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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

単発恋愛系

従者をいじめたら国が滅んだ。

作者: 柏いち

 

 この世界に生を受けて早7年。

 私、メリルは衝撃の事実を王城で聞いてしまった。

 一緒に来たお父様とはぐれてしまってうろうろと王城内を彷徨っているとなんだか大きい扉を見つけたのだ。そっと小さく開けるとお父様はいなくてこの国の王様がいて閉めようと思ったとき。


「そうだな、あの家は邪魔だ。」

「わかってくれましたか、陛下。それならばロジー公爵家に罪をなすりつけて仕舞えばよろしいのです。」

「冤罪か。……これであの堅物ともおさらば出来るというわけだな。」

「ええ、いつにしましょうか。」

「今、あいつには他国との貿易の話を任せている。それが終わったら、だな。」

「絞りきってから捨てるというわけですね。流石殿下です。」

「………この話誰かに聞かれていないだろうな。」

「もちろんです。護衛は一度遠ざけておきましたし、ここは完全防音。しかも来る道には兵がいますので……。」

「なら、いいだろう。」


 ドキドキとした心臓を抑えて扉を急いで閉めた。

 ロジー家は私だ。ということはお父様は、私たちは王様に捨てられて殺されてしまうのかもしれない。

 冤罪ってどういう意味だろう。

 お父様に言ったほうがいいのかな。いや、でも信じてくれるわけがない。

 お父様はきっと私のことを嫌っている。


 なら、私だけでどうにかすればいいじゃないか!



 ******


 なんて思ってた時期があったなあと感慨深く思う。

 あの後冤罪の意味を知ったあと何かしようとした。でも結局七歳の私に出来ることなんて何もできなかった。というわけで出来ることはお父様とお母様と一緒に死ぬことだ。親孝行が重いよ。

 今年十六歳となった私の目は死んでいるらしい。知るか、どうせ最後は処刑だ。目くらい先に死んでてもいいだろ。

 ちなみにこの国では十七で成人だ。

 さて、殺されることを知った私が正気を保っているのは何故か。それは男の奴隷を買ってもらい従者にして鬱憤を晴らすようにいじめているからだ。


 今まで従者にやったことは非道暴虐なことばかりだ。だからと言って悪いとなんて思っていない。


 まず、最初に屋敷にやって来ておどおどしている従者を風呂の中に入れた。沢山のお湯と自分の身体を洗う侍女達に従者は驚いたようだ。そのあと食べきれないようなご飯を口の中にぎゅうぎゅうに詰めた。青い顔をした従者は私のどうにもならない気持ちを愉快な気持ちにした。


 そのあとも、嫌がる従者に家庭教師をつけた。それに手に沢山マメが出来て痛くなるように剣も習うように命令する。私を守らせるためだ。ぼろぼろになって帰ってくる従者に消毒液を塗り込むまでが1セット。こんなことをする私を守るために剣を習うなんて屈辱を味わう従者を見ると死への恐怖が薄れた気がする。役に立っているではないか。


 あと、たまたま盗賊に出くわした際に従者が私を守って怪我をしたのでその盗賊が待っていた血に塗れた汚らしい札束を従者の部屋に置いた。

 主人を守った結果が部屋の中が血生臭くなるなんていよいよ絶望したのではないか。その驚いた顔を見て、震えていた手が止まる。ストレス解消である。


 その上、首に嵌めている首輪を取った。その首輪が無ければいよいよ従者を可哀想だと思う人間なんて誰もいなくなる。大きくなった従者には窮屈そうだったし、だから新しい私の好きな色の首輪を買って嵌めた。何故か首輪を付けていたいらしい。同情してもらおうだなんてなんて奴。


 しまいには、家庭教師に言ってマナーや楽器、ダンスまで習わせた。そして王城に行く際は必ず連れて歩くようにした。醜い食べ方や歩き方で私のそばを歩かせるわけにはいかない。私が王城に行く時が唯一就寝以外で忌々しい私から離れられる一時だったくせに護衛のために働かなければいけない。ちょっと可哀想かな、と思ったけど知らないふりをする。



 この8年間、他にも沢山酷いことを行なった。

 従者は、セレストは私を憎んでいることだろう。


「お嬢様。」

「なに?」

「旦那様がお呼びです。」


 美しく育ったセレストを一瞥してお父様の元へと向かう。

 ああ、この時がきてしまったのか。


「貴方はここで待機してなさい。」

「なぜ、でしょうか。」

「主人の命令が聞けないの?」

「………は。」


 案の定お父様の元へと向かうと冤罪をかけられたということだった。

 お父様とお母様は冤罪の罪で。私は婚約者の第二王子のお気に入りのフィリーナ伯爵令嬢を虐めた罪として。虐めたって何だ、私はセレストしかいじめた覚えはないぞ。

 泣き崩れたお母様とがくりと肩を落としているお父様に背を向けて牢屋へと行く準備を始める。お父様とお母様にとって私はきっと邪魔だった。いつも、なにをしても無関心だった。今回も、勝手に出て行った私を咎める声は聞こえない。



「セレスト。」

「はい。」

「今日で貴方を解雇とします。今まで感謝しています。荷物をまとめ次第出て行きなさい。」

「………お嬢様。」

「早くしなさい。」

「嫌です、嫌です! 何か粗相をしましたか。申し訳ありません。どうか、それだけは。」

「この屋敷から出ていきなさい。出ていくまでが貴方の仕事です。」


 一時間後荷物を持って振り返ったセレストの顔は悲しそうだった。こんな主人が最後くらい優しくなるとでも思っているのだろうか。どうせ押収されるのだからと思ってセレストの荷物の中にお金を入れておいた。退職金だ。持ってけ持ってけ。


 セレストが屋敷から出た行ったところを見て、私も荷造りを始めた。

 と言っても、少しの荷物だけだけど。罪人の荷物は薄い毛布と簡素な服だけ。その後兵士が目を釣り上げて私を牢屋兵士と連れて行った。


「ふん、見窄らしいなメリル。今からでも床に頭を擦り付けて謝ればお前だけなら死刑は免れるだろう。」

「……私は、なにも、しており、ません。」

「チッ。最後まで可愛げのない女だったな。まあ、いい。あと四日後には処刑だ。自分の首が飛ぶのを精々怯えて待っていればいい。」


 そう言うと第二王子はぞろぞろと取り巻きを連れて帰っていった。フィリーナ令嬢は私は見て勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

 あと四日ということは、牢屋に入ってから一カ月ほど経つのだろうか。

 毎日与えられるのは小さなパンと水のようなスープだけ。声はガラガラで出なくなってきた。

 毛布も擦り切れてほぼ防寒の意味をしていない。


 セレストは元気だろうか。


 牢屋の臭い匂いも、寒さも慣れた。ただ、セレストがいないのは、いじめる対象がいないのはほんの少しだけ、寂しいかも、しれない。



 ******



「ほら、おきろ! 処刑の時間だ。」


 無理矢理立たされて体の節々が悲鳴をあげるのを感じる。

 もう少しレディの扱いは優しくしなさいよ。いたいいたい。


 処刑場の下には沢山の国民がいた。処刑場に私とお母様とお父様が並ぶと歓声は一層強くなる。ただ、領民は顔を下に下げている。薬草売りのおっちゃんは泣いていた。ここからでも探せるだなんて私の目は凄いのかもしれない。


「何か申し開きはあるか。」


 王様が私たちに問うた。


「……恐れながら陛下。」

「なんだ、申してみせよ。」

「処刑…する、際は、私から、お願い…します。」

「いいだろう。それだけか。」

「はい。」



 お母様とお父様が叫んだ。娘だけはと。お願いだから娘の命だけは奪わないでくれと。

 どうやら私は愛されていたらしい。なんだ、そっか。

 私は一人じゃなかった。孤独じゃなかった。


 それだけで、もう満足。


 兵士が振り落とした剣の音を聞いて目を瞑った。



「お嬢様。」



 セレストの声が聞こえる。

 私は死んだのだろうか、痛くないことに首を捻ってそっと目を開ける。



「お嬢様っ、間に合ってよかった……! こんなにやつれてしまって。申し訳ありません、お嬢様。来るのが遅くなりました。」



 ぎゅう、と抱き締められる。セレストの髪が頰に当たってこそばゆい。

 セレストの肩越しに見ると王様も第二王子もフィリーナ嬢も誰かに捕らえられていた。

 領民の歓声が聞こえる。お嬢様ぁ、領主様ぁ、と泣き声が聞こえる。私は愛されていたのか。こんなにも。

 セレストに擦り寄るとあたたかかった。


「泣い、てるの?」


 セレストの涙がじんわり肩を濡らした。

 痛いくらいの力で抱き締められる。なんだ、なんだ。今までの仕返しか。

 セレストは私を抱きかかえて立ち上がると大きな声で叫んだ。


「不正をしたのはロジー家ではない! 王家がしていたのだ! 証拠は持ってきた! 処刑は中断する!」


 そのあと、気づけば私はベッドに寝かされていた。

 そして事の顛末をセレストから聞かされる。

 王家は国税を悪用した事で平民に落とされ、フィリーナ嬢の家もそれに関わったとして牢屋に入れられたらしい。その他の貴族も関わっていた者たちが一掃され国が新しくなったそうだ。


「ねえ、セレストは私を恨んではいないの?」


 あんなに虐めたのだ。何故助けてくれたのかさえわからない。


「恨む、ですか。そうですね、私に欲を与えてくださった貴方を恨んでいます。……お嬢様、国は新しくなりました。私は王となるそうです。でもそこに貴女がいなければ意味がないのです。」


 セレストは私の手を取った。


「俺と結婚してくれませんか。」


 ベッドで聞いたあまり格好のつかないプロポーズだったけど私は顔を赤くしてしまった。悔しい。

 それから一年後、お父様が結婚を許した時。私とセレストは結婚した。

 何故か異常に私を慕う臣下たちと少しずつお互いに歩み寄っていく両親、そして同じく甲斐甲斐しく私の世話を焼く元従者に囲まれた私は幸せ者だ。



 従者をいじめたら国が滅んで幸せになった。











セレスト視点も一緒に入れてしまおうかな、と思ったのですが長くなるので分けることにします。

セレストはメリルが自分を恨んでいるんじゃないか、という誤解を一年かけて解きます。頑張れ!


▼追記

殿下→陛下

訂正ありがとうございます。


▼とあるお話に似ているとのご指摘を受けました。

実際、そのお話に刺激を受けこの作品を書き上げました。ですが、似ている箇所が少なかったために引用の形を取っておりませんでした。ご不快に思われた方にお詫びします。

また、類似していると私的に感じた部分を変更しました。指摘して下さった方々、ありがとうございました。

(非公開にしてほしい、などといったご意見があればメッセージで受け付けさせて頂きます。)


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