アドバイザー
啓二は久しぶりに大学に行く事にした。
授業に出るのではなくて、人と会うためにだ。
事前に連絡して、キャンパス内で昼食時に落ち合った。
御子神 円は啓二と同期だ。
啓二がほとんど大学に行かなくなったので、仮に卒業できても、卒業年次は大分遅れそうだ。
彼女の実家は地方の神社の神主の家らしく、本人も『見える人』らしい。
啓二が『K市不思議館』を始めて以来、時々分からない事を聞くようにしている。
今回の報酬は昼食をおごる事。
但し学食なんぞではない。
「あんた卒業する気あるの?」
と円はいきなり啓二にパンチを食らわした。
「無い。」
「きっぱりしてるわね。」
「実際に稼いでるんだから。
今から単位取って卒論に就活。
今稼いでるレベルまで稼げるようになるまで何年かかると思う?」
「サイトでいつまで稼げるか分からないじゃない?」
「就職しても首になるかもしれないし、会社がつぶれるかも知れない。
一緒だよ。」
「それだけ稼いでるって言うのなら、それに見合う分奢りなさいね。
私の貢献分だってあるんだから。」
「へいへい。」
啓二の考えでは本当に高級な店はキャンパスの周りには無いし、本気でたかるならディナーだ。
食事がひと段落すると、啓二は本題に入った。
「ところで、サラスバティー・モトワニって知ってる。」
「ああ、その話。」
「その話って。」
「先週の放送の件でしょ。」
「知ってるのか?」
「ちょっとした話題になってるから。」
「そりゃそうだな。」
「あんた分かってない。
私たちの業界で話題になってるのよ。
あれはやばいって。
触らぬ神に祟りなしって知ってる?」
「そりゃ日本人なら誰でも知ってるだろ。
それが何か?」
「だから、触らぬ神に祟りなしよ。」
「『神』と『祟り』とどっちがポイント。」
「だから両方。大体サラスバティーって名前分かってる?」
「サラスバティーってヒンドゥー教の女神の名前でしょ。」
「正解。
ちなみに仏教では弁才天。弁天様ね。」
「で。」
「何処までか分からないけど、彼女相当強いわよ。
それとあのビデオで光った女の子。
彼女は下手したらサラスバティーより強いかも知れない位。
あんなの見たこと無い。」
「彼女については情報入手したよ。
名前は吉 祥子。
T高校の1年生。
サラスバティーさんと同級生で、彼女にはシュリーって呼ばれてるらしい。」
「分かったわ。吉祥天ね。」
「さすがだね。」
「そんな悠長な事言ってる場合じゃない。」
「どう言うこと?
仮に本物の弁天様と吉祥天だとしても両方とも福の神じゃないか。」
「例えば、人間の足元に蟻がいるとするじゃない。
その人間がどれほど善人だとしても、蟻をよけて歩くとは限らないでしょ。」
「うろちょろしてたら踏み潰されるかもしれないって事?」
「そう。」
「うちの兄貴不味いかもしれないな。」
「どう言うこと?」
「いや、あのビデオ撮った取材班のディレクターでさ、ビデオがきえちゃったから再取材しろって言われてるんだけど。」
「それで?」
「どうもサラスバティーさん怒らせたらしいんだよね。
取材拒否食らった。」
「まあ取材拒否で済んで良かったじゃない。
で、ビデオ消えたって?」
「放送局が持ってた番組マスターと元の取材ビデオが気がつくと消えてたらしい。
うちのHDレコーダーの録画も消えてた。」
「それやばいよ。
他のところでも録画消えてたって話聞いたもの。
下手するとあのビデオこの世から抹殺されたかも。」
「まさか。」
「普通なら有り得ないけど。
ひょっとすると相手は本当に神様かも。」
「そんな事有り得るのか?」
「分からない。
でも、もし別々の機器に録画されたビデオ全部消去できるなら、人1人抹殺する事位出来る。」
「嫌な事言うなあ。」
「危機感が全然足りない。
あんたら兄弟やばいかも知れないのに。」
「それと、もし消されたのだとすると、消したのはその女の子の方ね。
光ったのも明らかに拒否してるって事だわ。」
「そう言えば昨日兄貴がその子取材に行って、通りかかったサラスヴァティーさんに『シュリーに無礼をはたらくと罰が当たりますよ。』って言われたって。」
「あんたら兄弟そろいもそろって馬鹿じゃない?
それだけはっきり警告されてるのに。
多分ビデオ消去したのその子だわ。
その子怒らせたら二人とも消されるわよ。」
「本気?」
「さっきから何聞いてたの?
はっきり言うけどね、特にあんたの兄貴はもう消されてもおかしくない立場だから。」