もありますよね。

 本題の腰を折ってごっちゃにする、というような意味かと思うのですが、どこか漂う茶目っ気に、かきまぜの極意を見た気が(しないか~?)。


 かきまぜ、と言えば……

 小豆島には、「かきまぜ」という料理があって、炊き込みご飯に似ているが、具を予め炒め煮にして、炊きたてのご飯と混ぜて作るのだそうです。

『きれいなものを、みつけに ー小豆島ガールー』サイトより拝見しましたが、これも混じり合った状態が元に戻るということがなさそうです。

 そして、かき混ぜた後、立派なひとつの料理として存在しております。


 他にも。

 沖縄には『カチャーシー』という踊りがありまして、カチャーする(かき混ぜる)という意味からきているのだそうです。 

 沖縄在住の知人に確認したのですが、特に結婚式の締めには必ずと言ってよいほどカチャーシーが登場するらしいです。

 踊る時に男は手をグーに、女は手をパーに(人差し指から小指はくっつけて)、それぞれ意味はあるらしいのですがここでは割愛。

 その場を陽気に混ぜ合わせ、幸せな空気を醸し出すという感じがしませんか? うん、するよねー(強制か?)

 私は個人的に、結婚式という場で多くみられると聞いたためか、「カチャーシー」には、性的な意味も含めて男女もしくは陰陽が重なり合って混じり合い、新しいものを生み出すイメージが強く湧きました。

 

 かき混ぜるという表現は、日本神話でもすぐに思い出す話があるかと。

 そう、イザナギノミコト、イザナミノミコトが天沼矛あめのぬぼこで混沌としたどろどろの下界をかき混ぜ、そのしたたりから島を作りだした、という神話。


 かき混ぜるというと

『乱してバラバラにする』

 というよりも、

『乱してぐしゃぐしゃにしながらも、何かを生み出そうとする』

 そんなニュアンスを含んでいるような気がしています。

  

『髪をかき混ぜる』シーンから、ついつい何かと妄想してしまった今日この頃でありました。

 あー、一回めっちゃ心に沁み入る名シーンで『髪かき混ぜ』を使ってみたいー!

 

 

ここまで、タワゴトめいた解釈におつき合いいただきありがとうございました。

何かと調べに漏れや間違いもあるかと思います、もしお気づきのことありましたらまた教えてくださるとありがたい限りです。

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