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捨てられ令嬢は、騎士団に拾われる  作者: わんたんめん
捨てられ令嬢、騎士団に入る
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アティ、スカウトされる

「エドワードさんは彼女が作ったポーションを見ていないから、そう言えるんです。ほら、見てください。『鑑定』」


 バートは薄水色の煌めく瞳でエドワードを見たあと、鑑定のスキルを使った。すると、ポーションのステータスを表すポップが現れる。

 エドワードはそのポップを読むと、驚愕と尊敬の眼差しでアティを見た。


「これを君が……! すごいじゃないか!」


 バートは自分が誉められたかのように笑った。アティの頭はバートにいつの間にか肩を抱かれていて、恥ずかしさと照れで爆発寸前だった。


「ぜひこれを騎士団のために作ってほしい! 1個につき3500ゴールド出そう」


 エドワードの提案に、我に返ったアティは目を白黒させた。


「いや、むしろ君に第2騎士団所属の錬金術士になってもらった方がいいのか? ……それよりも外にいる奴らに中に入ってもらうのが先だな」


 エドワードがそう言うと、ハロルドは扉に近寄り勢いよく開けた。


「お前たち、立ち聞きは……って、うわぁ!」

「重たっ! 倒れる!」

「すみません、ハロルドさん!」

「うおっ!」


 すると、ディーンとイザークが部屋に転がり入ってきた。ハロルドはそれに巻き込まれて、一番下になってしまう。

 ウィルはギリギリのところで踏ん張っている。


「お前ら、立ち聞きするなら気配をもっと殺せ。気が散って仕方なかったぞ。あと、ハロルド。大丈夫か?」


 エドワードはため息をついて言った。


「すいません、ハロルドさん。すぐどきます」

「むぐぐぐ。尻尾がハロルドさんの服にひっかかって、起きられないっす……」

「ウィル、イザークに手を貸してくれ。イザークがどかないと、起きられないから」


 アティがそんな彼らを見ていると、始めに起き上がったディーンが持っているぬいぐるみに目が釘付けになった。


「あの、ディーンさん。そのぬいぐるみは……」


 そのぬいぐるみは、アティの大事な竜のぬいぐるみだった。


「ああ、この子? アティちゃんのだよね? はい、どうぞ」


 ディーンはアティにぬいぐるみを渡すと、アティの左隣に座った。アティはそれを両手で大事そうに抱えた。

 そしてウィルがアティの足元近くに大きな(かばん)を置く。その鞄は、アティのものだった。


「もしかして、私の家に行ったんですか?」

「私の命令だよ。ご家族が心配していると思ってね。だけど、彼らの様子からして違うみたいだ」


 ハロルドの言葉に、アティは唇を噛み締めた。ええ、そうよ。置いていかれたの。しかし、そんな悲しく(みじ)めなことを、彼女は口にしたくなかった。


「君、大丈夫かい? 顔色が悪い」


 バートがアティの顔を覗きこんだ。美しい顔がいきなり視界に入り、アティは驚きに体を反らす。

 そんなアティを不思議がっているバートを、しかめ面のウィルが掴み、無理矢理ソファーから立たせた。


「何するんだ、ウィル」

「近すぎる」

「そんなに近かったか? 気づかなかったよ。君、失礼したね」


 気軽に謝るバートに、ウィルはため息をついた。そんな2人を見て、アティはようやくバートのことがわかり始めた。彼は自分の綺麗さを気にしてないのかも。


「バート、彼女はアティ・フラメル嬢だ。それで、お前たちはなぜ立ち聞きなんてしたんだ?」


 エドワードが尋ねると、ディーンが代表して話始めた。


「誰の気配もないんで、家に入らせてもらいました。それで書斎にあった手紙を読んでみたら、アティちゃんを置いて逃げるって書いてあったんで、これは報告すべきことだと思って来ました」


 アティは全員の視線が自分に集まることを感じてうつむいた。恥ずかしくて、頭から火が出そうだった。

 その固く握りしめられた彼女の手を、ディーンが上から優しくほどく。まるで、安心してと言っているようだった。


「それはちょうど良いじゃないか。アティ、君は錬金術士になる運命なんだよ」


 バートは全く気にせず、そう言い放った。そんな彼に、アティは驚きながら顔を上げる。


「つまり君は金が必要になってポーションを売りに行った。しかし、あまりの出来の良さに捕まって働かされることになったんだね」


 エドワードの言葉に、アティは頷いた。


「ええ、その通りです……」

「君はこれからどうしたい?」


 煌めく星を散りばめたエドワードの瞳が、アティの心を見抜こうとする。

 彼女は答えに悩んだ。学校に戻る? 孤児院に戻る? それともバートさんの言う通り、錬金術士に……


「いやいや、そんなの絶対ダメだ! か弱い女の子がこの騎士団に入るなんて、危なさ過ぎて認められないよ。うちの家で療養して、次のことはまた後で考えればいい」

「それなら、おれの家が良いと思います。同じ年のエミリアもいますから」


 ハロルドとウィルが言う。


「いいや、彼女は錬金術士になるべきだ。むしろ錬金術士にならないなんて、錬金術界の大いなる損失だ。僕は錬金術士として、その才能を見過ごすことはできない」

「そうだね。才能があるみたいだし、自分で自分の立ち位置を見つけるのも大事だと思うよ。アティちゃんが、おれみたいになるのが最悪なことじゃないですか?」


 バートとディーンが言う。


「そうっすかね、副団長が言う通り、女の子に危ない仕事はやらせない方がいいっすよ」

「それは僕たちが調整すれば、いいだけの話だ。錬金術でアイテムを作るだけでも騎士団に貢献できる」


 しかめ面のイザークにバートが意見を言う。


「いや、そんなことはさせられないよ。彼女はレディなんだ。守るべき存在なんだよ」

「そうですか? アティちゃんが色んなことをやってみた方がいいと思いますよ」

「そうだ、錬金術を学んだらその魅力から離れられなくなるから、それがいい」

「お前は錬金術からちょっと離れろ。おれは副団長に賛成だ」

「ウィル先輩、バート先輩にそんなこと言ったって無駄っすよ。おれも副団長たちと一緒で、女の子は守られてるべきだと思うっす」

「そんなだから、イザークくんはモテないんだよ」

「はああ!? 言っていいことと悪いことがあるっすよ、ディーン先輩!」


 男たちは言い合いを始める。

 アティは自分がどうしたいか、どうすべきなのか、周囲の声に惑わされ、よく分からなくなってきていた。


「おい、静かにしないか」


 エドワードの凛々しくハッキリとした声が部屋に響く。すると、騒がしかった彼らはピタリと黙り、エドワードを見た。


 彼は、とても優しく真っ直ぐな瞳でアティを見ている。薄い唇が動く。


「なあ、フラメル嬢。君はどうしたい? 令嬢としての生活に戻る、騎士団で錬金術士になる。どちらを選んでも、私たちは君が有利に進めるよう手配しよう」


 アティは大きく息をのんだ。私はどうするべきなのだろうか。


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