アティ、騎士団の錬金術士見習いになる
「私は……」
アティは何か言おうとしたが、言葉が詰まった。私がどうすればいいのかなんて、分からないわ。今まで、ずっと学校にいて自分で決めることなんて、ほとんどなかったもの。どうやって自分で決めるの?
その思い詰めた表情に、エドワードは力が抜けた笑みを見せた。
「すぐに決めろとは言わないよ。1年間、ゆっくり考えなさい」
「……え?」
気の抜けた表情でアティは、微笑むエドワードを見る。
「まずは1年間、この騎士団で錬金術士見習いをやってみないか? 無理だと思ったら、やめてもいい。そのときは私が後ろ楯になって、君を社交界でも学校でも、どこにでも行きたい場所へ連れていこう」
暗い森に迷いこんでいた心を、一筋の星明かりが照らす。
たったそれだけの言葉で、アティは自分の道が見えた気がした。
「エドワード、それは……」
「いいだろう、ハロルド? 1年間の間、お前やウィル、それにイザークが彼女を説得してもいい。しかし、バートやディーンが説得することも許せ。……とにかく今は、彼女の意見を尊重しよう」
物言いたげにしていたハロルドは、それならと引き下がる。
煌めく星に射抜かれるように見つめられたアティは、ゆっくりと唇を動かした。
「……私が決めても、いいんですか?」
エドワードは微笑みを崩さない。まるで愛しい子供を見つめる親のようだった。
「ああ、これからは君が決めるんだよ。私たちにその手助けをさせてくれたら、とても嬉しい」
アティは大きく息を吸った。
そんな彼女を、6人の男性は、庇護欲や愛情、期待など様々な感情がこもった瞳で見つめる。
「私は……私は、この騎士団で錬金術を学びたいです。そして、色んなことをやってみたい、色んなものを見てみたい、色んな場所に行きたい、こんな夢を全部望んでもいいですか? 欲張りじゃないですか?」
心配そうに言うアティに、まずウィルが口を開いた。
朝焼け色の瞳は、アティをじっと見つめている。
「おれはあんたが騎士団に入ることは、まだ反対だ。でも、その夢の手伝いはしてやる」
「ウィルくんが珍しく素直になってる。でも、こんな素敵な夢の持ち主で可愛いアティちゃんの前じゃあ、そうなるのも仕方ないか。もちろん、僕にも手伝わせてくれるよね?」
ディーンはアティの緑の瞳を覗きこんで、微笑んだ。彼の手はアティの手を優しく包んでいる。
「夢の手伝いっすか……なんか良い言葉っすね。アティちゃん、これからよろしくお願いするっす!」
イザークは嬉しそうに尻尾をブンブンと振りながら、握りこぶしを作った。無邪気に笑うと、より一層幼さが目立っている。
「そんな風に望まれたら、反対できないじゃないか。レディの力になるのは騎士の本懐だからね、君が望む方へ進めるよう助けるよ。一緒に頑張ろう」
ハロルドはため息をついたあと、仕方ないと柔らかく微笑んだ。その姿は、まるで兄のようだった。
「君が錬金術を選んでくれてよかった。共に錬金術を極めよう。そして、その先にある景色を世界に知らしめすんだ。自分の夢が叶ったあと、誰かに夢を届ける、それはなんてすごいことなんだろう!」
薄水色の瞳をキラキラと輝かせて、バートは夢を語る。その顔は自然と笑顔になっていた。
「君の手助けをすると言っただろう? その言葉は、嘘じゃないさ。第2騎士団団長の名に誓おう、君の力になると!」
真摯な表情のエドワードは、右手を上げて誓う。それはまるで神聖な儀式のようだった。
「みなさん……ありがとうございます! 私、頑張ります!」
そう言った瞬間、足に冷たいものが寄り添う。アティは驚いて下を見ると、あの壺がそばにいた。
「ひっ! ……って壺かー。びっくりさせないでよ」
アティは壺を優しく小突いた。それを男性陣たちは目を真ん丸にして見ている。
「いや、壺かー、じゃないっすよ! なんすか、それ!?」
イザークの大きな声が部屋に響いたのだった。