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捨てられ令嬢は、騎士団に拾われる  作者: わんたんめん
捨てられ令嬢、騎士団に入る
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アティ、心配されていることに気づく

「それじゃあ、アティちゃんがフラメル家の幸運の精霊なんだ。本当にいたんだね」


 ディーンは珍しいものを見るような紺色の瞳で、アティを見た。


「なんのことっすか?」


 イザークはアティの方を興味深そうに見た。そんな風に見られてもアティにも何のことか分からず、イザークと顔を見合わせたあと、ディーンの方を向いて首をかしげた。


「何のことでしょうか?」


 そしてアティは、家族が残した手紙に書かれていたことを思い出した。そこにはディーンが言ったように、アティのことを幸運をもたらす者と書いてあった。


「そういえば、あの手紙にも……いえ、お話を聞かせてください、ディーンさん」


 ディーンは長い腕を組み、わざとらしくうーんと声を出しながら悩む姿を3人に見せた。


「そうだねー、うーん。アティちゃんがオレとデートしてくれるなら、教えてあげようかな」


 そしてディーンはおどけるようにウインクをして見せた。そんな彼の脇腹を、イラついた顔をしたウィルの長い足が襲おうとした。


「おわ、危ない!」

「なんでおれを盾にするんすか! やめてくださいよ!」


 それをディーンはイザークの後ろに回ることで避ける。イザークはうっとおしそうに耳をピンと立てて抗議した。


「じゃあ応接室で、お茶とお菓子と一緒にウワサ話を楽しもうよ。ウィルくんもそれならいい?」 


 ウィルは朝焼け色の瞳でアティを見下ろす。彼の瞳に宿る炎の意味を、アティはやはり悟ることができなかった。


「ウワサ話なんて大抵は最低で下世話なものだ。それでも、あんたはこの話を聞きたいか」


 その言葉で、ようやくアティはウィルが自分を心配してくれていたのだと気づいた。昔、エミリアに言われた言葉と同じなのだ。

 アティはエミリアもよくこんな風に自分を気遣ってくれることを思い出す。やはり2人は兄弟なのだと感じた。


 そう思うと、アティの表情は自然とほころんだ。その笑みは、固く閉じていた花が開いたときのように美しかった。


「ウィルさん、ありがとうございます。でも、私は大丈夫です」


 そんなアティに、ウィルは柔らかく微笑み返した。初めて見る笑顔に、アティの胸はドクンと大きな音をたてる。


「そうか、あんたがいいならそれがいい」


 アティとディーンが笑顔で見つめあう。ディーンとイザークは、笑っているウィルを見て驚愕の表情をしていた。


「応接室はこっちだ。歩けるか?」

「はい、大丈夫です」


 そしてアティは、レディらしく男性がエスコートをしてくれることを待った。

 動かないアティに気づいたウィルが肘を曲げ、エスコートしようとする。しかし、ディーンにさりげなく体当たりされそうになり、ウィルは横に移動した。


「急になんなんだ、ディーン」

「ふっふっふ、エスコート役はオレに任してほしいな、ウィルくん」


 2人がバチバチと熱い火花を散らしながら見つめ合う。アティはなぜ2人が見つめあっているのか分からず、顎に人差し指を当てて考えた。

 そんなアティの前で、イザークが肘を曲げた。


「レディの前で失礼っすね。おれがエスコートさせてもらうっす」


 ニカッと八重歯を見せて笑うイザークに親近感がわいたアティは、自分の手を彼の腕に重ねようとする。


「うわぁ!」


 しかし、イザークは後ろからウィルに蹴られ床に転がってしまう。


「うう、ひどいっすよ」

「お前が抜け駆けしようとするからだ」

「そうだねー、今回はウィルくんに賛成だよ」

「なんて先輩たちっすか……! 後輩を応援してくれてもいいじゃないっすか!」

「うるさい、黙れ」

「危なっ!」


 ウィルが、飛び上がるように起き上がったイザークの足を払おうとする。イザークはジャンプすることで、それを避けた。

 すごい高いジャンプだわ。アティがウィルとイザークを見ていると、笑顔のディーンが彼女の隣に並んだ。


「アティちゃん、エスコート役にはおれを選んでくれるよね?」

「あ! ウィル先輩、ディーン先輩が抜け駆けしてるっすよ」

「ああ、まずはあいつから潰すか」


「おい、お前ら。うるさいぞ」


 4対の瞳が一斉に、ハキハキとした声がした方を見つめる。


「レディの前で、はしゃぎたくなる気持ちも分かるが、そんな姿はみっともないぞ。いついかなるときも騎士としての矜持を忘れるな」


 説教をしているはずが、説教臭くない喋り方に、今まで争っていた彼らはシュンと大人しくなった。


「すみません、副団長」

「すみませんでした」

「ごめんなさいっす」


 第2騎士団副団長ハロルド・アマーストは謝る3人を満足そうに見たあと、アティにお辞儀をした。

 アティは彼を一方的に知っている。なぜなら、雑誌や新聞に団長のエドワードと共に並んで立っているからだった。


「部下が失礼したね。どうか、先程の無礼を許してくれ」


 そして頭を上げ、アティに柔らかな笑顔で尋ねる。


 彼の夕焼けのように赤い髪から覗いている黄金色の瞳は、強い誇りが輝いていた。

 その顔立ちは、おとぎ話に描かれる騎士のように端正なもので、笑顔がよく似合っている。そして、彼の鍛えられた体は肩幅が広く背も高く、男性らしさに溢れていた。


「ところで、こんな男臭い隊舎に何のご用かな? 君のように可憐なレディには、こんなむさ苦しいところは似合わないよ」


 その笑顔は、太陽のように明るく人を安心させるものだった。

 アティがその笑顔に見とれていると、ウィルが説明する。


「今日の摘発の現場で監禁されていたんですよ。応接室に案内するよう、団長から言われました」


 その言葉に、ハロルドはアティの身に起こったことが自分のことであるかのように辛そうな顔をした。

 アティはこの人は良い人だと確信した。


「それは大変だったね。身を清めたり何かを食べたりして、早く休憩しよう。どうぞ、こちらへ」


 アティは地下室にいた間、タオルで体を拭くなどしていたが、そう言われると熱い湯船に浸かり、お湯で体を清めたくなった。

 お腹も空いていたが、今は体を綺麗にしたかった。


「ええ、体を清めたいですわ。お願いします」


 そしてアティはハロルドにエスコートしてもらい、歩き出した。


「全く思い付かなかったっす……やっぱり副団長はすごいっすね」


 イザークの言葉を、彼と共にショックを受けていたウィルとディーンは、せめてものプライドで作ったポーカーフェイスで受け流したのだった。


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