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捨てられ令嬢は、騎士団に拾われる  作者: わんたんめん
捨てられ令嬢、騎士団に入る
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アティ、初めての打ち上げに参加する

 内装は親しみやすい雰囲気にまとめられており、観葉植物が癒しの空間の一役をかっていた。

 アティたちが囲んでいる、木目が美しい長机の上には、たくさんの美味しそうな料理が並べられている。そして何人かは既にほろ酔いの様相をなしていた。


「アティくん、楽しんでるか?」

「はい、エドワードさん。こんなにぎやかな食卓は初めてですけど、とっても楽しいものなんですね」


 楽しげな笑顔のエドワードに聞かれ、アティも楽しげな笑顔で答える。

 にぎやかで笑い声の絶えない食卓が初めての彼女は話には入っていなかったが、存分に楽しんでいた。


「そうか、それはよかった! 何か食べたいものはあるか? 遠慮せず言いなさい」

「そうっすよ、アティさん。おれたちは酒を飲んじゃいけない分、ジュースや食べ物で楽しむっす」


 イザークはメニューを片手に持って、話に入る。未成年であるアティと彼は、エドワードから直々に飲酒することを禁じられていた。


「アティさん、フィッシュアンドチップスとかどうっすか? それともサラダ? このお店は何でも美味しいんで、全部オススメっすよ」

「うーん、どれも美味しそうで悩みます……いくらでも食べれちゃいそうですね。あ、このキッシュ美味しそう」


 耳を立て尻尾をブンブンと横に振っているイザークは、誰が見ても上機嫌だった。熟した林檎のような瞳は爛々と輝き、楽しいと全身で表現している。

 メニューを見つめるアティの薄緑色の瞳も楽しげに輝いていた。彼女の頬は紅潮し、唇は笑みの形をつくっている。


「姫様、このビスケットはどうですか? バターと蜂蜜の甘さが程よくてオススメでございます」


 アティの横に座っているセドリックは、甘いものに目がないらしく先程からデザートばかり頼んでいる。そして、彼のお眼鏡にかなったものをアティに勧めていた。


「あら、おいしそうね、セドリック。じゃあ、イザークさん、ビスケットも頼んでいいですか?」

「了解っす。エドワードさんも何かいるっすか?」

「いつものお代わりを頼む。ありがとうな、イザーク」

「はい、じゃあ行ってくるっすね」


 イザークは彼らが借りている個室から出ていき、店員を呼びに行く。

 イザークがそばを離れると、ディーンがそばへやって来た。


「アティちゃん、楽しんでる?」

「はい、ディーンさん。とっても楽しんでます。ディーンさんも楽しそうですね」


 酒精に頬を染めている彼は、ふにゃりと柔らかく微笑んだ。


「それはよかった! やっぱり、こういうのは楽しくないとね」

「はい、とても楽しいです。みなさんとの食事は、仲の良い家族の食事みたいで、素敵です」


 その言葉に、ディーンはとても嬉しそうに目を細めた。


「うん、みんな、オレの素敵な家族。これからは、アティちゃんの家族にもなれたらいいな」


 愛しいという気持ちが詰まったディーンの甘い声に、アティの胸は高鳴る。


「はい、団長! いつものです」

「おう、ありがとな! ぷはー、うまい!」


 その横で、店員から受け取ったエールのようなものを、イザークがエドワードに渡す。

 エドワードはとても美味しそうにそれを飲んだ。そんな姿を、ディーンはニヤニヤと見つめている。


「ディーンさん、どうしてそんなに笑っているんですか?」


 アティは不思議に思い、キョトンとした顔で尋ねた。


「実はね、エドワードさんはお酒が飲めないんだよね。でも、それじゃあ格好つかないってことで、お酒に似たジュースをお酒っぽく飲んでるんだよ」

「そうなんすよ、団長も大変っすよね……あ、そういやこの間、近衛騎士のやつが影で団長の悪口言ってるの聞いて、殴り合いになったっす」


 アティはその顔から全く想像できないイザークの過激さに目を丸くした。


「ふん、第1騎士団の馬鹿は自分たちが近衛だからって調子乗りすぎなんだよ。イザークくん、もちろん叩きのめしてやったんだよね?」

「もちろん圧勝っすよ! そいつに尻尾はないけど、尻尾巻いて逃げてたっす。可愛い尻尾だったっすよ」


 ディーンとイザークは大声を立てて笑いだす。


「おいおい、俺の件で勝手に喧嘩するなって何度言えば分かるんだ。お前らが思ってくれることはありがたいが、駄目じゃないか」

「いいや、団長。第2騎士団の男として戦うべきです」


 たしなめるエドワードの肩を、目が座っているウィルがつかんだ。


「よくやったぞ、イザーク。あいつらは自分たちが一番だと思ってるからな。この国で一番の騎士はエドワードさんということを知らないんだ」


 ウィルは上機嫌に歌うように話す。相当、酔っているようだ。


「ウィル先輩もそう思うっすか。おれも常々そう思ってたんすよ」

「ウィルくんもイザークくんも分かってるねー。そう、エドワードさんこそ、もがもが」

「恥ずかしい話はもうやめてくれ。ほら、この揚げ物も美味いぞ」


 エドワードに揚げ物を口に詰められたディーンは、大人しく食べることに専念し始める。 

 そして、アティが頼んでいたキッシュとビスケットが運ばれてきた。彼女はまずキッシュから食べることにする。


「そういえばエドワード、アティさんの部屋はどうするんだ?」


 ワインを飲んでいるハロルドが思い出したように尋ねる。


「精霊と相性が良いみたいだから、バートの先代が住んでいた工房に住んでもらう予定だ」

「あそこは……どうなんだ?」


 エドワードの言葉に、ハロルドは顔を歪めた。


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