表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一週間  作者: α
5/10

金曜日

昔の職場に戻っていた

そこは規則の順守が優先される世界であり僕のような人に言われたことだけで終わることに物足りなさを感じる人間には悲しいかないくら昔見た夢だったとしても心の底から納得する世界ではなかった

いつしか成功や自分の人生を考えるようになっていた

そんな世界にいたこともあってか周りの意見は否定的なものや閉鎖的なものしかなく時々言われる「挑戦」という言葉もよくよく聞けば資格取得の話に帰結するだけだった

そんな世界に僕はいたのだ

誤解されるのも申し訳ないのでほんの少しの補足をするならばその会社へは感謝しているし僕自身も入社後のギャップはあれどもそれは自身の物差しを取り換えるものとして受け止めたわけだしいわゆる恨みとかは一切ない

そんな場所で僕はなぜだか元気いっぱいだった

きっと――あの頃はわからなかったはずの――今になってやっとわかった人生のとらえ方を理解したからこその行動なのだろう

昔の職業が僕の夢をそのまま表していた

思えば小学校から「将来の夢は?」と問われるたびに職業を答えるように教わっていたからかもしれない

いよいよ僕の出番が来ると気合いを入れなおしたその時に僕は目覚めた


久々に夜中まで作業をしていた割には朝はいつもより早くそしていつも以上にすっきりと目が覚めた

改めて眺めると年季の入ったスマホで時刻を確認する


申し合わせたように色々な出来事が多く今の僕は正直なところ少しだけ混乱を覚えている

それは同時に僕自身の奥深くで澱んでいた何かが一気に噴き出したようにさえ思える

それならば一層のことすべてを出し切ってしまえばいいのかもしれないとさえ思う

だからだろうか――昔いた世界の夢を見てしまうのは

あの頃だけは順調だった気がする――多少の不満も軋轢さえも乗り越えればいいとしか考えていなかった

理解できない人間は一定数いるものであり距離をとればそれで解決すると思っていた

それが世の中であるならば適応することも大事だが器用に生きることを僕は選んだ

何も間違えてはいないはずだった

それでも何となくの不安が日毎に大きくなっていった

そしてよその芝生が日毎より青く見えるように感じていた

「視野を広げたい」――ありきたりな理由でその時の僕はすべてを捨てた

後悔はしていない――と言ったら嘘になるだろう


「この際だからすべてを手放してしまいたい」

そんなことを思うと何故だかスマホを取り換えたくなった

機種変更ではなく今のを解約して新しい機種に変更する

最近では格安スマホなどもあるのだからそれにしてもいいのかもしれない

水曜日には目的なく出かけた家電量販店へ出かけることにする


スマホで時刻を確認すれば7:25と表示されている

さすがに出かけるには早すぎるから昨日から作り始めたプロットを作り続けることにした

物語の展開もそうだが柱になる部分はなるべくシンプルになるように心がける

盛り込み過ぎないほうがかえって物語を作る上で色々なイレギュラーなどへの対応も楽になるのだ

そんなことを考えながら昔はプロットばかりを作り続けていたことを思い出す

きっちり仕上がる作品がないのに気が付けばシリーズものを作ろうと考えだしてしまう

どこかで要領を得ていなかっただけの話だ

そんなことを思いながらも今回も楽しいことには変わりない

「昔はよかった」等というつもりはないが「昔にかじっておいてよかった」とは思う

改めてやり直す時にここまでスムーズに進むとは意外と経験は馬鹿に出来ない

(そういえば少し数学の勉強をやり直したいと検定の参考書を購入したことがあるが当時はなぜに理解できなかったのかがわからないほどに理解が早かったりすることもあるが決してどこかで勉強をやり直したわけではないのにと不思議な経験をしたこともある)


スマホの時刻が9:00を表示したところで作業に区切りをつける

この1週間では外食ばかりしている気もするがその方が早いと家を出てカフェで簡単な朝食をとることにした

手早く着替えると通帳をカバンに入れて部屋を出た

カギを締めたときに気付いたのだがスマホを契約するときには何が必要になってくるのだろう

今のご時世でも印鑑が必要なケースなどは案外に多くある種の不安を覚えるがそれでも何とかなるだろうと駅へ歩き出した

道端のネコがあくびをしている

昔猫を飼いたいと思っていた時期もあったがどこか気まぐれな性格に振り回されてしまいそうな気がして結局猫を飼うための行動は何もなかった

途中で歩道と道路を区切るための花壇の中からがさがさと音が聞こえる

「なんだろう?」と覗き込むとたくさんのスズメが飛び出してきた

日が高くなり始めた時刻に動物たちも行動を始めるのだろうかなどと思っていたら信号が赤に変わってしまった

急ぐでもなく過ごす時間に慣れてはきたが今日が金曜日で明日と明後日にかけて引っ越しすることや月曜日からは仕事に戻ることを考えるとこの生活を手放す方がいいのか迷うことに気付いた

昔はどちらかというと忙しく感じるくらいがちょうどよかったのだが今度の会社はどれくらいのペースで仕事をしていくのだろうかなどとも考えだしていて結局のところ僕には何か縛られるものがなければ生きていけないのかもしれないなどと結論付けた

気が付けば信号が点滅を始めていた――考え事をしているうちに変わっていてそれに気づかないほどに集中してしまっていたらしい

慌てて信号を渡り交通量が多くなった道路を横目に駅へ歩き続けた

駅前に近づくにつれお店の数が増えてくるがどこもまだ開店前の準備をしていて慣れているのか隣のお店の人同士で会話しているところもあった


何度か利用しているカフェに着きレジでアイスコーヒーとパンのセットを注文する

目の前で焼いてくれるので少し時間がかかりはするのだがそこまでかかるわけではない

小さなサービスかもしれないがそれをうれしく思う

セットが並べられたトレーを受け取り空いている席を探す

この時間だからなのかは知らないがそこそこ人がいる

本を読んでいる年配の男性

パソコンとにらめっこしている若いスーツの女性

書類に目を通している中年くらいの男性

おしゃべりを楽しむ主婦らしき人々たち

僕はフロアの真ん中あたりの比較的静かそうな席に座ることにした


パンを黙々と平らげる

アイスコーヒーを一口飲むとスマホを調べることにした

格安スマホでは二昔前の機種がラインナップされている

こだわりはないがアップデートなどに耐えられるのだろうかと不安になる

何しろ今の機種が携帯電話からスマホに移行し始めた時期にリリースされた機種でありテンキーが付いているからとしぶしぶ取り換えたのだからかれこれ10年近く前の機種になる

最新とまではいかずともこれはどうだろうと不安が残る

ついでだからと今のキャリアのラインナップを眺めれば画一的に見えメーカーによる差異がほとんどわからないように感じた

「仕方ないから店頭で話だけ聞きに来たような切り出しで行くか」と家電量販店での対応を考えると

アイスコーヒーを飲み終えた

トレーを片付け店を出る

もう少しでお店も始まるのか駅前が少しだけにぎやかになっていた

改札を抜け列車を待つ

ラッシュも終わった時間だからホームは閑散としていて次の列車が来るまでは8分ほどあった

ホームから眺める駅前は整然としていてお店もバスローターりも調和がとれているように見える

もうすぐでこの町を出ていくことを思い出した

このホームから毎日のように列車に乗っていた

疲れたときもこの駅で当たり前だが降りていた

駅も町も僕を追い詰めることは何もなかったはずだ

僕自身がどうしてかこの町を好きになれなかっただけのこと……

それは新しく引っ越す町でも同じなのかと不安に思うが今回は周辺の散策も要点を得ておりいくらかの楽しみはあったからきっとそうはならないだろうと――どうしてか願っていることに気付いた

駅前を眺めながらそんなことを思い今日までの出来事を振り返る

いきなり言われた会社の倒産に始まり引っ越しを決めるとどうしてか僕は過去を捨てるような作業に入った――本当は会社の倒産という外部からの要因でやむを得ない時にそれならばどさくさに紛れて捨ててしまおうと無意識に考えていただけなのかもしれない

愛犬を失い家族との距離がより遠くに感じるようにもなった

久々に友人から連絡が来てあってみればやはり距離を感じるような出来事であった

今週だけでも僕は多くを失った気がする――その失ったものの中には記憶の彼方に封印しておいたような苦い思い出なども含まれているのかもしれない

ロータリーでは誘導員の笛に合わせてバスがバックしている

失ったものへの執着と未来への期待のバランスはどう取ればいいのだろう

どうして僕は「行動することが何かを得ること」ではなく「行動することが何かを失うこと」と考えるようになってしまったのだろう

そんなことを考えていた時に静かに列車がホームに入ってきた


あいている席に座り窓の外を眺める

いつしか覚えていたこの景色もきっと忘れていくのだろうとぼんやり思っていた

新しい道を覚えるたびにその町になじんでいき昔の町を忘れていくような感覚

それは僕自身が決して嫌いではないと感じた感覚ではあった

そんなことを考えているうちに列車が乗換駅に到着していて少ない人々が降りて行ってしまい

それ以上の人が乗り込んできた

少しの停車時間があり列車が静かに走り出す

僕はスマホでニュースを眺めることにした

やはり遠い国の紛争問題にもミュージシャンの不祥事にもサッカーの強豪チームがようやく調子を上げてきたという話題も関心を持つことはなくしばらく色々なニュースを眺めたのちにスマホをしまった

間もなく目的の駅に列車が到着した


ホームに降り人の流れに従って改札を抜けばらけだした人の流れを乱すことなく家電量販店に近い出口へ向かう

難なく出口に到着しそのまま家電量販店へ向かった


開店したばかりだというのに店内には多くの人がいて驚いた

格安スマホのコーナーに向かい説明を受けるが懸念していたような話はあまりないらしく一番使い勝手がいいという機種を契約することにした

そういえば印鑑などはやはり不要で何事もなく契約が進む

料金プランの確認や引き落とし口座の確認や本人確認などが淡々と進んでいく

久々に行う契約は説明も内容もわかりづらくなんだかお得なのかどうかさえ結局のところわからなかった

そして驚いたのが昔はデータ移行をやってくれたはずなのに今は個人情報保護という観点からできないと断られたところかもしれない

仕方ないと新しいスマホは袋に入れたまま店を後にする

解約することになるスマホで時刻を確認すれば11:23と表示されていた

店を出て少し離れたところにあるチェーンのカフェに入る

スマホはすぐに使えるようにはなっていると説明を受けたからデータの意向を済ませることを考えた

とりあえずアプリを使うことで一度クラウドへ飛ばしてそれを入れられるのが一番よかったのだが古すぎる機種にはそのアプリを入れるほどの容量も起動させるだけのメモリも内容で結局のところ再入力することが一番確実ではないかという結論を下した

途方に暮れながらもそれをやるしかないと部屋へ戻る


昼下がりの空いている列車の中で色々なことを考える

当たり前だが一番移行させたいのは連絡先でありそれだけは絶対に終わらせなければならない

写真は特にこだわりはなくむしろなくなるならばそれでもかまわないと思い切った決断ができた

他にはアプリで動かしているSNSなどは再度インストールすればいいだけの話だ

そういえばEメールのアドレスがなくなるからにはEメールでのやり取りをメインにしていた人にはどうすればいいのかとドキッとしたがこの際だからLINEを入れてしまえば済む話かもしれないと楽観的に思えた

それよりもここまで色々なことが起こるとさすがに一息つきたくもなってくる

列車が乗り換えの大きな駅に着いた時に迷うことなくホームへ降りていた

そこからは吸い込まれるように本屋へ向かっていた

読みたい本ではなくたまたま目に入った本を読むことが意外と一息つくことにつながったりもする

そんな経験から僕は気が向いた本を探せばいいと思ったのだ

ビジネス書コーナーへは行かずに文庫本のコーナーへ向かう

最近の作家は色々なところからデビューしているようで年齢も若かったりすることに驚いた

それでも久々ならばと中原中也の詩集を手にしていた

精読したことはないが彼の感性の鋭さを好きだった――正確なことを言えばそれを理解できるほどに僕の感性が鋭かったわけではないが理解できないことで僕は感性が鋭くはないと自覚していたからこそその鋭さを楽しめたのかもしれない

少しだけ並んだレジの一番後ろに並び店内を見回すとやはり昼下がりでもある程度は人気がありそれが例えば平日休みの人なのかと想像すればやはりこの世界は広いと痛感する

目の前の人が見ている世界でさえ僕には理解できないのだから……

少し待って精算を済ませると店名入りのよく見かけるブックカバーをかけてもらい店を出る

再度列車に乗り込み空いている席に座るとそれをぱらぱらと読み始めた

改めて読むことでわかることもあるし作品には出てこない部分を追いかけたいとも思うようになってくる

環境が人を作ることは紛れもない事実で彼のような作品を作るためにはどのような生い立ちがあってそしてそれがどのように作品につながったのかを考えると才能とかセンスとかもちろんそれらはあったはずだがそれらだけで片付けるのが惜しいと感じてしまうのだ

通いなれているせいかあっという間に最寄駅へ戻ってきていた

スーパーによりカップ麺とおにぎりを購入し部屋へ戻った

部屋に戻りお湯を沸かす

その間にも詩集をぱらぱらと眺める

この空白に近い時間がたまらなくうれしい――来週以降はどのようにして作り出していけばいいのかをしっかり考えていこうと無意識に思っていた

夢中になるうちにお湯が沸いていた

スーパーで買ったカップ麺に注ぐと本を読まずにいようと決めた

どうやら一度読んだ本は再読するとより夢中になってしまうらしい

3分が過ぎ後入れのスープ等を入れ完成すると黙々と平らげていく

1人での食事が嫌なわけではないがどうにもただ食べることだけに集中してしまい楽しむことができない

世間で話題にもなったおひとり様を体験することは僕にはないだろう

味気ない食事を終えると本を読むではなくスマホを取り出した

気が付けば使っていない連絡先の方が多くなっていた

この際それらは全て消してしまえばいいと思ったのだ

使い慣れたスマホの連絡先を開く――顔を思い出せなくなった人も数人は出てくるのだろうかと不安がよぎったがこれは作業でしかないのだからと自分に言い聞かせ進めることにした

自分でも驚いたのだが小学生のころの同級生の連絡先も入っていた

確かSNSで盛り上がり一度だけ学年での同窓会を開いたことがありその時に交換したのだがその時でさえ大学生と社会人とに分かれていて結局のところ彼らの連絡先を使うことは一度もなかった

迷いがないと言えば嘘になるがそれでも消していくことに抵抗を感じることはなかった

中学生の同級生も同じように消していけた

高校生の同級生になると少しだけ戸惑いが増えた――戸惑いの数だけ残す人が増えた気がしてならない

大学生ではクラスに所属することがなく数人の連絡先しか知らなかったがそれでも今となっては連絡を取る人はおらずこちらも迷いなく消してしまった

就職してからは転職を経験しているせいか多いのだが――離れてしまえばもはや連絡先などは何の価値も持たないのかと痛感することになって――今の勤務先の人以外は全て消してしまった

交流会で知り合った人たちとは基本的にSNS上でのやり取りがメインになっていて電話番号を知っている人が少ないことに驚くがその中には僕が忘れたふりをしていた人がいた

彼女とはどこかの異業種交流会で知り合った気がする

あの頃は僕も若くて目の前の働き方だけではなくいつかは起業したいことや色々な経験を積みたいからと異業種への転職なども考えていると話したことがある

一貫性のない僕の会話にいつも耳を傾けてくれている人だった

僕自身も何をしたいのかそして自分には何ができるのかをまだわかっていなかったし可能性があるならば一つでも多くのことに取り組みたいと鼻息を荒くしていた――そんな若すぎたときに出会ったのだ

気が付けば普段から合うようになっていたがそこには恋愛はなかった

お互いが目標を決められないままに何かを目指していたのだ

僕らはよく話をした

最近影響を受けた本とか仕事の近況と将来の話などをいくらでも話した

話を続けるうちに視野が広がる気がしていたがそれは支離滅裂になっていてどこか収束のつかないところまで話が飛躍してしまっただけのことだった

時期は知らないが彼女に恋人ができたらしい――悲しいくらいに妬みや僻みは僕にはなかった

彼女はいつからかまともなことを言うようになった

いやまともなことしか言わなくなっていった

「今の仕事を頑張れば良いことがあるはずだから」とか「人は皆ね自分だけは違うと勘違いしてしまうものなの」とか――後で知ったことだが彼氏が堅物でそこに影響されていた自分をだましていたのかもしれない

気が付けば会うことがぱたりと無くなった

僕は決してそのようなことは言わないしたとえばあの頃の僕くらいの人が同じように悩んでいたら「こういう本を読めばその点はすっきりさせられると思う」とか「まずはこの辺を整理してみたら」とか決めるのは相手にゆだねるようなアドバイスを続けていくだろう

そしていつしかそんな僕も何一つ変わっていないという事で離れられる存在になってしまうのかもしれない

そんなことを思い出しながらも彼女は今何をしているのかは――当たり前だがわからない

若かったころの記憶――それは楽しかったものよりも苦しかったことの方がどういうわけだが多くてそれを多少でもごまかすような脚色ができて「その苦労が今の僕の」なんて言えればいいのかもしれないがそれさえも白けてしまいそうで胸に残ったその苦みをどうするでもなく僕は彼女の連絡先を消した


それでも40人以上が残る形になりもう少し減らしたいとも思ってしまったが罰が当たりそうだからとすべてを入力することにした

箱から取り出したスマホは当たり前だがなじんではいなくて持ってみてもしっくりは来ない

そんなことは古くなったスマホを購入した時でさえ感じたのだから時間の経過とともにきっとなじんでくるだろうと気にしないことにした

新しいスマホで慣れない操作を繰り返しながらなんとか入力する画面までたどり着く

そういえば今はフリック入力でさえ古いと言われるそうだがそこまで高度な技術を僕は持ち合わせてはいない

初めてのフリック入力に戸惑いながらもEメールが使えないならば名前と電話番号だけでいいことに気づき黙々と繰り返していた

2時間くらいが過ぎてやっと半分くらいの入力が終わる

このままだと夕方までかかりそうだなと途方に暮れながらも一息つくとまた同じ作業を繰り返した


予想通りに夕方近くになり入力を終える

今度はアプリをダウンロードしなければならないがこちらは慣れているのとある程度は最初から入っていることもありすぐに終わった

(これを一瞬でできるクラウドをすごいと改めて感じたのは言うまでもない)

さて今度はショートメールにて連絡をしなければならない

スマホを変えたことと新しい電話番号を入力し一部の人にはLINEのIDを入力しておいた

しばらくしてもエラーが返ってくることはないことからまだ連絡先としては機能していることに安心した


日が沈み切ったころになって連絡が新しいスマホが着信音を鳴らした

確認するとLINEに着信があったようだ

確認すると「昨日はありがとう!!これでまた連絡が取りやすくなるね」と昨日あった友人からだった

既読が付いているのに返信しないことがマナー違反と聞いていたので「こちらこそよろしくね」と少しずれたような返信をすると彼からはスタンプが送られてきた

スタンプが来たときは会話を終えたい時と聞いていたのでそのまま返信することはしなかった


スーパーへ買い出しに行く

もう明日には引っ越しの業者が来ることを考えると洗い物を出したくはない

それならば弁当とペットボトルと翌朝のパンを買えばいい

少しだけ安くなった弁当と炭酸水と新製品のパンを購入する

割りばしもつけてもらいそれらはそのまま袋詰めまでしてくれた状態で渡された

部屋へ戻り弁当を温める

その待ち時間で部屋をぐるりと見回す

ごみはまとめておけばいい

本はキャリーケースで服はスーパーからもらってきたダンボールに詰めていけばいいだろう

そこまで物に関心がなくとも意外と荷物が多いことに驚く

デジタル化されてきているとはいえやはりまだ物を持たずに生活することはハードルが高いのかもしれない

今後はルームシェアなども視野に入れていけばいいのだろうか?

1人を好む僕にはそれもハードルが高く感じる話ではあるのだが……

そういえば役所で手続きを出すのを忘れていた

同じ都内ではあるが区が変わる以上は一度役所に行かなければと思い出す


レンジが機械音を発する

扉をあけ弁当を取り出し黙々と平らげる

食べ終えてペットボトルの炭酸水を一口飲む

喉に独特の感触が染み渡る


洋服を全て床に広げる

2日分の衣類を残してダンボールへ詰めていく

最初に引っ越した時にもスーツは向こうで作るからと持ってこなかった

下着なども必要最低限にしてあとは落ち着いてから揃えれば間に合うと計算した

初めての引っ越しは思いのほか身軽だったことを思い出す

他の人に比べて少ないはずの衣類でも時間が案外にかかる

たたんでしまう――何も考えないですむはずの作業なのに何かを考えてしまう

しまい終えるとそれらをガムテープでふたをしていく

マジックで衣類と念のために書いて広い部屋の隅に固めておいた

続けてキャリーケースを広げる

本の入れ方を考えていたのだが読めれば多少折り目などがついても構わないやと立てた状態で運ばれることを考えてしまい始めた

(本当はキャリーケース一つの引っ越しをしたいのだがそれは実現できなかった)

少なくしたはずの本も数えればまだまだ多く感じる冊数に少しうんざりしながらも黙々と詰めていく

そういえば僕自身は電車で新しい部屋へ移動するから2冊くらいは残しておこうと思い本を眺める

色々な思い出がよみがえってくる

最近購入した中原中也の詩集でさえ中学生のころを思い出させるのだから過去とはなんなのだろうと思ってしまう

結局小説を2冊ほど残し他はキャリーケースにしまうことにした

黙々と詰めていく中で今度はしっかりした本棚を買ってまた引っ越す際には本棚ごと持っていくようにしたいと予定のない引っ越しまで考えるのだから――やはり僕自身は今を生きれていないのかもしれない


友人からLINEが届いた

新しい部屋の画像で昨日見たものとは違い部屋にベッドが置かれカーテンも取り付けられていた

無造作に置かれているダンボールが3つほどあり彼が引っ越しを終えたことに気付く

「お疲れ様 引っ越しが終わったんだ」と返す

よく考えたら昨日の今日だからベッドがあることも不思議なのだがお店に在庫があればそのまま持ち狩ることもできるだろう

「ありがとう 実はね一人暮らしではなくて結婚したんだ」と返信が続く

驚きつついると続けざまに

「昨日もねそれを言いたかったんだけど言いそびれちゃった」

「式は挙げない予定だから本当に落ち着いたら遊びに来てね」と彼らしい内容が続く

「おめでとう」と返すと

「それでも引っ越しの話はすごく助かったよ」

「カーテンとか炊事用具とかは嫁に任せたけどね嫁も把握できてなかったみたい」と続く

そこには浮ついた空気よりは2人で生きていくという彼の誠意のようなものが見えた

「それはよかった 落ち着いたら顔出すよ」と送る

彼からはありがとうのスタンプが届いた

良い時間にもなっているからこれ以上の会話を続けるのは野暮だとなじまないスマホをテーブルに戻した


結婚――僕自身は一度もリアルにとらえたことがない話だ

別に興味がないとかではなくただ2人で生きていくという事がどういうことなのかをイメージできない事や現実をみて生きていかなければならなくなる印象にどこか嫌悪感を持ってしまいこのご時世に独身がマイナスのステイタスにはならなくなりつつあるという事実にかまけてここまで来た

「結婚しないの?」――何度も聞かれた言葉の一つだが「そのうちするかもね」と続かないような答えを繰り返してきた

そんな質問に何の意味があるのかはわからないが結局のところその人の自尊心を満たすことくらいにhしかならなさそうだと常々思っていたからそれでよかったのかもしれない

「同級生たちは皆結婚をしているのだろうか?」ふと思う

あの頃はどこか硬派な男を演じる奴らが多かった気がするが実際はどうだったのだろう

「誰それに恋人がいる」などというような浮ついた話に僕自身が関心を持たずにいたからあまり聞くことはなかったしそれを知っていたところで今になればどうってことはない話の一つでしかないだろう

時間が流れるというのは案外にそんなものなのかもしれない――昔のいざこざも浮ついた話も時間が流れれば忘れるかどうでもよくなっていくのかもしれない

それならば――感情を忘れていくことや無関心の度合いが高まることが時間の流れになってしまうのだろうか?


キャリーケースをダンボールの横に置いておく

あとは詰めるではなくそのままトラックに積んでもらえればいいようなものと捨てていくものに振り分けられそうだ


残った衣類と本をリュックサックに詰めておく

非常事態用にとキャンプに関心が高まった時に購入したリュックサックは体に負担がかからない割には容量が多くポケットの数も多いからありがたく感じる

寝袋もしまえるからそれだけで移動すればいいとこちらはすぐにまとまった

それをダンボールの上に置いておく

とりあえず持ち出すものはここにすべてがまとまった形になった

何もない部屋――新しく借りた人はこの部屋に何を思って暮らしはじめ何を思ってこの部屋を出ていくのだろうか?或いは住人の思いとは関係なく部屋が取り壊されることになるのかもしれないが……


一息つきごみ袋を広げる

洋服をかけていたハンガーや突っ張り棒などは燃えるごみで出せることが分かっていたのですべてを処分してしまうことにしていた

黙々と捨てていく

クローゼットは本当に何もない状態になっていた

雑巾で中を拭いていくと意外と汚れが目立つ

4回ほど雑巾を洗いなおしてようやく汚れが取り除けた――その汚れはそのままこの部屋での生活の一部であったのだろう


思い出したように玄関横のシューズ置き場を開ける

洗剤に掃除用品のストック置き場に使っていたのともちろん靴もしまったままだった

意外な盲点がここにあったと反省しながらそこをまとめていく

洗剤などは使い切れるやつを使い切り持ち出すものを持ち出していこうと思う

日用品は忘れるほどに日常の中に溶け込んでいるのかもしれない

靴はスニーカーだけを残して余っていたダンボールへしまいこんでいく

日用品は仕方ないが処分することにしてそのままにしておく


それにしても普段から整理整頓だけは心がけていたがそれでも引っ越しは大変だと感じながらも広く感じるが本当は1DKのそこまで広くない部屋を見渡す

トイレにもトイレットペーパーが残り風呂場には石鹸類が残っている

キッチン周りは何もないが冷蔵庫の中にはいくらかの飲み物だけが残っている

どうやら僕の引っ越しの段取りは相当に悪いのかもしれない


あと少し作業を続けたかったのだが疲れを感じていたこともあり明日に早く起きて片付けようと思いそれらの内容を把握したうえで寝ることにした






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ