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(5)

今回で本編終了とさせていただきます。番外編については未定です、すみません。

 やがて目の前には、1年間同じ場所で学んできた、1年C組のクラスメイトが集まっていた。

 よくしゃべった奴、あまり声をかけられなかった奴、いろんな奴らが声をかけ、そしてさみしげな笑みを返し、そしてこらえきれず泣きだす奴もいる。


 そして、その中でももっとも仲良くさせてもらった連中たちが、最後に待ちうけていた。


「まったく、たった1年でおさらばかよ。

 クラスが変わってもつるもうと思ってたのに、マジシャレなんねえぜ……」


 ショウは早くも泣きだしている。

 おれが肩をポンポンさせると、とうとうこらえきれずにブレザーのそででぬぐいはじめた。


「ったくだらしねえなぁ。でもわからんでもねえな。

 おれだってたぶん、あとあと思い知らされてワンワン泣くだろうな」


 トモキはそれを証明するかのように、必死に作り笑いしようとしているが挫折(ざせつ)しかかっている。


「新介くぅん。

 新しい学校行っても、あたしたちのこと、忘れないでねぇぇぇ」

「なに言ってんだよマコッちゃん。忘れられるわけないだろ?

 お前らみたいなむちゃくちゃ面白い奴らに比べたら、向こうの連中なんてずっとたいしたことないに決まってるさ」


 マコッちゃんはその言葉を聞いて、大親友のうららちゃんにしがみつく。

 しがみつかれた方も目にいっぱい涙をためて、くちびるをかみしめていた。


「どうしよう、どうしよう。

 何か一言言わなきゃいけないのに、なんにも言葉が出てこないよぅ……」

「ははは、うららちゃんらしいな。

 大丈夫だって。うららちゃんのそういうリアクションだけで、こっちは気持ち伝わってるからさ」


 そして、とうとううららちゃんはマコッちゃんと抱き合って、大泣きするのだった。

 続いて視線を落とせば。

 ずんぐりむっくりがいつもの無表情をやめて、顔をむちゃくちゃにゆがめ、ヒクヒクとさせるのだった。


「いま思えば、お前とはもっとあれこれつるむんだったぜ。

 ホントにもったいないことしたな」


 おれは珍しく口を開いたタコゾウに、そっと肩を置いた。


「なに言ってんだ。おれたちはまだまだこれからだろ?

 これからも一緒に遊ぼうぜ」


 言えば、相手はとうとう両手で顔をおおった。


「なにを言いやがるんだ!

 こんなルックスで、人間界に行けるわけねえだろうが!」

「遠慮せずに、どんどん遊びに来いよ。

 ビビってる奴らはビビらせとけばいい」


 本気でそう思う、おれだった。





 最後のひと組は、顔を合わせるのにずいぶん勇気が必要だった。

 それだけ、別れるのがつらいメンツということもある。


 顔を合わせた8人は、必死に笑顔をとりつくろったり、涙をこらえる表情をしている。

 まだその時ではないということだろう。


「心配すんな。オレはすぐにそっちの世界に行く。

 そのためにオレはここに来たんだ」

「ヒャッパ、お前こそそんな気色悪い見た目で人間界に行くつもりか?

 まあ、ハッカーとしてならいくらでも居場所はあるだろうがな」

「バカ言え!

 オレは持って生まれたスキルを全部駆使(くし)して、お前をサポートするつもりだぞ!?

 いずれ世界一の天才ハッカーになるオレをナメんなっっっ!」


 自慢げに親指で自分を差すが、その表情はひたすら涙をこらえているようにも見える。


「俺と弥子は、めったに会わなくなるだろうな。

 だけど俺はこれから陰陽道の神髄(しんずい)を極めまくって、必ずお前の邪魔をしてくる連中を1人残らずブチのめしてやるぜ」

「おだやかにな、キース。

 でもお前の活躍には、絶対に期待してるぞ」


 相手が拳を突きつけると、おれも拳を向けて、トンと叩いた。

 ここで弥子ちゃんが出てくる。目にはいっぱいの涙をためて。


「……やっぱやだようっっ!

 新介くん、行かないでようっっっ!

 これから全然会えなくなるなんて、さみしすぎるようっっっ!」


 おれは視線を低くして、彼女のおかっぱ頭をなでなでする。


「弥子ちゃんはずっと神社に残るからな。

 でもさみしい思いはさせねえよ。またすぐに、ここに遊びに来るから」

「ぜったい……ぜったいだよぉぉっっ!?」


 おれが大きくうなずくと、ミノンちゃんが後ろからそっと彼女の身体を抱きかかえる。


「できれば次の荒神総体、バレー部の試合も、見にこれる?」

「そりゃ行くよ。絶対に行く。

 たとえ学校を数日休むハメになってもな」


 ミノンちゃんの表情がくずれだしたとき、とうとう弥子ちゃんが耐えられなくなって、彼女の方にしがみつき、泣きじゃくった。

「わあぁぁ~~~~~~~っ!」と大泣きする彼女を、ミノンちゃんは「やれやれ」と言って頭をなでる

 が、途中キースのほうをうかがう。

 相手は肩をすくめ、今日ぐらいはいいだろと無言で了承し、ミノンちゃんは弥子ちゃんのいいようにさせてやる。


 次に近寄ってきたのは影乃。

 この中では、一番最後に合流した仲間だ。


「お前にはどれだけ礼を言ってもかなわないな。

 お前には何度も助けられ、おれの人生は変わった。

 なのに、まだ何の礼も返してない」

「貸し借りが友情じゃねえだろうが。

 おれはただ、お前がこれからも自分に恥じない人生を送るだけで、十分だ」


 そう言って肩に手をかけると、相手も同じようにする。


「そういえば、お前のおかげで親友も増えたな。

 ほら、あそこに」


 一緒に振り返れば、クラスメイトに混じって影乃の中2病仲間であるハヤタが必死に手を振っている。

 おれたちは2人で笑った。


 それからしばらく互いに見つめ合い、ようやく手を離したときには、すぐとなりに2人の美少女が立っていた。

 まずは金髪眼帯ゴスパンク美少女から。


「本当なら、アタシも一緒に行きたいところだけど、残念ながら茶太良がいるんだよね。

 もっともどんだけ続くのかわからないんだけど」

「そんなこと言うなよ。

 相手にしてみれば、久しぶりのカノジョなんだろ?

 しかも沙耶に負けない、とびきりカワイイ」

「ヤダッッ! そんなこと言わないでよ!

 ったく前はアタシをダブルヒロインにしてくれたってのに、この頃じゃすっかりのけ者にしやがって!」


 元気よく笑うタタミちゃんだが、おれはそれが偽りの顔だということを、十分すぎるくらい知っている。

 それを現すがごとく、彼女は急にまじめな顔になった。


「しばらく離れることになっても、一度つかんだチャンスを、絶対に手放すなよ?

 もし沙耶を泣かせるようなことがあったら、アタシ、絶対あんたのことを許さないんだから」

「安心しろ。

 沙耶みたいな女の子、ほかにいない。

 ついでに言えば、タタミちゃんのような子だって、たぶん人間界にはいないよ。

 こりゃずいぶんもったいないことしちゃったな」

「ばかっ!

 今さらホメたって、なんにも出てこりゃしないんだから!」


 彼女はことさら、気持ちを押し隠すようにして、大げさに笑う。


「おれより、沙耶の心配をしろよ。

 妖之丞っていう悪い虫にまとわりつかれないように、注意するんだぞ?」

「わかってるって。

 彼女の未来の貞操は、このアタシに任せとけ!」


 そう言って親指を立てるのだが、ここまでが彼女の限界だった。

 とたんにその表情がくずれだす。


「まったく……これからずっと先まで、心配かけさせやがって……」


 彼女の眼帯をしていない方から、大粒の涙がこぼれ出す。

 このことを想定して今日はアイメイクが薄いのだろう。

 おどろくことに、眼帯をしている方からもあふれんばかりの水滴がこぼれ出した。


 やがてタタミちゃんは、これ以上くしゃくしゃにゆがませた顔を見せたくないとばかりに、クルリと後ろのほうを向いた。


「ムリッッッ! やっぱムリッッッ!

 最後まで笑顔で送り出すなんて、ぜっっっっっったいに、ムリッッッッ!」


 とうとう大声をあげて泣きじゃくるタタミちゃん。

 その背中を、1人だけ抜いた仲良し女子たちが囲み、なぐさめ始める。

 それをわからなくもないという表情で見つめる男たち。


 その間に、おれはただ1人、

 いまだにおだやかな笑みを向けてくる、学園いちの美少女のほうを向いた。


「沙耶」


 おれが名前を呼べば、相手は「なあに、新介君」と、なんとも耳触りのいい言葉で返してくる。


「おれが今日まで、ここで生きてこられたのは、みんなのおかげだ。

 そしてなにより……」


 が、おれもとうとう限界に達したようだ。

 顔の筋肉が、もう言うことを聞かず、目からは熱いものがこみあげてくる。


「なにより、お前のおかげで、今日までやってこれた……」


 もう視界がぼやけているのに、はっきりとわかる。

 沙耶の端正な顔がもったいなくなるくらい、深いシワが刻みこまれていることを。


「わたしこそ!

 わたしこそ、あなたがいなければ、いなければ……!」


 もう言葉はいらなかった。

 おれたちは無言で抱き合い、必死に相手の身体を、両腕で包みこむ。

 沙耶の力はとてつもなく強く、骨がきしみそうだったが、いまはそれですら心の底からいとおしい。


 おれは大粒の涙を流し、顔をくしゃくしゃにゆがめ、口からはとめどないわめき声があふれる。

 沙耶もまた、きっと同じようにしているに違いないのだが、とにかく自分の声がすごすぎて、もうわけがわからなかった。


 やがてそっと、身体をはなす。

 当然というべきか予想以上というべきか、沙耶の顔は涙でグシャグシャになっていた。


「わたし、必ずあなたに、会いに行く。

 近いうちに、必ず、あなたに会いに行く」


 おれは何度も強くうなずく。

 やがて周囲の視線が気になり、2人でとなりのほうを見れば。


 みんな泣いている。

 少なくとも、おれたちの親友に涙を流していない奴は、1人もいないのだった。


「ごめんなさい。

 ちょっとだけでいいから、後ろ向いてくれないかしら?」


 一言だけでその意味を理解したかのように、仲間たちは背中を向けた。

 そして鼻をグスグスいわせてるタタミちゃんがそのさらに後ろにいる大勢の人々も、とまどいながら後ろを向いた。


 それを2人で笑ったおれと沙耶だが、すぐに向き直りお互いの顔を近づけた。

 ドロドロになったくちびるはしょっぱかったが、いまだけはそれさえも極上の味になるのだった。





 身体を離した沙耶は、またしても泣きそうな顔になるのだった。

 それでも、一生懸命笑顔をとりつくろおうとする。

 なんともいじらしく、そして胸にこみ上げるものがあった。


「ちょっと待っててね。

 あなたに、どうしても渡したいものがあるの」


 そう言って彼女、あらぬ場所に近づいて、芝生(しばふ)の上に置いてあった小さな白い箱をとり上げる。

 それを両手で渡してきて、おれは受け止める。


 おれが箱を開けている間に、沙耶はぬれた顔を白いハンカチで必死にぬぐい、後ろを向いていたみんなが元に戻る。

 箱を開け、妙にかしこまった表情になった沙耶をチラ見しながら、中身をよく確認する。


「……ハンカチ? しかも真っ白。

 まあ、今はすごくありがたいけど」


 すると、沙耶はなぜか急にそわそわしはじめた。

「早く開いて」やたらせかす沙耶に首をかしげながら、おれはハンカチを取り出して開いた。

 なにか書かれている。


 そして、ハンカチ一面に記されているメッセージを見て、


 ひたすらがく然とするのだった。


「……ちょっとちょっと! 新介なにそんな顔してんのよっっっ!

 いままで見たことないぐらいすごいビックリしてるよっっっ!」


 タタミちゃんの言う通りだと思う。

 まさか学校を去る直前にまでなって、ここまでビックリさせられるなどとは夢にも思ってなかったのだ。

 横目で見れば、沙耶は口を押さえて必死に笑いをこらえている。


「ちょっとぉ! 沙耶ちゃんおかしいよっっ!?

 なんで大笑いしてるのっっ!?」


 弥子ちゃんの表情があんまりなので、おれはハンカチを裏返してみんなに見せてやった。


 当然、目の前の仲間たちは目を大きく見開いて、書かれている文字にクギづけになる。

 そのさらに後ろにいる人たちは、わけがわからずひたすらこちらをうかがおうとしている。


 その疑問に答えるように、沙耶はとびっきりの笑顔で、元気よく答える。


「それでは発表しますっっっ!

 この度わたくし狛田村沙耶は、


 4月から新介君と同じ学校に転入することになりましたっっっ!


 みなさん今まで本当にお世話になりましたっ!」


 ぺこりと頭を下げる沙耶。

 それを聞いて、誰もかれもが面白いくらいにポカンとしている。


 ここで後ろから誰かがかけつけてくる音。

 振り返れば、あのゴス教頭が、いままで見せたこともないようなおぞましいニタニタ顔で、両手に何かを持って全力疾走(しっそう)してくる。


「おわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ! こわいこわいこわいこわいっっっ!」


 が、教頭は沙耶のとなりで急停止した。

 手に持っていたのはプラカードで、それを天高くつきあげるのだった。

 沙耶がその内容を読み上げるように、両手を口元にあてて大声で叫んだ。


「どっきりっっっ! だーいせーいこぉ~~~~~~~~~~~~っっっ!」

「てってれ~~~~~~~~~んっっっ!」


 どっかで聞いたようなメロディを口ずさむ教頭。

 とたん、その場にいる全員がバランス崩して倒れ込んだ。


「「「「どっっっしぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!」」」」


 おれだけが、そんなみんなを同情の混じった目でながめるのだった。


 やがて立ち上がるなり、タタミちゃんがカンカンになってどなりだした。


「沙耶っっっ! タチの悪いドッキリしかけてくんじゃねーよっっ!

 マジ腰抜かしたわっっっ!」

「ごめんなさい、みんなに黙ってて。

 ついでにこの事実知ってたの、わたしと教頭先生だけです」


 タタミちゃんがまた目を丸くして、後ろに振り返る。

 茶太良でさえも、こんなの初めて聞いたぞとばかりに、必死に首を振っていた。

 ヒャッパもすっとんきょうな声をあげる。


「ウソ泣きっっ!? あれマジウソ泣きっっっ!?

 沙耶ちゃんいつの間にそんな演技力身につけたのっっっ!?」

「あ、あれは半分もらい泣き。

 なんだか新介君の悲しい表情見てたら、わたしもつい……」

「タッチわりぃなぁ。

 おかげで完全にだまされたぞ?」


 ヒャッパが言ってるうちにいつの間にか、沙耶がいなくなっていた。

 と思いきや、校舎のかげから急に出てきて、おれと同じように2つの大カバンを持ち出してきた。

 先ほどまで大泣きしていたとは思えないほど、とびきりの笑顔で。


「あは、あはははははははははっっ!」


 これを見て、大笑いしたのが弥子ちゃんだった。

 彼女はお腹をかかえ、これ以上面白いことはないとばかりに大爆笑している。

 ある程度収まったところで目じりをぬぐうが、これはむしろうれし泣きといったところだろう。


「あはは、ごめぇ~ん。

 でも、よかったぁ。

 お友達が2人もいなくなってこっちはさみしくなるけど、きっとこれでよかったんだよね!」

「それもそうだね」


 顔を向けられたミノンちゃんがうなずくと、キースも仕方なしと言わんばかりに肩をすくめた。

 対するミノンちゃんは心配そうな表情を向ける。


「それにしても沙耶、本当に大丈夫?

 向こうの世界に行って、変なこといっぱいしないよね?

 ま、新介がうまくフォローしてくれるか」


 ヒャッパもケラケラ笑いながらあとに続く。


「ははは、そんなんこいつにまかしとけ。

 でも新介も沙耶ちゃんもいなくなって、うちの学校もずいぶんさびしくなるな」

「そんなことないわよ。また近いうちに遊びに来るわよ。

 こっちはこっちで、新介君以外は誰もいなくなっちゃうんだから」


 そうは言うものの、沙耶はこれ以上幸せなことはないと言わんばかりの笑顔をおれに向けてくる。

 それを目にしたとたん、おれの涙腺は再び崩壊するのだった。


「ふ、ふぇっ、ふえぇぇ~~~~~~~~~~~んっっ!

 よがっだぁぁぁっっ! よがっだぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!」


 横から沙耶がポンポン肩をたたいてくる。

 おれは思わずドッキリ用ハンカチで顔をおおった。


「ちょっとちょっと!

 それ水性で書かれてるから、顔に汚れがついちゃうわよっ!」


 あわてて顔からはがすと、書かれていた文字はドロドロになっている。

 あわてて沙耶が自分が使っていたハンカチでおれの顔をぬぐったのだが、それもビチョビチョになっていたためになんだかこそばゆい。


「ほら、できた。

 って言っても顔ぬれたままね」


 申し訳なく笑う沙耶に、おれは首を振った。

 実は自前のハンカチを持っていたので、それを取り出して顔をぬぐうと、たちまち沙耶は大笑いしだした。

 そして少し落ち着いてから口を開く。


「で、どうする?

 わたしともお別れになっちゃうわけだけど、またみんなにあいさつしたほうがよろしいかしら」

「いちいちそんなことしなくていいって。

 どうせ送る言葉は、同じなんだし」


 ここで後ろからマコッちゃんが声をあげた。

 まだ顔を泣きはらした後だったが、その表情はさわやかな笑みをたたえている。

 ショウ、トモキ、そしてうららちゃんもうなずく。


「おれもお前にかける言葉は全く一緒だ。

 死霊族の小さな世界を飛びだして、思いっきり世界に羽ばたいてこい!」


 茶太良の声に、沙耶は力強くうなずく。

 すると教頭が、クラスメイトの中で一番仲のよかった、6人の仲間を集めてきた。


 タタミちゃん、弥子ちゃん、ミノンちゃん、キース、ヒャッパ、そして影乃。

 6人はそろって、仕方ないと言わんばかりの笑みを浮かべながら、やがて片手を突き出して重ね合わせはじめた。

 おれと沙耶もそれにならい、中央には重ね合わせた手でできたハンバーガーが出来上がった。

 もはや満面の笑みとなったタタミちゃんが音頭を取る。


「それじゃ、アタシたちの末長い友情を(ちか)ってっっっ!」


 7人がいっせいにこちらに目配せしてくる。

 おれは大きくうなずき、思い切り声を張り上げた。


「ナッシィ~~~~~~~~グ……」

「「「「エ~~~~~~~~~~~~~~~ルスッッッッ!」」」」


 8人の手がまっすぐ上に上がった先には、雲ひとつない青空が広がっていた。


 そこへ、ひとかけらのあわいピンクの花びらがひらひらと舞い踊り、おれたちの船出を心から祝福するのだった。





~おまけ~


「近いうち、また遊びに行きます。

 おれたちの中で、まだアンガクは終わってませんから」


 となりでわたしがぺこりと頭を下げると、シュドラ教頭は笑みを浮かべてうなずいた。


「いつでも待ってるよ。

 ボクにとっても、まだまだ君たちに教えることはいくらでもあるからね」


 それじゃと言って、シルクハットの教頭先生は軽く帽子をあげたあと、いつものごとく「はっ!」と手綱(たづな)を思い切り振りおろし、いきおいよく馬車を走らせるのだった。


 新介君と2人きりになり、わたしは少々気が落ち着いた。

 場所が無人駅ということもあって、どこか浮ついたような気持ちにもさせられる。


 もっとも、となりにはわたしがもっとも大切に想う人がいる。

 この人さえいれば、わたしはどんな場所にでも行ける。

 そう思って笑いかけると、相手と同じ表情で見つめあってしまい、今さらながら照れくさくなってしまうのだった。


「あ、ところで、結局ひとつだけわからないことがあるわ」

「ん? それってアレのこと?

 ゴォン、ゴォンとかいう気味わるいチャイム」

「むっ!

 それもそうなんだけど、ちょっとこれ見て?」


 わたしが出そうとしたのは、以前1学期の時に頻繁(ひんぱん)にやり取りしていた、謎のメールの差出人のことだった。

 その助言にはなにげに助けられたこともあったのだが、内心薄気味悪かったので今日の今日まで言いだせないままだったのだ。


 ところが、あらためてスマホを確認したとたん、その人物から新たにメールが入っていたのだ。

 わたしはおどろいて「ちょっと待ってて」と新介君に告げ、くわしく確認する。



 1年間、うちの新介のことを助けてくれて、心から感謝する。

 そしてこれからも息子の力になってくれると期待している。



 相手の思わぬ正体に心底おどろいたわたしは、のぞきこもうとする新介君を必死にさえぎる。



 君がおどろくのも無理はない。

 わたしはもともと文科省の官僚(かんりょう)だったのだが、上司とのもめごとで野に下ることになった。

 妻と出会ったばかりだったので、息子たちはその事実をまったく知らない。

 しかし安国学園の九怒川(くどかわ)校長とは旧知の仲だったので、その後も交際があり、息子の様子は彼を通じて聞いていた。

 内心やきもきしていたが、君たち学友には本当に感謝しなければならないようだ。



 そういうことだったのか。

 どおりで学園の内情に詳しく、助言も適切だったわけだ。

 以前当人と会った時の、一見平凡ながらただならぬ雰囲気を放っていたことにも納得がいく。

 息子さんにもその才覚が、遺伝しているのかもしれない。



 しかし、私ももはや無関係ではいられなくなったようだ。

 九怒川校長がそろそろ引退する話は聞いているかね。


 実は彼が先日私を呼び出して、ある提案を突きつけてきた。

 息子の件もあって、あまり深く悩むことはなかったよ。


 来年度からは、私が安国学園の校長になる。

 国家公務員の世界から離れて久しいが、君たちのために全力を尽くすつもりだ。安心したまえ。


 ちなみに当然のごとく単身赴任(ふにん)になるわけだ。

 私が家を留守にするのをいいことに、新介と親密になりすぎないように。

 男女交際は適切な関係を保つのが、長続きの秘訣(ひけつ)だ。


 息子は任せたよ。

 我が家の、将来のお嫁さん。



 全文を読み上げたあと、わたしはぼう然としていた。

 横から新介君がやや不機嫌に肩をゆすってくる。

 が、彼の顔を見てどう対応をすればいいのか、さっぱりわからなかった。

いかがでしたでしょうか。楽しんでいただけたでしょうか。


なろう作家としては、2作目の完結です。

いろいろ反省もありますが、あまりくどくど言うのもなんなので、今回は胸にしまっておくことにします。

次回作に関しては、遠くないうちに投稿してまいります。今度は異世界転移ものです。


これからも活動は続けてまいりますので、応援していただけたらうれしいです。

もちろん、本作の番外編も余力があれば続けてまいります。

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