髪をかき混ぜる、の段 其の1
私がずっと気になっていた「髪かきまぜ問題」について、けっこうゆるく語っておりますので、ゆるゆるとおつき合いくださいまし。
あなたは、どこかでこんな表現を見かけたことはないでしょうか?
『髪を掻き(かき)混ぜる(雑ぜる)』
一番最初に目にしたのは、ひいきにしている電子書籍作家さんのとある作品の中。
「●●は××の髪をくしゃりとかき混ぜて……」
とまあ、このような文章だったと記憶する。
●●がやや年上の思慮深い男性、××は少年だったか、と。
物語のジャンルは、ファンタジーで、どこかもの悲しい結末だった覚えがあります。
髪、は分かる、かき混ぜる、も分かる。
ただ、『髪をかきまぜる』というのに、拭いきれない違和感があったのは事実でした。
その後、他の方(この人の作品も大好き!)の書いた電子書籍を拝読中にも、『髪をかき混ぜる』シーンがあり、思わず二度読みしました。
前述の小説と共通していたのは、二人の人間がいて、一方が他方の髪をいじっているところです。
念のために『かきまぜる』の意味を確認しようと辞書を引いてみました。
『かきまぜる 掻き雑ぜる
かきまわして混合する。まぜあわせる。(岩波書店・広辞苑 第四版)』
先日試しに、ツイ◎タ―の投票機能を使い、書き手の方対象に
『髪をかきまぜる、という表現をご存知ですか?』
と尋ねたことがありました。
二〇名の方が回答くださったのですが、
● 知っていて、使ったことがある 15%
● 知っているが使ったことはない 20%
● 初耳です 65%
との結果でした。ご存知ない方が多かったのです。
私も前述の二作を読むまでは意識したことのない表現だったので、何かの書き間違い、もしくは近頃急に生まれた独特の表現なのかも知れない、と思っておりました。
『かき混ぜる』というとたいがい気体や液体、流動体、細かい固形物の種類の違うものをぐるぐるして、混ぜてごっちゃにする、というイメージでしたから。
しかし、ここではた、と宙を見上げ途方にくれてしまいました。
「髪をかき混ぜる」ということばに替わる表現と言えば、何だろうか……
髪をかき乱す? 自分の髪にはやるかもしれないが、人の髪にやるのならばやや、悪意を感じる。
髪をかき分ける 猿のノミ取り?
髪をかき回す かき混ぜる、と似ているけど、規則的な回転を伴う? 洗濯機か?
髪を撫でる 毛の中にまで入ってないですね、手が。
髪に手を通す 通りいっぺんな感じですねー
髪を手櫛ですく 何度も繰り返されそうですが、方向は決まっていそう、根元から毛先へ。
髪を手でぐしゃぐしゃにする そのまんまやん!
髪をもしゃくる 方言ぽいな……
試しに、庭に出て我が家のわんこ(シバ系雑種、中型)の頭をぐわし、と両手でつかんで、「毛をかき混ぜて」みようと試みました。
ぐわしぐわし、ぐしゃぐしゃ、くしゃくしゃ……
うーん、何か違う。
わんこは最初は気持ちよさげでしたが、だんだんと迷惑そうな細目になってきましたね。
かき混ぜる時にはまず、指先をある程度立てて、地肌にまで届くようにせねばならないですね、そうしないとまず、混ざりません。
しかし毛というのはだいたい根元でしっかりと固定されています。それに流れというものもある。
だから「混ざる」というのにはやや違う気もします。たとえば、白髪と黒い髪とをひっかき回してみても、それぞれ生えている場所が決まっているので、完全に『混ざる』ことはないでしょう。
少なくとも、短い髪の毛にはあまり使えない表現なのだろう、とここで実感しました。
ならば、頭にしっかりとくっついていて離れない『髪』を『かきまぜる』とはいったいどんな状態となるのであろうか?
そして日本人はいつから、そしてどんな場合にこの文章表現を使うようになっていったのか?
ここで、ネット検索を使ってぞんざいに調べてみました。
結果は驚いたことに!
圧倒的に、ボーイズラブ(BL)が多かったのです(あ、予想していました?)
オンライン小説(個人的な公開物、もしくは電子書籍)、イラストコメント、画像コメントでの例が80余、見つかりました。
(調べれば調べるほど、他にも出てきそうです)
時代的には、確認できたもので一番古いのが2005年公開でした。
80作品中、 BLが 57(全体の71.3パーセント)
うちオリジナル作が 31(〃38.8パーセント)
二次創作が 26(〃32.5パーセント)
著作権の関係もあるので引用は控えさせていただきますが、二次創作の元ネタは、漫画由来が10、ゲーム由来(BLゲーム含む)が5、実在するアイドルグループが4、あとはカードゲームや特撮、小説からキャラクターを借りて、
『妄想しました(´-`).。oO』
というものでした。
ネタに使われた漫画の中で原作が一番古いものは1986年発刊でした。
ただ、たいがい小説や漫画、ほぼ共通するのが、後にアニメや映画、ゲームなどに発展したものが多く、ゆえに、編集の変遷を経て登場キャラクターや作画状況、バージョンもさまざまというものも数多いようです。
実際に『妄想』した作者さんが、いったいどこで髪をかき混ぜさせたくなったのかはマチマチでしょう。
作品の二割程度は、R18指定でした。そして、該当シーンももろに、18歳未満では読んではいけないことになっている部分に関わるものが多かったです。
まあ、二人がいてどちらか髪が生えていてもうひとりがその髪にかなり深く手を差し入れているのですから、距離は近いに違いあるめえ。
ただ、日常の中で「自分の髪をかき混ぜて」いるキャラもそれなりに存在しており、
BL作品では 5
その他では 3
ありました。掻き毟る、ではなく、かき混ぜているのです。まあ、かきむしったら毛が抜けるわな。
何となくベートーベンを想い浮かべてしまいました、私は。
このように「背徳的な」内容におおいに関係する動作なのか? と眉をひそめる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、実際のところ、私は、この表現は生まれるべくして生まれて来たのでは?
と感じているのです。
そして、使い方ひとつで無限の世界が拓けるのでは? とまで(おおげさな)。
そう思い至った理由と、ここで上げた以前の「髪かき混ぜ」と普通の「かき混ぜ」については後半にて。
つい熱く語ってしまい、後半に続く。