アティ、みんなと成功を祝う
「やった……!」
ディーンの小さな声は、そばにいた全員の耳に届いた。
「アティちゃん!」
そして、ディーンはアティの名を呼びながら駆け寄ると、彼女を抱き上げ横抱きにし、クルクルと回った。
「やった、完璧にできたよ! 魔力の消費少なめ、解呪の反動なし、宝石の消耗なし! 本当に完璧だ!」
アティは回されながら、心からの笑みを浮かべた。
「やりましたね、ディーンさん! すごいです!」
そして2人の視線が熱く絡むと、ディーンは回るのをやめ、アティを強く抱き締める。
「本当にありがとう。君のお陰で、オレはまた騎士団の役に立てる」
アティの耳元でディーンが囁く。その声は真摯な感情と感謝の念が混ざっており、彼の強い思いに、アティは感極まった。
「……痛っ! 誰だよ、痛いなぁ。あ、ウィルくん……」
2人が静かになったとき、誰かがディーンの頭を叩く。ディーンがしかめ面で勢いよく振り向くと、そこにはウィルが立っていた。
犯人である彼の顔は仏頂面だが、朝焼け色の瞳には炎が渦巻いていた。ディーンはアティから離れて、ウィルに向かって拳を掲げた。
「やったよ、ウィルくん。大成功だ」
「……やったな、ディーン」
そしてウィルはディーンをきつく抱き締めた。拳を合わせるだけだと思っていたディーンは、キョトンとしたあと、ウィルを抱き返し満面の笑みを見せる。
「ありがとう、ウィルくん! ぐはっ!」
そんな2人を、後ろから飛んできたイザークが抱き締める。ディーンはウィルとイザークに挟まれた。
「すごかったっす、ディーン先輩! おれ、感動したっすよー!」
「ありがとう、イザークくん! またジャンプ高くなったね!」
少し遅れたバートも3人に抱きつき、歓喜の声をあげた。
「ディーン、僕の理論を現実にしてくれてありがとう! 本当にすごかったよ、本当にありがとう!」
「バートくんもありがとう! 君の理論に、オレはいつも助けられてるよ!」
そんな4人の仲を羨ましそうにアティが見ていると、仄かに微笑んでいるウィルが彼女を片腕で輪に入れた。
「あんたもよく頑張ったな」
「ウィルさん……はい、ありがとうございます!」
アティは仲間に入れたことが嬉しくて、花が弾けるように笑った。
「フラメルさん、おれ錬金術のことはよくわかんないっすけど、すごかったっす! 尊敬するっす!」
「君が合成してくれたお陰だよ、アティ。僕たちの錬金術はもっと上に昇れることが証明されたんだ!」
イザークとウィルも笑顔でアティを称える。それが嬉しくて、仲間に入れたようで、アティの笑みはより一層輝いた。
「アティちゃん、何度言っても足りないから、また言うね。本当にありがとう!」
ディーンは輝かしい日々を歩む子供のように明るく大きく笑った。
そんな彼に、アティは優しく微笑み返したのだった。
「やったな、ディーン」
ハロルドが泣き笑いの表情で、だまになっているアティたちの元に歩み寄る。
そんな彼の元に、ディーンは輪から離れて微笑みながら駆け寄った。
「ハロルドさんが心配してくれてるのが分かったから、オレもちゃんと頑張ろうって思ったんですよ。ありがとうございます、ハロルドさん」
ディーンはハロルドに抱きつき、尊敬する相手に誉められた喜びが宿った紫紺の瞳で彼を見つめた。
そんなディーンにハロルドは自身の瞳を縁取っている涙を拭い、優しく微笑んだ。
「いつも努力しているお前のことだから、変に気負ってないかと心配だったんだ。お前の頑張りが実って、本当によかった」
そしてハロルドは左手で、ディーンの頭を優しく撫でた。ディーンは誇らしげに微笑み返す。
「はい、ありがとうございます!」
皆が成功を祝して泣き笑いしているとき、少し離れた場所でエドワードは壺に話しかけていた。
「なあ、精霊殿、まだ中にいるんだろう? うちの魔術士の功をねぎらって姿を見せてくれないか? そうすれば、彼も大層喜ぶ」
『……わたくしの、わたくしの大事な体がないのです……どなたか、わたくしの体を知りませんか? ……あれがないと姫様が笑ってくれません……恥ずかしくて、わたくしはここから出ることもできません……』
小さく震える声が、壺の中から聞こえた。