イケメン有罪~誕生日~
イケメンはどんな記念日も忘れてはならない。
たとえそれがとるに足らない些細な事でも、二人の記念日は必ず把握している。
そして、記念日のニーズに合わせて、
彼女の要望を満たすため常日頃から準備を怠らない。
たとえそれが無駄になったとしても
彼女のためにサプライズができてこそのイケメンである。
いつもと変わらない日常にふとしたことでドキドキを与える
常に恋心を満足させられるイケメン力を鍛える。
特別な記念日ならばなおさらだ。
そう、今日は彼女の誕生日。
この日のために特別に用意したクルーザーで
都会の喧騒とから離れて海の青さとビルの建ち並ぶ街のコントラストを楽しむか、
夜の街並みを一望できる展望レストランで過ごす二人の時間か、
アウトドア派の彼女には山での森林浴、虫の音の合唱に囲まれて
空一面に広がる星たちが輝く中を二人静かに寄り添うのもいいだろう。
さて、彼女の望む誕生日はどれだろう。
どんなリクエストにも答えてこそのイケメン力。
『ゆっくり部屋で過ごしたいな。』
そう来たか。
たとへ用意したクルーザーが無駄になっても、
予約したレストランをキャンセルしなくてはいけなくても
彼女がそれを望むなら、叶えてこそのイケメン。
ただ部屋で過ごす二人の時間にさえ、
特別なドキドキを用意する事を忘れたはならない。
どんなサプライズを用意するべきかな。
俺はイケメン力をフル稼働させながら、とっておきの誕生日を演出する。
誕生日といえば外せないのがバースデーケーキ。
彼女のために有名なケーキ店へ向かい
この記念すべき日を彩るにふさわしいケーキを選ぼう。
『ご注文はお決まりですか?』
店員の催促にも慌てることなく慎重に選ぶ。
彼女の好物である苺ののったショートケーキか、
見た目にも鮮やかなオレンジ色の方も捨てがたい、
チョコレートベースにミンク色のホイップクリームも
色のコントラストが目を引く。
そかし、ケーキというものは存外種類の多い物だな。
これだけの数から選べるのか。
見た目で喜んでもらえるインパクトもさることだが、
彼女の好みも重視して選ばねばならない。
俺は彼女がよく注文していたケーキセットの種類を思い出す。
シフォンケーキ、ミルフィーユ、フロマージュ、クレープ・オ・フリュイ、
フレーズ・ルージュ、モンブラン、
うむ、なんとなくイメージが出来そうなものから、
いったい何語なのかさえわからないような単語が思い浮かぶ。
注文するパターンや共通点があるのかは理解はできないが
どうやら、たいていのケーキは好みに入るのであろう。
ならば、俺の取るべき行動は一つ。
ここに並んでいるものを全部くれ。
『ハイ?全部ですか?』
そう全部だ。
全部買えば間違いはない。
今最も食べたいケーキを食べながら、
満面の笑みを浮かべる彼女の顔が目に浮かぶ。
彼女の望みをすべて叶える、これこそが
俺、イケメン!
さて、彼女が来る前にケーキを並べるか、
見た目でも鮮やかなように色や種類で配置場所を考えて並べないとな
テーブル一つでは並びきらないか、
本棚を空にしてここにも並べよう。
おお、蝋燭に火を灯すと何ともいえぬ幻想的な演出効果が、
これは期待以上だ、
さて、彼女を出迎えるか。
廊下の両端に並ぶ、色とりどりのケーキたちの間を抜けると
壁一面に並ぶ蝋燭の灯りがゆらゆらと照らし出し、
様々な色の半透明のフルーツゼリーがその灯りを反射させ
まるで宝石のようにキラキラと輝く。
テーブルの中央に座す、ひときわ大きなバースデーケーキには
特製の彼女を模したシュガー人形がチョコレートメッセージボードを抱え
にこやかにほほ笑んでいる。
彼女は一度大きく目を見開き、静かに目を伏せながら
ゆっくり、大きく息を吐き・・・
え?ため息?
甘いにおいのたちこめる部屋で
一杯のコーヒーを楽しむ彼女。
彼女の悲しいような憐れむような視線を受けながら、
数え切れないほどのケーキを食べ続ける、俺。