アティ、壺の中身を知る
「何って、壺ですけど……」
「それは見たら、わかるっすよ? でも、さっきまでなかったっすよね?」
耳と尻尾をピンと立てたイザークは呑気なアティに、いやいやと首を横に振った。
「確か、それは地下室にあった証拠品じゃないか? 魔封じをつけていたのに、動くとは中々やるな」
エドワードは顎に手を当て、壺を観察し始めた。
「これ、オレたちが探してた呪いの壺じゃないですか? あのオズモンド家が所有してから、行方が分からなくなってたやつですよ」
「確かに参考資料にあった模様と、よく似ている。よく覚えていたね、ディーン」
ハロルドがディーンを誉めると、ディーンは照れ臭そうに笑った。
「この描かれている植物は模様に見えますけど、実は魔方陣なんですよ。精霊を捕まえて、その力を呪いに変えてるんです」
ディーンの説明に、みんな壺を凝視する。
アティから見れば、その模様は全く魔方陣に見えない。しかし、アティが捕まっていたとき精霊が怯えて地下室に来なかったことを考えると、ディーンの言うことは一理あった。
「アティ、あんた宛の手紙に書いてあった呪いの壺は、こいつのことか?」
「そうだと思います。この壺は地下室まで迎えに来てくれたんですよ」
「……どうなんだ、それは……」
思い出して微笑むアティの言葉に、顔をしかめながらウィルが壺に触ろうとする。壺は抗議するように、カタカタと動き出した。
「ということは、精霊が今も捕まっているんだな。ディーン、どうすれば取り出せられるんだ?」
エドワードの問いに、ディーンは難しい顔をして答える。
「魔方陣を消せば、どうにか……でも、物凄い魔力なんでオレでも1週間ぐらい役立たずになりますよ」
「ディーン先輩が1週間も魔力を使えなくなるって相当っすね。どうにかならないんっすか?」
そのとき、キラキラと薄水色の瞳を輝かせたバートがディーンの肩を強く掴んだ。
「うわ、バートくん、いきなり何!?」
「そんな魔力の反動を抑えるアイテムのレシピを作っているんだ。ディーン、ぜひ実験台になってくれないか? このときを僕は待っていたと言っても過言ではない」
「うわー、なんか嫌な予感がすると思ったよね!」
「なら、そのアイテム作りをフラメル嬢に手伝ってもらったらどうだ?」
エドワードの提案に、場が一瞬、静まり返る。
「それは良い案ですね、エドワードさん! 僕の魔力じゃあ、繊細なもの過ぎて作れないと思っていたんですよ」
「捕らわれた精霊を解放しつつ、アティくんの力を確められる。うん、それはいいね、エドワード」
「やっぱりオレが魔方陣を消すんですよね? あんまり、やりたくないなぁ」
「諦めろ、それがお前の仕事だ。おれは手伝ってやらないけどな」
「おれも手伝いたっすけど、魔力はからきしなんで手伝えないっす。すみません」
そして一斉に喋りだし、騒々しいものになった。
アティは頬を染め、楽しそうに話を聞く。錬金術なんてポーションを作ることしかやったことがないが、面白そうだった。
「どうだ、フラメル嬢? やってくれるか?」
「はい! ぜひ、やらせてください!」
いつも助けてもらっている精霊を自分が助けること、自分の力を試すこと、アティはそのことを思うと自然に笑顔になるのだった。