巡る季節
小夏27歳。人見知りの恥ずかしがり屋で、特に男の人の前でうまく笑えない。目を見てなんて話せなかった。
男なんて幼稚で意地悪で…。理解できない生き物。
「ちょっと!小夏!聞いてるの?」
今日は久しぶりに集まった女子会。1人の子に彼氏ができて、その恋話に花を咲かせていた。
それなのにボーッとしていた小夏は友達に注意された。
恋話はまだ続いている。
「よく彼にからかわれてて。すごく嫌だったんだけど…。からかうのは好きだからに決まってるだろって言われて。キュンッてしちゃって。」
キャー!うらやましい!と他の子は騒ぐ。でも小夏はそんな話、うやらましいとは思えなかった。
好きな女の子をいじめるって、よく聞く話。でもそんなの、げ・ん・そ・う!
女子会がやっとお開きになってお店の外に出る。ブルッと身震いするほどの寒さに体を縮こませた。
冬は嫌い。寒いし、大好きな花も枯れちゃうし。
「ねぇ小夏。冬斗って覚えてる?」
1番の仲良しの友香が言った名前に嫌な顔をしてしまう。
「あ、その顔は覚えてるでしょ!懐かしいよね。」
忘れたいのに…。冬斗は小学生の時に同じクラスだった男の子。
「嫌なこと思い出させないでよ。」
「ハハッ。小夏はよくからかわれてたもんね。」
どうしてか小学生の時にいつもいつもからかわれていた。それがすごく嫌で…だから例え今さら「あの時は好きだったからだ」って言われたってキュンッとなんてしない!
「思い出したくないのに毎日のようにテレビに出てるんだもん。すぐチャンネル変えるけど!」
冬斗はイケメンパティシエだかなんかで急に有名になっちゃってテレビに取り上げられた。最近では見ない日はないほどだった。
「しかも!イケメンパティシエに恋の予感か!?なんて今日やってたよ。」
芸能情報のチェックを欠かさない友香は楽しそうだ。反対に小夏は嫌そうな顔のまま聞き流している。
「有名になっていつか会いたい人がいるんです。昔、好きだった子。って言ってたよ。もしかして小夏のことだったりしてね。」
「ヤダ!いくら友ちゃんでも怒るよ!」
頬を膨らませる小夏にゴメンゴメンとおどけて謝っている。
冬が嫌いな1番の理由。嫌でも冬斗の名前を思い出してしまうから。
友香や他の友達と別れて、寒い帰り道。初めて見る可愛いお店があった。カフェっぽい店内にはまだ明かりがついていて、ほわっと暖かく感じた。
その暖かそうな明かりにつられてドアを開けて店内に入った。甘くて優しい匂いがする。
「あ、あの…。」
従業員らしき人に困った様子で声をかけられた。男の人の声に顔があげられないまま急いで謝る。
「すみません。もう閉店ですよね。」
「…はい。そろそろ閉めるところでしたが、新作を作ったんです。よろしければ感想を聞かせてもらえませんか?」
店のパティシエだったらしいその人は小夏の返事も聞かずに店の奥へ行ってしまった。
感想って大それたこと…。断った方がいいよね。
そんなことを思って待っていると小夏の前にケーキが出された。天使をモチーフにした可愛らしい形で、その天使が持っているのは銀と金の紙が巻かれている鉛筆の形をしたチョコ。
え…。これって…。
驚いてパティシエの顔を確認する。その人は連日テレビで嫌というほど見ている冬斗だった。
「何よこれ…。まだ私をからかいたくてこんなもの作ったの?」
涙目になって立ち上がると店を飛び出した。「違うんだ!」冬斗の声が聞こえても立ち止まることはなかった。
次の日、気落ちしている小夏を知ってか知らずか友香がお茶に誘ってくれた。
「ねぇ小夏。昨日、冬斗に会ったんだって?」
「…なんでそんなこと知ってるの?」
「冬斗、必死になって同級生に電話かけまくったらしいよ。それで私のところにも人伝えで連絡が来たんだ。誰か小夏を店に来させてくれって。」
「何よそれ。行くわけないじゃない。」
必死にってなんでそんなに…。放っておいてくれればいいのに。
「小夏は誤解してるんじゃない?」
「え?」
「冬斗ってさ。目立ってて人気があってさ。」
そう。何故か人気者だった。あんなに意地悪だったのに。
「小夏がクラスの男子に「なんで小夏なのに夏が苦手なんだ?」って言われたの覚える?」
そういえばそんなことあったっけ?昔は夏も暑くて苦手だった。
「そしたらさ。冬斗が代わりに言ったんだ。小夏は小さい夏だからだろ?って。そしたら大爆笑でさ。」
ほら。やっぱりずっとからかわれてただけじゃない。
「子どもの頃は分からなかったけど、そうやっていつも小夏をフォローしてたよね。」
「フォロー?からかってただけよ。」
「小夏はそう言うから言えなかったけどさ。だって小夏が黙っちゃってシーンとする場面で必ず冬斗が何か言うんだ。そうすると盛り上がってさ。小夏の立場が悪くならないようにしてたんじゃないかなぁ。あの金と銀の色鉛筆だって…。」
友香の話を聞いた小夏は飛び出した。どうして?私が勘違いしてただけなの?友香の言葉を確認したくて辿り着いた先は昨日のカフェ。
カランカラン…。ドアを開けると大きな音がした。
昨日はこんな音したっけ?
「いらっしゃいませ…。あ!」
営業スマイルをしていた冬斗の顔が固まる。
なんでここに来ちゃったんだろう。今さら…。顔を見たら急に引き返したくなって後退りする。
「待って!もうお店は閉める時間なんだ。」
ドアにかけてある鐘を取り外してドアのノブの外側にcloseのプレートをかけている。
そっか。昨日は本当に閉店した後だったんだ。
そんなことを思っていると冬斗が奥からケーキを持ってきた。天使が金と銀の鉛筆を持っている。
「あの時のことを謝りたくて…。」
小学生の時。お母さんに買ってもらった色鉛筆。金と銀も入ったお気に入りだった。それを「こんなの必要ないだろ」と冬斗に折られてしまって…。1番の嫌な思い出だった。それなのに…。
「まだ絵は描いてる?」
冬斗の言葉に目を丸くした。
「…どうして知ってるの?」
小夏は絵が好きで描いてはコンテストに出していた。でも落選続きでもう諦めようと思っていたところだった。
「小学生の時にも描いてたから…。小夏の絵、好きだったんだ。」
「え…。」
そんなこと一度も…。ううん。そしたらどうして色鉛筆を折ったりしたの?
心に浮かぶ疑問を聞けないでいると冬斗が代わりに話し出す。小夏が黙ると冬斗が話す、友香が言うように小学生の頃みたいだった。
「小夏の絵がすごいの知ってたから…。いい気になってたんだ。だから…小夏なら金と銀の色鉛筆なんて使わなくても、すごい絵が描けるんだって言いたかった。」
昔の記憶が蘇る。だから「こんなの必要ないだろ?」って…。
「それで奪い合いになったら折れちゃって…。ゴメン。ずっと謝りたかった。」
冬斗もずっと気にしてたの?でも今さらそんなこと知ったって…。
複雑な気持ちになってうつむいたまま何も言えなかった。
「とにかく食べてよ。できれば銀のチョコから食べて。」
言われた通りに銀の包み紙を開ける。包み紙の裏には何か書かれていた。
『ゴメン。好きだったんだ。』
今さらそんなこと言われても…。チョコを食べる気になれなくて金の包み紙を開ける。
『改めてまた好きになっていいかな?』
そんなこと言われても…。
黙る小夏にまた冬斗が話し出す。
「こっちに来てみて。」
呼ばれて行くと外を指さしていた。
「クリスマスローズって言うんだ。」
小さな庭。背の低い木の周りに白と薄いピンクの花が咲いていた。
「寒いのに健気だろ?それが好きで植えたんだ。小夏が冬は花が枯れちゃうから嫌だって言ってたし。」
そんなことまで覚えてたの?驚いて冬斗を見ると優しく微笑んでいた。
お互いに大人になって子どもの頃とは違う。もう意地は張らなくていいのかもしれない。大嫌いだった寒い冬を少しは好きになれるかもしれない。
冬斗は少し残念そうに続きを話す。
「花言葉はあんまり良くなくて。「私を慰めて」とかなんだぜ。」
小夏はまるで私みたいと小さく笑うと昔のことを思い出していた。小学生の頃に冬斗と話した将来の夢。
「私、ケーキ屋さんになる!」
「小夏は不器用だから無理だろ?」
「じゃケーキ屋さんのお嫁さんになる!そしたら毎日ケーキ食べれるでしょ?」
そんなたわいもない話…。
冬斗がフフッと柔らかく笑いながら話し出した。
「そういえば覚えてる?小夏の夢ってさ…。」




