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(3)

※ 今回はグロ度がUPします! 心臓の弱い方はご注意ください!

 服部は機械の上についていた赤いボタンを勢い良く押した。

 とたんにアスレチックから機械音がひびきだし、一部がうなりをあげてゆっくりと動き出す。


 おれはその様子を凝視した。

 激しく回転する丸いノコギリ、

 上下するトゲつきの巨大分銅、

 勢いよく飛び出す火炎噴射、

 特定の場所を行ったり来たりする回転ドリル、

 そして最後は、おびただしい数のギロチン。


「……どう考えても即死級のトラップじゃねえかっ!」


 こんなかに放り込まれたら命がいくつあっても足りない。

 人の形をとどめられるかどうかすら疑問(ぎもん)だ。


「ていうかいくらなんでも手がこみすぎだろっ!

 いつの間にこんな物騒(ぶっそう)なものを用意したんだっ!?」

「ハハハハハハハハッッ! おどろくのも無理はないっ!

 なんせ昨晩は寮にいる3年生を全員引っ張りだして、ほぼ徹夜(てつや)で完成させたんだからね!」


 そう言って服部は口の下に手を当てて高らかに笑う。


「3年生っ!? 受験を(ひか)えて大変な人たちになんてことをしてくれたんだっ!

 お前本当に何考えてやがるっ!?」

「いや~、がんばっただけあって、なかなかいいコースができたじゃないか。

 本当はもっといろいろ盛り込みたかったけど、それはさすがに目立つからね。

 だけど難易度はお墨付きだよ!」

「ていうかこれだけのセットを一晩で完成させるだけのバイタリティだけは認めてやるよっ!」


 あまりに手がこみすぎて感動すら覚えていると、横から進み出た者がいた。


「あ~、やっちゃったよ~。

 コイツいつかやるいつかやるとかさんざんほざいてたけど、まさかホントに実現させちゃうとはねぇ~」

「ミカ先生っ!? なんでここにっ!?」


 保険医・干支倭(えとわ)ミカはあきれ果てた顔でこちらを向いた。


「こんな5体がバラバラになりそうなトラップに放り込まれたら、うちの学生だって危ないわよ。

 だからあたしが身体を回収してつなげようと思ったわけ」

「クククク、来やがったな干支倭。

 生徒たちの身体をつなげる役目、せいぜいがんばるこったな」

「おいおいっ! まだ誰もこん中に飛び込むって決めたわけじゃないだろっ!

 ていうか誰が進んでこん中に飛び込むって言うんだっ!?」

「はいはいっ! オレオレっ! オレがやりま~~~~~~すっ!」


 思わぬ声に振り返ると、手を高く上げたのは意外な人物だった。


「ヒャッパァァァァァァッッ!?

 何考えてんだお前っ!? お前沙耶ちゃんファンじゃなかったのかよっ!?

 さっき彼女が服部にいじめられてたの見たろっ!?」


 おれの声などまるで無視である。ヒャッパはなぜか服部先生を見つめたまま目が完全にハートマークになっている。

 横からキースがうんざりした顔で親指をさした。


「ああこいつ、服部がタイプなんだよ。前の時間も散々いたぶられたのに、なぜか満足そうな顔してた」

「う、裏切り者っっ!」


 するとヒャッパが突然きっとこちらをにらみつけていた。


「誰が裏切り者だっ!

 それとエリザベート様を呼び捨てにすんじゃねえっ! ちゃんと様づけで呼べぇっ!」

「し、信じられない……ついさっきまではずっと沙耶ちゃん沙耶ちゃん言ってたのに……」


 おれがドン引きしていると、横からキースが耳打ちしてきた。


「こいつ、グラマー女子に弱いんだよ。

 こいつが沙耶のことを気にしてるのも、結局は同じことだ。

 で、服部は沙耶ちゃん以上だろ? な、わかるよな」

「た、たしかに……」


 たしかに服部は目つきはするどいものの美人だし、胸の谷間もかなり深い。

 だからって、だからって……


「いやいやいやっ! あの極悪な性格についていける奴なんかいないってっ!」

「うっせぇっだまれ新介! ほらヒャッパッ! さっさと飛び込んでわたしを楽しませろっ!」


 エリザベートが声を荒げると、ヒャッパは「ヒャッハァァ~~~~~~ッッ!」と叫んでスタート地点に向かった。

 最初の丸ノコゾーンで立ち止まると、深く息を吸い込む。


「見ててくださいエリザベート様っっ! ヒャッパ! 行きまぁぁ~~~~~すっっ!」


 そう言って思い切り飛び込んだかと思うと、ただひたすら前に突っ込んで、無数の丸のこにズタズタに切りきざまれた。

 散らばった5体がコースの外へ飛び散っていく。

 戦略もへったくれもない。ただ自分からミンチにされに行っただけ。


「タタミちゃんっ! あいつの身体を回収してっ!」「はいっ!」


 ミカ先生の声に応答して、いつの間にか用意していたフックつきの鎖を投げつけた。

 まっすぐ伸ばされたフックがヒャッパのかけらを引っ掛け、こちらへと引き寄せる。

 次から次へと回収されるヒャッパの肉片を、ミカ先生が手を血まみれにしながらつなぎ合わせていく。おれはドン引きした。


 そんな苦労もつゆ知らず、服部は腹をかかえて大笑いしていた。


「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハッッッ! ったくおもしれえなっ!

 自分からむざむざ切り刻まれに行くなんてどういう神経してんだよぉっっ!」


 おれは見事服部を大喜びさせたヒャッパに力ない拍手を送る。


「あいつは間違いなく沙耶ちゃんファンクラブ、破門にしてやる……」


 そのつぶやきが鬼気迫ったものだったのか、周囲がなぜか引きぎみにおれを見ている。


「ククク、まあかませ犬はこれくらいにしておいて、次はいやがるところを無理やり走らされ、泣きじゃくるリアクションで楽しませてもらおうか!」

「ちょっと待てよっ! まだ誰もこれをやるって言ってねえだろっ!?

 なんでおれらがわざわざこんなことしなきゃいけねえんだよっ!」


 拳をかかげて叫びあげると、服部はおもむろに細い機械を持ち上げた。


「おおっと、なにも教員としての権限(けんげん)だけでお前らを飛びこませようなんて思ってねえよ。

 ちゃんと(おど)しのネタは用意してある」


 そして服部はおれたちの足元を見てあごでしゃくった。


「お前らが踏みつけているグラウンドの土の中、何があると思う?」


 その場にいた全員、戦慄(せんりつ)

 たしかに足元には掘り返された形跡があるが、まさか、気付かぬうちにトラップが仕掛けられていたとは。


「その通りだよ。お前らの足元に、ダイナマイトが仕掛けられてる。

 わたしがこいつのボタンを押すだけで、そこにいる全員の身体がバラバラになるのさ!」


 人間であるおれだけでなく、死霊族であるクラスメイト達でさえ小さい悲鳴をあげた。


「しかもあいにくのことに、その場に干支倭までいるんだ。

 バラバラになったお前らの身体を修復する奴さえもいなくなったら、さすがのお前らも助からない、だろ?」


 その言葉を聞いて、半ばパニックになって逃げ出そうとする者がいた。

 えっ!? ミカ先生!? なんでっっっ!?

 しかしすかさず服部が「動くなっっ!」と叫んでコントローラをかかげた。


「言われたとおりにしないと、すぐにボカン、だぞ。

 助かりたかったらおとなしくあの中に飛び込みな」


 そう言ってデスアスレチックに向かってアゴをしゃくる。

 たしかに死霊族ならあれくらいで死にはしないが(ミカ先生が治療してくれること前提)、クラスのみんなは思わず後ずさっている。

 なぜかミカ先生はよけい気まずそうな顔をしている。なぜに?


「……いやあぁぁぁぁぁぁぁっっ!」


 思わず叫びをあげた女子がいた。

 振り返ると、弥子ちゃんがミノンちゃんに必死にしがみつき、おびえる目でめまぐるしく動く機械に目を向けている。


 おれはため息をついた。無理もない。

 いくら不死身の死霊族でも、あのなかに喜んで飛び込む勇気なんてないだろう。

 っておれよく同情なんかできるな! おれがあん中に入らされたら間違いなく死ぬぞっ!

 ていうかヤダっ! 肉汁飛び散らせて無様な死に方をするのはイヤだっ!


 全身がガクガクふるえる中、おれの横に進み出た奴がいた。

 少し平静を取り戻し、固い決意を顔に秘めたキース。思わず呼びかけてしまった。


「大丈夫なのか? お前だってあのなかに飛び込むのは勇気がいるだろう」


 相手はこちらを見もせずにうなずく。


「俺の能力は、他の連中より体が丈夫なことだ。

 多少のことなどどうとでもない。おれが先に行って、このトラップがどういったものなのか具合を確かめてくる。みんなはその動きをよく覚えておいてくれ」


 背中に決意をみなぎらせ、キースは処刑ロードに向かう。

 正直、いままでで一番カッコよく見えた。


「大丈夫、彼は身体の使い方を知ってる人間だわ。ちょっとやそっとのトラップには負けやしない」


 横から沙耶が進み出て、おれにそっと語りかける。うなずいたが、正直不安でいっぱいだった。


 スタート地点に立ったキースは身体を動かさずに目だけをグルグル動かす。


「おおいっ! あんまし時間かけんなよっ!

 いくら2時限ぶん使っててもそうモタモタされちゃ全員分間にあわねえからな!」

「第1ステージに仕掛けられた回転ノコギリは5台。

 だけどどれも微妙な位置に配置されてる。慎重に進まなければすぐにのこぎりの刃に巻き込まれてしまう」


 沙耶の解説に、おれはツバを飲み込んだ。

 たとえ死霊族であっても目にもとまらぬ速さで回転するあれに巻き込まれるのは気持ちのいいものではないだろう。


 しかもヒャッパがいの一番に犠牲(ぎせい)になったおかげで、回転ノコギリにはうっすらと血がこびり付いている。

 それがまたなんとも言えない具合で、おれは吐き気がこみ上げて手で口を押さえつつ顔をそらした。

「大丈夫?」と言って沙耶が背中をさすってくるのでおれは何度もうなずいた。


「おいおいっ! 服部の野郎、とんでもないことをやらかしてるぜっ!」

「ウソだろっ! なんだよあのセットッ! 昨日まであんなもん全くなかったのにっ!」


 校舎の窓から、出口から、学年問わず生徒たちが次々と姿を現す。

「お前たち授業中だぞ!」と言いつつも、教師まで食い入るようにこちらを見つめてくる。


「ほらほらっ! ギャラリーが集まって来てんだぞっ! さっさと始めろっ!」


 道具を持ったまま手を叩く服部。キースは意を決し、少しずつ歩みを進めた。


 かなり慎重な足取りだ。気をつけなければ、すぐに丸ノコに巻き込まれてしまうのだろう。

 ゆっくりゆっくり、身体の向きを変えながらキースは足を進めていく。


 しかし、それでも足の一部や背中から血が飛び散った。

 女子生徒たちからは悲鳴が上がる。

 おれはとうとうこらえきれなくなり、沙耶から遠く離れて、消化しかけていた昼メシを吐き出した。


 気がつくと、背後から沙耶が近寄ってきて、おれの背中をさする。


「大丈夫、死霊族なら、あれくらいはすぐ治るから……」

「ったくだらしねえなっ!

 これから毎日毎日似たような光景を見る羽目になるんだから、さっさと慣れろよっ!」


 服部がふざけたことをぬかすので、おれと沙耶はそろって遠く離れた軍服教師をにらみつけた。


 そうしている間に、キースは無事丸ノコ通路を通りぬけた。

 血まみれの身体は見ていられなかったが、キースは安堵(あんど)した表情で次のゾーンの前に立つ。


「ちっ! あっさりとクリアしやがったか。だが次のトラップはどこまで持つかなぁ?」


 キースの目の前にあったのは、重々しい音を立てながら上下する巨大な重しの数々。

 そこには一面のトゲが付いており、踏みつぶされれば無事では済まない。


「一定のパターンで上下しているみたいだけど、複雑で覚えにくい。

 キースからしてみたら、奥の重しはよく見えないはず」


 それを本人も悟っていたのか、キースはその場に腰を下ろし、奥の方の重しの動きを観察していた。


 かなり時間をかけて目を上下させた後、うなずいて立ち上がった。

 全員がかたずをのみ、彼の雄姿をながめる。


 キースが一歩踏み出した。次の重しは下がっており、移動するにはタイミングが短い。

 ある程度上に上がったところで、キースはすべりこむようにして入り込むと、先ほどまでいた場所の重しが勢いよく叩きつけられた。それを見て一部の女子が悲鳴を上げる。


「かなりタイミングがきわどいわね。奥の方は大丈夫かしら」


 2つの重しが一斉に上がり、キースは一気に足を進める。

 しかし次の重しはなかなか上がらない。早くしないと真上の重しが下がる。


 そこでキースは真横に寝ころび、重しが少しだけ上に上がったところで一気に転がった。

 すんでのところでタイミングよく下がった重しにつぶされずにすんだ。


 しかし安心してはいられない。次の重しはすでにせり終わった後だった。

 キースは急いで立ち上がり、懸命にダッシュしてゴール地点に飛び込む。


 ところがあと一歩のところで重しが一気に下がった。

 キースは体勢を変えて飛び込むが、あと一歩のところで左腕の上に分銅が叩きつけられた。


「ぐあぁぁっ!」と小さな悲鳴を上げるキース。

 重しがあがって腕を引きあげると、ちぎれかけて力なくたれ下がっていた。おれは思わず「うっ」とうめく。


「ヒャハハハハハハッッ! 残念だったなっ!

 さすがに2つ目のトラップを無傷で通り抜けるのは無理だったかよっ!」


 あまりに楽しそうな服部に、キースはギロリと目を向いた。しかしすぐに次のゾーンに目を向ける。

 次のゾーンは前の2つとは違い、燃え盛る火炎が勢いよく噴き上げていた。そのあまりの勢いに、キースは思わずのけぞる。


「これ、タイミングがかなり複雑だわ。

 その上勢いが強すぎて、まったく安全地帯がない。正直わたしでも無傷で通り抜けるのはムリかも」

「マジかよ……」おれは沙耶につぶやいた。これ、生身の人間じゃ絶対丸コゲじゃないですか!


 タイミングを見計らい、キースは火炎ゾーンに足を踏み入れる。

 射出口に目を向けながら、1歩ずつ1歩ずつ足を進めていく。

 しかしそれでも、炎が体操服をかすめ、小さな火がついた。

 それを無視して先に進むキースだが、次にズボンに火がついた時は思わず「うわちっ!」と言ってしまった。


 それがよくなかった。思わずのけぞった場所にあった射出口が、キースの上半身を直撃。


「ぬぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」


 またたく間に火だるまになったキースがもがいているうちに、次々と火炎放射がおそいかかる。

 たまらずコースアウトし、グラウンドに倒れ込んだ瞬間ゴロゴロとしきりに寝転がる。


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」

「タタミちゃんっ! 回収っ!」「はいっっ!」


 ミカ先生の合図で鎖フックを投げつけ、火が消えかけてもまだもがくキースの身体を引っ掛ける。

 しかし男子であるせいか思うように引っ張れず、周囲の仲間たちが手伝ってなんとかキースを回収した。

 おれは赤黒い姿と化したキースを見て、思わず目をそむけた。


「ギャハハハハハハハハハッッ!

 生意気な不良キースクンも、逆巻く炎の勢いに勝てなかったか! これだからたまんねえんだよなっ!」


 そう言って、服部は肩に枝分かれムチを担ぎ、不敵な笑みを浮かべた。


「今度も立候補者にしておいてやる。さあ、次にやるのは誰だ?」


 おれは思わず沙耶を見た。その顔に決意の色が見て取れる。

 あげようとした手を見て、おれは思わずそれをつかんだ。彼女はすぐに振りむき「なんで!?」と問いかけてくる。


「もう少し様子を見た方がいい。沙耶ちゃんはこれを完全攻略するための切り札だ」

「はいっ! あたしがやりますっっ!」


 勢いよく手をあげた子がほかにもいた。

 ミノンちゃんだ。となりでしがみついている弥子ちゃんが不安そうな目を向ける。


「ダメぇ! 行っちゃヤダよぉっ!」


 彼女はニッコリとしてうなずきかけ、こちらの方を向いた。


「沙耶ちゃん、新介君。弥子をお願い」


 おれたちはいっせいにうなずいた。

 沙耶は弥子ちゃんの身体を受け止めると、小柄な少女はおとなしく従う。それに安心しつつ、ミノンちゃんは真剣な目を向ける。


「あたしができるだけ先に進んでおくから、最後は沙耶ちゃん、お願い」


 相手がしっかりうなずいたのを確認して、ミノンちゃんはトラップロードへと(いさ)ましく突き進む。

 おれはこっそり沙耶にささやいた。


「彼女、大丈夫?」

「ミノンの運動神経はキース以上よ。彼女なら火炎放射を突破できるはず」


 完全攻略、とまでは言わなかった。

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