ハロルド、ディーンを心配する
「ディーンは本当に大丈夫だろうか? あいつが1週間も魔力を使えなくなる予想をするなんて、相当無理する証拠じゃないか?」
ハロルドは心配に思っていることを口に出した。
「いつもなら魔術のことはオレに任してください、そのためにオレはこの騎士団にいるんですよ、ぐらいの強がりを言うのにやけに不安そうだったし、アティさんを信じないわけではないがバートは細かい錬金術が苦手だし……ああ、心配だ!」
彼は団長執務室をウロウロと歩き回る。
執務椅子に座っているエドワードは、苦い笑みを浮かべて、それをたしなめた。
「ハロルド、少し落ち着け。ほら、ソファーに座って話そう」
「いいや、落ち着いてられるか! ……ああ、怒鳴るなんてどうかしているな。すまない、エドワード。みんなの前ではキチンとするが、どうにも落ち着かないんだ」
エドワードはうーんと言いながら、顎に手を当てた。弟のような存在を心配する兄貴分のようなこの男を、なんて言い含めようか考えているのだ。
「そりゃあ、ディーンが心配なのは分かるが、ここはあいつを信じるしかないだろう?」
ハロルドは口をへの字にして立ち止まり、困り顔のエドワードを見た。
「ディーンを信じてない訳じゃあないんだ、エドワード。ただ、強がりなあいつが自分の力を分析して正確に報告するのがおかしいと言っているんだよ」
「確かにお前の言う通りだよ、ハロルド……しかしそれは、フラメル嬢がいたからだろう」
その言葉に、ハロルドは力なくソファーに座った。
「生まれを重ねているとでも言うのか? たしかにフラメル家の話を聞くとき、あいつはいつも悲しそうだった」
「まあ、そういうことだろうな」
ハロルドはガックリと頭を垂れ、両手で顔をおおった。
「しかし、強がりなあいつが本音をもらしたということは良いことだ。これから、フラメル嬢はディーン以外のやつらにも、たくさんの影響を与えるだろう。1年後、どうなっているか、全く分からないな」
エドワードが楽しそうに笑うと、ハロルドがキッと彼を見据えた。
「お前、なんで楽しそうなんだよ」
鋭い視線に射られようと笑みを絶やさないエドワードは、睨みつけるハロルドに向かってウインクした。
「お前があいつらを真剣に心配してくれるから、俺はどっしり構えていられるんだ。
それに、お前みたいに心配してくれる最高の上司がいて、あいつらは幸せだし、俺は最高の副官がいて幸せだと思ってな」
ハロルドは何か言おうと口を開いたが、先にエドワードが話し出した。
「それに、今はディーンを信じるしかないからな。バートやフラメル嬢の援助があれば、ディーンはリスクを回避して必ず成功させる。そうだろう、ハロルド?」
「……ああ、その通りだと思う」
しかし、と続けそうになったハロルドに、優しい笑みを浮かべているエドワードが言った。
「できれば変わってやりたいとか思ってるだろうが、ディーンはやるやつだ。それはお前もよく知ってるな?」
「ああ……」
「なら、今はあいつを信じる。それだけだ」
そのとき、執務室の扉が叩かれる。そしてウィルの声が聞こえた。
「団長、バートとアティの準備ができました。中庭の準備もあと少しです」
「ああ、ウィルか。分かった、今行く」
エドワードは執務椅子から立ち上がり、まだソファーに座っているハロルドの背中を叩いた。
「ほら、行くぞ」
「ああ。見てるしかできないなんて嫌だが、今は信じるだけだよな……でもあいつは私たちのために平気で無理するから……」
「信じるしかないって何回言えば分かるんだ。ああもう、本当にお前は最高の上司だよ。さっさと立て」
そして2人は、ウィルが待つ扉の外へ出たのだった。