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アティ、マダム・トゥリーと出会う

　アティとディーンは騎士服の専門店に来ていた。

「アティちゃんも騎士団に入ったんだから隊服が必要だからね」

　そして、アティは仕立て屋からカウンセリングと採寸を受けることになった。

　それは親から既製品ばかり与えられていた彼女には、初めての体験だった。

　長いカウンセリングの末、色は第2騎士団の色である青を基調とすること、錬金術士という後衛であることからスカートタイプにすることが決まった。

　別室に連れていかれて行われた採寸は、いくら女性の採寸係だったといえどアティにとって恥ずかしいものだった。下着姿のままで大勢に囲まれ、メジャーで様々なところを測られた。

　採寸係が測る際、顔色ひとつ変えないので、恥ずかしかっている彼女は、それもまた恥ずかしかった。

「終わりました、ディーンさん。お待たせしました」

　アティは待合室で社交界の噂(うわさ)が書かれたゴシップ紙を読んでいたディーンに話しかける。彼はよほど熱心に読んでいたようで、彼女に呼ばれるまで外界を遮断していたようだ。

「……ああ、ごめん、気づかなかった。全然待ってないから大丈夫だよ。オレも勉強できたから、気にしないで」

「勉強ですか？　でも、それ……」

「うん、ゴシップ紙だよ」

　ディーンは雑誌を机に置き、立ち上がる。

「だいたいは嘘なんだけど、その中に大事な本当が混ざってたりするんだよね。だから、一応読むことにしてるんだ。じゃあ、次行こっか」

「はい！」

　2人はノーブル大通りにあるマダム・トゥリーの店に移動した。

「いらっしゃいませ。当店は初めてですか？」

　小間使いの少女が入店した2人に話しかける。ディーンが人好きのする笑顔を彼女に見せると、彼女は頬を赤らめ彼に見惚れた。

「こんにちは、お嬢さん。今日はこちらのレディの服を仕立てにもらいにきたんだけど、マダムは今手が空いてる？」

「確認して参りますので、少々お待ちください」

　少女はお辞儀をして奥に下がっていく。

　そして少し経ったあと、ディーンがアティの耳元で囁いた。

「マダムに見られてるから、右斜め前に向かってお辞儀をして」

　驚いたアティはディーンの方を見たが、彼は心が読めない笑顔を浮かべているだけだった。

　アティはディーンを信じることにする。

　右斜め前に向かって、優雅にお辞儀し、可憐に微笑む。礼儀作法はアティの得意とする科目だった。

　その姿は社交界に入っても、宝石のように光るだろうと思わせるほど美しかった。

　先程の店員の少女が、2人の元へ戻ってくる。

「マダムからお客さまをご案内するよう言っています。こちらへどうぞ」

　そして、アティたちは別室に連れていかれる。

　その別室には、口元のほくろが妖艶な雰囲気を深めている豊満な肉体を美しいドレスで包んだ貴婦人がいた。

「あなたのような、とてもお美しく可憐なお嬢様にドレスを作ることができるなんて光栄ですわ。どうぞよろしくお願いいたします」

　ルピニスのスタイルの最先端を作り出している女性マダム・トゥリーは、愛想よく微笑んだ。