霊感占い師
「あんた、もうすっかり信者ね。」
食事が終った後、円は啓二に言った。
「そりゃ、これだけご利益があれば信者になるさ。
サイトだけじゃないんだぜ。
SNSでお願いしたら、ほとんどかなうんだぜ。
追跡調査した結果でも、効果が無かったって例は0だよ。」
「あんたの分も含めてね。」
「そりゃそうだ。
指くわえて見てるだけなんて意味無い。
それに彼女の布教活動に俺ほど貢献した人間はいないと思うぞ。」
「でも宝くじ一等当ててって願いは無視されたんでしょ。」
「あれはちょっと欲書きすぎたかなと。」
「あまり変な事書いて嫌われないようにね。」
「お前はやらないのか?」
「神社の娘が他の神の信者になったらまずいでしょ。」
そう言いながら、円は席を立った。
「もう帰るのか?」
「今日は午後から例のバイトがあるのよ。
支払いよろしくね。」
円はK市市内某所の占いセンターで霊感占い師のバイトをやっていた。
事務所で顔が隠れる衣装に着替えて席についた。
円は結構人気の占い師で、週二回半日だけと言う事もあり、今日も予約で一杯だった。
一人目は若い女性だ。
なんだか、毎日身の回りでラップ音がするので困っているので原因を調べて欲しいと言う。
それって占いじゃないじゃないと円は思った。
「あなた、最近亡くなられた彼氏がいましたね。」
円は彼女の側に立ってる男の霊を見ながら言った。
「何故分かるのです?」
「彼が貴女を守ろうとずっと憑いているんですよ。」
「なんですって。
イケメンだし金持ちだし、生きてるうちは色々良かったんですが、死んでから付きまとわれるのは困ります。
それもずっと付いて来るなんて。
ストーカーですか?」
男の霊は憤慨して去って行った。
「『心配だから守ってたのに、ストーカーとは何事だ』と、怒って行っちゃいましたよ。」
「本当ですか?」
「本当です。もし何かあったらまたきてください。」
「いえ、何かあるって事はあなたが当てにならないって事でしょ。」
「そうですか。じゃあご自由に。」
最初の客が帰ると、円はため息をついた。
あんな女を守ってたなんて律儀な男だと思った。
次入ってきたのは左足をギブスで固定して松葉杖をついた若い男性と付き添いの女性だった。
「どうぞおかけ下さい。」
男性は女性に助けられてなんとか椅子にすわり、女性は男性の隣にすわった。
「どうしました?」
「この人最近急に悪い事が起こるようになったのです。
財布を落として、警察に遺失物届けを出しに行ったら、強盗事件の犯人に間違えられて取調べを受け、
挙句の果てに出口ですべって転んで骨折して入院ですよ。」
円にも何か判らないが違和感がした。なんだろう。
呪われてるのとは違う。
呪われてるのなら、それ相応の気配がする。
この男性の周りには何の気配も無い。
まるで真空のようだ。
何の声もしない。
そうか。
「あなたには、守ってくれるものが全くいません。
そんな事は普通無いのですが。」
「普通は違うのですか?」
と男性。
「普通は何らかの形で守られてます。
でもあなたの周りには何もいない。
まるで真空地帯のように。」
「陽子がいてくれますが。」
「いえ、そういう意味では無く、普通なんらかの形で霊的に守られているのです。
陽子さんがいてよかったですよ。
でも彼女と離れたら全く無防備になりますよ。」
「でも最近までは普通だったんです。
あの日からおかしくなったんです。」
「あの日って。」
「実はSNSにシュリーと言うハンドルネームのおそらく女性がいて、奇跡のような事を自分がやったと言うのです。
それでつい『うそつき。』って書いちゃったんです。
そしたらその次の日にはこんな事に。
なんとかしようにも私のIDはブロックされちゃいましたし、別IDを作ろうとしてもエラーが起きて出来ないのです。」
「なんですって。」
円は思わず大きな声を出した。
「どうしたんです。」
「シュリーと言うのは……。
兎に角まずいです。
簡単に言うと、あなたは幸運の女神に喧嘩を売りました。
で、幸運から見放された状態です。」