行ってきます
そして、アティとディーンは、仕事があるハロルドとバート、精霊たちに挨拶回りに向かうセドリックと別れて仕立て屋に向かうことにした。
廊下で会う騎士たちはみな、愛想がよかった。
「お出かけですか?」
「アティちゃんの隊服を仕立てにね」
「そうですか。いってらっしゃい、お気をつけて」
「はい、ありがとうございます。お仕事、頑張ってください」
そんな風に出会う騎士たちと話して、2人はようやく中庭に出る。
そこには、訓練の指揮をとるエドワードがいた。
「お、アティくんにディーンか。これから買い物か?」
エドワードは騎士たちの方を向いていたのに、後ろに目があるのかと思うほど素早くアティたちに気づいた。
「はい、ちょっと出掛けてきます。他に買ってくるものとか、あります? オレ、なんでも買ってきますよ」
ディーンはエドワードの方へ行き、尋ねた。アティは模擬戦闘をしている騎士の中にウィルとイザークの姿を見つける。
2人は他の騎士たちとは違って見える。それは訓練の質というよりかは、技術と経験の差だった。
そして、イザークがウィルの頭に蹴りをいれようとした。即座に片腕で防御したウィルは、イザークの足をとると彼をぶん投げた。
驚きに大きく口を開けたアティの足元に、イザークは転がる。
「うう、あともうちょっとだったのに……うん? ……アティさん!」
イザークは元気よく飛び起きると、ようやくアティに気づいた。
ウィルも模擬剣を持ってアティの元へやってくる。模擬剣は大きくとても重たそうだった。
「お疲れ様です、ウィルさん、イザークさん」
お辞儀するアティに、2人もお辞儀を返す。
重たそうな剣だというのに、ウィルは軽そうに持っている。
「今日は仕立て屋に行くんすよね? 昨日、行けたらよかったんすけど……」
イザークは耳と尻尾をパタリと下げた。そんな彼の頭を、ウィルが乱雑に撫でる。
「お前よりディーンと行った方が、良い服を選べるだろ」
「……慰め方が微妙っす……」
「は?」
フッと遠くを見て笑うイザークに、ウィルは不快そうに眉をつり上げた。そんなウィルの変化に気づいたイザークは、逃げるように早口で言う。
「すんませんっした、ウィル先輩! おれ、他のやつと訓練してくるっす!」
「待て、イザーク。今日のお前の相手はおれって団長が決めただろ」
素早く回れ右するイザークの後ろ襟を、ウィルが掴む。
「アティ、気をつけて行ってこい。良い仕立て屋に会えるといいな。じゃあ、おれたちは訓練に戻る」
「はい、ありがとうございます。2人とも訓練、頑張ってください!」
雰囲気を柔らかくしたウィルは、口角を少しあげた。それがウィルの微笑みなのだと知っているアティは、彼に微笑み返す。
「アティちゃん、そろそろ行こうか」
「はい、ディーンさん!」
ディーンに呼ばれたアティは彼の元に駆け寄った。
「いってらっしゃい、アティくん。気をつけてな」
「はい、エドワードさん。ありがとうございます。行ってきます」
アティとディーンは、たくさんの騎士たちに見送られながら中庭を後にした。
彼女は行ってきます、いってらっしゃい、という言葉の応報に、ニヤつきを抑えられなかった。
なんだか家族みたい……ううん、こんな素敵な言葉を言い合えるみんなが、私の新しい家族なんだわ。




