訴求力
啓二は円の言う事を全て信じたわけではなかったが、いずれにせよ『吉 祥子』なる個人名を出すつもりは無かった。
それが著名人のものならいざ知らず、ただの女子高生では名誉毀損などの厄介ごとを起こすだけだ。
だがパワースポットだの、ラッキーアイテムだのは訴求力が高い。
『K市不思議館』はライト層、特に女性がターゲットで、他の怪談系サイトと比べると陰気な話は少ない。
と言っても中途半端なものだ。
恋愛系の話は需要が高いから、多少問題があっても入れてしまう。
たとえ黒魔術であっても、『おまじない』と言い換えればOKなのだ。
それ以外でも、例えばK市の隣のU市にある○姫神社などは縁切りスポットとして挙げているものの、あそこは随分な伝説がある。
書いてる方としても疑問に感じ無い事も無いが、実際ページビューを稼いでいる以上仕方ない。
実際『最上仏具店の開運グッズ』の特集ページへのアクセスは急増した。
どうもSNSで『最上仏具店の開運グッズ』の事が話題になっており、まとまった情報がある『K市不思議館』へアクセスが集中してるらしい。
通販サイトと勘違いした購入方法の問い合わせなどもあり、啓二は少し閉口した。
挙句の果てに、サイトの垂れ込み用フォームを通じて写真の現物で良いから売って欲しいだとか、再発売が何時になるのかとかなどとメッセージさえ来た。
どうも『最上仏具店の開運グッズ』は品切れらしい。
気がつくと『K市不思議館』のPVの95%以上が『最上仏具店の開運グッズ』のページへのへのアクセスになっていた。
話題性か、それともこれも『開運グッズ』の効用であろうか?
いずれにせよ『吉 祥子』様様である。
SNSで実際に購入したと言ってるIDにダイレクトメッセージで情報提供を依頼すると共にサイトでも購入者の感想を募集した。
そうして集めた情報を特集第二弾としてUPした。
第二弾をUPすると、こんどは垂れ込み用フォームを通してネガティブな反応も来た。
インチキだと言われるのはいつもの事だし、宣伝だろうと言われるのも分かる。
意外だったのは以前取り上げたインド料理店の光る絵のパクリだと言う意見だ。
両方の現物を見た啓二としては、最上仏具店の方が明らかにパワーアップしてると思ったのだが。
インド料理店の方が本物で、最上仏具店の方がトリックと言うのは根拠が良く分からない。
啓二は啓太にその話をしてみると、啓太はそのそも『最上仏具店の開運グッズ』の事を何も知らなかったらしい。
「『5時からブンブン』でインド料理店の取材をしてのも兄貴だよね。」
「ああ、うちの取材班だ。」
「あれ確か、持って来たのT高校の生徒だって話だよね。」
「店主の話だとT高校の制服着てたって事だ。
あの時来店した生徒のリーダーっぽい子に後から聞いてみたけど、個人は特定出来なかった。」
「それってやっぱり『吉 祥子』って子じゃないの?」
「そうかも知れんが、その子に近づくのは危険だって話だったんじゃないのか?」
「そう言われた。足元の蟻のように踏み潰されるかもしれないって。
だけど、サイトに情報上げても何も起ってないし、むしろPVが急増してうはうはだ。
その子が友達の家の商売の支援をしてるなら好意的に扱う限り大丈夫じゃないかと思ってる。」
「じゃあ、その仏具店をうちで取材しても大丈夫だな。」
「そう思う。今品切れしてるみたいだから、再入荷時に取材に行ったら良いんじゃない?
そう言えばインド料理店の方はどうなってるの?」
「街角情報のコーナーで一度取り上げただけで追加取材はしてない。
正直絵が光るだけで何度も取材するのは無理だ。」
「俺がもう一度行ってみるよ。何かあったら知らせる。」
「そうか。」
啓二は早速翌日インド料理店に行って見た。
以前TVで取り上げられた時ほどの行列ではなかったが十分はやってるようだ。
中に入って、絵が飾ってある所を見ると、中央に問題の光る絵、右にガネーシャの絵で、左に女性の写真が貼ってある。
「この写真は誰ですか?」
「サラスバティー様です。」
「サラスバティー様って、神様のサラスバティーじゃなくて、歌手のサラスバティー・モトワニさんですか?」
「彼女は神の化身です。」
啓二は円が言った『彼女相当強い』と言う言葉を思い出した。
この店の店員によると神の化身らしい。
たしか、ラクシュミーの左右にガネーシャ、サラスバティーと言う構図はインドの神画ではしばしば見られるお目出度ものだが、サラスバティー・モトワニのブロマイドでも良いのか?
啓二は疑問に思わざるを得なかった。