大切なものを探す精霊
「ふむ、その体とはどのようなものだろうか? 精霊に肉体があるとは知らなかった。無学で申し訳ない」
「わたくしが言っている体は、額に宝石がついている白い竜のぬいぐるみでございます……精霊は人間の体をつくることもできますが、姫様はわたくしがぬいぐるみに入っている方がお好きなのです……」
女性のものにしては低く、男性のものにしては高い、そんな柔らかな声が壺から聞こえる。
エドワードは眉間に皺を寄せて、そんなぬいぐるみを今日見たな、と考えた。
そしてアティの方を向いて、ああ、と声を漏らす。
「精霊殿、少々、待っていてくれ。心当たりがある。フラメル……いや、アティくん!」
エドワードに呼ばれたアティは、ウィルたちに断りを入れ、彼のもとに駆け足で近寄った。
「精霊さんと話していらっしゃるんですか?」
薄緑の瞳を歓喜に輝かせているアティは、壺と向かい合っているエドワードに尋ねた。
「君のぬいぐるみを、精霊殿に見せてもらえないか? 訳はあとで話すから」
「ぬいぐるみ? はい、いいですよ」
アティは近くに置いていた鞄からぬいぐるみを取りだし、エドワードに渡す。
エドワードは壺の口にぬいぐるみを片手でかざし、声をかけた。
「精霊殿、あなたの体はこれか?」
「ああ! それでございます! ありがとうございます!」
そして、壺の中から小さな光が流星のようにぬいぐるみの中へ走る。すると、ぬいぐるみがモゾモゾと動き出した。精霊が宿ったのだ。
それはエドワードの手から逃れ、翼を使い辺りを自由に飛び回る。
「ああ、外もこの姿も、何もかもが懐かしいです!」
歓喜に満ちた声が、辺りに響く。
その聞き覚えのある声に、アティはどこで聞いたのかしらと首をかしげる。
そんなアティを見たぬいぐるみは、大きな瞳を輝かせた。
「姫様! わたくしが壺から出られるように手配してくださったのは、姫様でしたんですね!」
アティの顔の前で、ぬいぐるみは小さな手を動かしお辞儀する。そして、ウルウルと瞳に涙を溜め、嬉しそうに彼女に語りかける。
「わたくしが壺に囚われている間に、こんなに大きくなられたのですね。姫様の守護精霊として、こんなに喜ばしいことはありません!
しかし、それを見ることができなかったことは一生の不覚です。これからはおそばを離れません!」
アティはキョトンとしたあと、顎に人指し指を当てて答えた。
「私はあなたの姫様ではないわ、精霊さん。人違いをしてらっしゃるのね」
精霊は大きくのけ反るほどショックを受けたと主張する。そして、アティに向かって大きな身振り手振りで話しかけた。
「わたくしです、セドリックですよ、姫様! あなたの守護精霊として生まれ、そのために生きるセドリックですよ!?」
必死なセドリックに、アティは自分が悪いことをしている気分になる。
「ごめんなさい、本当に分からないの」
アティは真摯に謝った。いくら記憶を探しても、全く思い出せないのだ。
セドリックは羽ばたくことをやめ、空中を重力の力に従って落下していく。そこをエドワードが両手で受け止めた。
「おっと、セドリック殿、大丈夫か?」
「……いいえ、立ち直れそうにありません……」
「ごめんなさい、セドリックさん。どうして私をお姫様と勘違いしたのかしら? 教えてくれる?」
セドリックはエドワードの大きな手のひらの上に立ち、また大きく手を降りながら説明する。その姿は、大層愛らしかった。
「あなたさまから大樹フェオールの懐かしい匂いがするのです。そして、そのお髪にその瞳、わたくしの姫様と同じ色をしているのです。
だから、あなたさまはわたくしの姫様に間違いありません!」
「フェオール? 私のスキルにあった名前だわ」
アティはつい思っていることを口に出してしまう。
すると、セドリックは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「それは精霊に与えられる加護でございます! やはりあなたさまは、わたくしの姫様なのですね!」
そして、セドリックは両手を広げてアティに抱きつこうとした。
それをエドワードがセドリックの腹を掴み、アティの方へ向かうことを止める。
「セドリック殿、彼女は精霊ではなく人間だ。本当に人違いではないのか?」
セドリックはジタバタと暴れながら、必死な声を出した。
「いいえ、わたくしの心はあのお方が、わたくしの姫様だと訴えているのです! それを信じます!」




