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「あー、騙された。神様に騙された」
『そっちが勘違いしただけだろ!』
「そうだった。桃程度でおっぱい神などと間違えたおいらが悪いんだ! おっぱい神様! お許しください!」
『おっぱい、おっぱいうるさい!』
街道沿いを同じやり取りを続けて歩いている十湯田四郎と“血と解体の神”カーリン。街道沿いでつっこむ者もいないためどうにもならない。
『……しかし、お前の魔力はよく切れないな』
「オームスさんにも多いって言われてたからね」
『普通、銅色のメダルでも30分神を顕現させられれば良い方なのに』
一般人でメダルを使い神に力を使ってもらうのにそれだけの時間しかもたず、魔力切れでぶっ倒れる。それを四郎は顕現させてから今まで維持しているのだ。実は少し魔力切れの兆候が出てきつくなっているのだが、隣のおっぱいのために気力で持たせているおっぱい大好き人間なのである。そしてこの事が後に四郎の運命を大きく変える……かもしれない。
『この世界もあまり変わらないな。ここは道が広くなって歩きやすくなってるけど』
約80年地上に降りることの無かったカーリンはどことなく楽しそうにスキップしながら隣を歩く。
それを四郎はチラチラ横目で見てにやけている。その視線は言わずもかな桃にロックオンされている。スキップのテンポで体が揺れる度に揺れるのだそれが!
(ありがたやー。ありがたやー。)
思わず心の中で拝んでしまうほどに彼は畏敬の念を覚えていた。さすがおっぱい大好き人間。
そうして歩いていると、
『ん?』
桃の揺れがピタリと止まった。四郎が胸から視線をあげるとカーリンが立ち止まっていた。
「どうした?」
カーリンは街道脇の鬱蒼と繁った草むらを見ている。よく見ると風もないのに一部が揺れている。そこを見ているとそこから茶色い塊が飛び出してきた。
「ウサギ?」
四郎がそう呟いたときにはもう終わっていた。腰の鉈を引き抜くとウサギの首をはねて後ろ足を持ち上げ血抜きしているカーリンが笑顔で踊っていた。
『お肉確保ー。お肉確保ー』
四郎はその姿を呆然と見ているしかなかった。瞬き1つの間に首をはねて後ろ足を持ち上げ血抜きしている。人外の……いや、神の能力の高さを垣間見た瞬間であった。
『時間がもったいないな。このまま解体しちゃおう』
そう言うとザクザクとウサギの体に鉈を落とし血しぶきを撒き散らし始めた。
「誰かー、モザイク! モザイク、プリーズ!」
その日、四郎はトラウマ級の物を見た。
『終わったよ。……ん?』
解体を終え、清々しい笑顔(血塗れ)を向けたカーリンはたったまま白目剥いてる四郎を見つけるのであった。
「本当にこの神様は何て物を見せてくれるんだ。しばらく肉が食えなくなる様なもの見せやがって!」
文句を言いながらムシャムシャと肉を食う。
『……食ってるじゃないか』
そんな四郎をジト目で見る。文句があるなら食うなよとその目が言っていた。
「人が旨そうに食ってると食いたくなるの!」
『ああっ! その肉はアタシが狙ってたのに……』
手を伸ばそうとした矢先に肉を奪い取られ泣きそうになるカーリンの目の前でその肉にかぶりつく。枝に刺して火に炙っただけの肉だが血抜きが上手くいったのか肉の脂ののった旨い肉になっている。
『ううう……。アタシが解体したのに……』
「そのせいで、俺は心に傷を負ったんだ! これは慰謝料の一部だ!」
大口を開けて肉をねじ込んでいく。
『ああー、お肉が、お肉がー』
号泣するカーリンを見て少し可哀想かなとも思う。カーリンは地上に降りることの楽しみの1つに地上の食べ物を食べることがあった。天界で食事も取ることの必要のない体のため地上の食べ物の味に飢えていた。それを目の前で取られてしまっては泣いてしまうというものだ。
「あの、カーリンさん」
『ああ、心なしかこの辺の肉が減った気がする』
カーリンは胸元からお腹にかけて手で触っている。
「よし、肉を取ってこよう!」
胸が減っては問題だ。四郎は草むらの中の飛んでいった。そして両手に一羽ずつウサギを捕まえて戻ってきた。
「さあ、これを食って戻すんだ! いや、更に増やせ」
『あ、ありがとう』
ウサギを受け取りカーリンは頬を赤く染める。
(アタシの為に取ってきてくれたんだ)
その四郎の目は桃に注がれていることに気がつかない。
『よし、それじゃ解体しちゃうよ!』
機嫌を良くしたカーリンが照れ隠しに鉈を片手に大声で叫んだ。そしてモザイクが必要な血塗れの解体を行い四郎をもう一度白目向かせた。
さりげなく魔力チート